1869年4月3日,日本で初めて普通選挙が実施された……大徳川帝国の誕生である

 今回は日本語ローカライズも決まった「Victoria - Empire Under the Sun」(邦題:ヴィクトリア 太陽の沈まない帝国 完全日本語版。以下Victoria)を扱う。記事執筆時点では日本語β版も入手できていないため,英語版での解説となることをご了承願いたい。
 この作品,システムの分かりづらさでは「ヨーロッパ ユニバーサリスII 」(以下EU2)をしのぐ。Paradox Entertainmentの作品らしく「何をどうやったらいいか分からない」のが問題なのだが,筆者の見るところ,多くのプレイヤーがつまずくポイントは同一であるようだ。そこさえクリアできれば,実は奇妙キテレツな展開が魅力(?)の架空歴史ゲームたる本領を発揮する。
 今回はそのつまずきの克服方法と,Victoriaの奇妙キテレツっぷりを解説していこう。

 Victoriaはとにかくデータが細かいゲームで,「人口」統計だけで階層別に10種類,輸出入商品は46種類,工場が28種類,軍事ユニットも16種類ある。さらに,選挙制度や政党の規制といった政治体制,最低賃金保証や最長労働時間規制といった社会保障,自由放任から計画経済までメニューも豊かな経済政策,宗教政策に少数民族政策,社会における各種思想の普及度合いのグラフと,見ているだけでお腹いっぱいである。
 初回のプレイで普通に進めていくと,だいたい1か月弱で政府の財政が破綻する。原因など見当もつかないのが普通なので,めげてはいけない。

 掴んでみれば至極単純なのだが,このゲームの核はお金である。お金さえあれば産業の発展も軍隊の維持/拡充も,植民地経営も,政体の向上も,社会保障の充実も思うがままだ。要素が多いため幻惑されやすいが,最初はPrestige(威信=勝利ポイント)や外交など棚上げして国庫を富ます方法を確立すべきであり,その後も安定して稼ぎ続けるのが課題になる。お金のために支配地域を増やし,お金のために戦争する……これはこのゲームの(そして世界の)偽らざる一面である。

貿易管理ウインドウを開いたところ。この商品群をコンピュータ任せにせず自分で管理することが,本作を遊ぶ第一歩となる。見ただけで厳しさが漂う  文化の発展はこの画面から行う。文化以外に陸軍・海軍・経済・工業などの分野があり,それぞれの分野ごとに発展させるべき課題が並んでいる プレイが進行してくると,人口に占める各種の主義主張の割合が重要度を増す。直接手を出すことはできないが,放置しておくと大反乱の原因に

 とはいえ,どうしても国庫が黒字にならない人は多いと思う。このゲームでは貿易で稼がないことには話が始まらないのだが,ここでEU2のプレイ経験が裏目に出る。少なからぬプレイヤーが,EU2における「商人の自動派遣」のノリで「Let computer handle trade」(コンピュータに貿易を管理させる)をクリックしたと思う。実はこれが間違いだ。
 まずゲームをpauseして,Budgetのところに注目。歳入が30で支出が67なら一日37ポンドの赤字。国家予算3241ポンドは100日以内に消える

 コンピュータは単純に自国の生産ラインに必要なものを優先して輸入/輸出するクセがあるが,市場には常に全てのモノがあふれているとは限らない。例えば序盤の高額生産物であるClipper Convoy(クリッパー船)には,Fabric(布)とLumber(木材)が必要だが,十分なFabricが存在しないのにLumberだけを買い付け続けたりするのだ。
 さしあたり,自国産品(*が付く)を全て輸出するよう設定し,buy(輸入)品目は買い付けの最高個数を1にしよう。それから自国内の工場を検分し,自国で生産できない原料が必要なら,そのぶんだけ輸入するように設定する。また国産品を材料とする工場があったら,その材料は20個前後のストックを確保するように設定しておくといい。
 資材不足でラインが止まっている工場があって,資材を余分に買うよう指示してもうまく動かないようなら,閉鎖してしまうのも手だ。とにかくムダな輸入をせず,重要な産物の管理をコンピュータに任せにしないのが重要である。

