[TGS2004#50]ガンホー・オンライン・エンタテインメントCEO森下一喜氏,スペシャルインタビュー
2004/09/26 07:31
ガンホー・オンライン・エンタテインメント代表取締役 森下一喜氏
 韓国産の大作MMORPG「Yogurting」の国内サービスやゲームアーツとの共同開発プロジェクト,そして自社独自開発となる新作の発表など,TGS2004では何かと大きな話題の多かったガンホー・オンライン・エンタテインメント。
 4Gamerでは,そのガンホーの代表取締役である森下一喜氏にインタビューを行い,
改めて同社の事業戦略やオンラインゲームビジネス,そして今後の展開についての話を聞いてみることにした。

■オンラインゲームビジネスの行方。まだまだ開発の余地のある収益モデル

4Gamer(以下,4G):
 今回は,改めて……という感はあるのですが,ガンホー・オンライン・エンタテインメントの事業戦略や今後の展開についてお聞きできればと思います。昨日の発表の件(「こちら」)もありますし,そのへんも含めた話ができればと。

森下一喜氏(以下,森下氏):
 分かりました。

4G:
 ではまず始めに,最近のガンホーの動きとしては,タイトルの多角化の流れが顕著ですよね。このあたりの戦略……というか意図はどういった部分にあるのでしょうか? 御社の主軸コンテンツであるラグナロクオンラインの次を考える,というのは当然あると思いますが。




森下氏:
 そうですね。オンラインゲームの多角化という部分でいえば,まず我々はラグナロクオンラインという大きなコンテンツを抱えており,収益もあげております。
 しかし,いわゆる大規模オンラインゲーム(MMO)だけがビジネスではないと思いますし,またビジネスとしてあの形がベストでないとも考えております。例えば3万人のオンラインゲームでも,良い形のビジネスモデルさえ作れれば,安定した収益を得ることができるかもしれませんよね。そういった今後の可能性を探るという意味合いがまず一点。
 次に,やはり一口にオンラインゲームのユーザーといっても,さまざまな人がいて,いろいろなニーズはありますから,趣旨の異なるゲームを揃えることで,そういったニーズに対応していくことも,今後の企業戦略として重要な部分かな,という感じですね。

4G:
 それは,ひいてはガンホーIDの利便性/汎用性を高めていくという意味ですか?

森下氏:
 もちろん,それもあります。

4G:
 先ほど"収益"という言葉を使いましたが,オンラインゲームの収益性について,正直なところどう思われます?

森下氏:
 んん……そうですね……。

4G:
 例えばほかの産業の例でいえば,映画なら10本の内2本,アニメなら10本の内で1本程度しか投資額を回収できない,という話がありますよね。その点を念頭においた上でオンラインゲーム市場を眺めてみると,オンラインゲームはさらに厳しい世界なのではないか,という気さえします。そこに来て,月額1500円という比較的安めの金額設定というか,収益構造の薄さというのは,ビジネスとしては難しいのではないか,と素人考えでは思ってしまうのですが。

森下氏:
 要するに本質的に1500円という金額が正しいのか?,という話になっちゃうと思うんですけれど(笑)ね。元々1500円という金額は,あのウルティマ オンラインの当時,事業展開のシミュレーションを行ってはじき出された"最低限の数値"だったりするんですよね。当時は,ユーザーさんにとってもオンラインゲームというもの自体がまったく得体の知れない代物だったと思いますし,なるべく安い金額に設定しなければならなかったという背景もあります。

4G:
 ふむふむ。

森下氏:
 ただ"当時の状況"で1500円という話ですから,現状の状態……つまり競争の激しさであったり,ライセンス料の高騰であったりという状況を考えると,今の状況(金額設定)は,オンラインゲームパブリッシャにとって厳しいのではないか,というのは正直な感想ですね。
 とはいえ,安易に価格を高くしてしまえば,ユーザーさんが離れてしまいますし,それに私は,今はまだ「市場を大きくする時期」だと思ってます。そういう意味では,よりユーザーさんが入りやすい金額,支払いやすい金額というのが大前提になると考えています。

写真左:日本国内ではガンホーがサービスすることになった「Yogurting」。デベロッパーとしても歩む始めるガンホーだが,今後もパブリッシング事業は継続して行っていくという。
写真中央:ラグナロクオンライン
写真右:ラグナロク ジ・アニメーション




4G:
 収益構造という話の関連になるのですが,ラグナロクオンラインというと,コミックやアニメも含めたキャラクタービジネスも特徴的なタイトルですよね。同作のキャラクタービジネスの収益の割合って,課金と比較してどの程度になるのでしょうか?

森下氏:
 全体的な収益の割合でいうと,やはり課金部分の売り上げの方が大きいですね。ボリュームとしては8:2とかそのくらいです。ただコミックにしてもグッズにしても,どちらかといえば,商品の告知(広告)をして売り切るというビジネスになりますから,発売時期はばーっと売り上げが上がったりだとか波はあります。

4G:
 なるほど。でもやはり,割合としては決して小さなものではないですね。キャラクタービジネスを含め,客単価を上げていく方向性は重要なファククターなのでしょうか?

