■ストーリーが強化されたダンジョン シージ 2
初代「マイクロソフト ダンジョン シージ」と,その公式拡張パック「アランナの伝説」を共にやり込んだ筆者としては,E3 2004で初めて「マイクロソフト ダンジョン シージ2」を目にしたときは心が躍ったものである。当時の取材では,「2」は前作がキャラクターの育成にバリエーションが足りなかったことや,ストーリー性が弱かったことを踏まえて開発されているという話を聞き,選択方式の会話シーンや二刀流の戦士が敵と戦うシーンなどを見た記憶がある。それから1年以上が経過し,ようやく「2」が発売となった。
初代ダンジョン シージは,2002年当時に高品質の3Dグラフィックスで描かれた,"ディアブロ"タイプのアクションRPG。ゲーム内容は,ルールの単純さとインタフェースのシンプルさを根幹に作られており,地面を指定すればそこに移動し,敵をクリックするだけで装備している武器や魔法で攻撃するという簡単なものであった。ストーリー性よりも,戦術性やキャラクター育成,アイテム収集に重きが置かれたタイプのゲームで,その完成度の高さから大ヒットを記録。シングルRPGジャンルにその名を刻んだタイトルである。
本シリーズには冒険の途中で多くの仲間が登場し,基本的にはパーティプレイとなるため,戦闘では全体に指示を出したり,個別に操作したりとかなり忙しい。モンスターとの乱戦では,単純にクリックを繰り返すだけではなく,大局を見据える戦術眼も必要になる。
今回は3段階の難度を用意。上級の難度ほどドロップアイテムの品質もよくなるだろう |
メインストーリーは,ザラモスの剣とアズナイの盾を巡る戦いがテーマ。時代的には「1」よりも遙か昔ということになる。序盤は親友と共に傭兵として戦場に送り込まれ,ドライアドを相手に海岸で戦うが捕虜になってしまい,やがて冒険を重ねることで自分がアズナイトの末裔であることを知り,世界の命運を握る戦いに参加していく……という物語だ。
ストーリーをあまり細かく書きつらねても仕方がないので,シナリオ上の見どころをば。今回はメインストーリーや世界観を,多数の「サブクエスト」で補足する方式を採用している。サブクエストを攻略することにより,悪だと思っていた種族には反乱が発生していて,実は反乱側が人々に悪さをしていた……など,突っ込んだ事情が分かる仕組みだ。
とはいえ正直なところ,メインストーリーはヒロイックファンタジーにありがちなもので,「2」でストーリーに力が入っているというのは,「1」と比較しての話だろう。とはいえ,前述のようにテキストや村人のセリフのみで世界観を示すのではなく,サブクエストによって世界観を補完するという点は遊び応えがあって良いと思う。さらに,ジャーナルでは各アイテムにまつわる設定なども閲覧できるので,世界を理解するうえで役立つだろう。前作と比較してテキスト量が3倍というのも,うなずける話だ。
ちなみに前作から変更されたシステム的な要素は,以下の四つ。
- 1.フォーメーションがなくなった
- 2.Tabキーで表示されるマップで移動先の指定ができなくなった
- 3.キャラの音声が英語に(字幕は日本語)
- 4.戦闘における攻撃/反撃の変更
こんな感じだが,ゲームや戦略を大きく変えるものではない。微妙なマイナーチェンジといったところだろう。2はとても残念だが……。
オートマッピング機能は健在だが,マップウィンドウ上で移動の指示は出せなくなった | レベルアップするとポイントが獲得でき,それを割り振ることでスキルやパワーが手に入る | テキスト類も充実。モンスター辞典はちょっとしたコレクション的な楽しみに |
オープニングから。前作とのストーリー的な関連性も,若干あるようだ | 今回は前作と比較すると,ボスの数は抑え気味。これはAct1のボス | すべての元凶であるヴァルディス。これはAct2の最初に挿入されているムービーシーン |
■前作よりはるかに強化されたキャラ育成要素
さっそく「2」のパワーアップポイントを紹介するが,一番に評価したいのがキャラクター育成システムの強化だろう。
