バトルフィールド1942 シークレット・ウェポン

Text by 松本隆一
1st Oct. 2003

幻の兵器が仮想空間の戦場によみがえる

 「バトルフィールド1942 シークレット・ウェポン」(以下,SW)は,エレクトロニック・アーツの人気ゲーム「バトルフィールド1942」(以下,Bf1942:レビューは「こちら」)の追加データセットだ。
 いまさら説明するのも照れくさいが,Bf1942とは第二次世界大戦をテーマにしたFPSで,プレイヤーは連合軍,もしくは枢軸軍を選び,一つの歴史的に有名な戦場を舞台に,敵を殲滅したり陣地を奪い合ったりするゲームだ。シングルプレイにはキャンペーンモードもあるが,全体を通したストーリーや主人公のバックグラウンドなどはとくになく,メインとなるのはネットワークを介したマルチプレイだ。マルチプレイのムードはまさにサバイバルゲームそのもので,戦場が仮想空間なのをいいことに,空母だの戦艦だの戦闘機だの,普通のサバゲでは絶対に使用不可能な兵器がどんどん登場し,そのすべてに乗ったり使えたりするところが最大の魅力といっていいだろう。
 ゲーム発売後はGameSpy,GAMESPOTといった海外の主要なゲームサイト,あるいはPC GAMERなどのPCゲーム雑誌が主催するゲーム・オブ・ザ・イヤーのほとんどを独占し,2002年最大のヒット作の一つになった。
 とはいえ,EAのもう一つの人気大戦ものシリーズ「メダル オブ オナー」が,シングルプレイ重視のデザインであることを一つの理由として各種のゲーム機に移植され,現在一大ファミリーを築きつつあるのに比べ,マルチプレイ主体のBf1942は,今のところPCでの展開しかない。そのため,販売元のEAとしても開発元のDICEにしても,追加マップや追加データの制作に力を注いでいきたいのは間違いないところだ。

 これまで発売された追加データセットとしては,「バトルフィールド1942 ロード・トゥ・ローマ」(以下,RtR:レビューは「こちら」)があり,今回のSWで2本めということになる。RtRでは新軍隊としてイタリア軍と自由フランス軍を登場させ,新戦場としてイタリア戦線を,さらにイタリア軍や連合軍のあまりポピュラーでない兵器が使えるといった,かなりマニアックなデータ集になっていた。D-Dayを知っている人は多いだろうけど「アンツィオの戦い」と聞いて,ああ,あれね,と納得する人はそんなに多くないと思う。純粋なデータ集としては面白かったが,ファンには,ちょっとした物足りなさも残ったはずだ。
 元々Bf1942の魅力は「完璧な歴史考証に裏打ちされた戦場の完全再現」などではなく,面白ければそれでいいや的な破天荒さにあった。なにしろ,ただの兵士が空母や戦艦を動かして艦砲射撃をしたり,戦闘機や爆撃機に乗ったり,潜水艦を操ったりしてしまうのだ。しかも例え自分が倒されても,チケットと呼ばれる数字が残っていて自軍が健在である限り,何度でも戦闘に参加できるゲームシステムになっているなど,よく見りゃ本物の戦争とはまったく無関係。
 したがって,マニア向けのリアルさにこだわった感のあるRtRより,ウソみたいな幻の兵器を次々に登場させ,しかもあちこちに遊び心が感じられる今回のSWこそ,プレイヤーの待ち望んでいたものではないかと思うのだけど,どうでしょう?

オブジェクトモードでは,ドイツ軍の開発しつつあるUFO型試作機や,核開発に欠かせない重水工場の発電機などを破壊するのが任務。撮影用に作ったゲームなので,余計な表示が写っているが,お気になさらず

第2次世界大戦の秘密兵器が次々に登場

 今回のSWは,そのタイトル通り,開発はされたものの実戦に間に合わなかった兵器から,設計図が引かれただけのもの,さらには計画すらされてないものまで,いろいろな段階の秘密兵器が一挙に登場してきて,とりあえず派手さに関しては文句がない
 オートバイやゴムボートなど「なんでこれがシークレット・ウェポンかね?」というヤツも結構登場するが,それぞれに個性的な使用法も十分に考えられ,兵器使用のバラエティが増えたという点で単純に嬉しい。なかにはリサーチだって半端じゃなかっただろうと思わせるものもあり,そういう兵器を戦場で使えるというのは,ある意味,歴史の「もしも」を自分の手で試してみることにもなるわけだ。とはいえ,ゲームバランス上の調整で,こんなに強い(弱い)わけがないじゃん! となっている兵器も多く,何度もいうが,必要以上のリアリティを期待してはいけません。

