― レビュー ―
横須賀沖からニューヨークへ。原作のヤマ場が楽しめる潜水艦シム
沈黙の艦隊2
Text by Murayama
2005年10月18日

 

■「沈黙の艦隊」の続編,5年ぶりに登場

 

前作から5年ぶりに登場した「沈黙の艦隊2」。今回は原作の97話から,物語のクライマックス部分を描いている

 10月14日に発売された,システムソフト・アルファーの潜水艦シム「沈黙の艦隊2」のレビューをお届けする。ご存じの読者も多いことと思うが,漫画「沈黙の艦隊」は1988年〜1996年に週刊「モーニング」(講談社刊)に連載されて大ヒットした,かわぐちかいじ氏の仮想戦記作品だ。単行本は全32巻,その累計発行部数は2500万部以上にも及ぶ。OVAがリリースされただけではなく,ファンの要望で愛蔵版コミックスも発売された超ロングセラーである。
 あらすじはおおむね以下のとおり。海上自衛隊のディーゼル潜水艦「やまなみ」が,あるとき事故で全壊し,艦長の海江田四郎以下,全乗組員が事故死との報が入った。しかしこれは偽装工作で,乗組員達はアメリカで秘密裡に建造された日本初の最新原子力潜水艦「シーバット」の乗組員となっていたのだ。そして,テストを兼ねたシーバットの処女航海日に,海江田艦長はシーバットを「やまと」と命名して叛乱,この潜水艦を1個の国家として独立宣言する。そして,国際社会を相手に世界政府の樹立や核廃絶など,現代社会の安全保障をめぐる重大な命題を突きつける……。

 

 沈黙の艦隊2は,原作における第97話から始まり,ニューヨーク(国連本部の所在地)を目指すやまとの航海を追う形でステージが展開する,キャンペーンタイプのゲームだ。プレイヤーは,やまとの艦長海江田四郎(ステージによってはディーゼル潜水艦「たつなみ」の深町艦長にも)となり,潜水艦による戦闘ミッションで構成されたステージをクリアし,ストーリーを進めていく。
 針路,速度に加えて潜航深度というファクターを持つ潜水艦戦らしく,海戦は3Dで処理される。また,重要なシーンでは漫画のカットを効果的に使うなど,原作ファンへのアピール要素もふんだんに盛り込まれている。
 ちなみに,前作「沈黙の艦隊」の登場は2000年5月12日。また,その廉価版は2004年10月1日に発売されており,こちらは現在も入手可能だろう。本作は約5年半ぶりに登場した続編ということになる。原作モノとして雰囲気がどう再現されているか,潜水艦シムとしてどうか,という2点を中心に,レビューしていこう。

 

オープニングのストーリー部分ではカットインなどの手法を使い,原作の緊迫感を伝えている。最近のデジタルコミックなどでよく見られる表現手法だ

 

 

■操作はややこなれていないが遊びやすい潜水艦シム

 

艦内で唯一,原作のキャラ達を感じられる場所である発令室

 ゲームはミッションブリーフィングと海戦シーンを交互に繰り返す形で進行し,ブリーフィングの前やゲームの要所では,原作のキャラクター達が登場するビジュアルシーンが展開される。
 メインとなる海戦シーンは,リアルタイムで進行していくため少々忙しい。敵と戦うには艦橋で指示を出すわけではなく,発令所,戦略図,3Dマップ,操舵室,魚雷室,ソナー室,艦長室を切り替えつつ,魚雷の装填やら操舵指示やら,ソナーを使った敵の確認やらをすべてを自分の手で行わなければならない。例えば敵艦への攻撃は,主に以下のような感じで行われる。

  • ソナー室でレーダーやソナーを駆使して敵を探す
  • 3Dマップで敵との位置関係を確認
  • 魚雷室で弾の種類と探索方法を選択して装填
  • 3Dマップでターゲットを指定して攻撃準備(ロックオン)
  • 3Dマップでターゲット済の魚雷を発射

 確かに手順は多いわけだが,潜水艦シムであることを考えれば,とくに複雑な部類でもない。ただし,例えばある操作をするために,いちいち該当セクションに画面を切り替えねばならない点は,少々洗練されていない印象を受けた。潜水艦シムでは通例,艦長が潜望鏡やソナーに集中したまま指示を出すさまを再現するために,潜望鏡画面から魚雷の調定操作ができたり,ソナー画面のまま圧縮空気残量を確認できたりする。このあたり,やや煩雑なのが気になる。
 発令所,戦略図,艦長室ではゲームの時間が進行しないようになっているほか,計器類はレバーを操作しなくても直接数値入力できるようになっている点などは,逆に通常の潜水艦シムにない工夫といえる。あからさまに初心者お断りな潜水艦シムが多いなか,こうした配慮は好印象だ。