本シリーズでは,すべての武器や呪文が"近接戦闘" "遠隔戦闘" "戦闘魔法" "自然魔法"という4系統の「クラス」の,いずれかに分類されている。同じクラスの武器/魔法を使い続けることで,そのクラスのレベルが上がっていき,より高性能の武器/防具/呪文が装備可能になっていく。
マルチクラスに育てることで,キャラクターのバリエーションは広がりそうにも思えるが,前作の場合,モンスターが無限には出現しないという大きな問題があった。おかげで不必要に複数のクラスを鍛えると中途半端なキャラになってしまい,ゲームの攻略を考えると,結局はどれか一つのクラスに専念せざるを得なかった。
この問題が,今回はモンスターが無限に出現することで解消されており,さらに次に紹介するスキルシステムによって,より深みのあるキャラクター育成が可能になったのだ。
新フィーチャーとして導入された「スキル制」。これは,クラスごとに12種類ずつ用意されている。レベルアップで得られるポイントを振ることで,キャラを強化できるというものだ。例として近接戦闘クラスから抜粋して見てみよう。
フォーティチュード | ヘルスの最大値を増加 |
クリティカル ストライク | クリティカルヒット率を増加 |
バリケード | 盾が扱え,物理攻撃に対して防御率を増加 |
オーバーベア | 両手武器を装備可能&両手持武器の攻撃力増加 |
デュアル ウィールド | 二刀流が可能&二刀流の攻撃力増加 |
タフネス | 物理攻撃に対する防御率を増加 |
アラクリティ | 攻撃速度の増加 |
リインフォースト アーマー | 防御力を増加 |
スマイト | 両手武器による気絶成功率を増加 |
フィアース リニューアル | パワーの回復速度を増加 |
リビューク | 攻撃ブロック時の反射ダメージを増加 |
デッドリー ストライク | クリティカルヒットのダメージを増加 |
いわゆる普通のRPGにおける「スキル」と同等で,要はキャラのベースを強くしたり,二刀流やシールド装備が可能になるというものだ。これらは同一のスキルにポイントを振ることも可能なので,一つのスキルにトコトンこだわってみるのも面白い。クリティカルストライクとデッドリー ストライクを徹底的に上げることで優秀なダメージディーラーを育成できるし,盾や防御力関連のスキルを育成すれば,パーティの壁となる戦士を育てたりもできる。
筆者的には,前衛の戦士は防御力特化型がお勧め。というのも,今回は全般にわたって戦闘が長引きやすいのだ。ボスだけではなくザコ戦でも時間がかかることが多々あるので,防御力に特化することでヒールをする時間的余裕が作り出せるし,安心してゲームが進められる。実際Act1のボスなどは防御系のスキルがおざなりだと,ポーションをガブ飲みしても全滅の可能性が高い。
といってもパワーは無尽蔵に使えるわけではなく,敵を攻撃してゲージを溜めなければならない。なお,パワーもスキルなどと同様に1種類を集中して強化できる。
ちなみに前作の戦闘が力押しだったのに対して,今回は駆け引きの妙が楽しめる点は要注目。パワーなどによって若干のCrowd Control(移動制御や無力化の技能や魔法で,敵の集団をコントロールすること)が可能になったため,多数の敵をどうさばくか? といったことに頭をめぐらせなければならない。
これはマルチプレイになると,より顕著になる。というのもマルチプレイでは個々のキャラを操作するため,より強力な連携が可能で強敵にも立ち向かえる。シングルプレイで苦戦するような,仲間への貢献度のみ追求したキャラも活躍でき,MMORPGの「パーティ」のようなプレイが楽しめる。より戦術を追求したプレイがしたいなら,今回のマルチプレイはかなりお勧めだ。
スキル/パワーの導入で,キャラクター育成が大幅に面白くなった | プレイヤーキャラは4種族から選択可能。今回は初期ステータスにも種族差がある | スキルツリー。レベルアップして獲得できるポイントを使えば,キャラはより強力に |
パワーの中には,範囲を指定して敵の足止めを行うタイプのものもある | 二刀流独自のパワー,「ウエーブス オブ フォース」。多数の衝撃波を発生させる | 頭上にオーブを登場させて魔法弾を発射するパワー「エナジーオーブ」 |
■戦略性の向上した戦闘,とにかく忙しい!
