■韓国,中国,北朝鮮と自衛隊が戦火を交える仮想戦
現代大戦略200xシリーズのセールスポイントである,現在の世界情勢を基にしたシナリオの一覧。現状を,少々突飛なほど悲観的にアレンジした,センセーショナルなシナリオが満載だ |
もはや年末恒例の行事となった感のある,システムソフト・アルファー「現代大戦略200x」シリーズの新作だが,セールスポイントである「その年の世界情勢をベースにしたセンセーショナルなシチュエーションのシナリオ」に磨きをかけて,今年も登場した。
今年の新作「現代大戦略2005」のサブタイトルは「護国の盾・イージス艦隊」だ。現状でイージス艦を運用している国はアメリカ,日本,スペインの3か国しかないことを考えても予想がつくとおり,今回の主役は日本の海上自衛隊である。そして兵器データは現在より少しだけ先のものとなっていて,現在運用されているこんごう型イージス艦だけでなく,2007年竣工予定の(これまで14DDGといわれていた)あたご型イージス艦,さらにはイージス艦ではないが2008年ごろ竣工すると見られる16DDH(1万3500トン型護衛艦)など,まだ配備されていない艦も利用できるようになっている。
システムとしては「大戦略パーフェクト」ベースのターン制システムを採用しており,昔からの大戦略ファンにはなじみ深いものだろう。ただし,「現代大戦略2004」から採用された国境線ルールが改良されているなど,現代大戦略200xシリーズ固有のルールも,さらにブラッシュアップされている。
現代大戦略2005には海上自衛隊の最新型艦艇が登場する。画面は現行のイージス艦こんごう型 | 2006年に竣工予定の最新型イージス艦あたご型。兵器データは“2005”より先まで入っている | こちらはさらに先,まだ命名さえされていない16DDH。ヘリ空母扱いされているがOKなのか? |
■国際情勢の現実を大きく超えた過激なシナリオ
シナリオ冒頭ではこのように,新聞記事を模した形で現在の状況が説明される。なかなか凝った演出のミッションブリーフィングといえよう |
前述したとおり,現代大戦略200xシリーズのウリといえば,サブタイトルに勝るとも劣らないセンセーショナルな内容のシナリオ群だろう。もし,日本周辺国の状況がさらに悪い方向に向かったらという想定のもと,韓国,北朝鮮,中国それぞれと日本との武力衝突を扱った3本のキャンペーン,イラク情勢がこじれた場合を想定したもの,国連安全保障理事会常任理事国候補として中央アジア紛争地帯に介入した日本を扱うものという,一連の自衛隊ものシナリオが用意されている。
これに加えて,ヨーロッパ諸国間の武力衝突を扱ったシナリオや,アメリカの内戦を想定したキャンペーンなど,非常にセンセーショナルかつエキセントリックな内容が揃っている。なお,そのほかに史実戦シナリオも含まれており,フォークランド紛争を扱ったキャンペーン2本(イギリス側,アルゼンチン側各1本)が,収録されている。
もっとも,現在の国際情勢を基にしているとはいえ,大戦略シリーズというベタベタな武力戦ゲームが成り立つように,いろいろデフォルメされているのは言うまでもない。例えば「日韓攻防戦・竹島を死守せよ」というシナリオにおいて,海上自衛隊ではあたご型護衛艦や16DDH(ゲーム中では新型DDH)がすでに配備/戦力化されているし,同じように韓国軍も広開土大王級駆逐艦(KDX-1)や李舜臣級駆逐艦(KDX-2)が配備済みだ。今年引き渡しがはじまったばかりのF-15Kなども,大いに活躍する。
さらには現実の竹島はほとんどが岩山で,まともに車両群が配備できるような場所ではないにもかかわらず,74式戦車ほかが配備されているなど,デフォルメは多岐にわたる。
だが,それを指摘し出したら航空自衛隊のF-2によるASM-2の斉射は,ゲームを成り立たなくさせるほど強力と目されているし,海上自衛隊の艦艇と韓国海軍の艦艇では,凌波性に大きな違いがあるといわれている。目をつぶるべきところには目をつぶって楽しむ覚悟が必要だろう。
実際,サブタイトルに従ってイージス艦の活躍を楽しむためには,このくらいの取捨選択が必要だ。……とはいえ,イージス艦は艦隊の対空護衛に比重を置いた兵器なので,もう少し航空機に出てきてほしい気はするが。
