― レビュー ―
時事的なシナリオと豊富なマップ資産を誇る最新作
現代大戦略2004
〜日中国境紛争勃発!〜
Text by 西川 潤
8th Dec. 2004


■「パーフェクト」シリーズのシステムを採用しつつ
  「200x」シリーズらしいエキセントリックさを発揮


マップ画面は平面的で地味。とはいえ,プレイの内容からすれば必要条件は満たしているし,見やすい

 例えばFPSというジャンルを確立したのが「DOOM」や「Quake」であるように,国内のストラテジーゲーム愛好家にとって「大戦略」シリーズは特別な意味を持つ。タイトルライセンスを受けてセガが発売した作品まで含めれば,初めてプレイしたストラテジーゲームは大戦略だったという人はかなり多いのではないだろうか。大戦略シリーズは,いわば国内ウォーゲーマーの心のふるさとなのだ。
 今回取り上げるのは,その大戦略の最新バージョンに当たる「現代大戦略2004 〜日中国境紛争勃発!〜」だ。現在の大戦略シリーズには系列・方向性が複数あるが,本作は2001年から例年発売されている「現代大戦略200x」シリーズに属し,世界情勢を反映した「シナリオ」(1マップで完結するもの)と「キャンペーン」(部隊を引き継いでマップを連戦するもの)から成っている。扇情的なサブタイトルもすっかり恒例になっているわけだが,歴代作品が「海外派兵への道」「有事法発動の時」「テロ国家を制圧せよ」なので,今回はむしろおとなしいほうかもしれない。
 ちなみにこの「200x」シリーズと異なり,システム面の充実に主眼を置いているのが「大戦略パーフェクト」シリーズなのだが,今回取り上げる「現代大戦略2004 〜日中国境紛争勃発!〜」に限っていえば,「大戦略パーフェクト2.0」のゲームシステムをベースに,多少の"スパイス"を加えたものとなっている。
 ここでスパイスというのは,「自爆兵器」の追加,機雷原・地雷原地形の追加,救出対象となる「民間人」の設定など,「200x」シリーズらしく時勢を反映した付加要素のこと。ストラテジーゲームとしての必然性よりは話題優先な感が否めないが,国境線と陣営間関係のルールはゲームとして興味深い拡張で,これを設定したシナリオも収録されている。

 

マップ画面と同様に,「リアルファイト」画面も,厳しく言えば何の変哲もない画面だが,無理なデフォルメなしに兵器を見せてくれる ある1980年代シナリオの,1ターンめの状態。佐渡・新潟・青森にそれぞれ橋頭堡を築いた敵軍を叩くのが,自衛隊側の目標だ キャンペーンで次マップに進む部隊には,損耗状態も引き継がれる。そのマップで勝利が見えたら,部隊を立て直しておくとよい

 


■シナリオの状況設定はゲーム性重視
  「フィクションとしてはアリ?」の内容


内戦状態になった北朝鮮に,自衛隊が拉致被害者を救出すべく出動するというシナリオもある

 収録されたシナリオとキャンペーンについて,もう少し詳しく紹介しよう。シナリオマップは新作22本に加えて,公式サイトで公開されているものなど9本がプレイできる。新作のうち10本が,タイトルにも関わるアジア・極東地域モノだ。残りは中東関係と,冷戦華やかなりし頃(?)に題材を取った1980年代モノが多い。標準の設定では,新規部隊が作れず,マップ上に配備された部隊のみで戦っていくのだが,スパンの短い現代戦の表現としては適切だろう。
 さて,現実に取材した状況設定がウリの本作ではあるのだが,ゲーム内での処理もリアルかというと,正直言葉に詰まってしまう。
 例えば「日中資源戦争・尖閣諸島攻防戦」というシナリオでは,自衛隊(プレイヤー)と海上保安庁(コンピュータ,プレイヤーと同盟)が,尖閣諸島・沖縄に来攻する中国軍を迎え撃つのだが,ここでの自衛隊は尖閣諸島を完全に基地化したうえ,軽空母とハリアーを運用しているわけで,これが「現在の」情勢に基づいていないことは明白だ。
 さらにこのシナリオの自衛隊機には,ASM(空対艦ミサイル)搭載機が含まれていない。現実の自衛隊では支援戦闘機(攻撃機)の第一条件といってよいASM運用能力が,こともあろうにゼロなのだ。加えてこのシナリオで勝利するためには,中国の艦隊を撃破するだけでなく,大陸の温州近郊にある中国側司令部を破壊することまで求められる。これもまあ……自衛隊っぽくないのは確かだろう。
 正直,現実味を大きく欠いているというのが妥当な評価だと思うが,これは積極的にゲーム性を優先した,あるいは仮想戦記小説のようにセンセーショナルな表現を重視した結果と見るべきだろう。ASM運用の件にしても,艦船での戦いを存分に楽しむために,対艦攻撃力が高すぎる航空機を除いたのだとすれば,それなりに納得がゆく。
 そもそも1980年代シナリオはまさに"仮想"状況だし,シナリオのうち1本は自衛隊が第2次大戦中にタイムスリップするという,どこかの漫画で見たような設定だ。どうせ仮想のドンパチをやるならば,派手な状況設定のほうが盛り上がりそうではある。  

