■緻密なデータで構成された硬派なゲームデザイン
懐かしさすら感じさせる画面構成の「空母戦記2」。いざプレイを始めるとテンポは非常に良く,ほどよい緊張感が味わえる。空母の知識がなくても遊べるゲームだが,戦史を知っていればそれだけ楽しみが大きい |
開発元のジェネラル・サポートは,資料や史実をリサーチし,兵器データや戦闘を緻密にルール化したストラテジーゲーム作りでよく知られるメーカーだ。空母戦記2も,空母や航空機のスペック,運用のプロセスを徹底してリサーチし,空母戦闘のダイナミズムを余すところなくゲーム化している。
兵器のグラフィックスや派手な戦闘シーンなど,近年のゲームが重視するビジュアル要素をほとんど顧みることなく,兵器のスペックやパイロットの能力といったパラメータを,前面に押し出したボードゲーム的なデザインが大きな特徴だ。
前作からの改良/強化点としては,登場兵器の大幅な増加が挙げられる。登場兵器は287種類。史実では完成しなかった"幻の兵器"も多数登場するほか,空母/航空機の運用プロセスや戦闘でのリアリティ向上が図られている。時間帯による視界の変化,天候による索敵成功率の変化,敵味方誤認の発生,攻撃隊の空中集合,索敵攻撃,空母格納庫の形式による燃料引火時の被害度変化,駆逐艦によるパイロットの救助,パイロットの練度といった細かなパラメータ要素の追加など,実に盛りだくさんだ。
空母戦には,攻撃目標に合わせて兵装や編成機数を決めるとか,敵艦隊に遭遇しそうな時間帯や距離を見越して索敵機を出すとかいった独特のノウハウがあるのだが,空母戦記2ではそれらが非常にうまくルール化されている。本作で再現されていない要素として思い当たるのはレーダーピケット艦くらいのもので,その徹底ぶりは見事としか言いようがない。
空母 vs. 航空機の戦いがメインだが,砲撃戦も生じる。油断すると戦艦や巡洋艦に空母がやられることも | 日本海軍の一式陸上攻撃機は,飛行場で運用する爆撃機。航空基地のあるシナリオでは陸上機も重要 | 艦隊の上空を守る直援隊が敵攻撃隊を迎撃。防空戦闘は,航空機の性能とパイロットの練度がものを言う |
史実では完成しなかった兵器も登場。名機零戦の後継機として期待された烈風も活躍させられる | 戦後に完成したアメリカのミッドウェー型(左)と,計画のみに終わった日本の装甲空母・大鳳改型(右)。大戦中には完成しなかった高性能艦で艦隊を組めるのも,戦記/兵器ファンには楽しみの一つ |
■史実/仮想取り混ぜた12本のシナリオ
艦隊砲戦では,敵味方の艦隊が火砲の種類ごとに交互に撃ち合う。距離によって砲戦の展開は変わるし,レーダーの有無も影響する。敵艦隊との遭遇が予想される場合は,空母を分離して退避させる必要もある |
航空機の運用は5〜19ターンまでの日中の時間帯でのみ可能。1〜4ターンと20〜24ターンは夜間なので航空機の運用はできないが,水上艦艇同士の戦闘は発生する。また,潜水艦による索敵,敵艦への雷撃,護衛の駆逐艦との爆雷戦もルール化されている。
ゲームモードは,ミッドウェー海戦やマリアナ沖海戦といった個々の海戦をプレイする「ショートシナリオ」と,太平洋を12の戦区に区切り,日本海軍またはアメリカ海軍を指揮して各戦区をクリア(最終攻略目標は,それぞれハワイ諸島と日本本土)していく「キャンペーンシナリオ」に大別されている。
ショートシナリオは,史実に基づいた設定でプレイする"史実戦"5本と,独,伊の機動部隊(!)が英艦隊と地中海で激突するといった架空のシチュエーションが楽しめる"仮想戦"を5本収録する。さらに「攻撃隊発艦せよ!」と題して,プレイヤーが自由に艦隊を編成して楽しめるフリーセットアップシナリオも用意されている。ショートシナリオのクリア条件は,24ターン以内に敵機動部隊撃破や敵航空基地撃滅といった目標を達成することになっている。あくまでも「空母同士の戦い」に特化した構成だ。
なお,シナリオ選択時に表示される設定メニュー画面には,パイロットの練度や爆撃の成功率,対空射撃で絶大な威力を発揮するVT信管や,対空爆弾の有無などの細かい設定項目が並んでおり,「日本の爆弾命中率はもっと高めだろう」といった,プレイヤーの"わがまま"も反映可能な作りになっている。
ショートシナリオ「セント・ビンセント岬沖海戦」での戦い。史実では実現しなかった独空母部隊の英艦隊攻撃だ | 欧州の海戦が遊べるのも本作の魅力。用意されたシナリオは1本だが,主要な艦船は収録されている | 夜間の遭遇戦で敵味方に大損害が発生。イタリアのようにレーダー装備艦が含まれない国は不利になる場合も |
ショートシナリオの結果表示画面。敵空母を撃沈しても喪失艦が多いと引き分けになってしまう場合がある | フリーセットアップシナリオの艦隊編集画面。艦船や航空機だけでなく,パイロットの練度構成(高練度のベテラン揃いとか,補充が追いつかず錬成不十分な状態での出撃とか)なども自由に設定できる |
■貴重な大型空母とパイロットは大切にすべし!
