緊急移植,新作アーケードシューティングが
PCからデビュー
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移植作品が出るたびに振り返っている格好だが,シューティング,とくに縦スクロールシューティング(以下縦シュー)というゲームジャンルの歴史は古い。商業作品で新作が登場するのは,もはやアーケード市場にほぼ限られ,ときには「時代遅れ」のそしりを受けることもあるが,それでも,ゲームという曖昧な枠組みのなかにあって,縦シューが今なお一定の地位を保ち続けているのは,かなりすごいことなのである。
そんな縦シューの歴史において,アルファ・システムの手がける「式神の城」というシリーズは,一定の地位を築いている。プレイヤーが操作する自機,あるいは敵をそのまま人物キャラクターにし,複雑なゲームシステムや世界観を人の言葉で直接間接に分かりやすく表現する手法は,近年の成功例といっていい。今回取り上げる「式神の城III」は,そんな現行世代の縦シューを代表するシリーズの最新作だ。
しかも今回は,ただPC版が登場しただけではない。式神の城IIIは,2006年2月にアーケード版が発売されているが,今回のPC版は,ゲーム機も含めて初の移植版なのである。
「移植はまずゲーム機から」という常識が覆された背景には,オリジナルのアーケード版が,Windows XPベースのシステム基板「TAITO Type X」で開発された点が無視できない。PCベースのアーケードゲーム環境が普及した恩恵を,PCゲーマーが最も如実に受けた形だ。プラットフォームの互換性がもたらすゲームの移植度や再現性についても,自ずと期待がかかる。
式神の城IIIが持つ操作システムは基本的にオーソドックスな縦シューのものだが,その上に独特の味付けがなされている。
自機の8方向移動にはレバーや方向キーを利用。攻撃の基本は通常攻撃となるショットと,回数制限のある特殊攻撃(緊急回避用攻撃)のボム,二つのボタンだ。ショットボタンは,連打するといわゆる弾を発射し,押しっぱなしにすれば,「式神攻撃」という,ショットとは趣も効果も異なるもう一つの通常攻撃を発生させる。さらに,ショットとボムの両ボタン同時押しにより,「ハイテンションMAX」システムが発動するので,基本のボタンの数は2個だが,実質的には四つのアクションを駆使するゲームと考えたほうがいいだろう。
この事実を踏まえてのものと思われるが,ゲームのオプションからは,“押下時に通常弾を撃ち続けるボタン”“ハイテンションMAXを発生させるボタン”をそれぞれ別個に設定できるようにもなっている。
ボタン設定と比べると,全体のゲームルールはかなりシンプルだ。ショットや式神,ボムで敵を倒し,敵の攻撃は移動で避けるだけ。敵は倒されると,スコアにつながるコインをまき散らすが,一方でパワーアップアイテムなどは存在しない。
敵の攻撃や敵本体にプレイヤーが接触すると1ミス。ミスごとにライフゲージが減り,ライフがなくなればゲームオーバーとなる。ライフゲージは最大3で固定されており,一定の得点ごとに回復するものの,最大値が3を超えないことは覚えておこう。
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| ショット(左),式神(中央),ボム(右)を駆使して,目の前の敵をひたすら粉砕していくだけの単純明快なルールが採用されている。ここではシリーズ主人公の「玖珂光太郎」(くがこうたろう)を例として挙げたが,キャラクターによってショットと式神攻撃の方法は大きく異なる。システムは単純ながら,中身は深くて濃いのが,式神の城シリーズの魅力である | ||
キャラクター性重視の方向性は変わらない一方
スコア周りには大きな変更が
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| キャラクターごとに式神攻撃の選択肢は二つ用意されており,ゲーム開始時に選択することになる |
式神の城シリーズにおいて,キャラクター=自機の個性は非常に強いが,それは最新作でも同様だ。キャラクターは10名(標準9名+隠し1名)用意されており,それぞれ通常攻撃,式神攻撃の方法が異なる。その違いは,ゲーム性すら大きく変えるほどである。
さらに,式神攻撃には「壱式」「弍式」という二つのパターンがあって,それをゲーム開始時に選択するようになっている。
事実上,自機の選択肢はキャラクター数の倍となる20。それぞれ基本性能を理解し,自分のプレイスタイルに合った選択を行わなければゲームを楽しめない可能性すらあるというのは,前作と変わっていない。
