― レビュー ―
ナポレオン戦争を精緻な2Dグラフィックスで描いた歴史RTS
コサックスII〜皇帝ナポレオン〜
Text by Sluta
2005年7月8日

 

■コサックスシリーズ最新作はナポレオン戦争がモチーフ

 

ナポレオン戦争をモチーフとして,マスケット銃の射撃タイミングを中心に独特のアクション性を備えたRTS「コサックスII〜皇帝ナポレオン〜」。ボイス部分は英語だが,それ以外はすべて日本語化されている
 日本では2001年にリリースされた「コサックス」シリーズは,数千ユニット同士の迫力ある戦いを楽しめるRTSとして人気を博してきた。RTSのメインストリームが英雄ユニットや特殊能力などRPG的要素を取り入れて進化していったのを尻目に,コサックスは徹底してユニット数にこだわり続け,シンプルな形での大規模戦闘を売りにして,独自の存在感をアピールし続けてきたといえる。本シリーズおよび派生作品としてはこれまで,

の5作品が発売されている。なお,制作/発売元は異なるものの,本シリーズのグラフィックスエンジンをライセンスして作られた作品として,

の2作がある。

 「コサックスII〜皇帝ナポレオン〜」は,そんなコサックスシリーズの最新作。前作よりやや下った時代,18世紀末〜19世紀初頭の「ナポレオン戦争」をモチーフとする本作では,1マップに登場させられる最大ユニット数がなんと6万4000と大幅に引き上げられた。
 ゲーム全体の外観はこれまでのシリーズ作品と似た部分が多い。小さなユニットが多数集まってわらわらと動くさま,2Dベースの精緻なグラフィックス,歩兵/騎兵/砲兵の3兵科を軸にした戦闘など,シリーズ従来作品をプレイしたことのあるプレイヤーにはおなじみの雰囲気だ。
 ところが実際にプレイしてみると,意外なことに前作までの特徴をばっさりとカットし,新要素を数多く加えることで,まったく新しいゲームとなっている。従来作品と適宜見比べながら,本作の特徴を解説していこう。

 

通常のプレイではさすがに6万4000ユニットは登場しないが,それでも優に1万は超える ナポレオン時代の戦術をフィーチャーし,陣形を組んだ部隊同士の攻防を精緻に描いている 歩兵・騎兵・砲兵をうまく組み合わせるのがカギ。どれか一つでもおろそかにすると勝利はおぼつかない

 

歴史上の戦いの前などには,実写の再現ムービーがカットシーンとして挿入される。うーん,すごい衣装だ 建物の位置や角度を中心に見比べてほしいのだが,2枚の画面で微妙に視点が違うのが分かるだろうか。本当に微妙な違いだが,プレイ時の視点としてはこの2種類をサポートする

 

 

■大幅に簡略化された内政と,劇的な射撃戦闘のルール


チマチマした表示ながらも,都市には民間人が暮らし,木は風にそよぎ,水面には雲が映る。アニメーションの美しさはなかなかのものだ
 本作には「キャンペーン」「ヨーロッパの戦い」「クイックバトル」「歴史上の戦い」という,四つのゲームモードがある。まず「キャンペーン」は,史実をベースにしたストーリーに従ってミッションをこなしながらプレイを進めるオーソドックスなモード。チュートリアルミッションが2本と,イギリスの内乱をテーマにしたミッションが6本ある。
「ヨーロッパの戦い」はヨーロッパ全体のマップを使って,軍隊の移動や外交を行う戦略モードと,実際の戦闘を行う戦術パートに分かれており,両者を通してヨーロッパの征服を目指す。「トータルウォー」シリーズなどでおなじみの形である。
 「クイックバトル」はいわゆるスカーミッシュモードで,国とマップを選んでAIと対戦する。「歴史上の戦い」はアウステルリッツ,ヴァグラムなど史実の会戦を再現したモードである。
 このうち「内政」が存在するのはキャンペーンの一部とクイックバトルのみ。「ヨーロッパの戦い」と「歴史上の戦い」は戦闘に特化したゲームモードになっている。また,「クイックバトル」と「歴史上の戦い」はマルチプレイ対応になっている。

 本作の内政における新機軸は,資源採集が自動化されたことにある。資源の種類は従来どおり,木,食料,石,金,鉄,石炭の6種類。このうち木と石は町の住民に集めさせる形だが,それ以外の食料・金・鉄・石炭に関しては,マップ上に点在する「村」を占領することで手に入れる。生産施設を備えた村の住民が資源を生産し,その資源を積んだ荷駄が町の公会堂へと到着することで,資源が増えていく。つまりプレイヤーは,施設のある村を占領/維持し,村の規模を順次アップグレードしていくだけでよいのだ。
 このシステムによって内政は大幅に簡略化されたが,村と町の公会堂の間を荷駄が往復するのが大きなポイント。その間の交通路の掌握が必要という,新しい戦略概念が取り入れられたのだ。それぞれの村では1種類の資源しか生産できないので,すべてのルートを維持するのはなかなかたいへんだ。
 また,村が「奪取」できる存在なのもポイントだ。プレイヤーが占領している村はプレイヤー自身が資源を費やすことでアップグレードできるが,敵に占領されると,今度は敵のために資源を生産し始める。村が破壊されることはないのだ。ナポレオン戦争モチーフとしては微妙なところだが,内政の拡大に資源をあまり必要とせず,戦闘の勝利がそのまま内政の拡大に直結するのは大胆な発想だ。
 このように簡略化された内政だが,資源確保の重要性そのものが薄まったわけではなく,戦闘部分とより直接リンクする形になった。よく練られたシステムとして高く評価したい。

