― 連載 ―


スーパースパイ,サム・フィッシャーが暗いところをこっそり移動しながら敵を次々に葬り去る,ステルスアクションの傑作「スプリンターセル パンドラトゥモロー」。期待の完全日本語版が登場だ
 「ついに」というか「とうとう」というか,あるいは「やっと」なのかよくわからないが,いずれにしろ,傑作ステルスアクション「スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版」が,いよいよユービーアイソフトから発売される。筆者が日本語マニュアル付き英語版のレビューを書いてから,かれこれ1年。この日を待ちわびていた羽交い絞め,殴り倒しマニアの人々も多かったのではあるまいか。

 いうまでもなく,本作は2003年2月に登場した初代「スプリンターセル」(日本語マニュアル版と完全日本語版がユービーアイソフトから発売中)の大ヒットを受けて発売された続編であり,主人公や設定をそのままに,グラフィックスの強化,システムの改良などが図られ,プレイヤーはまったく新しいミッションに挑むことになる。
 本国では,そろそろ最新作「Splinter Cell Chaos Theory」が発売されようかという記事で,まことにお日柄も良く,今やUbisoftの顔,ドル箱スター,千両役者と呼んで構わない主人公,サム・フィッシャーを,慣れ親しんだ日本語で体験する絶好の機会到来といえるだろう。

 というわけで,今週からこの「スプリンター セルパンドラトゥモロー 完全日本語版」(以下,SCPT)をテーマに,4回ほどの週刊連載を開始するのである。

 個人的な感慨で恐縮だが,私も以前の職場では「ステルスおやじ」などと呼ばれていたし(どこにいても地味で目立たないため),同じく中年であるし(子供はいないが),なんとなく暗い隅っこが好きなので,主人公であるサム・フィッシャーは他人とは思えない感じがする。つまり,私こそ本連載を執筆するには絶好の人材ではないかと自分で思うのだが,どうだろうか?

 なにはともあれ,最前線にようこそ。

サム・フィッシャーその人。前作よりポリゴン数も増え,ドイツの有名なゴールキーパーにちょっと似てきた テレビ画面越しで申し訳ないが,上司のランバート大佐。設定では筆者より2歳も若く,それがかなりショック 移動に使用するオスプレイヘリコプターにて。右下にいるのがグリムスドッティア,通称グリム。筆者は好き

 

地上支援班のコーエンとサム。前作のウィルクスも良かったのだが,やはり女の子には勝てなかったか ゲリラ組織のカリスマ的指導者,スハディ・サドノ。前作のグルジア大統領に比べると,やや小粒か ちなみに前作のサムとランバート大佐。なんとなく,こちらの絵も味があって捨てがたいのだが

 

 

 

夜はサムの時間。数々のハイテクがジェットを使いこなし,敵の最深部に侵入するのだ。とはいえ,最後にモノをいうのは果断な決断と臨機応変の対応。クイックセーブのキーから指を離すな!
 サム・フィッシャーは,アメリカ国家安全保障局(NSA)内部に秘密裏に組織された,特殊部隊サードエシェロン(Third Echelon)の潜入工作員だ。NSAそのものが最近まで秘密だったのだから,そこの秘密部隊の秘密工作員とくれば,世界中,誰も知らないんじゃないかというほど秘密度が高いのである。

 ちなみに,エシェロンなる語は軍事用語で「梯団」の意であり,一群の部隊を指す。「警報! ソ連の梯団がフルダ峡谷へ接近中! 迎撃準備せよ」なんてふうに使われる。
 もう一つの「エシェロン」は,NSAが運営する大規模な電子盗聴網で,世界中の電話,通信,さらには電子メールまでもこっそり覗いているといわれる。したがって,メールで「アメリカ大統領○殺計画」(←怖くて書けない)なんて冗談でも送ると,翌日から黒いバンに乗って黒い服を着た男達があなたの家の周りをうろつくというウワサである。
 ヨーロッパではたいそう嫌われている「エシェロン」だが,ゲーム中,「エシェロンの盗聴によると……」みたいなセリフが平気で出てきて,このへんの温度差はちょっと面白い。

