「土屋氏インタビュー」

土屋氏
■土屋 哲夫(つちや てつお)氏プロフィール
株式会社ナムコ 事業開発グループ LANエンターテインメント プロジェクトマネージャー。CS-NEOの仕掛け人で,元々は,大型のテーマパークやアトラクションの企画運営を行っていた。
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 「ウルティマX オデッセイ」を始めとした欧米圏で相次ぐMMORPGタイトルの開発中止など,一部の企業が大きな成功を収めている半面,チラホラと陰りも目立ち始めているオンラインゲーム市場。日本でも「ラグナロクオンライン」「ファイナルファンタジー XI」といったMMORPGのプレイ人口は増え続け,順調に市場が大きくなる一方で,アクションゲームやリアルタイムストラテジーゲーム(以下,RTS)といった昔からあった"オンライン対戦ゲーム"は,伸び悩むどころか下火になりつつあるのが実情だ。昔から比べてオンラインゲーム・ユーザー自体の人口は増えているハズなのに,これはある意味で非常に不思議な現象だとはいえないだろうか。

 元々日本でオンラインゲームが大きな注目を集めるに至った原因の一つには,韓国/台湾での「リネージュ」の大成功があったわけだが,韓国におけるオンラインゲーム人気の元々の発端は,RTSの「Starcraft」だということは周知の事実。実際,韓国のPC房では現在(2004年8月)でもStarcraftがいまだに根強い人気を誇っており,その使用時間率のシェアは今なお20%にも上るほど(ちなみにリネージュ2が15%,リネージュは11%前後)である。
 しかしながら,日本のオンラインゲーム市場ではMMORPGばかりに注目が集まり,RTSやFPSといったほかのオンラインゲームジャンル(いわゆるMO型)に対する考察はほとんどされていない。それはなぜなのだろうか? 日本人はFPSを遊ばないから,というような単なる趣向性の問題だけなのだろうか?

 そのあたりをよくよく考えてみると,MMORPGが昨今ここまで(業界的に)注目されているのは,オンラインならではの面白さが云々……という部分よりも,月額課金制というビジネスが成り立ち,一部の企業が莫大な利益をあげているという,「商業性」が注目されている側面が強い。
 元々,インターネット上で配信される多くのオンラインコンテンツの最大の課題として,「収益性」の低さというものがあり,そこは誰もが頭を痛める部分であった。そういう状況の中で登場してきたのがMMORPGタイプのオンラインゲームなのである。MMORPGはビジネスとして「高い収益性」を示し,ゲーム業界のみならず幅広い分野から注目された……という経緯があるわけだ。日本でも,韓国におけるリネージュなどの成功体験を追う形で,多くの企業が参入。いまやタイトルは乱立し,早くも過当競争の体さえ見え始めているのはご存じの通りである。
 儲からなければ誰も手を出さない,確かにそれは正論だ。しかし,FPSやRTSといった作品には,本当に"パッケージ売り"以外のビジネスの可能性がないのだろうか? 上記でも書いてあるように,韓国におけるStarcraftの人気は絶大なモノだし,人気FPSの「Counter-Strike」も,アジア各国ではネットカフェの主力級コンテンツとして地位を確立している。

 4Gamerでは,日本でCounter-Strikeの普及を目指すナムコ「LEDZONE」の土屋哲夫氏にインタビューを行い,同社が展開する「カウンターストライク ネオ(以下,CS-NEO)」の現状や,「MMORPG以外のオンラインゲームの商業性」についての,いくつかの疑問や質問を投げかけてみた。インタビューのやり取りを交えながら,今後のオンラインゲームの方向性(ビジネス的な)について考察してみたい。



麻雀ファイト倶楽部

4Gamer.net(以下,4G):
 お久しぶりです。前回の取材から一年ほどが経つわけですけれど,まずは「カウンターストライク ネオ」およびLEDZONEの現状について聞かせて下さい。

土屋哲夫氏(以下,土屋氏):
 結論から言ってしまうと,私どもの仮説が実証されたかな,という状況ですね。次のステップへ進むための準備段階に入りつつあります。

4G:
 仮説と言うと,日本でカウンターストライクが流行らないのは「コンテンツ」自体にだけ問題があるのではなく"遊ばせ方"や"遊ぶ環境"に原因があるのでは,という以前聞かせてもらった話ですか?

