― レビュー ―
ついに全要素を包括した競馬シミュレーションの誕生か
Winning Post 7
Text by 水道橋郁夫
2005年1月11日

 

■今度の売りは"史実"と"ネット対戦"

 

日本だけでなく,欧米の競馬史も一緒にフォローされている! 2005年以降はオリジナルの歴史でエンドレスな展開に
 第1作の発売から10年以上が経過している,競馬シミュレーションゲーム"ウイポシリーズ"の最新作「Winning Post 7」が,2004年12月16日に発売された。追加パックではない正ナンバーの最新作は,1998年の「4」以降2年おきの12月発売が慣例化しており,その間の年には,11〜12月ごろに増強版のパワーアップキットが発売されるサイクルとなっている。毎回PC版のほうがコンシューマ版より先に発売される点も,ちょっぴり嬉しい。

 本作「Winning Post 7」のウリは,"史実の体感"と"ネット対戦"。まず史実に関してだが,ゲームが1984年から開始される設定となり,そこから現在までの実際の競馬史を追う形式となった。常に最新の歴史を創造していった前作までとは違い,この点は大幅なリニューアルといっていい。

 ゲームが始まる1984年は,競馬ファンなら周知の事実だが,かのミスターシービーが史上3頭めのクラシック三冠を制したその翌年で,"皇帝"シンボリルドルフが2年連続の三冠馬となった年。結果的にシービーはこのあとルドルフと3度対戦して一度も先着できず,種牡馬としてもこれといった後継馬は残せないまま天寿をまっとうした。その一方で,ルドルフは1991年の二冠馬トウカイテイオーを出し,トウカイテイオーは3度の故障を乗り越えて,1年ぶりの復帰戦となった1993年の有馬記念でビワハヤヒデを破って1着。その翌年にはビワハヤヒデの弟,ナリタブライアンが暴力的強さで三冠をもぎ取るなど,競馬史はいつの時代も名馬と名馬が折り重なりながら編まれていく。
 しかし「Winning Post 7」では,その歴史に"プレイヤー"という正史に存在しないはずの異物が混入する点がミソだ。つまりプレイヤーの意向と頑張りいかんでは,シービーがルドルフに勝ったり,テイオーが故障せずに三冠を獲ったり,ハヤヒデとテイオーがプレイヤーの自家生産馬に有馬で負かされたりする展開も生じるわけだ。
 また,用意された史実はレースに限らず,種牡馬の輸入や騎手,調教師の進退などのほか,大小イベントも絡めつつ,競馬界の出来事全般に渡ってフォローされている。スタート時のモード選択によっては,デビュー年のズレなどの揺らぎを持たせることも可能だが,この場合も基本的には史実が軸になる。これはヨーロッパやアメリカなど,海外の競馬に関しても同じで,各年のクラシックや古馬戦線の力関係などは,ほぼ歴史どおりに再現されている

 もちろん,そこにもプレイヤーの意志を介在させることは可能で,例えばフジヤマケンザンを所有して"しまった"場合は,うまく事を運ばないと,1995年香港での日本馬による海外重賞初制覇などの記録を消滅させることにもなってしまう。プレイヤーによって変えられた歴史の先が,必ずしも輝ける未来になるとは限らない。そしてそれは,ゲームに収録されている正史が途絶え,オリジナルの歴史が始まる2005年以降,より顕著に表われる。

 

☆印付きは歴史上の実在馬。2004年までの間にも架空の馬は登場し,全部が全部実在馬なわけではない 実在馬にオリジナルの名前を付けることも可能だが,実際の名前はデフォルトで用意されている 牧場を手に入れると,こういったイベントも発生。生産以外の面でも何かとメリットがあるのだ

懐かしの騎手や調教師も多数登場。武豊など,有力騎手との好感度は若いうちに上げておくべし レーススケジュールは2004年版のまま変わらないため,中には有り得ない事象が重ねて起きることも 海外セールを経て日本に入ってくる馬は強豪ぞろい。相馬眼のある調教師とは早めにコネを作っておきたい

 

 

■歴史をループか,それとも未来へ前進か


最初の目標は5億円到達。名声値や資金を増やしていくと,海外での牧場開設も可能に。いつかは外でも……
 今回の「Winning Post 7」に収録されている実際の競馬史は,1983年(プレイ開始は1984年)から2004年まで。2005年に入ると,それまでの21年間を振り返るイベントが発生し,もう一度1984年からやり直すか,そのまま2005年以降の未知なる時代に進むかの選択を迫られることになる。もし引き返す場合には,それまでに貯めた資金,牧場以外に,今作から新登場の"お守り"を持ち越すことができるため,1回めよりも格段に有利な条件での再スタートが可能だ。