ゲームが全5ステージ構成というのも,前作と同じ。各ステージは前半と後半に分かれているため,1-1から5-2までの10ステージ構成と考えてもいい。道中の敵を倒して進み,待ち構える中ボスや大ボスを撃破すれば次に進むシステムで,最終面である5-2をクリアすればエンディングを迎え,ゲーム終了となる。
式神の城シリーズ共通の演出として,ステージの幕間や,各ステージのボス戦前には,キャラクター達による会話やモノローグが挿入される。ときにはシリアス,ときには軽妙な掛け合いや台詞が――やや情報不足の嫌いはあるものの――ゲームの大きな世界観やキャラクターの魅力といったものを引き出してくれる。式神の城IIIは二人同時プレイにも対応しているが,そのときになされる掛け合いの豊富なバリエーションなどは,式神の城というシリーズ,そして式神の城IIIが持つ魅力の,重要な一部分を担っている。
逆に,今作で変わったのは点数稼ぎ周り。
式神の城シリーズでは,共通して「テンションボーナスシステム」(TBS)が採用されている。これは,自機を敵や敵弾に近づけると,その距離に応じて,獲得スコアに倍率がかかるというもの。最大倍率は「x8」(8倍)で,この状態ではショットの攻撃力も強化される。
先ほど述べたハイテンションMAXは,このx8状態を,ボム1発分と引き替えにして,任意かつ強制的に一定時間作り出せる,式神の城III独特のシステムである。持続時間は短いが,神経を削って敵の攻撃に近づく必要がないため,x8の恩恵を最大限に受けてスコアを稼ぐには非常に有効だ。
スコアに関連する要素としては,連続して取得することで,1個当たりのスコアが上がっていく(1万点が上限),コイン回収に関するシステムの変更がある。
式神の城 IIにおいて,コインが自動回収されるのは式神攻撃時だけだったが,式神の城IIIでは,攻撃手段にかかわらず自動回収されるようになった。その代わり,コイン1個当たりの点数が上昇するのは,式神攻撃で攻撃した場合のみとなり,ショットで敵を倒すことによって出現させたコインは,何枚獲得してもその点数は上昇しない。スコアを稼ぎたい場合は,意識して式神攻撃を行う必要性が従来にも増して強調されている。
こうしたアーケードゲームらしいスコアシステムは,今やシューティングを特徴づけるために欠かせないものとなった。式神の城IIIでは,スコアがライフやボムの回復と直接関係するので,理解して使いこなせるかどうかは,最終的なスコアを大きく左右する。ひととおりの仕組みは理解してプレイするように心がけたい。
PC版のバージョンと付加要素は
賛否両論を呼ぶ可能性大
以上,駆け足でゲームの概要をまとめてみたが,続いて,PC版の移植仕様について確認してみたい。
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| ゲーム内オプションから,画面サイズや操作設定のすべてが変更可能になっている |
まずゲームのバージョンだが,OPTION(オプション)に「ARCADE MODE」と「DIRECTOR’S MODE」の二つが用意されている。サイバーフロントによれば,ARCADE MODEは「アーケード版準拠で,2006年9月29日のPC版発売時点で最もバグフィックスの進んだバージョン」,DIRECTOR’S MODEは「大胆な修正を加えたバージョン」とのことだ。
もう少し詳しく説明しよう。
ARCADE MODEでは,スコアに影響しないバグが積極的に修正されている。2006年9月時点において,ゲームセンターに設置されている式神の城IIIは,4月に交換されたバグフィックス版のはずだが,PC版ARCADE MODEはそれよりもバグフィックスの進んだバージョンというわけである。
一方,DIRECTOR’S MODEでは,PC版のARCADE MODEをベースに,修正や仕様の変更,バランスの調整がなされている。
最も分かりやすい違いは,ARCADE MODEにおいて斜め方向の移動速度が速かった,玖珂光太郎など何人かのキャラクターについて,全方向で同じ速度になるよう修正されている点だろうか。このほかにも,敵が一度にばらまくコインの上限をアーケード版やARCADE MODEの256から512へ拡張したり,それに応じて200億点以上の得点表示に対応したりするなど,スコアに関する部分が大きく拡張されている。