森下氏:
 オンラインゲームのビジネスというのは,パッケージのゲームのように瞬間的に売れて売り上げがあがるようなものではなく,じわじわと収益を積み上げていくタイプになりますよね。つまり,一定までユーザーが増え続ければという前提はありますが,3年,5年という長いスパンで収益が積み重なっていって,最終的に大きな利益を見込める……という形がオンラインゲーム(MMORPG)のビジネスになるわけです。

4G:
 確かに,継続的なサービスとコミュニティケアがポイントかと思います。

森下氏:
 ええ。ただオンラインゲームの運営というのは,ユーザーが増えると共にランニングコストがどんどん膨らんでいくという特徴があります。ユーザーの増加に伴って投資をしていくのは良いとしても,いつかは「上昇」から「下降」に向かう時期は来るわけで,その時にどう対処していくか,あるいは投下してしまったリソースをどうするのかなどは,なかなかに悩ましい部分だといえます。オンラインゲームは将来の予測が難しいこともあり,このあたりは大きな悩みの種ですね。そういう意味では,収益構造を深化させて,課金部分のみに依存しないというのは非常に重要な要素だと考えています。

4G:
 まさに各運営会社の悩みどころですね。

森下氏:
 また先ほど言われたタイトルの多角化について補足させてもらうならば,あるゲームのユーザーが減って,結果的にそこのリソース(サーバーやGMなど)が余った場合は,ほかのタイトルにそのリソースを向けるなどという,ある種の"リスクヘッジ"的な意味合いもありますね。


写真左から「A3」「ポトリス2」


■ガンホーにとって,自社開発の意義とは?

4G:
 ちょっと話は変わるのですが,先日発表された新作についてお聞きしていいですか?

森下氏:
 もちろん。

4G:
 ガンホーはここ最近一気に社員数が増えていますけれども,その増えた人数の多くは開発系の人材だった,とかなのでしょうか?

森下氏:
 いえ,そういうワケではないですよ。現状は主にサービス/運営に関する人員が多い状態ですね。開発チーム自体は,まだ開発初期の段階にありますし,それほど大きくなってはいません。

4G:
 自社開発タイトルについての具体的なチームの体制はどうなっているのでしょうか?

森下氏:
 さすがにそのへんは,まだお答えできる段階ではないですね。ただ基本的には,コアな部分の設計は日本人の,というか日本人の発想と手法でもってやりたいと考えています。我々もオンラインゲームの運営を通じてノウハウを溜めてますし,世界にも通用するタイトルを開発できるという自信はありますよ。

4G:
 そもそも自社開発をする経緯というか,きっかけは何になるのでしょうか? やはり海外タイトルの限界を感じたのか,それとも海外で買ってこれるタイトルが減っているから,自社で作らなくてはいけなくなっているのか……。

森下氏:
 買ってこれるタイトルが減っているということはありませんよ。今でも売り込みは非常に激しいくらいです(笑)。我々が自社開発に取り組むのは,それが会社設立当初からの目標だったからということになります。確かに今まではパブリッシング事業を行ってまいりましたが,それは開発に掛かる期間の問題や,あるいはオンラインゲームに対するノウハウ自体を当時は持っていなかったためです。


写真左から「TANTRA」「サバイバルプロジェクト」「最遊記RELOAD GUNLOCK」


4G:
 でも事業的に見ると非常にリスキーですよね。勝算は?

森下氏:
 確かにリスクはあると思っています。ただ当然勝算はありますよ。今までにないタイプのオンラインゲームになることだけは確かですね。

4G:
 昨日(2004年9月24日)のビジネスデイで発表された二つの新タイトルは,どちらもまったく新しいタイプの作品になるとの話でしたけれど,それはゲームシステムだけではなく,ビジネスモデル(ゲームと密接に絡んだ)部分もなにか新しい形を提示する作品となるのでしょうか? 例えば,アイテム課金やアバターモデルなどのように。

森下氏:
 いえ,今回はどちらかといえば"ゲームシステムが斬新"という方向性ですね。

4G:
 つまり,基本的には月額課金モデルを念頭に置いていると?

森下氏:
 そうです。ただ,課金部分を含めたビジネスモデルについては,フレキシブルに対応できる形にしたいと思っています。まぁ,まだこれから検討するという段階ですね。

4G:
 なるほど,登場となる2005年以降が楽しみですね。ただ御社の新タイトルの一つである「GO」が登場するまでにも,まだかなりの時間がありますよね。その間に入ってくるようなタイトルってまだ何か予定されているのでしょうか? 例えば,ラグナロクオンライン2だとか。

森下氏:
 んー……。ラグナロクオンライン2に関しては,いつ完成するのか,また完成したとしてもローカライズのタイミングの問題などがあり,ちょっと今は何も言えない状況です。完成すれば表に出てくるとは思いますが……やはり何とも言えないですね。

4G:
 分かりました。本日はどうもありがとうございました。


 今回のインタビューで感じたのは,ガンホーという会社が,良い意味での"ラグナロクオンラインからの卒業"を準備しているという点である。つまり,同社が何をもって自社の強みとするのか,ぶっちゃけて言ってしまえば「ラグナロクオンラインが下火になったとき,ガンホーという会社がどういう会社になっているのか」という点に対しての答えを,着々と用意している……といった趣だといえるだろう。
 成功/失敗含め,これまでに積み重ねてきたオンラインゲームの運営ノウハウ,そしてこれから挑戦する開発事業を通して,ガンホーは,オンラインゲームのプロフェッショナル集団(企業)としての方向性を確実なモノにしていく構えのようだ。(TAITAI)

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TGS2004初日のビジネスデイで発表されたゲームアーツ共同プロジェクト「Codename:"GO"」(写真左)と,自社開発プロジェクト「Codename:"Rondo"」(写真右)。まったく新しいタイプのゲームになるという話だが,現状ではまったく詳細は分からない。



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