 というわけで,以下,ゲームに登場する新兵器をちょっと解説しよう。

●新航空機
 ゴブリン,ナッターといった単座のジェット/ロケット機,AW-52,ホルテンといった非常に奇妙な形の全翼機が登場してくるが,いずれもこれまでのレシプロ機をしのぐ速度が魅力であると同時に,涙がちょちょ切れるほど操縦が困難
 キーボード or マウスでの操作はほぼ不可能で,4軸以上のジョイスティックが必須だろう。また,地味だが,空中の出撃地点として使えるC-47も登場している。ただ出撃場所として選び,スポーンしたとたん撃ち落とされ,おいおい,ってこともありました。

●地上兵器
 多連装ロケットを撃ちまくるシャーマン・カリオペや対空車両のフラックパンツァー,榴弾を撃つストームタイガー,やたらとでっかいT-28/T-95などが登場。なかでもシャーマン・カリオペは歴史的事実を痛快に度外視した攻撃力で,敵に回すと大変なやつに。元々戦車が弱め設定のゲームではあったが,妙に強力な地上兵器の大量投入で,ますます戦車の価値が下がってしまうような感じもする。

●その他
 ただの機銃搭載ゴムボート,特殊部隊輸送艇ではあるが,マルチプレイで意外な活躍をしそうな予感。シュビムワーゲンやLVT-4などは水上移動可能なところがポイント。2種類のバイクは防御力がほとんどないためスピードが命だ。

 さて,発売前から話題になっていたのが個人用の"ジェットパック"だ。
 "ロケット兵"などという兵科を選べ,映画「ロケッティア」のようにそんなロケット兵の大軍が炎の尾を引きながら次々に拠点に降下するんじゃないかなうーんカッコイイ,などという噂も飛び交ったが,ふたを開けてみれば,ジェットパックは兵科ではなく拾うもので,しかも拾ったと同時に装備が衛生兵になってしまうため,オープニングムービーのようなことさえできない。ゲームバランスを考慮した結果だろうが,ちょっと残念。
 とはいえ,パワードスーツよろしくピョンピョン飛び回るのは楽しく,他人が飛んでいる様子は思わず笑っちゃうのだが,いまのところ効果的な戦略というか使用法は見つかっていない。逃げる以外に,どうやって使うのが一番いいんでしょうかね。

 もう一つ,個人的に期待していたのがワッセルファル誘導地対空ミサイル。"ナイキ"といえば今じゃ運動靴だが,1960年代はソ連軍爆撃機から西側を守るミサイルの名前で,そのシステム全体の原形になったのがこのワッセルファルだ。レーダーとコンピュータを連動させた防空システムの元祖
 もし,ドイツ軍がもっと早く開発に成功し大量投入していたら歴史が変わっていたかも(勝てはしないけど),と個人的に思っている兵器の一つで,このような形で使えるとは思ってもいなかった。
 操縦に関しては航空機同様の難しさで,うまく当てるまでにはかなりの練習が必要で泣けてくる。まあ,当時のドイツ軍が原始的なレーダーとコンピュータでなんとかしていたのと比べれば楽だろうとは思うけど。もちっと簡単でも良かったんでないかい?

 全体として,飛行系に新味があり,地上兵器は使えるけどちょっと地味なムード。やはり派手さに関していえば,かん高い爆音とともに超高速で移動するジェット機に勝るものはないだろう。実際にプレイしていても,キーン,という爆音が聞こえてくると,つい空を見上げてしまう。きっと,ドイツ軍のジェット戦闘機Me262を初めて見た連合軍の兵士達と同じ気分なのだろうな,と思うと,感慨もひとしおである。

新兵器による戦闘シーンをいくつか。残念ながら,V2号を飛ばすことはできない。すぐにマップの外に出てっちゃうからね

新マップ,新武器,新部隊と,意外なほど盛り沢山な内容

 新兵器に加え,SWには八つの新マップが登場した。どのマップも,登場する新兵器にちなんだもので,クベリー飛行場やミモイエックなど,自称戦争おたくの私も資料をひっくり返して確認しなくちゃならないような珍しい場所が含まれ,この点のマニア度は高い。また,オリジナルのBf1942にくらべ,戦場の面積は広く地形も複雑,という印象もある
 水陸両用車やC-47が出ているせいだろうけど,敵味方が橋のない川や海峡で隔てられているといった状況が多く,そのため,シングルプレイの場合,かえって激戦地や主要地点がはっきりして遊びやすい。もちろん人間相手のマルチプレイの場合,相手も裏をかいてこようとするだろうからひと筋縄ではいかないはずだ。かなりクセのあるマップの多かったRtR同様,マルチプレイを前提としている雰囲気である。

