― 連載 ―

クォータービューの画面でポリゴンのチビキャラを操作するタクティカルRPG「英雄伝説VI 空の軌跡」。話の展開と登場人物の設定は,さながらほのぼの系のキャラゲーだ
 えー,今回は日本ファルコムの「英雄伝説VI 空の軌跡」を取り上げる。意外に思う読者も多いと思うが,この作品のストーリー展開や人物描写は,実のところかなりキャラクターゲーム的なのだ。
 思えば日本ファルコムは,国内PCゲームの草創期から"キャラの立った"人物が登場する作品をリリースしてきた。往年のPCゲーム雑誌の人気キャラクター投票でも,「イース2」のリリアがかなり長期にわたってトップを独占していた記憶がある。そういえば「ミスリリアコンテスト」なるイメージガールオーディションもあったなあ……。ちなみになぜか筆者の手元には,彼女のCDがすべてある。
 とにかくそういった意味で,日本ファルコムはキャラクターゲームの重要なパイオニアの一つと言っても過言ではないのだ。いや,筆者が一方的に決めてるだけかもしれないが。
 前回に引き続き,"普通のゲーム"としてきちんと成り立っている本作の,キャラクター要素にことさら着目して解説しよう。


なぜか学園祭を手伝うハメになったエステルとヨシュア。出演する劇では男女の役柄が入れ換わっており,ヨシュアはお姫様の役をやることに。このあたりは実にキャラクターゲームっぽい展開である
 本作の主役は,エステル・ブライトとヨシュア・ブライトという義理の兄妹(姉弟?)。このうちヨシュアはゲームスタート時点から5年前に,エステルの父カシウス・ブライトが家に引き取った少年だ。思い込んだら一直線の元気娘エステルを,冷静なヨシュアがカバーするという,もう,ここから類型化できそうなコンビである。
 父のカシウスは腕利きの遊撃士(ブレイサー)で,二人も遊撃士を目指している。遊撃士とは地域の安全を守るために活動する人々で,魔獣退治や犯罪防止などを担当する,西部劇の保安官のような存在だ。
 物語は二人が研修を終え,凖遊撃士(見習い)になったところから始まる。カシウスが急な依頼で旅に出たことで,彼が受けていた仕事の一部を二人が引き受ける。そこに入る,カシウスが乗っていた定期船が消息を絶ったという連絡。彼らは父の行方を探して,彼らの住むリベール王国各地を旅し,それがやがて王国を揺るがす大事件に発展してゆく……というのが大まかなストーリーの流れである。

 その旅で出会うキャラクターには,カシウスの弟子にして若手遊撃士で1,2を争う実力者,そして二人の姉のような存在であるシェラザード,王国随一の伝統を持つジェニス王立学園の生徒であり,見かけによらない剣の腕前を持つクローゼ,工房都市ツァイスに住む天才技術者ラッセル博士の孫娘ティータなど。シェラザードは姐御肌で大酒呑みのカラミ上戸,クローゼはお嬢様ながら芯のしっかりした少女でちょっとした秘密がある,ティータはメカに目がないといった感じで,いずれも役どころのはっきりした人々だ。
 彼女達はそれぞれの都市で事件の関係者としてエステル一行に協力し,事件を解決していく。そして,最終的にそれぞれの事件が一本の糸でつながっていくのである。
 ほかにも,お調子者の自称天才演奏家で,銃の達人でもあるオリビエ,身の丈ほどある長剣を軽々と使うアガット,大男の拳法家ジンなど,それなりに流通性の高い記号を担った男性キャラクターも登場するが,まあ,そこはスパッと置いておくとして。

 二人で旅を続けるうちに,エステルの中でヨシュアが気になる存在として意識されるようになるという展開は,説明するまでもないだろう。ことあるごとに周囲から揶揄されたり,囃されたりしているうちに,家族としてしか見ていなかったはずのヨシュアがいつの間にか……という流れは,それでこそ"義理"の兄妹(兼幼馴染み)という話である。いやまあ,女性側から意識し出すという,一段上を行くご都合主義には目をつぶるとしてだが。

エステル・ブライト(16)

本編の主人公。思い込んだら一直線の元気娘で,どんなときでも決して諦めない強い意志の持ち主。父に習った棒術を使い,身の丈を超えるスタッフ(棒術具)を自在に扱うなど,かなりの腕前である。最初はヨシュアのことを家族としか思っていなかったのだが,周囲に囃し立てられているうちにだんだんと……。

シェラザード・ハーヴェイ(23)

エステルの父であるカシウスの弟子で,エステルとヨシュアにとっては姉のような存在。姐御肌で面倒見もよいが,大酒呑みでカラミ上戸という,最近のお姉様キャラとしてはよくあるタイプ。武器として鞭を使うのは,あまりにハマりすぎていてどうかとも思うが。

クローゼ・リンツ(16)

ルーアン地方にあるジェニス王立学園に通う学生。学校が休みの日は近くの孤児院で手伝いをしており,優しい性格もあって子供達から慕われている。見かけによらない剣の腕前の持ち主で,学園のフェンシング大会では優勝している。シロハヤブサのジークがいつもそばにおり,戦闘時の"クラフト"(攻撃手段)は大半がジークを使ったものである。また,王国軍の親衛隊とコネがあるなど,何やら訳アリげなところも。

ティータ・ラッセル(12)

工房都市ツァイスの天才技術者ラッセル博士の孫娘。人当たりがよく朗らかで,誰からも愛される性格の持ち主だが,マッドサイエンティスト的な祖父に似てか機械には目がなく,機械を目の前にすると夢中になってしまう。その特性にふさわしく,戦闘では「導力砲」を使う。しかし工房都市の"ツァイス"って,機構的にはむしろ不安なカメラメーカー名なわけだが,そのへんはどうなのだろう?

