― レビュー ―
続・"ATI版SLI"の真実に迫る
CrossFireリファレンスカード(後編)
Text by 宮崎真一
2005年10月8日

 

 3Dゲームにおいて,グラフィックスカードはもちろんのことCPUがそのパフォーマンスに大きく影響を及ぼすことは少なくない。そのため,CPUとグラフィックスカードのトータルバランスが重要となってくる場面は多々ある。とくに,NVIDIA SLI(以下SLI)の場合,CPUパフォーマンスが足りないと,SLIシステム全体のパフォーマンスが奮わないという局面もしばしば生ずる。
 CrossFireの実機レポートをお届けした前編では,CPUにAthlon 64 4000+2.4GHz(SanDiegoコア)を利用していた。では,よりモデルナンバーが高い,あるいは低い製品を使ってGeForce 7800 GTX(以下7800 GTX)のSLI構成と比較したらどうだろうか。システムのバランスが変わるなかで,CrossFireおよびRadeon X850 CrossFire Edition(以下X850 CFE)がどの程度の力を発揮するのか,まずは見てみたいと思う。

 

 テスト環境はのとおりで,(当然のことながら)前編と同じ。ただし,CPUだけはAthlon 64 4000+のほか,Athlon 64 FX-57/2.8GHz,FX-55/2.6GHz,3700+/2.2GHz(以上SanDiegoコア),3500+/2.2GHz,3200+/2GHz,3000+/1.8GHz(以上WinChesterコア)を用意した。機材調達の都合上,上位モデルのCPUと下位モデルのCPUで世代の異なるコアとなってしまった点はご容赦いただきたい。また,テストに用いるアプリケーション,方法も前編と同じだが,現時点では正しい値を得られないことが判明している「TrackMania Sunrise」のテストは省略した。このほか詳細なテスト方法については前編の当該部分を参考にしてほしい。

 

 

 

■高解像度における効率の悪さが目立つCrossFire

 

 「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)の結果(グラフ1,2)を見ると,CrossFire構成時に1024×768ドットや1280×1024ドットではCPUのモデルナンバー(≒動作クロック)に応じてスコアが伸びている。しかし,1600×1200ドットでは,Athlon 64 4000+以上で完全に頭打ちとなった。
 シングルカードでは1600×1200ドットでも順調にスコアは上昇しているから,X850 CFEが高解像度に弱いわけではない。となると考えられる原因は,ドライバか,1600×1200ドットでは垂直リフレッシュレート60Hzまでの対応になってしまうというCrossFireの仕様であろう。この結果だけで,原因を完全に特定するのは不可能だが,垂直同期がオフになると,ハードウェア仕様上の限界がより利いてくるはずで,納得できる部分ではある。
 いずれにせよ,高解像度にフォーカスしているはずのデュアルグラフィックスチップソリューションが,高解像度でスコアの上昇を見込めないというのは,かなり気になるところだ。

 

 ちなみに,グラフ2を見ると分かるが,7800GTXのSLIでは,1600×1200ドット動作クロック分だけスコアが上昇している。CrossFireとの違いは明らかといえよう。

 

 

 DOOM 3でも,ほぼ同様の傾向だ(グラフ3,4)。高解像度だと,シングル動作ではグラフィックスカードがボトルネックになって,ほとんどフレームレートの上昇が見られないX850 CFEだが,CrossFireではリニアに上昇するようになる。ただし,1600×1200ドットでは上位陣のCPUで上昇が緩やかになってしまう。7800 GTXのSLIだと高解像度でもスコアの頭打ちが生じない,というのも3DMark05と同じである。

 

 

 FINAL FANTASY XI Official Benchmark(以下FFXI Official Benchmark 3)では,何よりもスコアの揺れが気になる(グラフ5,6)。前編で筆者はAthlon 64 4000+を用いたテストの結果から「Catalyst A.I.はそれなりに働いているようだ」と述べたが,CrossFireでスコアの上昇があったのはこれとAthlon 64 3700+のみ。ほかは全体的に,シングルカードのほうがスコアは高い。また,Athlon 64 4000+/3700+と同じSan Diegoコアを採用し,実質的には動作クロックが異なるだけのAthlon 64 FX 2モデルが,シングルカード時に大きくスコアを伸ばし,CrossFireではその優位性が失われている点が独自の傾向といえる。

 

 要するに,スコアにブレがあるわけで,厳しく評価するなら,Catalystの練り込みに問題がありそう,ということになる。ただし,逆にいえば,Catalystのブラッシュアップによっては,Athlon 64 4000+/3700+のときのように,デュアルグラフィックスチップソリューション非対応のゲームでも,CrossFireのスコアがシングルカードを上回る可能性はある。

 

 

 

■仕様の異なるカードでのCrossFireを追検証

 

ATITool 0.25 Beta 8のウィンドウ。同ツールはwww.techPowerUp.comからダウンロード可能だ

 前編で,X850 CFEとRadeon X800 XL搭載グラフィックスカードでCrossFireを利用できなかったと指摘した。そこで今回は,X850 CFEのコアクロックとメモリクロックを「ATITool 0.25 Beta 8」からオーバークロック動作させ,Radeon X850 XTリファレンスカードと組み合わせてみた。疑似的に「クロックの異なる2枚のRadeon X850 XTカード」を用意してみるわけである。
 ちなみにX850XT CFEのリファレンスクロックはコア520MHz,メモリ1080MHz(540MHz DDR)だが,今回はコア594.0MHz,メモリ1.27GHz(613.64MHz DDR)までオーバークロックが可能だったので,この値に固定している。なお,ここではCPUにAthlon 64 4000+を利用した。

 

 さて,結果はグラフ7〜9にまとめたとおりだ。シングルカード時は,当たり前の話だがいずれのテストにおいてもスコアが向上。しかし,CrossFire構成時には"まったく変わっていない"と思われるほど,スコアに変化が少ない。ATI Technologiesのいうとおり,仕様が異なるカードでCrossFireを利用すると,パフォーマンスはスペックの低いカードに合わせたものになる,ということがこれで確認できたわけだ。

 

 

 

■Radeon X1000シリーズのCrossFireが本当のスタートか

 

 以上を踏まえると,やはり,高解像度環境でパフォーマンスが奮わない,という弱点は大きい。前編で明らかになったように,高レベルのフィルタ適用時にも,Radeon X850 XTベースのCrossFireでは7800 GTXのSLIに遠く及ばないこともある。Radeon X850 XTにおけるCrossFireには,見切り発車的な印象を受けざるを得ない。

 

 ATIによると,Radeon X1000シリーズのCrossFireでは,2048×1536ドットの解像度で,垂直リフレッシュレート70Hz以上を実現できるという。つまり「1600×1200ドットで垂直リフレッシュレート60Hzまで」という制約が取り払われ,今回見られたような高解像度でのパフォーマンス低下も生じない可能性があるのだ。
 Radeon X1000シリーズでCrossFireを実現するRadeon X1800/X1600のCrossFire Editionが発売されたとき,改めてハイエンド環境におけるCrossFireについて検証してみたいと思う。

 

タイトル ATI Radeon X800
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2004/05/11 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.