土屋氏:
 そうです。まぁこういう話は,百聞は一見に如かず,だと思うので,まずはこのLEDZONEの売り上げの推移を見て頂きたいのですが……

土屋氏に見せてもらった,LEDZONEの大雑把な売り上げ推移と既存のアーケードゲームの売り上げ推移の比較。既存のゲームは,導入当初の売り上げがもっとも高く,ユーザーの飽きに従って売り上げは落ちていくが,CS-NEOの売り上げは,逆にじわじわと売り上げが上昇していく形。もちろん,これはゲーム自体のライフサイクルの長さや宣伝の有無の差なども影響していると思われるが,何にしても非常に興味深いデータである
4G:
 お,いきなり核心ですね(笑)

土屋氏:
 まぁまぁ(笑)。
 それでですね,このグラフを見て頂けると分かるのですが,ここ一年の売り上げ推移は右肩上がりで上昇しています。イベントの開催や長期休暇期間などで多少上下に売り上げグラフはブレてますけれど,全体としては着実な上昇線を描いているのが分かると思います。

4G:
 ふむふむ。これって,面白さを体感した人が繰り返し遊んでる結果なのでしょうか?

土屋氏:
 もちろんそれもありますが,ネットワークゲームの特徴として「メトカーフの法則」(※1)が働いているのではないか,というのが私の分析です。つまり,対人ゲームは一緒にプレイする人がいればいるほど面白くなっていくので,時間が経つにつれてプレイヤー数が増えていったことも,売り上げアップに影響しているのではと。

※1:Ethernetの考案者であるBob Metcalfe氏が提唱した概念で,ネットワークの価値は利用者数の2乗であるとするもの。利用者が増加すればするほどネットワークの重要性が増すという考え

4G:
 なるほど。

土屋氏:
 例えば,その仮説を裏付けるように,池袋に第2号の実験店をオープンしたときに,売り上げがグっと上昇しています。プレイヤーが増えることがゲームの面白さに繋がって,お客さんを惹きつける要因になっているんですね。まぁ対戦ゲームだから当たり前なのですが,CS-NEOは多人数で遊ぶゲームだけに,それが一層顕著なのではないかと感じてますね。

4G:
 そういえば,池袋のCS-NEOってゲームセンターの一角に設置されている形ですよね。既存のアーケードゲームなどと比べて,CS-NEOの実績はどうなのでしょうか?

土屋氏:
 現状では,今ゲームセンターで大人気の「麻雀ファイト倶楽部」にも負けないくらいの売り上げを達成していますね。

4G:
 ほー,それは興味深いですね。

土屋氏:
 ここが重要な部分なんですが,既存のビデオゲーム(シングルゲーム)って,ロケテストや導入当初が一番売り上げが立つんですよ。「新しいゲームだ,ワーッ!」って感じでみんな遊んで,時間が経つにつれて飽きていって,売り上げもだんだん下がっていく。売り上げが一定以下になると,ゲームセンターのオペレータさんが「もうダメだな」って判断して,新しい機種/タイトルと入れ替えるワケです。
 ところがさっきの資料を見て頂いた通り,CS-NEOは,時間が経つほど売り上げが上昇しています。つまり,既存のビデオゲームの常識がまったく通用しないんです。


4G:
 なるほど。そうえいば,以前,LEDZONEの「実験」の意味の一つで,「例え取っつき難くくても,それを補うほど奥の深いゲームであれば,商売が成り立つのではないか?」という話をされてましたね。

土屋氏:
 そうです。
 アーケード業界ってずっと,「30秒で面白さが理解できないと駄目だ」みたいな,いわゆる"神話"が根強かったわけですけど,違うアプローチもあるんじゃないかと思うんですよね。
 喩えるなら,これまではすぐに美味しさが分かって見た目もよい「ケーキ」で商売してきたワケだけど,それも最近成り立たなくなった。じゃあ,じっくり噛まないと美味しくないけど,「スルメ」ってどうなんだろう?みたいな。

4G:
 面白いですね。

土屋氏:
 ただ立ち上げた当初は,社内でも初期のインカムだけでLEDZONEとCS-NEOが評価されがちで,立ち上げ初期の数値だけを見て,「コレ売り上げ悪いじゃん!」という議論が堂々巡りしてたんですよ(苦笑)
 しかし,ずっと我慢して一年間やってみると,売り上げは下がるどころか上昇した。やっと我々の仮説が実証された形です。おかげで最近は「売り上げ悪いじゃん!」という話はなくなりました。内外ともにLEDZONEが評価を得てきたかな,という感触を抱いていますよ。

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→「Counter-Strike:Source」の当サイト内の記事一覧は,「こちら」
→「カウンターストライク」の当サイト内の記事一覧は,「こちら」
→「CS:コンディションゼロ 」の当サイト内の記事一覧は,「こちら」

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