― レビュー ―
Intel製チップセットでNVIDIA SLIが可能な異色マザーボード
PX915-SLI
Text by Jo_Kubota
2005年9月28日

 

■Intel 915PL ExpressでNVIDIA SLI対応!?

 

PX915-SLI
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
TEL:03-5215-5650

 Albatron Technologyから登場した「PX915-SLI」は,Intel製チップセットを搭載しながら,NVIDIA SLI(以下SLI)に対応するという,極めて特殊なマザーボードだ。PCI Express x16スロットを2本用意する,Intel製チップセット搭載のPentium 4/D対応マザーボードはこれまでも存在したが,SLIへの対応を謳った製品はこれが初めてとなる。
 2005年9月下旬現在,Intel製CPUを利用しながらSLI構成が可能なチップセットは,公式にはNVIDIAのnForce4 SLI Intel Editionしか存在しない。だが,PX915-SLIが搭載するチップセットはIntel 915PL Express(以下Intel 915PL)。要するに,PX915-SLIのSLI動作というのは,あくまでAlbatron Technology独自の対応というわけだ。

 ここで,Intel 915PLへの理解を深めておこう。Intel 915PLは,Intelからすると一世代前のメインストリーム向けに当たるIntel 915P Express(以下Intel 915P)の廉価版である。最大の違いは,Intel 915PがDDR/DDR2メモリのどちらにも対応している(同時利用は不可)のに対し,Intel 915PLはDDRメモリのみであること,そして,最大メモリ容量がIntel 915Pの4GBに対してIntel 915PLでは2GBに制限されていることだ。
 これ以外,つまりメモリ周り以外のスペックは共通なので,ノースブリッジのPCI Expressレーンは16本となる。Intel 915PLだけ,特別にレーン数が多いわけではない。

 では,PX915-SLIはどうやって2本めのPCI Express x16スロットを用意しているのか。答えは簡単。サウスブリッジのICH6がサポートする4レーン分のPCI Expressをすべて使い,PCI Express x4スロットとして利用しているのである。

 

 

■割り切った仕様だが,コストパフォーマンスは○

 

 2005年秋の時点で,nForce4 SLI Intel Edition搭載マザーボードの価格は安くても1万8000円程度。それに対し,PX915-SLIの実勢価格は1万円前後だ。Athlon 64用のnForce4 SLIマザーボードでも,1万円程度の製品を探すのは相当難しいので,現時点では最も安価なSLI対応マザーボードといえよう。

 

 ただ,それだけに,犠牲になったと思われる部分も散見される。まず指摘したいのは,nForce4 SLIマザーボードには多く見られる,グラフィックスカード用の4ピン補助電源コネクタがないこと。nForce4 SLI Intel Editionマザーボードにはほぼ確実に用意されているだけに,PX915-SLIが用意していないのは懸念材料になる。

 

 設計面では,メモリスロットが2本しかなく,512MBメモリ×4で2GBという構成をとれないのは気になるところだ。
 2本のPCI Express x16間が,ASUSTeK Computer製nForce4と同じように,2スロット分空いているのは発熱対策として評価したい。だが,2本めのスロットにグラフィックスカードを差す場合,直下のスロットは空けたい。そうなると,グラフィックスカード以外にはPCIスロット1本しか利用できなくなるのである。

 

I/Oインタフェースはごく標準的で,搭載機能の"普通"さを反映している

 サウスブリッジはICH6で,RAIDをサポートしない。例えばここにゲーム用のサウンドカードを差すと,RAIDカードを差せない=RAID 0を組めなくなるわけで,この拡張性の低さは,ゲーム用PCに使うことを考えると少々残念といえる。
 なお,オンボード機能はRealtek製コントローラ RTL8100Cによる100BASE-TX LANと,AC’97 CODECによる5.1chサウンドのみである。

 

 VRM(Voltage Regulation Module,電圧変換器)周りで使用しているコンデンサは日本ケミコンのマザーボード用製品であるKZG,そして松下電子部品のFJと,価格の割には信頼性が高い。PCI Expressやメモリなど,主要スロットの周囲にも同じコンデンサが用いられており,全体的には「マザーボード単価からすれば,非常に良い」と評価できるだろう。
 ただ,VRMフェーズ数は3で,とくに大容量というわけではない。また,Luxonの100μF/16V 耐熱105℃タイプのコンデンサが目立つ点には,割り切りも見える。同コンデンサの詳細スペックは不明で,ハイエンド向けマザーボードほどの信頼は与えられないのもまた確かだ。

 

マザーボード上の主要部には,VRM部と同じ日本製コンデンサが採用されており,値段からすると電源周りの信頼性は高い

 

 

■残念ながら限定されたSLIサポート

 