ちなみに,インターネットを利用したPC版のスコアランキングには,DIRECTOR’S MODEでプレイしたときのみ参加できる。この事実と,システムの中核に変更が加わっている点を考慮するに,DIRECTOR’S MODEこそが式神の城IIIが目指していた姿と解釈することも可能だろう。
ただし,「アーケードに出たバージョンこそが式神の城IIIの本物である」という観点に立った場合,PC版のARCADE MODEを,アーケード版の完全移植,あるいは完全互換といえない点は,問題をはらんでいる。DIRECTOR’S MODEに至っては,アーケード版とは異質の,アレンジ版に過ぎないという見方ができることも,指摘しておく必要がある。
PC版への移植に伴う,追加要素についても見てみよう。
最も気になる画面モードは,かなりの充実を見せている。ウィンドウ表示では,ディスプレイ解像度からはみ出さない限り,0.7倍(448×336ドット),1.0倍(640×480ドット),1.5倍(960×720ドット),2.0倍(1280×960)から選択可能。フルスクリーン表示時には,640×480/800×600/1024×768ドットの3択が可能で,ディスプレイの縦回転も,標準設定(「NORMAL」)のほか,「VERTICAL」「VERTICAL-R」と,左右どちらの回転にも対応できる形でサポートされている。
アーケード版のオリジナル解像度は480×640ドットだが,PC版では,高解像度設定を行うと,それに応じて画面表示が精細になる。当然,描画負荷も増大するので,グラフィックスカードの能力が要求されることになるが。
また,テクスチャは標準解像度に最適化されているのか,高解像度設定を行っても,文字など,変化が伴わない部分もあった。
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| 今回の「濃いキャラ」担当である隠しプレイヤーキャラクターのミュンヒハウゼンは,PC版だとはじめから選択可能。キャラ特性は,最もクセの強い,ふみこ・オゼット・ヴァンシュタイン互換なので,かなり人を選び,扱い難い部類に入る |
このほか,PC版では各ステージを個別に練習できる「プラクティスモード」を備えており,スタートメニューから選択可能だ。プラクティスモードでは,1-1から5-2を,道中とボスに区分してそれぞれプレイできる(ゲームの構成上,5-2の道中はない)。また,強烈な難度を誇る「エクストリームモード」に入るため,アーケード版ではコマンド入力が必要だったのに対し,PC版だとスタートメニューから簡単に選択できる。ゲームのBGMを「式神の城 II」アレンジ版に変更するのも,同じスタートメニューから自由に行えるようになっている。
ちなみにこれは,プレイ結果によって解放されるような隠し要素がいっさいないことと同義。コンティニュー回数に制限はない。先ほど説明したプラクティスモードも,初めからすべて解放済みだ。
これを「面倒がなく,ストレスもない」と好意的に受け取るか,「やり込みを誘導する要素がない」と物足りなく感じるかは人それぞれだろう。だが,PC版式神の城 IIにあったリプレイ機能や,キャラクターの会話再生機能,エンディングCGなどを鑑賞するギャラリーなどといった“プラスアルファ”を軒並み実装していない点は,さすがに残念である。プラクティスモード限定でもいいから,せめてリプレイモードだけでも搭載すべきだったと主張しておきたい。
ただ,短期間で,ゲーム機をさしおいてPC版が登場した経緯を考えると,やむを得ない側面もあるだろう。従来,これら付加要素は,ゲーム機版で追加され,PC版のユーザーはその恩恵を受けてきたわけで,移植の速さとサービスの充実を天秤に掛けるのは,かなり難しい。
続編に課せられた「縛り」のマイナス面は見えるが
それでも十二分に価値のあるPC版
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| ステージをクリアしたときのみになったスコアリザルト表示。プレイのスピードアップなど,幾つか理由があるのかもしれないが,中ボスを倒したときにも残しておいてほしかった |
アーケードゲーム市場には,続編ものに拡張や変化を要求するという,一種独特な「縛り」とでもいうべきものが存在する。実際,式神の城IIIでも,式神の城 IIの続編として,プレイヤーキャラクターの大半が入れ替って総数が増え,入れ替わらなかったキャラクターも式神の仕様が一部変更されたりしている。そのうえで,前述したハイテンションMAXや,コインの自動回収も用意されているので,前述の「縛り」には十分に対応しているといえる。
