松本隆一




これがマツモトの家。コロニアル風の2階建てで,やがてここがマツモトの愛の巣になるのである,と思う
 私は今年45歳で独身で,これといった仕事もないが,今さらどうにもならないので,たぶんずっとこのままである。そんな私に編集部が勧めてくれたのが,この「ザ・シムズ2」(以下シム2)だ。日本語版は9月16日に発売される予定である。担当者によると,「松本さんでも,これでなら結婚できるかもしれませんよ」。なに! なんだと! 素晴らしいではないか! これはぜひやらなきゃだわ。
 なにしろ,4年前に登場した前作「シムピープル」(原題「The Sims」)は「世界で一番売れたゲームソフト」としてギネスブックにも載っているらしいし(また聞き),データセットなども数多く発売された文字通りのメジャータイトル。その続編なのだから,世界中の期待が集まっているわけ。それになにより,今度のシム人は,生まれ,育ち,結婚し,子供を育て,死んでいくという,まさに人生シミュレーションになっているというではないか。実生活では,妻も子もろくな恋愛経験もなく,もちろん子育てだってしたことなく,ある意味,ゲーム好きの中高生とほとんど変わらない人生経験しか持たない私だが,シム2でなら,大人の男としての人生を歩めるかもしれない。なんて言ってる自分が結構悲しいが,なんて素敵なのであろうか。
 というわけで,しばらくこのシム2を肴に連載をさせていただくことになった。諸君も期待して大丈夫である。任せて安心。大人だし。

アメリカ郊外,どこにでもありそうな町,ベロナービル。だがそこにはさまざまな人間模様がある。まさに人間交差点 ここが主人公,マツモト(ゲーム中は英文字)の住む家。「恋愛不満者」とあっさり片付けられているのが悲しい 彼の生活にズーム,イン! でも「一家」ってあるのに,一人しかいない。ホントに増えてくれるのかよ,おい?



陽気に手なんか叩いちゃっているが,新しい町は知り合いもいなく,不安がいっぱい。なんか,他人事じゃないような
 今回は,シム人の住む町があらかじめ三つ用意されていて,そこの住人としてスタートできる。それぞれの町にはそれなりの過去と,現在の状況があるのだが,いずれも「……とはなんなのか」とか「……は真実なのか」とか,妙に謎めいた説明で,なんだかどれもアメリカの昼時にやっているソープオペラ(昼メロ)みたい。こないだ見たソープオペラは「お腹の子供の父親は誰か?」という話だったが,片っぽ黒人なので,産まれりゃ分かるんでないかい?
 ……えー,閑話休題。またそれ以外にも,一から町を作れるモードもあり,この場合はテンプレートから好みの地形を選び,そこを整地したり区画整理したり木を生やしたりいろんな家族を住わせたり過去の物語を作ったりして,好みの「ご近所」を作ることができる。なんとなく,Maxis社のもう一本のメジャータイトル「シムシティ」を思わせないこともない。やがて,「シムシティ」と「ザ・シムズ」は一つになるのかも。天才ウィル・ライトだからなあ。やりかねない。

 さて,どうしたものか? と私は考える。理想を言えば,一から町を作り,そこに女の子ばっかり住まわせ,私のキャラがあっちでイチャイチャ,こっちでベタベタというのがいいのだけど,それじゃもうゲームというより妄想であり,読んでいるほうもバカバカしくなるであろう。
 というわけで,今回は「シム人の作成画面」で作った私の分身を適当な町に住まわせ,そこで「幸せな家族」を作り上げることにした。エンピツを転がして選んだ町は「ベロナービル」であります。

と,思っていたら,突然,引っ越し祝いに近所の人達が駆け付けてくれた。「人情紙の如し」とはいうものの,アメリカ人,とくに田舎の人達は今でもかなり親切だ。いきなりいい感じになっている女の人もいて,前途洋々

名前も覚えていないハゲオヤジに目もくれず,女の子たちにひたすら話しかけるマツモト。そのせいか,オヤジは結構女の子と喧嘩して嫌われている。オヤジは悲しい。オヤジは頑固でモテない。あ,なんだか目から汁が……



 小太りでメガネをかけた東洋系の主人公,マツモトが引っ越してきたのはベロナービルの町外れにある2階建ての一軒屋だ。
 若者の分際でいきなり家を買っちゃうのはちょっと凄いが,一応,私の心の中では貸家ということになっている。彼の"願望"として設定したのは,もちろん"恋愛"である。いろんな女の子と,ゲーム中の表現である「ウフフなこと」をしたり,同棲したり,結婚することだ。しかし,なんちゅうか,世の中で比較的普通に起きていることが,なぜ私にとって生涯をかけたイベントになってしまっているのかたいそう気になるが,気にしないようにしよう。ゲームゲーム。

