■10年以上に及ぶミストサーガがついに完結!
4つのスレートをこのペデスタルに納めてタブレットを解き放て |
1993年に第1作目が発売されて以来,世界各国で記録的なヒットを飛ばしてきた傑作アドベンチャーゲーム,"ミストシリーズ"。その第5作にして最終作に当たるのが「ミストV 日本語版」(以下,ミストV)だ。第1作からシリーズ歴代作品を遊んできたファンの一人として,これで最後かと思うと,それだけで一言では言い表せない感慨を覚える。
「ミスト」を開発したのは,Macintosh用の名作アドベンチャーゲーム「The Manhole」「Cosmic Osmo」などを手がけたRand Miller氏率いるCyan Worlds社だ。こだわりを持って作り込まれた深遠なストーリーと舞台設定,巧妙なパズルや仕掛けの数々,当時としては最高峰のプリレンダーされた美しいゲーム画面,マウスでクリックするだけのシンプルな操作などを特徴として,ゲームマニアのみならず,幅広い層のPCユーザーに人気を博した。CD-ROMを媒体にしたいわゆる"マルチメディアタイトル"を,世界的に流行させた立役者と言っても過言ではないだろう。
2作目以降も,常にその時点での最新技術を取り入れて進化してきた"ミストシリーズ"だが,第5作にしてついに,外伝的タイトル「ミスト ウル」で採用されたリアルタイム3Dエンジンを本編に採用。「ミストの美しい世界を隅々まで思いのままに駆け巡りたい」という,ファンの長年の夢を実現させてくれた。
プリレンダーにこだわり続けてきた同社が新しいシステムを採用したのは,PC自体の処理能力が向上し,「ミスト」の冠を戴いても納得のいく表現が可能になったと判断したからだろう。実際,本作はその期待を裏切ることなく,目を見張るような美しい風景の数々を楽しませてくれる。
ゲーム序盤の廊下。壁に書かれたミスト数字は,何を意味するのだろう? | 本作では,ここにあるペデスタルを使って四つの時代に移動する | トーデルメアの時代に登場する施設。このパズルもなかなか難しい |
独特の景色が,孤独な冒険に疲れた心を癒してくれる。美しいの一言だ | ラキアーンの時代にある建造物の内部。模様のデザインが独特だ | クヴィーアの時代には,イーシャの日誌が散在しているので集めよう |
■FPSスタイルの移動で,探索がより快適に
ノロベンの時代にあるエッシャーの研究室。ここから見る海も美しい |
ミストVの物語はアトラスの物悲しい独白で幕を開け,クヴィーアの時代に降り立つところからプレイヤーの旅がスタートする。「ミストIV」では明るい少女だったイーシャだが,今や立派な大人の女性に成長している。だが,その疲れ果てた表情からは,これまでに彼女が数々の苦難に直面してきたことがうかがえる。
このイーシャや,旅の途中で何度も出会うことになる謎の人物エッシャーは,これまでの作品とは異なり,実写ではなく3Dモデルで表現されている。モーションキャプチャーで表現されたアクションに加えて,フェイシャルマッピングやリップシンクも駆使して,なかなか真に迫った演技を見せてくれる。
ゲームの操作体系について説明しよう。初期設定である「クラシック」モードでは,ミストIVと同じように,画面上の特定のエリアをクリックすることで,向きを変更/前へ移動/画面上の物体に働きかけるといったアクションが可能だ。これまでの作品に慣れ親しんでいるプレイヤーにはおなじみのスタイルといえる。
また,オプションで「上級者向け」に切り替えることで,W/S/A/DキーによるFPSスタイルの操作方法が使える。シリーズ従来作品では,今自分の向いている方向を把握しづらい面があったが,このモードならバッチリだろう。それに,前後左右に制限なく移動でき,Shift/スペースキーとの組み合わせで走ることもできるので,快適に探索するにはこのモードが最適だ。
