― 特集 ―

コサックスII

Text by TAITAI  

 

大ヒットしたコサックスシリーズの続編「コサックスII〜皇帝ナポレオン〜」。その新たなグラフィックスエンジンで,ナポレオン時代の壮大な"会戦"を表現。最大で6万4000ものユニットが一つのマップで展開される。
 CDV Software Entertainment社(以下,CDV)といえば,国内でも高い人気を誇った「コサックス」「サドンストライク」などの人気RTSシリーズを有するヨーロッパの大手ゲームパブリッシャーである。なかでもコサックスは,全世界でシリーズ累計で250万本を売り上げ,CDVの名を一躍世界に知らしめた作品だ。満を持しての登場となる「コサックスII」の販売(英語版)を間近に控える同社だが,4Gamerは,その次期CEOとして内定(2005年7月1日に就任予定)している現COO兼CFOのChristoph Syring氏にインタビューする機会を得た。
 昨今ストラテジーゲームを中心にスマッシュヒットを重ねるなど,なかなか好調そうに見えるCDVだが,実は2〜3年ほど前には(コサックスが売れながらも)不振が続いていたゲームパブリッシャとして知られる。Syring氏はCOO(最高執行責任者)兼CFO(最高財務責任者)というポジション(要するに生粋のビジネスマンだ)であり,曰く「ゲームの中身についてはそれほど詳しい話はできない」とのことだったので,業績立て直しのポイントや今後の戦略など,CDVという会社についての話から聞いてみることにした。

■Christoph Syring氏
CDV Software Entertainment社の現COO(最高執行責任者)兼CFO(最高財務責任者)。2005年7月1日には同社のCEO(最高経営責任者)に就任を予定している。前職のネットワーク関連会社でもCEOを担当した経験を持つ。




4Gamer.net:
 まずはゲーム業界(CDV)に入ったキッカケや経緯を教えてもらえますか。

Christoph Syring氏(以下,Syring氏):
 うーん,それを聞かれるとなんと答えていいのか(笑)。正直言うと,ゲーム業界に入ったのは偶然なんだよ。当時(2年ほど前),CDVがすぐに力になってくれる財務担当者を探していてね。財務関係というのは業界に関係なく通用する分野だし,CDVに参加することになったんだ。

4Gamer.net:
 なるほど。その時期(2年ほど前)というと,ちょうどCDVが経営的に苦しい時期でしたよね。ここ最近はスマッシュヒットが続き,完全に立ち直ったという印象がありますけれど,会社の建て直しに関してSyring氏が関わった部分は大きいのでしょうか?

Syring氏:
 もちろん,私一人ですべてを行ったわけではないから,会社全体で改善に取り組んだ結果として,会社が良い方向に進んだんだと言えると思う。ただ私が入社する前のCDVというのは,いわゆる"外部"の人間がいなかったため,自社の欠点がなかなか見えないという体質になっていたんだ。客観的な分析を行うポジションとして,外からの参加者であった私が与えた影響も小さくなかったと思っているよ。

4Gamer.net:
 具体的にはどのような影響を?

Syring氏:
 まず会社のこれまでの売り上げやマーケットにおける自社の立ち位置などを分析したんだ。その結果,良く売れていたのはコサックスを初めとするストラテジーゲームであり,またマーケットの中において,CDVがストラテジーゲームという分野で専門性を発揮する余地があることにも気がついたんだよ。

4Gamer.net:
 確かに不振だった時期は,アクションゲームやオンラインゲームなど"手広く"やっていた感はありますね。逆にここ最近のCDVは,ジャンル/作品を絞り,ブランドシリーズをかなり重視しているという印象があります。

Syring氏:
 ブランドの確立は非常に重要だと思っているよ。私たちの作品は,確かに爆発的なヒットを飛ばすようなタイトル群ではないかもしれないけど,根強い固定ファン層が付いてくれているから,安定した売り上げを見込むことができる。
 私は「専門化」という言葉を使っているけれど,特定のテーマ/ジャンルでマーケット的なポジションを確保することは会社として非常に重要だと思っている。私は経営や財務が専門の人間で,ゲームの細かい部分については分からないのだけど,そういった方向性だけは曲げないよう心がけているよ。そして今,CDVは「ストラテジーゲームの会社」という方向性を明確にしているんだ。

4Gamer.net:
 「コサックス」や「サドンストライク」,そして「ブリッツクリーグ」を見ていると,かなり細かいスパンで拡張パックが発売されますよね。やはりこれはブランド確立のために意図的にスケジューリングしているのでしょうか?

Syring氏:
 もちろん,その通り。認知の問題もあるし,ほかの競合タイトルに付け入る隙を与えないという意味もある。

4Gamer.net:
 競合といえば,CDVでは「サドンストライク」「ブリッツクリーグ」「コードネーム:パンツァーズ」と,第二次世界大戦モノのブランドを自社で重複して持っていますよね。似たようなタイトルブランドを並列で持つのは意味はあるのでしょうか?

