― 連載 ―

奥谷海人

ゲームと映画はよく比較されるが,どちらも"人を楽しませるエンターテイメント"をコアにしているのは事実。コンテンツではなく産業形態として100年の歴史を持つハリウッドを見れば,まだまだ若いゲーム産業の取るべき道も見えてくる。

サンフランシスコの中心部にあるメトレオンは,この街の新しいランドマークとして毎日多くの客で賑わっている。2005年末からは,このプレートに名前やゲームソフトのタイトルが刻まれていくのだ
 ハリウッドと聞いて思い出すのが,歩道に連なる映画やテレビ,ラジオなどのエンターテイメント業界人の功績を刻んだ"Walk of Fame"である。アメリカ国内はもとより海外からの観光客達が,大通りの路面上にある星型のプレートに視線を落としつつ,「あ,この人知ってる!」とか「ずいぶん懐かしい名前だねぇ」などと思い出に浸りながらのそぞろ歩きを楽しんでいる。Walk of Fameは「栄光の歩道」とも訳され,エンターテインメント産業に貢献した人物に対して"不滅"が保証されるのである。
 今,そのWalk of Fameならぬ,Walk of Gameと名付けられた新しい名所が,筆者の居住するサンフランシスコで企画されている。場所はメトレオン(Metreon)と呼ばれるソニーが運営する大型複合施設で,ソニーが世界で唯一自社経営するゲームセンター「Portal 1」ほか,これも世界唯一と言われるMicrosoftの直販店,そしてレストランや映画館,PlayStationソフトの販売店やバンダイのグッズショップまでが軒を並べている。「テクノ世代に生きる若者達のハブ施設」と謳われるだけあり,Walk of Gameをホストするには最適の場と言っても過言ではないだろう。

 Walk of Gameは,ハリウッドのWalk of Fameと同様に,星型のマークの中にゲームを象徴する6×8ドットのキャラクターがデザインされた縦横60cmのプレートが,4階建てのメトレオンのフロア部分に設置される予定となっている。ただし,ハリウッド映画産業とは異なり行政や各種の業界団体の支援は受けずに,あらかじめソニーに選定された候補からファンが投票するという方法で"ゲームの殿堂"が選ばれるのである。
 マリリン・モンローやゲイリー・クーパーのように名前を聞いただけで胸がときめくほどではないにせよ,ゲーム業界の功労者,ゲームソフト,ゲームキャラクターの三つの分野から飛び抜けた才能が選出されていて,それぞれの候補は表の通りだ。

■ライフタイム・アチーブメント
ノーラン・ブシュネル(Atari創設者,Pongなど)
宮本茂(ドンキーコングやマリオ,ゼルダの伝説など)
シド・マイヤー(F-19 Stealth Fighter,Civilizationなど)
ウィル・ライト(SimCity,The Simsなど)
鈴木裕(アウトランやバーチャファイター,シェンムーなど)

■ゲームソフト/ゲームキャラクター
ドンキーコング,DOOM,ファイナルファンタジー,Grand Theft Auto,Half-Life,Halo,ララ・クロフト(Tomb Raider),リンク(ゼルダの伝説),マリオ(マリオブラザーズ),マスター・チーフ(Halo),Max Payne,Mortal Kombat,Myst,ミスパックマン,パックマン,パラッパ・ラッパー,Pong,バイオハザード,リュウ(ストリートファイター),ソニック・ザ・ヘッジホッグ,スター・ウォーズ,ストリートファイター,テトリス,ヨルダ(ICO),ゼルダ(ゼルダの伝説)

 ソニー主催ではあるが,普段ではライバルとなる他社のプラットフォームやPCゲームからの選出も多く,順当な候補者や候補ソフトの選出といえる。すべて選ばれてもおかしくないくらいに突出した人物達や作品群ではあるが,第一回はライフタイム・アチーブメントの候補者の中から二人,ゲームソフトやキャラクターの中から四つが厳選されて,文字通り"ゲーム界のスター"としてファンから敬愛されることになるのである。
 この計画の広報を務めるVSコンサルティング社のヴィージェイ・チャッタ(Vijay S. Chattha)氏へのインタビューによると,「現在のところ,世界11か国からの投票を受け付けています。もちろん,日本からも投票できますよ」とのことで,公式サイト「こちら」に行けば,誰でも好きな開発者やソフトに一票入れることが可能だ。投票は今月(2004年10月)末まで行われることになっており,開票と結果発表は11月中,そして各関係者が集うであろう記念式典は2005年に催されることになるそうだ。


※2004年10月13日現在の投票状況。詳細は「こちら」


※2004年10月13日現在の投票状況より,上位10位を抜粋。詳細は「こちら」


 近年,IGDA(International Game Developers Association)の「ゲームデベロッパズチョイス賞」や,AIAS(Academy of Interactive Arts and Science)の「インタラクティブアチーブメント賞」など,アメリカではソフトのセールスなどの商業的な成績ばかりではなく,"ゲームを開発したことの意義や功績"を賞賛する動きが活発になってきた。これも,自分達の培ってきた業績を何らかの形で保存しようとする,30年以上を経たゲーム業界の成熟を物語っていると言えるだろう。
 100年の歴史を誇るハリウッドを見れば,まだ暗中模索にある新参者のゲーム産業の進むべき道も見えやすいのは事実で,乗り越えるべきものを明確に提示しておけば,創る側の指針ともなるはずだ。
 残念なのは,このWalk of Gameの動きが日本で生まれ,日本の地に宿らなかったことだが,そこは企画力と実践力の強力なコンボ技を持ち合わせたアメリカ人だけあり,このような夢のある観光資源を作り出してくれる。今のところ,ゲームソフトやハードウェアの基礎となる技術部分やビジネス面での功労者へと拡大する予定はないそうだが,何十年か後になってサンフランシスコに立ち寄ったときに,「この人の作ったゲームは面白かったね」とか,「ああ,父さんが始めて遊んだゲームがこれだよ」などと,メトレオンの床を見ながら会話する観光客達の風景が見られるのだろうか。




次回は,「Half-Life 2」の近況をまとめよう。迷走するHalf-Life 2は,一体今どうなっているのか?


■■奥谷海人(ライター)■■
本誌専属の海外特派員。「ハリウッドにも名物料理が存在する」と奥谷氏は言う。その名物料理とは,アメリカ特産の牛肉を使ったあの料理,"吉野家の牛丼"(!)だ。実際,Yoshinoya USAはファーストフードチェーンとしてロサンゼルスを中心に展開しており,厚生労働省の権限が及ばないアメリカでは,テリヤキ丼などと一緒に,今でも牛丼が販売されているのだ。ハリウッドでは名物"牛丼"を楽しむ。これこそが日本人の正しい観光だと,奥谷氏はゲームについてと同じくらい熱く語るのであった。



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