このとき,前作で足りなかったものを追加したり,不要だったものを変更したりすれば,ゲームは進化していくわけで,歓迎すべき「縛りへの対応」となる。
だが,作り手が「縛り」を過度に意識して,変化させることが目的となってしまった場合は話が別だ。楽しさを増すための変化ではなく,「縛り」に対応するためだけ,変化させるためだけにゲームをいじり回すことが,ままある。この視点で,もう一度式神の城IIIというゲームを見ると,ハイテンションMAX,そしてコインの自動回収というシステムがどうにも気にかかる。
ハイテンションMAXは,実際にプレイで使用すると気分がいい。しかし,初級〜中級者にとって,ボムは貴重な自衛手段であることを考えると,コストパフォーマンスは低い。さらに,ボムを使いこなすだけでもある程度の熟練が必要なことを考えると,計画的にハイテンションMAXを利用するというのは,かなりハードルが高い。使える人が上級者に限定されるシステムに対して,新しい操作を追加するほどの価値があったかは,微妙なところではなかろうか。
コインの自動回収も,見た目の爽快さとは裏腹に,遊び方の選択を狭めてしまっている。
式神の城IIIにおいて,スコアはライフやボムの回復と密接にかかわっており,コインで点数を稼がねばならないわけだが,ショットで攻撃する限り,コインの点数は一向に上がっていかない。今回の自動回収システムは,結果的に「式神攻撃しない限り,稼げないに等しい」とプレイヤーにダメ出ししている。プレイヤーの自由に対してケチをつけるような存在ともいえ,これによってシューティングの楽しさが広がっているかというと,はなはだ疑問だ。
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| プレイヤー泣かせの3面には,画面左下にあるような四角い箱を攻撃しないと,当たり判定を保持したまま,画面内のブロックが見えなくなっていくというギミックが仕掛けられている(このスクリーンショットはブロックが見えている状態)。ほとんど見えない壁をかわすというのは,至難の業というか無理難題。こうした露骨なプレイヤー潰しは不快な印象を与えがちで,もう少しなんとかならなかったのかと正直思う |
そもそも式神の城IIIには,プレイを重ねていくと気になってくる部分が少なくない。従来にも増してトリッキーなステージやボスについてもそうだが,敵弾のプライオリティや雑魚の弾の射ち方ひとつ取っても粗さがあり,調整不足や詰めの甘さが感じられる。恩恵を受けるプレイヤーが限られる,スコア稼ぎに偏重した仕様を追加するくらいなら,シューティングとして基本中の基本となる,遊びやすさや楽しさ,爽快さを優先してほしかった。
続編で付け足された要素によってシステムが散漫になり,その作品が本来持っていたバランスの妙が失われたゲームは,シューティングに限らず枚挙に暇がない。この式神の城IIIでも,変化を求めすぎてしまったゆえに何かが失われているような気がしてならない。その点は惜しまれる。
とはいえ,今回リリースされるPC版には,大きな魅力と存在価値があるのも,また確かである。雑多な不満など,アーケード版から7か月でのPC版発売というタイミングを前に,吹き飛んでしまうだろう。製品寿命が延びがちな流れにある昨今のアーケードシューティングは,リリースから1年程度は十分に現役タイトルといっていい。アーケード版のスコアトライアルも9月上旬から再開されており,式神の城IIIはむしろ今が旬のゲームといえる。そんな状況のアーケードタイトルを,PC版としてとことん遊べるというのは,前代未聞のことなのだ。
バリバリの現役であるがゆえに,まだ最終的な評価の定まっていない式神の城III。それを現役のうちに遊び倒すことができ,本質を理解するチャンスも得られる,史上初ともいえる機会が今ここにあるわけで,シューティング好きを自認するなら,これを逃す手はない。それだけは断言しておこう。
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| 式神の城の特徴の一つでありながら,初代から賛否両論ある会話デモやモノローグのオンパレードは,本作でも健在だ。気に入らなければ,スタート時にメニューでカットできるので安心。今回も,従来のアルファサーガを下敷きにしてはいるが,意味深で謎かけ風の表現は思ったよりも少なめな印象。受け狙いっぽいギャグが増えているようにも見受けられる | ||




