 さてここからは,そもそもSLIで動作するのかをチェックしてみることにしよう。PX915-SLIのパッケージにはSLI用のブリッジアダプタが付属するので,基本的にはnForce4 SLIやnForce4 SLI Intel Editionと同じようにインストールすれば,SLIが利用可能になる。

 ただし,対応するドライバは,2005年9月28日現在のところ,パッケージ付属のCD-ROMか,Albatron Technologyの日本語Webサイトから入手できるForceWare 71.84gのみ。NVIDIAのWebサイトからダウンロードできるForceWare 71.84では動作しない。この段階で,Release 75シリーズのForceWareが必要となるGeForce 7800シリーズは自動的に動作対象外となる。また,この日本語WebサイトにはForceWare 71.84gについて「6600シリーズ デュアルグラフィックサポート」という注意書きがあり,GeForce 6600シリーズでないとSLI動作しない可能性が示唆されている。
 そこで,SLI非対応を承知で,GeForce 7800 GTXカードを2枚差しし,デュアルグラフィックスカード状態にした。すると「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)の実行時にリセットがかかる現象に見舞われたのである。デュアルグラフィックスカード状態でこれでは,たしかにGeForce 7800シリーズのSLIをサポートしても意味がないだろう。2005年6月22日の記事で紹介したように,GeForce 7800シリーズとGeForce 6800シリーズの消費電力はほぼ同じだから,PX915-SLIのSLIサポートは,GeForce 6600シリーズのみと判断してよさそうだ。
 ちなみに,公式のForceWare 77.72/77.77/78.01でもSLI動作しなかった。公式版のForceWareをインストールすると,単純にデュアルグラフィックスカードとして認識される。

 

 

■SLIのパフォーマンスは今一つ

 

P4N Diamond
nForce4 SLI Intel Editionを搭載するハイエンド向けマザーボード。豊富な機能が特徴である
問い合わせ先:エムエスアイコンピュータージャパン
TEL:03-3866-7761

 ここからはのテスト環境を利用し,3DMark05,「Far Cry」「TrackMania Sunrise」でベンチマークテストを行ってみよう。いずれの場合も,ゲームのオプションは解像度以外変更していない。そして,ForceWareから垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくForceWareから8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「8x AA&16x Anisotropic」とする。
 Far CryのベンチマークにはHardwareOCの「Far Cry Benchmark v1.4.1」を用いた。TrackMania Sunriseにおいては,53秒程度で1周する「Paradise Island」というマップのリプレイを3周繰り返し,平均フレームレートを「Fraps 2.60」で計測した。
 比較用には,nForce4 SLI Intel Edition搭載のMSI製マザーボード「P4N Diamond」を用意している。

 

 

 テストは基本的に1024×768/1280×1024/1600×1200ドットで行っているが,すでに別の記事でも指摘しているように,グラフィックスメモリ容量が128MBでは,フィルタ適用時のパフォーマンスが一部正しく得られない。よって,それらはグラフ化していないので,あらかじめご了承いただきたいと思う。

 結果はグラフ1〜6にまとめた。見てのとおり,P4N Diamondが全般的に好スコアだ。とくにTrackMania Sunriseでは,GeForce 6600 GTのSLI構成動作時に,PX915-SLIのパフォーマンスはほとんど上がっていない。P4N Diamondとは50fps近い差が付いているというありさまだ。これがPCI Expressレーン数の問題によるものなのかどうかまでは断言できないものの,SLI専用設計のチップセットと比べると,PX915-SLIのSLIパフォーマンスが劣るのは否定しづらいところである。
 また,今からGeForce 6600 GTのSLIを組んでも,GeForce 7800 GTXのシングルグラフィックスカード時には到底及ばないという現実も,グラフからは読み取れる。

 

 

 もちろん,安価なものなら1万円台前半で購入できるGeForce 6600 GTを否定するわけではない。ドライバやBIOSのアップデートで,GeForce 6600シリーズ以外のグラフィックスチップでもSLIが可能になるかもしれない。
 だが一方で,Albatron Technologyが,PX915-SLIで将来的にGeForce 7800 GTXなどでSLI構成が可能になる予定のロードマップを示していない現実もある。"GeForce 6600シリーズ専用のSLIマザーボード"のままで終わる可能性もかなり高いのだ。この意味では,SLIに期待しているゲーマーに対して,PX915-SLIは勧められない。レアな仕様のマザーボードに惹かれる,いわゆる自作マニア向けの製品といえるだろう。

 だが,SLIを使わなければ話は少々変わってくる。Pentium 4+Intel製チップセットのプラットフォームを安価に手に入れたい場合,価格からすると優秀な電源周りを持つPX915-SLIは,悪くない選択肢だろう。SLIがウリのマザーボードではあるが,思い切ってSLIはオマケと思えば,意外とお得ではないだろうか。