 

7種の画面を切り替えつつ,やまとを考えどおりに動かす。左から戦略図,3Dマップ,操舵室の画面だ。潜水艦シムのコンソール表示は控えめなものが多いが,3Dマップの視点を変えつつ,自艦と敵艦の位置を確かめられるのは,なかなかカッコいい

 

同じく左から,魚雷室,ソナー室,艦長室。艦長室ではモーツァルトの曲を聴けるのが,いかにも「沈黙の艦隊」らしい味付けだ

 

 

■原作のカットを生かしたムービー表現

 

登場艦艇の諸元表もある。これはやまとのもの。シーバット級のうちの1艦であるとともに「独立国家」という種別が書かれているのがミソ

 原作つきの作品である以上,その魅力をどこまで表現できるかは重要なポイントである。前作「沈黙の艦隊」では原作の第1話から第96話までを描いたのに対し,今作では97話から最終目的地であるニューヨーク湾に到着するまでが扱われ,プレイヤーは全11本のシナリオからなるキャンペーンを攻略していく。
 原作がクライマックスに差し掛かる部分であり,ゲームの要所に挿入されているビジュアルシーンやムービーも,原作の雰囲気をよく伝えている。
 ビジュアルシーンは,テキストによる会話シーンとサウンドのみで進行するが,ムービーシーンは必見だ。着彩した原画を必要に応じて回転させたり,拡大/縮小表示したりしつつ,フェードインやフェードアウト,スクロールなど,アニメーション作品的な表現が併用されており,漫画ともOVAとも違う魅力を放っている。
 原作で鳥肌が立った人も多いといわれるのが,米軍の集中攻撃を回避するために,急浮上と爆発を組み合わせた荒技で「やまと」が飛ぶシーンだ。このシーンもきっちり収録されている。どう考えても現実としてはありえないのだが,海江田四郎なら……と思ってしまうから不思議だ。

 

 ゲーム冒頭にはこれまでのあらすじがビジュアルシーンとして挿入され,ストーリーが復習できるようになっている。ただし,このビジュアルシーンはスキップできず,シーンを進めるためにはマウスボタン(スペースキーなら若干ながら手早く進められる)を何度も押さなければならないため,少々疲れてしまった。
 重箱の隅をつつくようで申し訳ないが,ゲーム起動からミッションブリーフィングが始まるまでのマウスクリック数を数えてみたところ,その回数は190回に及んだ。ボリューム満点ともいえるが,もうちょっと見せ方に工夫があってもよいと思う。

 

 本作は全体として,海戦シーンではシミュレーション性を,ビジュアルシーンとミッション内容で原作の持つ魅力の再現を目指した作りになっている。とはいえメインターゲットはおそらく原作のファンを中心としているはずであり,そうしたプレイヤーが魚雷の装填やソナーの操作そのものを喜ぶかどうか,やや疑問に思う。というのも,原作の魅力は海江田四郎の卓越した指揮手腕やキャラクター性にあるからだ。
 海江田四郎その人となって,ソナー員や魚雷室に"指示"を出し,敵の発見や魚雷の装填完了などについては部下の"報告"を聞く形のほうが,あるいは自然なのかもしれない。
 まあ筆者自身が原作のファンだけに,極論に走ったきらいもあるが,例えば海戦の最中に,魚雷室に行ってもソナー室に行っても,無機質な計器しかないのは少々残念なところだ。艦内でも,例えばクルーとのやりとりなど,"原作を感じさせる何か"が欲しかったというのが素直な感想である。

 

ゲームでは要所要所に会話シーンが挿入される。クリックが多いのが難点だが,潜水艦用語も多数出てくるので,マニアには嬉しいかも

 

ムービーシーンの出来はすばらしい。素材が少ない中で,よくぞここまで作ったという感じだ。これは原作の名場面の一つ「やまと」の飛行シーン。ちなみに一部,3DCGによるムービーもある

 

 

■敵潜水艦との駆け引きを,手軽に楽しめる

 

