― 連載 ―

奥谷海人

 株価割れでウォールストリートから最後通告を受けていたAcclaim Entertainment社が,ついに倒産してしまった。その一方で,順調な伸び率で黒字決算を計上するElectronic Arts社。アメリカのゲーム業界は,急スピードで展開し始めている。


懐かしの「Forsaken」は,1998年にAcclaim社から発売されたFPS。今起動してみても問題なく遊べるが,あまりにも快適過ぎて,"酔い"の回りが加速している感じだ

 3DO社やInterplay社に続いてAcclaim Entertainment社が事実上破産し,ついに公式サイトも閉鎖された。Acclaimは,ここしばらくはコンシューマ機への参入に力を入れていたものの,少し前まではPCゲーマーにも名の通った企業だった。


 思い起こせば1998年。Acclaim社は,PCゲーム「Forsaken」をリリースしている。360度自由に動き回れる宇宙空間を体験できた「Descent」のアイデアを強化したもので,かなり本格的な3Dゲームだったといえる。通常のFPSでも"3D酔い"が騒がれていた時代だったが,スピード感と妙なコントロール性を持ったForsakenの"酔い"は,多くのゲーマーには許容できないほどのものだった。
 ちょうど3dfx社からVoodoo 2が発売されて,ほかにもNVIDIAのRiva TNT,S3のScavenger,ATIのRage Pro,MatroxのMillennium G100/200,NECのPowerVRなど,第1世代の3Dグラフィックチップが群雄割拠していた時代である。Forsakenも,「Quake」と共にフレームレート測定ソフトとしても重宝されていたので,読者の中には記憶に留めている人もいるかもしれない。


 Acclaim社といえば,セガサターンが北米市場に投入された1995年の時点では,Electronic Arts社と双璧をなすほど市場への影響力を持っていた。しかし,……倒産したあとで陰口を叩くのは気が引けるが,「Rambo」や「Batman Forever」「Dragonheart」など,ファミコン時代から質の悪いライセンスゲームを乱発して,"海外ゲームは大味"の悪評を日本のゲーマーに植え付けた調本人でもある。
 近年では「Turok」や「BMX XXX」のような佳作を踏み台に,盛んにスポーツゲーム分野への進出を試みていたようだが,やはりElectronic Arts社の牙城を崩すことはできなかった。


夕暮れのElectronic Arts社本部のキャンパス。2003年には,プラチナムタイトル(100万本以上のヒット作)が27本というモンスター企業へと躍進している。「Battlefield 2」「Ultima Online:The Samurai Empire」「The Battle for Middle-Earth」「Black & White 2」など,目の離せないPCゲーム新作群も控えている
 実際のところ,現在のElectronic Arts社は飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大を続けており,もはやエンターテイメントソフト市場の20%以上を占有するに至った。1999年には1.7億ドルの年間セールスだったのが,2004年には60%増の2.97億ドルに達する見込みだという。任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメントのようにプラットフォームを持たないコンテンツ制作専門の企業としては,名実共に世界に無二の実力者である。
 しかしElectronic Arts社は,お花畑ばかりを歩いてきたわけではない。ここ数年は,企業のスリム化を図る目的で開発部隊を南カリフォルニアに集中させており,その過程ではWestwood Studios社,Origin Systems社,さらに最近ではMaxis社の名前がゲーム史上から消えていった。同じような現象は他社でも多く,Atari社に統合されたMicroprose社やLegend Entertainment社,3DO社に買収されたNew World Computing社,Eidos Interactive社のCore Designs社やION Storm社,さらにはUBI Software社に吸収されたSSI社など列挙すればきりがない。
 ゲームソフトを作るのが本業の開発者達が,組織運営を企業に委ねるのは合理的だし,経済面からも仕方のない流れではあるが,古参のファンから見れば少し泥臭いくらいの個性派ブランドが消えていくのはしのびないことだ。それゆえに,独立系ソフト開発チームとしての自我を通し続けるid Software社,Valve Entertainment社,Flagship Studios社,そしてLionhead Studios社のようなメーカーにはファンが多いのだろう。



2003年度は,EA社の27本のタイトルが100万本のセールスを記録するプラチナ・ソフトとなった。PCソフトもチラホラ見えるが,やはり同社の3分の1の売り上げを毎年獲得するスポーツゲームの安定性は絶大だ
 id Software社のジョン・カーマック氏は,2004年3月の基調公演で「(僕らが自宅でゲームを作っていたときのように)必ず新しい開発手法に挑戦して台頭してくる若い世代が出てくる」と語っている。今のところ,PCゲームでは企業管理体制に寄りかかった開発現場を打ち破るような斬新な動きは起こっていない。しかし,NVIDIA社が東欧のゲーム会社に投資したり,ATI社が「Half-Life 2」のバンドルのためにクーポン一枚につき10ドルともウワサされる異例のライセンスを行ったりというような例は,独立系ソフト開発チームが頭を痛める制作資金の獲得方法が,多様性を持ち始めていると見ることはできるだろう。



 今後の北米ゲーム業界で勢力図が書き換わりそうな気配もある。Monolith Interactive社を率いてきたジェイソン・ホール(Jason Hall)氏が,2004年春にメディア配給会社Warner Bros. Entertainment社の子会社であるWarner Bros. Interactive Entertainment社の幹部として就任。手始めに古巣との関係を強化をして,「The Matrix Online」でセガとの提携をまとめるなど,一流のゲーム企業に育てるための布石としている。
 またNewYork Post誌は,CBSやMTVを傘下に収めるViacom社が,ゲーム会社の買収先を模索していると報じている。なんと,当初はElectronic Arts社にまでを視野に入れていたというが,さすがに市場価値15億ドルともいわれる同社の買収は断念。しかし,その他のソフト販売会社の買収には申し分ないほどの資金を用意していると見込まれている。すでにMidway Games社の経営権を得たり,THQ社などとはコンテンツ面で提携したりしているものの,近々驚くような発表があることも予想される。
 ソニーからも,MGMと50億ドル規模での買収合意が発表されたばかり。「ライセンスゲームは糞ゲーム」と言われていたAcclaim社全盛時代とは打って変わって,"エンターテイメントメディア"という大きな規模でのコンテンツ争奪戦が始まっているのだ。


次回は,「ゲームの暴力について」というテーマでお送りする予定。乞うご期待。


■■奥谷海人(ライター)■■
PCゲームの歴史に妙に精通している奥谷氏は,「EAだって,これまでイバラの道を歩んできた。なぜかシークレットエージェントが魚の『James Ponds』や,カビが主人公のストラテジーゲーム『Beasts and Bumpkins』など,1990年代中期まではお世辞にも褒められないゲームが非常に多かった」と回想する。ちなみに今回の原稿を書きながら,なぜかバスケットボールのスター選手シャキールがカンフーで戦う「Shaq Fu」をプレイしたときの感動が蘇っていたとか。……ちょっとマニアックすぎ。



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