シナリオ選択画面では各種パラメータの設定ができる。初期設定では,史実の日米国力差を考慮してアメリカ有利の設定になっている。日本有利や互角の設定にすることも可能なので,難易度調整に利用しよう |
実際のプレイでは,夜間のターン中に艦隊を移動しつつ,夜明け前に当たる3〜4ターン目の武装変更フェイズで攻撃隊の編成(武装の決定)を行って,昇降フェイズで飛行甲板に上げておかねばならない。夜が明ける5ターン目に慌てて発艦の準備をするようでは,まず敵に先制されてしまう。索敵も直援機も攻撃隊も「発艦準備は暗いうちから」と心得よう。
日本海軍の対空射撃能力はあまり高くなかったが,本作もそれを忠実に再現している(嬉しいやら悲しいやら)ので,空母を守るために直援機は不可欠だ。またパイロットは,たとえ練度が高くても戦闘になれば無傷ではすまないので,複数の空母の攻撃隊をまとめる集合攻撃を利用する(編隊が大きいほど被害が分散するため)など,パイロットの消耗を極力避ける戦い方を見つけていこう。
キャンペーンシナリオでは,大型空母の存在が重要だ。とくにサイド1(枢軸側)において,70機以上を搭載可能な大型の正規空母(赤城,加賀と翔鶴級,大鳳級)は宝石よりも貴重な存在だ。大戦後半に完成する日本の新造空母は搭載機数が少ないので,マップを勝ち進むほど初期に配備される大型空母の有難味が身にしみる。こまめに航路を変更するなどの欺瞞行動も必要だし,ときには損傷空母を艦隊から切り離して退避させるなど,柔軟な判断も必要だ。このあたりの緊張感は戦史をトレースしているかのような気分だ。
フリーセットアップシナリオでは,艦隊の編成やパイロットの練度をはじめとする各種パラメータを自由に設定可能で,戦いを自由にデザインする楽しみが味わえる。初めは大ハンデキャップ戦を設定してみて,戦い方を練習するのもいいだろう。日・独・伊の連合部隊を編成し,アメリカ太平洋艦隊を迎え撃つ,なんていう夢のシナリオも作れる。兵器マニアや架空戦記小説ファンには楽しくてたまらないはずだ。
プレイした印象は,とにかく硬派なストラテジーというに尽きる。戦うための段取りが多いので一見操作が煩雑に見えるが,フェイズ単位でやるべきことが決まっているため,手順さえ覚えればプレイ自体は快適に進むし,シナリオ1本あたりのプレイ時間も平均2時間程度に収まる。そしてこれは余談に属するが,ショートシナリオの史実戦では日米両軍の初期配置が史実に忠実に再現されているので,戦記本や資料などによる予習は有効である。いや,かなりズルい手になってしまうが。
グラフィックス表現に凝った最近のストラテジーゲームを中心に楽しんでいるプレイヤーにとって,本作の"一昔前"イメージは正直,物足りないかもしれない。だが各シナリオの内容の濃さ,史実の再現性,遊べる要素の豊富さはグラフィックス面の不満を補って余りある大きな魅力だ。ストイックながらゲーム性においてはまさに"本物"といえるストラテジーゲームである。
昇降ターンで攻撃隊を甲板に上げた状態。航空機はあらかじめ甲板に上げておかないと発艦させられない | アメリカ支配下の航空基地に空襲をかける。キャンペーンでは,各地の基地を自軍勢力に入れることも重要 | ラバウルの航空基地への攻撃を指定しているところ。存在がはっきりしている航空基地は索敵なしで攻撃可能 |
敵艦隊への攻撃は必ず護衛戦闘機つきで。攻撃隊の機数は多いほうが戦果は大きいし,損害も抑えられる | キャンペーンシナリオのステージをクリアしたところ。戦果報告が行われ,次のステージに進む | ステージクリア後に,新たな艦船や航空機,パイロットの追加が行われる。次の戦いに臨むための貴重な増援だ |