羽交い絞めにして銃口を相手の頭に突きつけ,圧倒的な武力を背景に友好的にお話をすれば,向こうもきっと心を開いてくれる
 そして,これらに続く第三のエシェロンがサムの属するサードエシェロンというわけだ。エシェロンが行なう電子諜報はシギント(Signal intelligence)と呼ばれるが,それに対しサードエシェロンの行なうのはヒュミント(Human intelligence)だ。といっても,身分を偽って目的の組織の一員になり,恒常的に情報を送り続けるような普通のスパイ任務ではなく,敵地に潜入して敵の頭に銃口を突き付け「しゃべれ!」と命じる,昔のスパイ映画さながらの手法だ。サム・フィッシャーはその潜入工作員であり,任務のためには,場合によって殺人や誘拐まで許可されているという,できることなら敵には回したくないスーパースパイなのだ。
 だって,暗いところからピッタリしたスーツを着た筋肉質の男が飛び出してきて,背後から羽交い絞めにされた日にゃ,いろんな意味で恐ろしいではないか。


ライトを消し,敵がそれに気づいて入ってきたところでライトを点ける。わあ,まぶしい! の図。芸が細かい 敵の死体は見えないところに隠すのがセオリー。なんだか「13日の金曜日」のジェイソンになった気分

 

 

 

 しかし世の中は21世紀。敵地に潜入するにしても,ゴムのマスクで変装し,杖に仕込んだ隠し吹き矢でこっそりプ! なんてことはしないのである。写真にもあるように,彼の職務遂行を助ける数々の超ハイテクガジェットが存在するのだ。ナイトビジョン,サーマルビジョン,スティッキーカメラ,スティッキーショックなどなど,サムはまさに「歩くハイテク兵器」。電池なしではにっちもさっちもいかないだろう,と推測する。
 どういう局面で,どういうガジェットを使うか考えるのも,本作の面白さの一つだ。

おそらく全ゲームの80%はこれを通した視界で過ごすであろう,ナイトビジョン。前作より見えづらくなった サーマルビジョンは人間以外に,地雷や仕掛け爆弾なども探知できる。最後のマップでは大活躍するだろう 見えない位置にいる敵は,このスティッキーカメラを壁に貼り付けて確認。使用中は移動できないのが難点

 

 また,敵地の奥深くに潜入するのはサム一人なのだが,彼の内耳には無線機が埋め込んであり,衛星回線経由でワシントンDCにいる作戦コーディネーター,アーヴィング・ランバート大佐と繋がっているので,彼と直接会話したり,任務に関する最新情報を腕の受信機(ソニー・エリクソン製)で確認できる。大佐の配下にはアンナ・グリムスドッティア女史をリーダーとするハッカーチームがおり,暗号解読,無線傍受,指示書の改竄などを行なってサムを支援してくれる。

 また,地上支援班には,前作途中から登場したコーエン女史が引き続き当たっており,男くさいゲームにささやかながら花を添えている。サムが唯一,対面して会話する味方だが,前作では会話をやめてじっと見つめていると,妙にクネクネし始め,色っぽいというよりたいそうヘンだったのだが,今回はそんなこともなくてちょっと残念である。

 さらに,シャドウネット(マルチプレイに登場するNSAスパイ側チーム)の作戦コーディネーターであるD.P.ブラントンが,大佐のコンサルタントとして新規に参加している。本作から新たに導入されたマルチプレイを遊んだ場合,彼が指示を出すことになるため,シングルにも参加したのだろうが,ランバート大佐がもう歳で引退しそうなので,先手を打っておいたとも深読みできる。で,大佐はいくつなのだろうか,と調べたところ,1961年生まれの45歳(パンドラトゥモロー事件は2006年の出来事なのだ)。なに,私より年下か。だっておじいちゃんじゃないか。大ショックである。