Syring氏:
 つまりは「プレイヤーの食い合い」を自社でしているんじゃないか,という意味かな? 確かにそれはもっともな見解だと思う。だけど,それだけに我々も気を付けているんだ。
 例えばブリッツクリーグはリアリティを重視した作りになっているし,逆にパンツァーズの方はフィクションも織り交ぜたライトな作りになっている。ゲームの難度的にもブリッツクリーグが難しくて,パンツァーズは簡単に作られているんだ。

4Gamer.net:
 なるほど。

Syring氏:
 ユーザーのアンケートとかを見ても,ブリッツクリーグを遊んでいるユーザーはパンツァーズのことを「簡単すぎる」と言い,その逆にパンツァーズのユーザーはブリッツクリーグを「難しすぎる」と言っているんだよ(笑)。こういう意見になっているということは,つまりはユーザーの棲み分けがしっかり出来ているということだと思う。例え発売時期が被ったとしても,販売本数が劇的に落ちるということはないんじゃないかな。
 先も言ったように,CDVはストラテジーゲームに特化するという方向性を明確にしている。逆を言えば,ストラテジーゲーム/自社の得意分野に関しては,できるだけ多くのユーザーを取り込んでいきたいと考えているんだ。

「コードネーム:パンツァーズ」は,欧米圏で非常に高い評価を受けたRTS。第二次世界大戦の戦車戦をテーマにした作品で,作り込まれたユニットのグラフィックスや挙動が素晴らしいタイトルだ。




4Gamer.net:
 大ヒットした「コサックス」の続編,「コサックスII」がまもなく発売されますね(英語版)。満を持しての発売だと思うのですが,目標としてはどのくらいのセールスを目指しているのですか?

Syring氏:
 具体的な数値はここでは言えないけれど,コサックスは既に大きなコミュニティがあって多くのファンを抱えているブランドだから,やはりそれなりの販売本数を見込んでいるね。ただ正直言うと,前作のような大ヒットというのはあまり想定していないし,マーケティング費用もそれほど大きな金額は考えていない。
 というのも,コサックスIIの発売に関しては,すでに知るべき人は知っているという状況だし,またこういったストラテジーゲームというのは,いくら宣伝したところでいきなり幅拾い層が買ってれるような商材でもないんだ。

4Gamer.net:
 なんだか結構クールですね……。でも,前作がシリーズ累計で250万というセールスを記録したタイトルですよね?

Syring氏:
 ああ,確かに250万というのは真実の数値だけど,これは拡張パックや廉価版も入れての数値。いわゆる"フルプライス"版が250万本売れたという意味ではないんだ。

4Gamer.net:
 ええ,でもそれでも十分に凄いと思います。ただもし良ければ,コサックスの売り上げ本数やその地域別/国別の割合なんかを教えてもらえますか? そう言われると気になってしまいます。

Syring氏:
 そうだね。(ゴソゴソと資料を出してくれてチェックしながら)これは"初代コサックスのフルプライス版"のセールスになるんだけれど,ざっくりと言うと,

ドイツ: 20万本以上
北米: 10万本以上
イギリス: 5万本前後
フランス: 5万本前後
日本: 1万6000本前後

という数値だよ。

4Gamer.net:
 へぇ,やはりお膝元のドイツで一番売れているんですね。ドイツというとPCゲームおよびストラテジーゲームが強い市場というイメージがありますけど,イメージどおりに市場規模って大きいんですか?

Syring氏:
 ドイツのPCゲーム市場だけ見れば,ストラテジーゲームが約1/3を占めるくらいだね。かなり大きいよ。

4Gamer.net:
 え,そんなに……? 日本だと,ストラテジーゲームはそれほど本数が見込めるジャンルではないんですよ……。

Syring氏:
 残念だね。もっとウチの作品を知ってもらえると嬉しいんだけど。

4Gamer.net:
 ただドイツというと,ボードゲームが盛んな国としても知られていますよね。やはりそういった下地があって,コンピューターゲームでもストラテジーゲームが流行るのでしょうかね。

Syring氏:
 うーん,どうだろう。ちょっと知識不足で明確な答えが出せなくて申し訳ないのだけど,よくよく考えれば,同じくボードゲームが盛んなフランスでも,我々CDVのゲームはよく売れているんだよね。ボードゲームの人気とPCストラテジーゲームの人気……確かに強い関連性があるのかもしれない。

4Gamer.net:
 ふうむ……。あ,すいません,ちょっと話をコサックスに戻してよいですか?

Syring氏:
 はい,どうぞ。

4Gamer.net:
 というか,もっと話は戻っちゃうんですが,先程のブランド化云々についての話の中で,CDVの方針として「拡張パックが細かくリリースされるのは,計画的である」というお話がありましたよね。

Syring氏:
 うん。

4Gamer.net:
 ということは,コサックスIIに関しても同様の計画が立てられているということですか?