ヨシュア・ブライト(16)

本編のもう一人の主人公。5年前にエステルの父が連れてきた何やらワケありの少年。いつも冷静で,突っ走りがちなエステルにブレーキをかけ,フォローするのが役回りになっている。


ストーリー各所でヨシュアとの関係を勘繰られるエステル。これをきっかけにだんだんとヨシュアのことを意識するようになっていき……というのは幼馴染シナリオの黄金パターンといえよう 露天風呂で鉢合わせしてドッキリ。実にありがちなシーンである。いや,つくづく風呂の好きな作品だなあ


フィールド,戦闘フィールドともポリゴンキャラと,回転可能なクォータービュー視点で描かれる。戦闘では左に表示されているATバーが重要なポイントになるので,クラフトなどを利用して有利なATボーナスを獲得していきたい
 ゲーム部分は,言うまでもなくキチンと作り込まれたもの。画面はクォータービューで,キャラクターはポリゴンで描かれる。キーやマウス,ゲームパッド操作で視点を回転させることも可能だ。フィールド上を移動し,キャラクターとの会話やフィールドの探索をとおしてストーリーが進んでいくが,フィールド上を徘徊する魔獣と接触することで戦闘に移行するという,"敵が見えるエンカウンター方式"になっている。

 戦闘は,同じく3Dで描画された戦闘フィールドで行われる。パーティの各キャラクターを順に行動させ,敵に攻撃をかける。通常の攻撃のほか,魔法に当たる「アーツ」と,キャラごとの特技「クラフト」があり,アーツには敵を直接攻撃するものや,味方を回復させるもののほか,敵のアーツ/クラフトを封じるものなどさまざまなタイプがある。
 アーツは,各キャラクターの持つ「戦術オーブメント」というアイテムに,「クォーツ」をセットすることで利用可能になる。クォーツには属性があり,その属性の組み合わせで利用できるアーツに差が出る。
 各キャラの戦術オーブメントは,それぞれセットできるクォーツが決まっているので,キャラクターによって得意なアーツは異なる。

 それに対してクラフトは,基本的に特殊攻撃なのだが,キャラクターによっては,相手の行動順を遅らせる,味方の行動順を早めるといった補助的な技も存在する。また,クラフトはキャラごとにまったく異なる。
 アーツを利用するにはEP,クラフトを利用するにはCPといわれるポイントを消費する。CPは攻撃を行ったり受けたりすることで貯まっていくが,いわばマジックポイントに相当するEPは,休むか,アイテムを使って回復する必要がある。

 戦闘システムで特徴的なのが,左に表示されているATバーだ。これは敵を含めた各キャラの行動順を示しており,行動タイミングに従って与えられるボーナス要素(HP回復や攻撃力の増加など)も確認できる。
 敵側にボーナスが付く流れにある場合,例えばその敵を集中攻撃してボーナス発動前に倒したり,前述の行動順を変えるクラフトを使ったりして,そのボーナスが自分側に来るよう考えるのだ。

 専用グラフィックスを伴うイベントこそないものの,お約束のキャラクター設定やストーリー展開を多用し,それがプレイのモチベーションを支えるといった意味では,キャラクターゲームと評してよいように思う。続編である「空の軌跡 Second Chapter」の情報も少しずつ出始めたことであるし,これからの展開が楽しみだ。

本作で魔法に該当する「アーツ」には強力な攻撃のほか,味方の回復や,戦闘を有利に進めるための補助的なタイプもある。これは火系の攻撃魔法のうち,最も強力なボルカニックレイブ クラフトは,各キャラクター固有の特殊攻撃。画面はエステルのクラフトで,棒術具を振り回し,周囲の敵すべてにダメージを与える旋風輪。序盤に修得できるうえ,使い勝手がよい Sクラフト(Sブレイク)は大ダメージを与えたりできる強力なクラフトだ。これは,シェラザードのSクラフトである「クインビュート」の画面。実はこの後シェラザードが高笑いする

■■柿島真治(フリーライター)■■
PC-88,PC-98時代も含めて,国内PCゲームとの付き合いがすさまじく長いハードウェア&ゲームライター。歴代イースシリーズも順にプレイしてきたわけだが,キャラゲーとして見るなら,まずもって英雄伝説VIというのが彼の弁。ちなみに妹さんがいるのだが,残念なことに義理の兄妹ではないらしいのですよ。
タイトル 英雄伝説VI 空の軌跡(Vista対応版)
開発元 日本ファルコム 発売元 日本ファルコム
発売日 2007/03/29 価格 4800円(税込)
 
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/550MHz以上(PentiumIII/800MHz以上推奨),メモリ(Windows98/Me)192MB以上(256MB以上推奨),メモリ(Windows2000/XP) 256MB以上(384MB以上推奨),空きHDD容量 1.9GB以上

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