 今回の敵は,インドネシアのゲリラ組織「ダラ・ダン・ドア」と,それを率いるカリスマ指導者,スハディ・サドノ。彼は,元CIAで,現在はアメリカに恨みを抱く傭兵ノーマン・ソスと組んで,アメリカに対し生物兵器テロを行なおうとしているのだ。
 サドノがインドネシアのアメリカ大使館を襲撃,占領。旧友が人質の中に混じっていることを知ったサムは,急遽ジャカルタに飛ぶ,というところから物語は始まる。

●5.7mmSC PISTOL

最新の防弾服も貫通する5.7mm弾を使用する消音・消炎装置付きハンドガン。こっそり人を撃ったり,パリパリと照明を撃ち割ったり,何かと役に立つ

●SC-20K M.A.W.S.

5.56mm×45mmライフル弾を使用する消音・消炎アサルトライフル。ハンドガンより強力だが,殺傷不許可の任務が多く,すべてのミッションに登場するわけではない

●ゴーグル

ナイトビジョンとサーマルビジョンを兼ね揃えた,サムの標準装備。基本的にサムの運動能力とゴーグルさえあれば,だいたいの場面は突破可能である


ドアの向こうは光ファイバーカメラを使って覗く。面倒がらず,いちいち使うこと。筆者も実生活用に一つ欲しい 鍵のかかったドアはピッキングツールをがちゃがちゃやって開ける。使い捨ての瞬間ドア開けツールもある 自動タレットは敵の武器だが,うまくIFFを解除してやれば,敵味方を問わずに撃ち殺してくれる便利なやつ

 

ガス弾を撃ち込んで相手を昏倒させる。煙に近づきすぎると自分もダメージも受けてバカみたいだから要注意 狙撃は,右クリックで深呼吸すれば照準がやや安定する。銃を使うのは,最後の手段と心得よ。バン! レーザーマイクを使って他人の会話を盗聴。まず,こちらの姿を発見されずにポイントできる場所を探さねば

 

 

 

次回のお題はサムの体術と戦闘について。前作に比べてサムの戦闘力はかなり向上しており,発見されてもなんとかしのげるケースも増えた。多くの動きがあって操作が難しそうだが,実際やってみるとそうでもない

 という感じで,今回は初回なので,まず設定周辺から迫ってみた。今回,完全日本語版が編集部から届いたので,さっそくプレイしてみたのだが,ついついやめられなくなり,またまた終わりまでいってしまった。あんなに英語版を遊んだのに,という,なんともいえない中毒性がある。アクションなので,システムに慣れれば慣れるほど上手になるし,あ,こんなところから入れたの,とか,こうすればすんなりいくのだな,といった発見が今でもあったりするのだ。

 さて,次回から,ゲームを進めながら,その面白さに迫っていこう。



■■松本隆一(ライター/学生)■■
某PCゲーム雑誌副編集長を経てアメリカへ留学し,細々とライター業を営みながら二十歳そこそこの若者達と机を並べて学業に励む,45歳の勤労学生。趣味は野リス釣り。大学ではプログラムを専攻し,近ごろ授業で物理エンジンを自作したのだが,何をどう落っことしても落下速度が音速を超えてしまい,大弱りらしい。
タイトル スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版
開発元 Ubisoft 発売元 ユービーアイソフト
発売日 2005/03/31 価格 8190円(税込)
 
動作環境 Windows 98SE/Me/2000/XP(XP推奨),IntelまたはAMDのプロセッサ/1GHz以上(1.8GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(512MB以上推奨),空きHDD容量 2.5GB以上,ビデオカード GeForce 3以上(GeForce 4とGeForce4 Goはサポート外。VRAM 128MB以上,GeForce FXまたはATI RADEON 9800以上推奨),DirectX 8.1b以降

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