Syring氏:
 おっと……,えーと,んーと,鋭いね(笑)。正式な発表は行っていないというか,まだどこにも言ってないと思うのだけど,実は二つほどアドオンの発売を予定していて,細かい部分を今まさに詰めているところなんだ。

4Gamer.net:
 アドオンの具体的な内容は? やはりそのままナポレオニックな内容となるんですか?

Syring氏:
 そうだね。細かい話は今はまだ言えないけど,内容的にはやはりナポレオニックになる。ヒストリカルバトルの追加なども当然行われると思っていいよ。ロシア遠征やワーテルローなど……というか,この件についてはこのくらいで勘弁してほしい(苦笑)。

4Gamer.net:
 ではそのうち出てくるであろう情報を待ってますね。




4Gamer.net:
 日本ではストラテジーゲームはそれほど売れないという話をしたと思いますが,アジア市場についてはどうお考えでしょうか? 何か思うところがあればお話を聞かせてください。

Syring氏:
 私たちとしても,アジア市場は非常に重要なマーケットだと考えている。ただそうは思いながらも,これまでアジア市場に向けて特別な取り組みをしてきたというワケではないので,そこは今後の課題になるだろうね。現在は,まったくの未開拓だといえる。

4Gamer.net:
 ということは,すぐにではないにしろ,CDVのタイトルをアジア向けにカスタマイズする,あるいはアジア向けの製品を開発する……という可能性はあるのでしょうか?

Syring氏:
 今の段階では,残念ながらそういった計画はないね。ただ可能性という意味では,もちろんあると思う。

4Gamer.net:
 なるほど。あと時期も時期(E3の一ヶ月前)ですし,E3絡みの話を少しお聞きしてよいですか?

Syring氏:
 もちろん。E3では,三つの新タイトルの発表を予定していて,ジャンルとしてはすべてRTSになる。
 順に説明していくと,その内の一つは第二次世界大戦モノのタイトルで,これはグラフィックス面でかなり自信のあるタイトル。もう一つは同じ戦争物ではあるんだけど,第二次世界大戦後の仮想世界を舞台にした作品になる。最後の一つは,マフィアの世界の題材にしたRTSだね。

4Gamer.net:
 これらは何かの続編ですか? それともまったくの新タイトルになるのでしょうか?

Syring氏:
 すべて新タイトルだね。ゲームとしてのクオリティはもちろん,システム的にもかなりの意欲作なので,ぜひ期待していてほしい。多分,相当驚くんじゃないかと思う。今までのストラテジーゲームにはない要素が盛り込まれているからね。

4Gamer.net:
 今までにない……? ちょっとすぐには想像はできませんが,コサックスで新境地を切り開いたCDVのことですから,E3を楽しみにしたいと思います。期待しています。

Syring氏:
 ええ,ぜひ期待していてください。

4Gamer.net:
 では最後に,日本のファンに一言お願いします。

Syring氏:
 え,そういうのもあるの? これ。分かりました。えーと,オホン。

 まず,弊社の作品を遊んでくれているファンの皆さんにお礼を言わせて下さい。ありがとうございます。
 日本は,CDVにとって非常に大切なマーケットだと考えています。近々発売が予定されている「コサックスII〜皇帝ナポレオン〜」をはじめ,今後も我々の作品を楽しんで頂ければ,これほど嬉しいことはありません。
 私たちは,トップクラスのストラテジゲームメーカーとして認知して頂けるようこれからも努力していくつもりです。今あるブランドのクオリティを保ちながら,先ほどお話ししたような,まったく新しいタイトルの立ちあげも積極的に挑戦していきます。これらの新タイトルも非常に素晴らしい作品だと自負しておりますので,ぜひ期待して頂ければと考えています。
 今後ともどうか宜しくお願い致します。

……こんな感じでいい?

4Gamer.net:
ええ,十分です(笑) 本日はありがとうございました。



 アクションゲームやオンラインゲームなど多ジャンルに渡って開発していた方針を転換し,得意分野であるストラテジーゲームに集中したことが,昨今の好調ぶりにつながったというCDV。マーケットにおける自社のポジションを明確化し,競合相手との差別化を図るというのは,あらゆる分野で共通する戦略の基本だろう。PCゲーム界の大手パブリッシャとして,今後も,質の高いストラテジーゲームを世に送り出してくれることを期待したいと思う。
 ちなみにインタビューでも話題に上がったコサックスIIの日本語版についても話を聞いてみたが,残念ながらこちらは情報を得られなかった。発売時期などについてもまだ未定だとのこと。歴史ゲームファンとしては非常に待ち遠しいタイトルなだけに,首を長くして待っておくことにしよう。

「コサックスII〜皇帝ナポレオン〜」
→公式サイトは「こちら」
→紹介ページは「こちら」

「コードネーム:パンツァーズ」
→公式サイトは「こちら」
→紹介ページは「こちら」


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