Act1の最後に登場するボス。2種類のブレスとヒールを使ういやらしい敵 |
クリス・テイラーが「トータルアニヒレーション」などのRTSの制作者ということもあってか,今回も戦闘はどこかRTSっぽさが漂っている。
味方のAIには"好戦" "待機" "模倣" "守備"という4種類の「戦闘姿勢」があり,メインで操作しているキャラクター以外は,この設定に応じて行動する。
各キャラクターは,この戦闘姿勢に従って戦うので,プレイヤーは様子を見ながらポーションや魔法で回復したり,戦況に応じて武器と魔法を切り替えたりしつつ戦う。ただし今回はスキルやパワーが導入されたことからも予想できるように,敵も手強い。
序盤のザコですらヒーラーを狙ってきたり,ワープして背後に回り込んでくる始末。これが中盤ともなるとでデバフ(弱体化魔法)なども織り交ぜてくるので,非常にやっかいだ。敵の思考ルーチンは格段に強化されているように思える。
もちろん戦闘では手強いユニークモンスターなども頻繁に登場する。温存しておいたパワーを駆使して戦う局面も多々あり,大多数の敵をパワーラッシュで一気に消し去ったときはの爽快感は,一度味わうとクセになってしまうほど気持ちいい。
なお前作から戦闘の操作が若干変わり,敵をクリックし続けないと攻撃しなかったり,攻撃を受けたのに反撃しなかったりするが,これらはオプションの項目で前作の仕様に戻すことも可能。こういった気遣いはありがたい。
ペットは種族ごとに,毒針を飛ばしたり,爪で攻撃したり,氷の魔法を使ったりなど独自の攻撃方法を持っているが,戦闘では経験値を得られず,なんとアイテムを食べさせることで成長する。与えるアイテムによって伸びる能力が異なるほか,成長ゲージがMAXになると新生期,未熟期,年少期,思春期,青年期,成熟期といった具合にランクアップし,魔法やパワー,パーティ全員に影響を及ぼすエマーションというスキルを修得する。
とくに最後のエマーションは中盤戦から後半戦では重要になる要素で,MMORPGのグループエンチャントによく似ている。一度修得してしまえば常時発動という便利な能力で,アイスエレメンタルのエマーションはパーティ全員のマナの回復速度を向上させ,ダイアウルフのエマーションは,受けたダメージの数割を敵に跳ね返すといった強力なモノとなっている。
これらのシステムのおかげで,ペットは単なるオマケではなくなり,準主人公といえるほどの地位を手に入れた。武具を装備できないのは残念だが,エマーションのためだけでもペットをグループに入れる価値はある。
そのほかの新要素に「チャント」がある。チャントとは呪歌のことで,ところどころにあるレクターン(書見台式机)に置かれており,全部で76種類存在する。これを呪歌の祭壇という場所で唱えると,一定時間防御力や回復力のUpが得られるのだ。チャントは支援や回復系のものが多く,戦局を大きく変えるほどの力はないが,休憩時間の短縮になったり連続戦闘が可能になったりするため,活用すればサクサクとテンポの良いプレイが味わえるはずだ。
さらにアイテムの強化(エンチャント)もあり,これはアイテムに魔力を付加するという形で行われる。"エンチャント可能な"という称号が付いたアイテムと,特殊なアイテムを合成すればマジックアイテムが作れるというシステムだが,序盤や中盤ではベースアイテムも,エンチャントするための材料も良いものが手に入らないので,あまりエンチャントする機会はないだろう。どちらかというと,終盤戦やマルチプレイでレアな材料を揃えた上級者用の要素といえる。