■順当に進化を続けるシステム面にも注目
大戦略といえば「アイランドキャンペーン」は欠かせない。“通”になるとこのマップをプレイして,その結果からCPUの思考パターンを評価するというくらいだ。現代大戦略2005にももちろん収録されている |
現代大戦略2005のシステムは,「大戦略パーフェクト2.0DX」のものをベースにしつつ,現代大戦略2004で取り入れられた拡張要素をさらに発展させたものとなっている。
拡張要素とは,例えば国境線と同盟関係のルールなどが該当する。現代大戦略2005では新たに,複数の中立国が登場するようになっているのだ。このシステムは周りが海の日本関連シナリオではあまり関係ないが,ヨーロッパを舞台にした「EU崩壊の序曲」の一連のシナリオには不可欠のもの。国境線が入り組んだ,つまり登場陣営も入り組むヨーロッパ地域の情勢が,再現可能になったのだ。
また,例えば「中華帝国の暴走・邦人大脱出」では,中国本土(中華人民共和国)の各都市に取り残された民間人を護衛して救出する。現代大戦略2004から取り入れられた「民間人」ルールを活用したシナリオであり,ただ戦闘を行えばよいわけではないなど,ゲームの展開としてバリエーションのある内容になっている。
システム面の改良で,最も分かりやすいのは画面表示のバリエーションだろう。マップ上の各都市や部隊などに貼られる「地形ラベル」や「都市ラベル」に,画像ラベルを設定できるようになった。これにより,それぞれの都市や特定の地形が,一体どんな雰囲気なのかイメージしやすくなった。
マップ表示のバリエーションも増え,新たに,よりリアルなグラフィックスでマップを表示する「ビジュアルマップモード」を搭載した。さらに,移動などの目安になるヘックス境界に関しては,その表示を消すことも可能なので,これをビジュアルマップモードと併用すれば,地図の上でプレイしているようにもできる。実用性はともかく,多様な選択肢が用意されたことは歓迎したい。
シナリオばかりに目が行ってしまいがちの現代大戦略2005だが,単体のマップも100近く収録されており,過去の大戦略シリーズからマップを読み込むことも可能だ。さらにマップエディタもあるので,シナリオに用意された設定以外の,いろいろな陣営を使ってプレイできる。
通してプレイした印象を述べると,現実味の部分にさえある程度目をつぶれば,「大戦略らしい」面白さが十分に楽しめるといったところ。シリーズ前作と比べても,ここが劇的に変わった,というような部分はないのだが,「現代大戦略」以前に「大戦略」シリーズに求められるのは,目新しさよりもむしろ,長い伝統を誇るシリーズ作品としての完成度,成熟度だろう。その意味で現代大戦略2005は,従来の大枠を引き継ぎつつ順当に進化を遂げている。
また,そうした基本のシステムに関わる視点とは逆に,本シリーズならではの側面についてコメントするなら,これだけエキセントリックなシナリオなのだから,使用できるユニットのほうも,もっともっとエキセントリックなほうが,より楽しめるのではないかと思う。
本作にはYF-23やX-29など,実用化されていない兵器も一部収められているが,例えば「スーパー大戦略」の隠し生産タイプには「超音速攻撃ヘリ」(エアーウルフ?)などという隠し玉があった。それと同じ発想でいけば,昨今一部で人気のF-26(アメリカの民間企業が目下米軍に売り込み中の新型機プラン)といった,あからさまな“ネタ兵器”がオプションルールで使えても,よかった気はする。
ともあれ,大戦略シリーズのターン制システムを着実に改良し,プレイアビリティの高いものに仕上げている今作は,ゲーム性で評価するなら,決してただのキワモノではない。大戦略シリーズ各作品のファンだけでなく,現用兵器を用いた手軽なストラテジーをプレイしたいという人に,“実は”広くお勧めできる作品なのだ。
標準のマップ画面。いかにも大戦略シリーズといった感じの,地形とヘックスの表示だ | ビジュアルマップをオンにしてヘックスのラインを消すと,まるで地図のような画面に | 画像ラベルを表示したところ。画像が表示され,地勢がイメージしやすくなっている |