 引き継ぎができる項目のうち,牧場はこれまでのシリーズ同様,主に競走馬の生産や育成に使われる,いわばプレイヤーにとっての本拠地。しかし今作からはデータを引き継がない限り,スタートからいきなり牧場は持てなくなってしまった
 前作までは,ゲーム開始当初から馬主兼生産者,いわゆるオーナーブリーダーだったものが,今回は5億円を貯めないと牧場購入のローンさえ組めない。そのため生産による収入はなく,スタート資金の2億円を増やしていくには,そこから捻出した資金で手に入れた競走馬に,賞金を稼いでもらうしかないのだ。つまり,手持ちの競走馬には自身以上の金額を稼いでもらうのが必須で,そうでなければ赤字となる。プレイヤーにリアルな競馬の知識があれば,実際に活躍した馬の名を把握できているはずだが,それらを毎年どれだけ安価で買い続けられるかもポイントとなる。オススメの馬についてはちょろっと後述することにしよう。

 もう一つの引き継ぎ項目"お守り"は,今作からの新要素で,稀少度の順に金/銀/銅/赤の4種類がある。価値の低い赤は,プレイヤーの馬がGIで勝つなど,比較的容易な条件で手に入れられるが,金のお守りとなると,アメリカで行なわれるBC8戦の1日全制覇やGI通算100勝などが条件となり,入手は極めて困難だ。
 これらのお守りは,史実に登場する馬を庭先(庭先取引。セリ市ではなく個人間の交渉で馬を売買すること)で買うために必要となり,有力馬ほど上位のお守りを要求される仕組みとなっている。逆にいえば,資金とお守りさえあれば初年度からシンボリルドルフでも入手できるわけだが,資金はともかく,上位のお守りは並大抵のプレイでは入手不可能だ。それこそ2004年までのサイクルプレイを何度も何度も繰り返さないと手に入らないため,やり直しを前提としてゲームをプレイする場合には,難度EASYを選んでおいたほうが賢明といえる。本命プレイの土台にする資金とお守り稼ぎ用プレイのために,NORMALやHARDを選んでもただ苦労するだけ。データを引き継いでの再スタート時には,難度をもう一度選び直す機会があるので,あとあとNORMALやHARDで遊びたい人にも最初のEASY選択はオススメだ。

 

海外遠征を決行すると,こういった出会いもある。築いた人脈は後々の海外進出に大きく関わってくるのだ クラシックの結果を変えるのはなかなか骨だが,中にはメンツが手薄な年も。お手馬がいれば一発狙え! クラシック二冠を制したヤマニングローバル。部門最優秀馬に選ばれると,銅のお守りが1つもらえるぞ

おなじみの顔も登場,と思いきや,今回は歴史を遡ったことで鳳の親父さんが。でも性格は似たようなもの こちらは井崎……ではなく井坂修三郎さん。穴党で,万馬券を提供するとプレイヤーに礼を言いつつ温泉へ 「コースポ」こと「コーエースポーツ新聞」はマメにチェックを。データ以外に,お役立ち情報も満載だ

 


■ネット対戦の王者も目指せ! 1年は現実の13日


競馬新聞の予想コラムは重賞のみの掲載。コラムの種類はこのほかにも,もっといろいろ用意されているぞ
 史実を軸とした本編改変と並ぶ,今作のもう一つの目玉がネット対戦である。これまでもネットを介した私的な対戦は盛んに行なわれていたが,今回新規導入された「WP7マルチリンク」という名のネット対戦モードは,それらとは根底から異なる。現実の競馬では1年で全13開催となっているが,「WP7マルチリンク」内の世界では,現実の1日につき1開催が進行する。つまり,現実の13日が「WP7マルチリンク」の1年というサイクルで,四季のレーススケジュールに沿った対戦が日々行なわれるのだ。
 これに伴うプレイヤー管理のため,起動にオンライン認証が必要になるなど,やや面倒になった部分もあるにはあるが,競馬シミュレーションゲームといえばやはり対戦が華。全国規模で手軽に,それもソフト本体を除いて一切の課金なく,自分の馬をお披露目できるようになった点は特筆に値する。現実の13日という1クールも肩の凝らない日数設定で,月額制の競馬ネットゲームに重さを感じていた人には改めて本作をオススメしたい。