 家の中は,現在私がアメリカで住んでいるアパートのように(筆者はカリフォルニア在住なのである),やたらめったら広い割にはすっからかん。まずは家具を買い揃えなければならない。ベッド,トイレ,冷蔵庫,椅子など必要なものから買っていくのだが,これが結構楽しい。商品が多く,選ぶことそのものも楽しいし,今は安いので我慢しておくけど,いずれ商品リストの後ろのほうに載っているヤツを買ってやる,という若者らしい野心も感じられ心強いのである,って,オレがやってんだけど。
 あれやこれやしていると,いきなり引っ越し祝いに近所の人々がやってきた。おお,いいぞ。思った以上になめらかな展開である。しかも,女の子が3人もいるではないか。名前は順に(何の順?)サマードリーム・ティターニア,シムズビル,なぜか英字のままのParker Lyndsay,それにもう一人,頭の禿げたオヤジがいたが,名前は忘れてしまった。どうせオヤジに望むことはないので安心である。
 彼らは,なぜかいきなり私の家に上がり込んで,わいわいやっている。Lyndsayはまあ普通の女の子で,ビルは黒人の可愛い子,そしてティターニアはエキセントリックな化粧と衣装の変わった女性。禿げオヤジはおいといて,マツモトは当たるを幸い,次々に女の子にアタックを繰り広げてみるが,なにせ,やつらの話すシム語は,私が英語を聞くよりもまだ理解不能。話がどう展開しているのかさっぱり分からない。とにもかくにもコマンド「楽しませる」連打。「ジョーク」連打。連打連打連打。
 ところがマツモトのヤツ,私がちょっと目を離した隙にシャワーを浴びたりしているじゃん。なにやってんだよ。どうやら,今回のシム人は,前作に比べかなり自律的に活動できるようだ。何かの欲求があり,それを充足する手段があれば,さっさとやってしまうらしい。ねえ,風呂入ってないでお話しようよ。

みんな帰っちゃったけど,一人,シムズビルという名前の女の子だけはなかなか帰らない。これはもしかするともしかするぞ。うふふふ。というわけで,マツモトクドく。ひたすらクドく。トイレの中まで追いかけてクドく!



再び一人になり空腹を満たすためスナック菓子を食べまくるマツモト。にしても,なんにもない家だ。家具類を買うには金が必要であり,金を稼ぐためには仕事が必要だ。このあたり,筆者も身につまされるものがある
 女の子達は,適当にさっさと帰ってしまったが,一人シムズビルだけが残り,日が暮れ,なかなかいい感じになってきた。これは初日からウフフか? と,ところが,マツモトの体力が限界である。ゲージが残りわずか。これは日頃,不摂生だと,肝心要のところでバッタリいってしまうという貴重な人生訓なのかもしれない,などと感心している場合ではないが,惜しいところでシムズビルにもさよならを言い,ベッドに転がり込んだ。
 初日からこれなんだから,まあ,明日以降,いろいろあるさ,という感じで安心である。女の子達に電話をかけよう。パーティなんかもいいな。あ,電話買ってないや。ついでながら仕事も決まったし。いい町じゃんベロナービル。

 しかしところが……。と,ソープオペラみたく思わせぶりに,次回へと続くのである。



新聞で仕事を探し,軍隊で働くことにした。末は将軍で,自ら戦車にも乗っちゃう予定。でも今は夜勤からスタート 仕事中のシーンはなく,行きと帰りが表示されるだけ。おや,友達を連れて帰ってきたみたい。なんだ,男かい 連れてきたわりにはどうも話が合わず,ついには喧嘩して帰ってしまう。こんな変な顔のヤツ,どうでもいいや

さりげないマツモトの日常。一人で食事を作り,一人で食べ,一人で片付ける。趣味といったらPCゲーム。たまには,流し台で体を洗ったりして新鮮な気持ちに。これって,これって,これって誰かと同じじゃん!

■■松本隆一(ライター/学生)■■
45歳にもなって米国で学生生活を送る松本氏は,知る人ぞ知る,PCゲーム業界の"長老"の一人。男と女の間の事柄には人並みならぬ好奇心を持っているが,経験は男子中学生(黒縁メガネ)並みに浅く,せめてザ・シムズ2の世界では百戦錬磨で海千山千なオトナになりたいと願っている。なんていうか,がんばれ。


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