 さて,戦闘部分でポイントとなるのは,陣形の運用である。従来作品でも陣形は存在したが,それはユニットに能力ボーナスを与えたり士気を高めたりといったもので,ばらばらのまま使うのと実際にはそれほど違いがなかった。これに対して本作の陣形は完全に必須要素となり,整然とした隊形を保つことが勝利に欠かせない条件となっている。
 カギを握るのは「一斉射撃」ルールである。本作では,銃兵がタイミングを合わせて敵に射撃を浴びせることで,大幅な士気低下をもたらすことができる。そして,士気が一定以下になった敵は潰走を始める。その効果は絶大である。
 本作のキモは「いかにして整然とした陣形のラインを作り,最高の位置取りとタイミングで敵に一斉射撃を浴びせるか」にあると筆者は思う。そのためにシングルプレイにおいてもマルチプレイにおいても,有利な位置とタイミングを計るために,ちょっとずつ移動しながらのにらみ合いが長く続く。そして勝負のときと判断したら一斉にぶっ放すのだ。決着はほぼ一瞬,この緊張感がたまらない。
 シングルプレイのAIもなかなか狡猾で,こちらが有利とみるや一旦退くし,側面を取ったりリロード中を狙ったりと,うまく射撃のタイミングを計ってくる。

 

キャンペーンは,物語仕立てで進んでいく古典的なタイプ。プレイの練習的な意味合いが強い これは鉄を産出する村。このような村がマップ上に散在していて,それを占領することで資源を獲得できる 村で産出された資源は荷駄に載せられて町の公会堂へと運ばれる。輸送路の安全確保に注意しよう

 

銃撃の効力範囲を示す表示が用意されている。赤のゾーンで撃てば必殺だし,緑のゾーンだと効果は薄い 横隊陣形の場合は,前列・中列・後列で3段撃ちができる。だが基本的には一斉に撃ったほうがよいようだ 陣形の上にある赤と黄色のバーが士気の高さを示す。黄色の部分がゼロになると陣形は壊滅する

 

 

■前作とまったく異なるオリジナリティの高いプレイ感覚


ワーテルローなど,ナポレオン戦争に欠かせないいくつかの大会戦が登場していない。それらはアドオンに持ち越しということだろうか?
 本作の一番のネックというか,ゲームの幅を狭めてしまっているのが,1対1の戦いしかできないことである。例えばシングルプレイなら,自分対AIのみであって,3勢力以上を使ったプレイはできない。マルチプレイも歴史上の戦いもやはり1対1のみだ。クイックバトルのみ例外で,これはCo-op(対AIの協力戦闘)という形をとって,一つの勢力を人間プレイヤー同士で分けてプレイできる。
 まあもっとも,本作はグラフィックスのディテールにとことんこだわっているので,3勢力以上で戦うと敵味方の区別が付きづらいとは思う。ユニフォームのデザインと色使いへの職人的なこだわりは個人的に高く評価したいところではあるのだが。
 いずれにしても2対2や3対3などで対戦できないという仕様が,RTSとしての可能性を狭めてしまっているのは確かだ。

 全般的なプレイバランスは,よく取れているほうだと思う。ユニットの個性は強すぎず弱すぎず,それぞれに生かし方があるし,勢力間の強弱も許容範囲内にある。ただ,1ゲームあたりの時間が長くなりがちな点は,やや問題かもしれない。原因はいろいろあるが,ユニットの疲労回復や欠けた人員の回復に時間がかかること,ユニットの動きが遅く,進行速度の調整ができないこと,大砲が扱いづらいことなどが挙げられる。じっくりやるゲームとして見れば決して悪くないのだが,ほかのRTSと比較すると,やはりテンポが遅く感じてしまう。
 とくに従来作品のファンは,適度な我慢と"待ち"を要求する,まったく新しいゲームとして捉え直す必要がある。銃は一発撃ったらリロードに30秒くらいかかるし,やみくもに突撃すると敵の一斉射撃をくらって,あっという間に返り討ち。かといって遠くから射撃してもダメージを与えられない。じっくりと"溜め"て勝機をうかがう必要がある。このプレイ感覚には独特のものがあり,飲み込めると俄然面白くなってくる。
 ハードコアな内容ながら,操作はいたってシンプル。内政は簡単だし,戦闘はユニットを陣形にまとめて移動させ,射撃させるか,直接銃剣で攻撃させるかの指示を適宜与えるだけ。その意味でとっつきやすいゲームではあるので,ストラテジーゲームファンにはぜひ一度挑戦して,独特の"間"を感じてみてほしい。
 なお当サイトの「こちら」には,日本語デモ版もある。行軍と戦闘のリズムに,大きな影響を与える陣形ルールの雰囲気を掴むには十分な内容なので,まずはこちらを試してみるのがよいだろう。

 

マルチプレイの公式サーバー。このように,ヨーロッパの領土を奪いあうゲームモードもある 従来作品にあったランダムマップはなくなり,既製のマップを選んでプレイする形式になった 本作で重要かつ面白いのは射撃タイミング。うまく相手の陣形を崩せたときの快感は,なんともいえない

 

「ヨーロッパの戦い」モードからのショット。各マップには異なるイベントが散りばめられていて,プレイヤーを飽きさせない。部隊の育成要素も楽しく,本作の面白さが凝縮されたゲームモードとしてお勧めだ

 

タイトル Best Selection of GAMES コサックスII〜皇帝ナポレオン〜
開発元 GSC Game World 発売元 ズー
発売日 2006/10/13 価格 3990円(税込)
 
動作環境 N/A

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