 国が小さいうちはBudget Overview(予算概要)の中から,Crime Fighting(犯罪予防)の予算は削減してもいい。犯罪発生率や官僚の腐敗への対策は,国家経済が安定してからでも遅くはない。また,戦争するなんて無理な状態と見切ったなら,軍事予算も同様だ。とにかく最初はBudget OverviewのDaily Balance(日次収支)を,全力でプラスにしよう。経済さえ回れば,このゲームは割と無茶し放題だったりする。普通選挙制の導入だろうが,政党結社の自由だろうが全て金次第で,歴史を自由に塗り替えていける度合いは,実のところEU2よりもはるかに高い。以下,実践してみた無茶なプレイを紹介しよう。

Budget Overview。確かに−36.8だ。税率を上げ,関税を高くすることで歳入を増やせるが,軍事費や治安維持経費の削減も大切 教育と治安維持の予算をゼロ,軍事予算を半減させると,一日あたり10ポンドの黒字。まずはこの状態を作ることが重要 ゲーム開始直後の貿易体制。最適化されていると思いきや,簡単に赤字になる。国内の生産ラインの見直しから着手したい


明治維新イベント。膨大な数の技術が無償で日本にもたらされる。反乱も発生するが,日本の歴史が一瞬で200年は進むといえよう
 大英帝国の反映を支えた植民地の筆頭はインドだ。覇権争いに乗り出すならインドを奪うことは魅力的で,その偉業に最も向いた国は……恐ろしいことに日本らしい。
 一番長いシナリオの開始は1836年,日本はまだ江戸時代だが,1848年にはオランダから「開国」のオファーが来,承諾するといくつかの技術基盤がもらえるうえに,オランダとの軍事同盟を締結できる。20年早い日本の国際デビューである。
 そんな暴挙に出れば,国内では反乱が頻発するが,それを耐えしのげば晴れて徳川日本は近代国家への第一歩を踏み出す。ちなみにこの段階ではまだ日本はUncivilized,つまり非文明国扱いである。
 オランダから得た技術で工場が建てれるようになった今,オイシイのは南進策だ。国内にいる優秀な職人達にFurniture(家具)を作らせ,パプア・ニューギニア方面からToropical Wood(南洋材。恐らく紫檀など)を持ち込むと,Luxury Furniture(高級家具)が製造できるようになる。これがシノワズムの気風に乗ってか爆発的に売れるので,財政はかなり潤う。得た金で武器を購入するもよし,産業基盤の整備に当てるもよしだ。

 日本にはやがて「明治維新」イベントが起こる。またも反乱が巻き起こるのだが,同時に大量の技術が移入されるうえ,イベント発生とともに日本はCivilized(文明国)化,つまり食われる側から食う側への転身を遂げる。
 国内が安定したところで,徳川幕府軍(政体が維持できれば徳川幕府は続く)を東南アジアへ。ベトナム・カンボジア・ビルマ・タイを席巻し,現地を近代化する。列強との対立も生じるが,オランダの仲介で開国した場合,フランスとは良好な外交関係にある場合が多く,フランスは東南アジアでは強いので,同盟を組んで現地勢力を駆逐すれば,意外に軍事力は消耗しない。
 初めのうちこそ住民反乱も起こるが,鉄道を引き,産業を確立し,働き口と豊かな生活を保障すればやむ。民族自決も共産革命も,カウチとポテトで対処可能だ。

 こうして東南アジアにいくつも工場を建て,第一次産業の基盤を確立したら,いよいよインド攻略である。本国からの輸送またはアフリカから兵員転用に頼らざるを得ないイギリスと異なり,日本は東南アジアを第二の拠点として使える。長く厳しいが,勝てない戦いではない。
 インドを制圧できれば,日本はほぼ間違いなく世界有数の大国になる。その後は朝鮮半島に進んでもいいし,ロシアと同盟して清に宣戦布告,満鉄ならぬ清鉄をひいて巨万の富を吸い上げる夢を見るのもいいだろう。パックス・ブリタニカ期を扱ったゲームでは,日本の軍事力を過大評価する傾向が強いものだが,ここまで堂々とイギリスを脅かせる例はさすがに少ないだろう。