 ちなみに描画エンジンはゲーム専用のオリジナルだそうで,Bf1942以外には使われていないのだが,個人的にはかなりいいと思う。近づくにつれ,途切れることなくだんだんとディテールのはっきりしてくる樹木など,ゲームの性質上,距離感の表現がかなり秀逸だ。いくつかのFPSにあるように,一定距離に近づいたとたんにLOD(レベル・オブ・ディテール)が利いて,オブジェクトが突如パッと表われるようなグラフィックスではまともに戦えないだろう。

 ところで今回マルチプレイに導入されたのが,オブジェクティブモードだ。これは,ゴシックラインとペーネミュンデ以外の全マップで楽しめるのだが,いままでのコンクエストやデスマッチと違い,ある特定の目標をどうにかすれば攻め手の勝ち。それらを守り抜けば防御側の勝ち,という具合。
 目標としては,発電所の破壊,試作機の破壊,金庫を破壊して秘密資料の奪取など,大抵はそれらのオブジェクトを破壊することになり,しかも大抵のオブジェクトは非常に硬くて手間がかかる。目標を破壊しない限り攻撃側のチケット(最初は2000ぐらいある。防御側は100ぐらい)はどんどん減っていき,当然ながら0になれば敗北だ。攻撃側は,敵の拠点を確保することでチケットの減りを遅らせることが出来,防御側は,オブジェクトが無事である限り,チケットがなくなることはない。要するに制限時間がついたようなもので,これは結構燃える
 すべてのマップで連合軍は攻撃を担当し,枢軸軍が防御側になる。そういえば,SWの新兵器の構成も連合軍側にアクティブな兵器が多く,ドイツ軍は防御向きの兵器が多いような気がするが,どうかしら? しかも,そのため今までは両方の戦闘力が不釣り合いにならないよう結構厳密に作られていた兵器バランスが,やや崩れたようだ。これまでなら,一方に多連装ロケットがあればもう一方にも何か多連装の兵器,という感じだったが,今回は,一方にしかないタイプの兵器もいくつかある。それだけに,今後のマルチプレイでは,ドイツ軍好きはドイツ軍ばっかり,連合軍好きは連合軍ばっかりに特化していくのではないかと思うが,だからどうしたと聞かれても困る。
 元々個人的には,ゲームバランスなんかいいじゃん派だったので,こういう変化は歓迎かな。核とかガスとか,必勝兵器が出ちゃ明らかにダメですけど。

 さらに,新武器として投げナイフやショットガン,新部隊としてイギリス特殊部隊,ドイツ軍精鋭部隊が登場するなど,データ集に求められるようなものは,そつなくフォローしており,価格なりのバリューは十分にある。

まだまだ終わることのなさそうなバトルフィールド1942の世界

 さて,今回の新兵器には海ものがまったくなく,その点は今後の展開に期待だ。超高速航空機が登場したわりにはマップの広さが不十分で,思いきり空中戦をやらかせないのも不満(まともに飛べてからいえ,という声もあるが)。ぜひ,ジェット機を使って南太平洋の空海戦をやってみたい。下が海なら相当広いマップだって作れるんじゃないだろうか。
 日本の空母を攻撃するゴブリン攻撃機,なんて相当マニアックで,しかもPCゲームならでは。やらずに死ねるか。できることならオリジナルやRtRのマップに新兵器を登場させたいところだが,こればかりはシステム上無理だろう。砂漠地帯でシャーマン・カリオペを思いきり撃ちまくってみたいが,そういったことも今後に期待だろう。
 いずれにしろ,シリーズファンなら,絶対に買って損はない。SW以後も,おそらくデータセットは次々に発売されるのは想像に難くないから,未体験の人は,今のうちにオリジナル版を買っておくと超ラッキーだ。EAからBf1942とRtRをセットにした「バトルフィールド1942特別編」もリリースされているので,まずそちらから試すのもありだろう。では諸君,戦場で相見えよう。あんまり撃たないでね。

今回の主な新兵器。オートバイなど,ごく普通のものから,まさに秘密兵器といった雰囲気の地対空誘導ミサイルなど,多士済々。細部のディテールもなかなか精密で,いずれも使いこなせばこなすほど強力な道具になってくれるはずだ

このページを印刷する

■発売元:エレクトロニック・アーツ
■価格:3980円
■問い合わせ先:エレクトロニック・アーツ TEL 03-5436-6400(土日祝休)
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/800MHz以上,メモリ256MB以上,空きHDD容量1.3GB以上,メモリ32MB以上搭載したDirectX 8.1以上に対応したビデオカード
■Screenshots集:第一弾「こちら」,第二弾「こちら」
ムービー(WMV:4分33秒:69.1MB)
体験版
forGamer内記事一覧

(C)2003 Digital Illusions CE AB. All rights reserved. Battlefield 1942 is a trademark of Digital Illusions CE AB. Electronic Arts, EA GAMES and the EA GAMES logo are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All other trademarks are the property of their respective owners. EA GAMES is an Electronic Arts brand.