無数の敵を退けるには,貫通力のある魔法やデバフなどを効率よく使う必要がある | Act2で受けられるサブクエストの一つ。成功すれば新ペットが手に入る!? | 戦闘ばかりではなく,ちょっとしたパズルも。鏡の反射角を合わせよう |
前作よりも戦闘が長引きやすい印象がある。敵もデバフなどを使ってくる | シナリオは三つのActで構成されている。クエスト一覧など便利な機能も | 倒したモンスターに関しては,解説を読める。コレクター心をくすぐる機能だ |
■今回はマルチプレイでたっぷり遊べる
呪文によってペットを召喚可能。赤い玉は召喚中のペット |
マルチプレイについても触れておこう。ダンジョン シージ2は,インターネット,LAN,GameSpyを利用したマルチプレイに対応していて,GameSpyではキャラクターデータはサーバー上に置かれる。つまりゲームがインストールされていれば,どのPCからでも自分のキャラクターでプレイできるのだ。またチートなどの不正プレイ対策が強化されたともいえよう。
ゲームモードはクラッシックモード(メインキャラで冒険。プレイヤー数は4名まで),カップルモード(メインキャラと仲間orペットを1名同行させて冒険。プレイヤー数は3名まで),パーティモード(メインキャラと最大2人の仲間orペットを同行させて冒険。プレイヤー数は2名まで)の3種類がある。
マルチプレイは実に面白い。はるか昔の作品で申し訳ないが,その面白さは"ディアブロ"シリーズを彷彿させる。しかし,ポーションをガブ飲みしながら敵をひたすら倒していくだけのゲームにはなっておらず,マルチプレイならではの戦術的な面が見られる。本作では支援系の魔法やスキルも充実していることから,戦士系が敵をひきつけ,キャスターが魔法で攻撃し,大量の敵が現れたときなどはスキルを駆使して敵を足止めしたり,アイスエレメンタルのパワーを駆使して敵を凍りつかせるなど,MMORPGを思わせるパーティプレイが可能だ。シングルでは攻略に向かない支援特化のキャラクターも,マルチプレイでは十分に活躍できる場が用意されているので,シングルプレイとマルチプイレイはある意味,別のゲームといってもよさそうだ。
そうした面白さもあってか,連日マルチプレイのサーバーは盛り上がっている。平日の昼間でも100人近くのプレイヤーがいるので(2005年9月現在),興味があればぜひ参加してもらいたい。ひょっとするとマルチプレイこそが本作品の真髄なのかもしれない。
最後に少々要望と総括を。不満点は下記の通り。
- ・世界の過去が語られるシーンのビジュアルに使い回しが多い
- ・前作同様,Y軸の視点変更の幅が狭い
- ・ややストーリーが突飛
……とはいえ,これらはゲームの面白さを大きく左右するものではないので目をつぶるとしよう。
ゲームの骨子はそのままに,面白そうな要素があればジャンルの垣根を越えてでも積極的に取り入れ,自分のものにしてしまう。そういった柔軟な姿勢は好印象だ。
ライターや編集者が仕事で扱うゲームとプライベートで遊ぶゲームは違うことも多いわけだが,"本作はプライベートでも遊びたい"と素直に思えた秀作である。個人的に今年プレイしたRPGの中で五指に入る作品と評したいと思う。
ペット商では,さまざまなペットが購入可能となっている | 人間一人にペット3匹という構成で冒険も可能。ペット好きにはたまらない | Act2以降で購入できるダークナイアド。自然魔法を使うキャスターペットだ |
さまざまな効果が得られる,呪歌の祭壇。連戦には欠かせない施設だ | 呪歌の祭壇では,手に入れたチャントを詠唱できる。効果はいろいろ | アイテムの合成は,マニアには垂涎のやり込み要素といえそうだ |