オランダからの開国の示唆。これを受けると各種技術が供与される。これも海外ユーザーから「ずるい」といわれるイベント その代わり,オランダの圧力で開国しやがって!という世論になるのか,こんな感じで大反乱が生じる。まあ,普通は耐えられません 耐えられなかった場合,徳川政権は崩壊して民主政体の日本が誕生。誰が統治者なのか不明な不思議歴史が展開されていく


 日本がイギリスに対して限定的な勝利を収められるなら,もう少し条件の悪い国でも,どうにかなるかもしれない。そこでエチオピア王朝を選んでみる。
 さて,エチオピアは何をすれば「イギリスに勝った!」ことになるか? すでに動機から誤っている気もするが,とりあえずアフリカからイギリスを追い出すことにしよう。
 対イギリス戦の驚くべき第一歩は,軍隊を解体することだ。エチオピアの軍隊では剣が最強の攻撃兵器,盾が最強の防御兵器,マスケット銃で武装した欧州の正規兵とは勝負にならないので維持費のムダである。軍事予算も全てゼロにして,健全な財政の構築に専念する。
 とはいえ近代化を進めるには,あらゆるものが足りない。日本がイベント1回で手に入れる技術を,エチオピアは一つ一つ研究しなくてはならず,明らかに不公平だ(と,実際に海外プレイヤーは嘆いているらしい)。だが方法はある。対イギリス戦の驚くべき第二段階は,領土をイギリスに売り渡すことだ。エチオピアはアフリカをめぐる列強の植民戦争で地政学的キーポイントになる土地をいくつか持っており,これと引き換えにイギリスから技術を買うのである。
 そしてひたすら経済発展に努める。金さえ稼げれば,内政の安定も軍事の充実も思うがまま……のはずなのだが,エチオピア近隣の産物では価値の高い製品がなかなか作れない。技術と引き換えに領土を手放したことで国民も減っており,税収は減少するわ十分な労働者がいないわで大変だ。それでも20世紀初頭には,どうにか軍隊が組織できる。軍事技術は19世紀で止まっているが。

 あとはタイミングだ。イギリスがドイツ・フランスと戦争して消耗したスキを突き,イギリスに割譲した土地を奪回する。数千人の軍隊で攻め込んで,千人未満の守備隊を撃破するのに1年以上かかったりするが,要は忍耐である。この戦闘に勝利すれば,エチオピア王朝の歴史には「イギリスに勝利した」という記録が刻まれることにはなろう。
 だが真の地獄はここからで,イギリスの統治が長かった旧エチオピア人民に対して,Uncivilizedなエチオピア王朝が支配者面して戻ってきても,彼らはそれを拒絶し,反乱が相次ぐ。民族自決,いやイデオロギーはかくも儚いのである。

 これ以外にも,アメリカ南北戦争を1914年まで引きずり,南軍が協商側,北軍が同盟側に荷担して世界大戦を戦い抜き,南軍のセオドア・ルーズベルトがアメリカを統一するとか,マンハッタン・コミューンを拠点としてアメリカを共産化したりと,並の妄想力ではたどり着けない「歴史」を満喫できる柔軟性が,Victoria最大の魅力だ。
 次週が最終回となるが,そこでは「もっと柔軟だが,もっとどうにもならない」と一部で好評の最新作「Crusader Kings」を紹介しよう。

耐え難きを耐え,忍び難きを忍び,識字率33%以上に到達したエチオピア。でもゲーム上はUncivilized扱い…… ゲーム開始時のエチオピア。産業基盤は脆弱で,工場労働者は皆無,もちろん工場もなく技術レベルは最低。苦難の始まりだ Gondarに並ぶ四つの工場。addis abbebaと引き換えに獲得した自由貿易の技術が,いつかイギリスに牙を剥く……といいな

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
サブカル/芸術系の評論誌でも活躍する,いささかディレッタント(=ムダ知識大好き)なPCゲームライター兼翻訳ピンチヒッター。ボードのストラテジーゲームにも詳しく,コマが木製で,向きを変えることにより部隊の状態変化を表す"積み木のナポレオン"を,まるでスイスの知育玩具のように語るのは,身の周りではこのヒトくらいなもの。


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