キャンペーンをクリアすると,攻略したステージはあとで再挑戦できる。より高い難度設定で再度チャレンジしよう

 さて,潜水艦シムとして魅力を,もう少し深く見ていこう。潜水艦の攻撃方法といえば魚雷だが,使用できるのはMK-46魚雷,MK-48魚雷,ハープーン,トマホーク,デコイ,ビンガーの6種類で,一発ごとに弾頭(通常/核),誘導(ACTIVE/PASSIVE/W-LINE),探索(右旋回/左旋回/蛇行/沈降旋回)などが選択可能だ。これらを組み合わせて,敵潜水艦などに対する有効な攻撃方法を選ぶ。
 あまり潜水艦に詳しくない人から見ると,魚雷に誘導能力があるなら発射して終わりでしょ? と思うかもしれないが,実は潜水艦の戦いは奥が深い。フライトシムなどでは敵に回避された時点で,誘導ミサイルの役目は事実上終了となるが,魚雷の場合そうではないのだ。
 先ほど,魚雷装填時に探索という項目があると述べたが,これは魚雷が目標を見失ったときに取る行動で,その行動中に敵を見つければ再度追尾してくれる。現代戦における魚雷とは,かわされた後の展開をも想定したうえで発射すべき兵器なのである。
 これを考えるか考えないかで,戦闘の様相は大きく変わる。例えば体験版でも楽しめるVOYAGE 2-01「横須賀沖海戦」では,やまとを収容したドック艦「サザンクロス」目がけて,敵の「ハンプトン」「トレド」「サンタフェ」「ハート・フォード」といった潜水艦が群がってくるが,敵はこちら(たつなみ)の魚雷をかわした後でも,あくまでサザンクロスもしくはこちらに向かって進んでくることが多い。魚雷に,それを踏まえた設定をすれば,一度かわされても再度命中させられる。
 もちろん最初から直撃させるに越したことはないが,一度かわされた後に命中させたときに喜びを感じるようになったら,あなたも立派な沈黙の艦隊フリークだ。

 

 なお防御時にはノイズメーカー(ノイズ発生装置。音響ホーミング魚雷に対するデコイ)や,マスカー(気泡を発生させて潜水艦のスクリュー音などを抑える),ポリマー(高分子剤を使って潜水艦の水流抵抗を減らす)などを駆使して魚雷を回避することになる。前述したように魚雷は一度かわしたくらいでは油断できないので,刻々と迫る雷跡を見つつ,完全に回避できたときには一つの達成感がある。原作でも魚雷の着弾を避けるシーンなどには興奮させられたが,本作でもそれは同様だ。
 やり込み要素としては,初級/中級/上級という3種類の難易度設定があるほか,キャンペーンで攻略したステージは,後で個別に攻略することも可能だ。難易度の違いは残弾数の違いのみだが,原作でも後半は残弾がジリ貧になるシーンがあったので,より原作に近い状況で遊びたい人は上級を選ぶのがよいだろう。

 

 初心者でも手軽に遊べ,ストーリー性を兼ね備えた潜水艦シムとして,本作は及第点をクリアしていると思う。だが,ストーリー性とシミュレーション性の両方で考えたときに一つだけ残念に思う点がある。それはシナリオの展開だ。本作は原作のストーリーをなぞるだけなので,ゲームとして見ると少々物足りない部分がある。敵を狙う順番くらいは変えられるが,シナリオ展開そのものは,ファンなら先刻ご承知の路線を進むしかない。
 ちなみに前作のキャンペーンはマルチストーリーになっており,原作にない展開が楽しめた。今回それがなくなってしまったのは実に残念だ。原作のスケールが大きいだけに,自分が海江田四郎なら,あそこは違う方法をとったのに……という,"沈黙の艦隊if"を楽しみたい人も多いはずである。また,原作やOVAで語られなかったサブストーリーを描き,原作の世界観を肉付けすることで,沈黙の艦隊ワールドの一翼を担ってほしかったところだ。
 とまあ,いろいろ注文の多い原稿になってしまったが,海江田や深町が展開する,ときに神業のような戦闘を手軽に再現するというゲームデザイン上の目標は達成されている。ゲームという形で,原作の息詰まる展開をもう一度楽しめる部分に,大いなる価値がある作品といえよう。

 

ミッションブリーフィング。模擬弾で攻撃するなど沈黙の艦隊らしいミッションも 北極海のステージでは,原作にも出てきた"氷の壁"を考慮した操舵技術が問われる こちらも操舵技術が問われるが,外れて旋回を続ける魚雷に敵を引き込むのも一つの手

 

同じ魚雷でも設定によって別の用途に使える。旋回設定は意図的に"設置"する罠としてなかなか有効だ 魚雷発射。この画面には魚雷ごとの設定表示がほしかった。一発一発を詰め将棋のように使いたいところ 右上で点灯しているのがノイズメーカー使用中の合図。これを使えば,比較的簡単に魚雷を回避できる

 

 

タイトル 沈黙の艦隊2
開発元 N/A 発売元 システムソフト・アルファー
発売日 2005/10/14 価格 1万290円(税込)
 
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,Pentium III/500MHz以上(Pentium III/1GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(512MB以上推奨),HDD空き容量 800MB以上,ビデオメモリ 32MB以上,800×600ドット・32ビットTrue Color以上のカラー表示が可能な環境,DirectX9.0以降

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