3Dエンジンによってリアルタイムに描き出されるゲーム画面は,これまでの作品のプリレンダーされたそれと比較して,やや薄っぺらく感じる部分もあるが,うっとりしてしまうほど美しい場面も数多い。とくに,「ノロベン」で見られるようなキラキラと輝く波打ち際の表現や,風に揺れる草の中を歩き回れるあたりは,リアルタイム3Dエンジンならではといった感じだ。個人的には,ノロベンはこれまでのすべてのミスト作品の中でも最も美しい世界の一つだと思う(トーデルメアも捨てがたいが)。
物語の序盤で,苦悩に満ちたイーシャと対面。彼女を苦しみから救い出そう | 解き進むにつれて,徐々にいら立ちを隠せなくなるエッシャー。その理由とは | エッシャーによれば,氷で覆われたターギラは「牢獄」の時代だという |
海岸からの眺めが最高に美しいノロベン。バーロたちの故郷でもあるという | トーデルメアに足を踏み入れた瞬間,眼前に広がる絶景は思わず息をのむばかり | 冒険の旅もいよいよ終盤。穏やかに見える時代だが,パズルはやはり難解だ |
■新要素「スレート」が登場,パズルは相変わらず難解
スレートを使っているところ。エッシャーの言葉から使用法を見い出そう |
本作で追加された新しい要素として,注目したいのが「スレート」と呼ばれる石板を使った「バーロ」とのコミュニケーションだ。バーロとは,奴隷として人に仕える生き物で,不思議な力を持っている。各世界の要所要所で発見したシンボルをスレートに書き込み,それをバーロに渡すことによって,広大な世界をワープで行き来できるようになる。
そのほかに,バーロの能力を借りなければ先に進めない場面もいくつか用意されている。シンボルを見つけ出したり,バーロの力をどのように利用するかを考えたりといった要素がミックスされており,これまでとは一味違う新鮮な面白さを味わえるはずだ。
"ミストシリーズ"といえばもちろん,難度の高いパズルの数々で知られているが,本作のパズルも相変わらず難解だ。とくに,ミストシリーズをまったく知らない人にとっては,マニュアルやゲーム中の情報がやや不足気味なのではないかと思う。経験者である筆者でさえ,何をどうしていいのか分からない場面もたくさんあったくらいだ(修行不足と言われればそれまでだが)。
前作にあったヒントシステムがなくなったため,一度行き詰まると,局面をなかなか打破できなくなってしまう。もちろん,エッシャーの発言やイーシャの日誌にヒントはちりばめられているのだが,ミストならではの哲学的な表現が満載だし,パズルの内容に関する具体的な説明はないので,根気よく試行錯誤を重ねて解き進めていくしかない。
ただ,最初から行き詰まると遊ぶ気が失せてしまいかねないので,筆者としては,せめてスレートの使い方について,マニュアルでもう少し詳しく解説してくれてもよかったのでは,と感じた。「ゲームの醍醐味を損なうといけないのであまり詳しくは述べません」というマニュアルの言い分ももっともだが,それにしても,だ。
といったわけで,パズルの難しさについては少々厳しいことを書いたが,世界観の奥深さを味わいながらじっくり楽しむタイプのゲームなので,大枠はこれでよいのかもしれない。
何といってもミストVは,"大作"ミストの完結編だ。英語版と同時にリリースされた日本語版だが,音声のセリフや日誌などの文章に重大な意味が込められたタイトルだけに,ファンとしては嬉しい限りである。また,WindowsとMacintoshのハイブリッド仕様で提供されているので,ぜひMacゲーマーにもこの大作を楽しんでもらいたいと思う。
ターギラの時代では,のっけからバーロの手助けが必要となる | これはトーデルメアの時代にある天体望遠鏡。かなりの性能がある | 四つめの時代だけあって,この風車のパズルは難解。バーロの力を借りよう |
冷たい池が行く手を阻む。どうすれば向こう側に渡れるのだろうか | 横にある古びた小屋に入るための,おもりのパズル。根気よく試行錯誤したい | エッシャーの研究室に入るためのパズルも手強い。ヒントは別の場所にある |