 

本文で触れた尖閣諸島シナリオの状況説明(左)と,そのゲームマップ(中・右)。ご覧のとおり尖閣諸島は完全に基地化されており,むしろその過程で事件が起きそうなものだ。ただしゲームと割り切れば,敵艦隊を迎撃した後に輸送部隊の海上護衛に努めるなど,楽しみどころは多い。ちなみにこのシナリオに限っては,[索敵]を有効にしたほうが楽しめる
ASMが撃てない「F-2改」(笑)。ただし,長射程のAAM-4(99式空対空誘導弾)が運用でき,空対空戦闘力は逆に高まっている 海戦要素が重要なマップを標準のルールのままで戦う場合,発見しにくい敵潜水艦への対策が重要な問題になってくる 収録シナリオには,時間を追った連作設定になっているものが多いが,それぞれ単独でもプレイできる

 


■名マップ多数収録,旧作の設定も可能で
  "物量"的には文句なし


樺太・北方四島方面から来る赤軍を撃退する「Read Bear」のリメイク版マップ

 さてシナリオからは離れて,本作の持つ別の魅力を紹介しよう。前述のように,本作のシステムは「大戦略パーフェクト 2.0」の強化版であるため,当サイトの「こちら」にあるレビューの記述が,そのまま当てはまる。とくにルールを個別に選択する機能,難度をまとめて調節する機能は重要だ。
 例えば都市の占領にしても,攻撃部隊が耐久度を徐々に削っていくルールと,歩兵が入りさえすれば一発で占領できてしまうルールのどちらがよいかは,好みもあって一概に決められない。こうした点をプレイヤーの裁量で決められるのは嬉しいところだ。ただ欲を言えば,過去に発売された作品に極力近づけたルールセットが用意されていたら,より嬉しいところではある。
 単体のシナリオマップが150点以上付属するのも重要なポイントで,「アイランド・キャンペーン」は言うに及ばず,「瀬戸内海Wars」「Red Bear」など往年の人気マップも復刻版やリメイク版としてしっかり収録されており,この点でも「大戦略パーフェクト2.0」にひけは取らない。本作は1980年代シナリオを収録している関係で,旧世代の兵器データも収録しているため,登場兵器も当時に合わせられるのだ。生産タイプの編集機能やマップエディタもあって,後者を使えば過去の作品のマップを本作用にコンバートできる。「大戦略IV」や「大戦略 for Windows95」からでもコンバート可能で,かつての"ダイセンリャカー"としてはそそられるものがある。
 逆に前述のルールセットで「シンプル」や「初級」を選べば,この手のゲームは初めてというプレイヤーにも楽しめるはずだ。キャンペーンマップの中にはチュートリアルも用意されている。

 敵の思考ルーチンについていえば,大局的な視点では今一つのように思える。というのも,こちらの部隊が届くようなところから戦力を逐次投入してくるし,中立の都市が多いマップでも,占領して資金源を確保する手立てが甘いように見えるからだ。ただし,局所的な戦闘ではこちらの嫌なところ,脆いところを突くような攻撃をしてくるし,叩ける部隊は確実に全滅させるよう攻撃を集中してくるといった部分はなかなか手強い。このため,物量で押されるシナリオなどでは決してヌルい戦いにはならず,相応に厳しさを感じさせてくれるだろう。
 ともあれ本作は,データ面では最強装備の「大戦略」だ。心のふるさとに立ち返る,あるいはまだ見ぬ父祖の故郷を訪れるには,非常に良い機会を提供してくれる作品だと,今となっては古参ストラテジーゲーマーに属する筆者は思うのである。  

 

こちらは「瀬戸内海Wars」。海戦兵器がなかった初代「現代大戦略」の仕様のままに復刻されている 生産可能な兵器は多いが,自走砲・対空ミサイルといった分類とその役割を理解していれば困ることはない これがルール設定画面。旧作由来のマップには,初出時に近いルールが最初から設定されているものもある
戦闘の前には,結果予想が表示され,効果が薄いようなら移動段階からのキャンセルもできる マップクリア後に現れる戦局推移。達成感を感じさせてくれる,この表示が装備されているのは嬉しいところだ 生産タイプの編集は,既存の生産タイプをコピーして,それを変更する形でも行えるため,気軽に利用できる
タイトル 「現代大戦略2004 〜日中国境紛争勃発!〜」
発売元 システムソフト・アルファー
発売日 2004/10/29
価格 1万290円(税込)
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,PentiumII/400MHz以上(PentiumIII/1GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量 1GB以上,ビデオ:1024×768ドット以上表示可能なビデオカード,DirectX 9.0以降

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