■ロボットによるロボットのための惑星"スクラップランド"
ロボット達の世界,スクラップランド。彼らのユニークな会話もすべて日本語化されている |
「アリス イン ナイトメア」の発売から4年。氏の最新作が,また日本語版で遊べるというのは,日本人ゲーマーとしては嬉しいかぎりである。
本作の舞台となるのは遥かな未来,遥か宇宙の彼方キメラという惑星の衛星軌道上に存在する,スクラップランドと呼ばれるアステロイド。元々は人間が居住して資源を掘り出したりしていたらしいのだが,資源を掘り尽くすだけ掘り尽くしてしまうと人間ならではの身勝手さでポイと放棄され,以後顧みられなくなってしまったという星,それがスクラップランドだ。
そんな星に残されたロボット達が長い年月をかけて自分達を修理し,さらには新たな仲間を製造していくうちに立派なロボット社会を作り上げ,近隣の惑星に進出するなどの発展を遂げるに至った。当然ながら彼らロボット達は,自分達を使うだけ使って必要なくなると廃棄した人間達を激しく嫌っており,星に少しだけ残っている人間の痕跡のある場所は,禁忌な場所として忌み嫌われている……,というのがバックグラウンドの設定だ。
主人公の足となって活躍してくれるガンシップは,自由にカスタマイズできる | 高層建築がそびえたつロボットの街は,華やかなネオンに彩られとても美しい | スクラップランドで主人公に与えられる最初の仕事はインタビューなのだが…… |
■命がないから平気で殺すブラックなロボット社会
スクラップランドで一番人気のあるニュースキャスターのベティ。色っぽい美人だが,攻撃力はピカイチ |
そのメインストーリーとは別に,クレイジーギャンブラーと呼ばれる,出所・経歴が一切謎に包まれたロボットとも知り合い,彼との間でさまざまな賭け事をするというサイドストーリーも発生。ゲームの流れは,この二つのストーリーを追って進んでいくことになる。
このあたりが,本作がロボット版GTAあるいはSF版GTAと呼ばれる所以(ゆえん)である。ゲーム開始後すぐにプレイヤーに与えられる,ガンシップと呼ばれる空中を飛び回れる乗り物で,街を飛び交うほかのガンシップを撃ち落したりするのも自由で,建物の中でほかのロボットへの攻撃もできる。とはいえ,この「自由度」を生かすための脱線的な要素はGTAほど豊富には用意されていないので,本気でGTAを期待すると肩透かしを食うだろう。
ミッションは「頼まれごと」が中心だが,基本的に物騒な内容が多い。警官を20人殺してほしいとか,街の中で虐殺を行ってほしいとか,スクラップランドのロボット達の心はとても荒んでいるようである。主人公が妙に従順でイイやつなだけに,他人のために極悪ミッションをハイハイと次々こなしていく様子は,変な違和感があってとても面白い。
もっとも,ロボット達はグレート・データベースという記録システムのおかげで死んでも復活できるので,「死」に対する観念は我々人間とは少し異なるようだ。ちなみに本作のメインストーリーの「アーキビショップ殺人事件」では,犠牲者はグレート・データベースから記録を抹消されたうえで殺されている。これはつまり復活できない,ロボットにとっての絶対死なのだ。
メインのストーリーである殺ロボット事件を少し進めると,本作の大きな楽しみの一つである,ほかのロボットへの変身ができるようになる。これは街中の各所に設置してあるグレート・データベースにアクセスすることで可能となり,警官や役人など,ゲームに登場するさまざまな職業のロボットへと変身できるのだ。
ゲームには警官ロボット,役人ロボット,医療ロボットなど数多くのロボットがおり,役人はほかのロボットから金を巻き上げたり,医療ロボットは相手を失神させられたりなど,それぞれ特殊な能力を身につけている。プレイヤーはそれらのロボットに変身することで,その特殊能力を利用できるようになる。
この機能はかなり有用で,立ち入り禁止区域に侵入するため警官に変身するなどという具合にメインストーリーを進めるうえで必須となるほか,金を稼ぐため役人ロボットとなって,ほかのロボットから金を巻き上げたり,高い攻撃力を持ったロボットに変身して,戦闘を有利に進めるなんていうことも可能だ。
主人公の同僚で友達のベルト。実は凄いガンシップを持ってたりする | 警察署では警官同士による模擬戦があちこちで行われ,えらく物騒 | 別のロボットに変身することで,それぞれ違った特殊能力を使えるように |
■実はロボットよりもガンシップが熱いゲーム!?
謎のギャンブラーは,プレイヤーにいろいろな賭け事を持ちかけてくる。メインストーリーに疲れたら賭け事に興じてみよう |
本作は,このガンシップで街中を飛び回るシーンが面白い。街は不必要と思われるほど広大で,しかもエリアごとにバラエティ豊かに描き込まれている。中に入れる建物は残念ながら少ないが,飛び回っているだけでも,その作り込みには感心してしまうことだろう。
また,ガンシップの操作性や武器の使用感がかなり気持ちいい。基本的に「衝突」のダメージはないので,ちょっとぐらいぶつけようが気にせずブッ飛ばせる。誘導ミサイルの軌道などもカッコよく,空中戦は非常によくできているのだ。
このガンシップを利用した遊びもある。例えば街中で行われるレースは,コース上に一定間隔で現れるマーカーを取っていくものや,レース参加者を攻撃することでマーカーの獲得権利を確保し,その後マーカーを取っていくなどの種類がある。「○○にレースを挑んで勝て」といったミッションも多い。
クレイジーギャンブラーの賭け事イベントは,ガンシップで撃ち合って相手を撃破する「バトル」か,ガンシップで相手よりも速く走る「レース」がメイン。バトルやレースはそこらにいるNPCにお金を賭けて勝負を申し込めるが,やはりクレイジーギャンブラーが直接主催している「スーパー・クレイジーベッツ」への挑戦が熱い。これは街中ではなくアリーナで行われる試合で,勝利すると武器のアップグレードなどが可能になる。
基本的にはメインストーリーから外れた脱線的な遊びの一つではあるものの,事件を追っていくと「スーパー・クレイジーベッツに参加して勝利しろ」といったミッションも出てくる。
なお,本作ではマルチプレイも可能だ。マルチプレイでは,ガンシップによるさまざまなルールでの空中戦を楽しめる。しかし筆者がプレイしようとしたときはサーバーが立っておらず,実際のプレイはできなかった。せっかくガンシップでカッコいい対戦を繰り広げたかったのだが,どうやら参加者は少ないようだ。
日本人は,この手のユーモラスな作風の自律型ロボットの物語を,昔から敬遠してしまう傾向にある。文化が違うのだから,これはもう仕方ないが,実際プレイしてみると思ったほど抵抗なく誰でも楽しめるゲームである。マルチプレイが盛り上がるくらいには売れてほしいのだが。
主人公ディトリタスの攻撃は,超スピードで相手に突進して破壊するというもの | ミッションに詰まったりしたら,気晴らしにこういう銃撃戦もいいかも | 元傭兵のエンジニア。いかつい外見だが,ガンシップの事ならおまかせ |
さまざまなガンシップ。独特のデザインで,スピードや装備スロット数などが異なる |