 対戦にエントリーできるのは,もちろん本編で育てた自分の馬だが,注意すべき点が二つある。一つは歴史上に実在した馬の場合は,所有馬であっても出走させられないということ,そしてもう一つが,競う対象となるのは成長し切って完成した馬の能力ではなく,先天性の能力,つまり"素質"のみだということだ。
 後者に関しては,調教を省略できるぶん早いサイクルで対戦用競走馬を作れるようになった一方で,勝つためにはシリーズ独自の配合理論研究を,絶対に避けて通れなくなった。そのうえ「Winning Post 7」では,また新たな理論が追加されたため,13開催のトップを狙い続けるプレイヤーにとっては,更なる日々の切磋琢磨が必要になるはずだ。これを楽しいと感じるかどうかはプレイヤーの嗜好によるところだが,「WP7マルチリンク」内にはすでにプレイヤー有志によって作られたサークルが多数存在しており,チャットやメールの機能も装備されているため,情報交換の機会には事欠かないだろう。
 なお,「WP7マルチリンク」に登録できる馬は同時に8頭までで,13開催中に上位の成績を残すと,名誉以外に,本編で使用できる資金やお守りを獲得できる。

 

雪の中での大逃げ。レース前にセーブして,負けたらロードして脚質を替えると勝つこともあるけど邪道? 歴史に揺らぎのないモードAでは,種牡馬輸入のタイミングは史実どおり。実在馬を生産することも可能 おなじみの配合理論も健在。わかりやすく総合評価も出るので,理論に自信のない人はそちらを頼みにどうぞ

血脈が反映すると,サイアーライン上で系統として認知される。好きな系統を拡大できるかは情熱と腕次第 ネット対戦ではレースリプレイももちろん視聴可能。ちなみにネットを介さない通常の対戦プレイも可だ ネットで得た賞金やお守りは本編への転送も可能。対戦の成果を生かし,また新たな強豪を生産したい

 


■コーエーの野望は競馬シミュレーションの完全制覇?


レースシーンは背景のほか,コーナーワークやズームなど,グラフィックスが全面的により美しく改装された
 "史実"と"ネット対戦"。今作を支える,この新要素二つを知ったとき,個人的には「さすが信長の野望のコーエー,また全国統一に動き出したか?」と思ってしまった。正確には"国"ではなく,"競馬シミュレーションゲーム"なのだが。
 というのも3年ほど前,コーエーにはオーナーブリーダーを疑似体験できる,このウイポシリーズのほか,騎手体験をモチーフとしたコンシューマ用の「ジーワンジョッキー」,そして調教師としての深みを追求した「HorseBreaker」の3タイトルを,ほぼ同時期にリリースしたことがあった。オーナーブリーダーに,騎手に,調教師。およそ競馬ゲームになり得る職種としてはコンプリートし,「HorseBreaker」だけはレース面の弱さからか後発が続かなかったものの,当時としては三冠達成のような衝撃を残したものだった。  それを踏まえての,この「Winning Post 7」。"史実"に関しては,このシリーズがやり残していた数少ないファクターの一つだったが,実は約10年前に「サラブレッドブリーダー」というゲームがウリにしていた要素だった。ファミコンやPC-9801の時代から,競馬シミュレーションゲームの定番といえば「ダービースタリオン」と「Winning Post」の二強との見方が一般的だったが,一部では後発の「クラシックロード」と「サラブレッドブリーダー」を加えた四強という見方もあった。

 ちと話が逸れたが,ネットゲーム隆盛の近年は「DERBY OWNERS CLUB」や「競馬伝説Live!」など,競馬シミュレーションゲームにも"ネット対戦"というファクターが組み込まれたものが増加中だ。その最中に現われたのが,この「Winning Post 7」であり,2001年に競馬の職種コンプリートを達成したコーエーの次の狙いは,"競馬ゲームに盛り込める全ファクターの完全制覇"なのではないだろうか?

 やり残していた"史実"という古いファクターと,日の昇る勢いで現われた"ネット対戦"という新しいファクターを盛り込んで作られた,そんな「Winning Post 7」だが,個人的にはまだ"史実"の側が消化し切れていないように思えた。年代が1984年で,登場する馬も人もその当時の姿なのに,レーススケジュールや競馬場の形が2004年時のまま,というのでは,やはりどうしても歴史のズレが目についてしまう
 500万下,1000万下,1600万下条件戦の額面や,新装後のコース,秋でも青々とした芝などは目をつむるとしても,マル外へのレース開放や,地方交流元年などは時代を合わせてもらいたかったし,存在しないはずのドバイワールドCやNHKマイルCがあるのも,わかっちゃいるけどどうにも妙である。やはりレーススケジュールは面倒でも,ある程度当時のものに近づけて構築してほしかった。このズレが存在するままでは,結局マニア心をくすぐるのかくすぐらないのかハッキリせず,このソフトを機に競馬を始めようとしているビギナーにとっても,混乱の種となってしまいそうだ。

 ただ,史実の強豪をGIで破るのが難しい一方で,史実にはない国内GIは比較的勝ちやすく,フジヤマケンザンでNHKマイルCを楽に勝てるわ,アンドレアモン(初年度に譲ってもらえる現役馬の中で一押し)を手に入れた直後に交流GIの川崎記念を勝てるわで,ゲームを攻略するうえでは多少のメリットも見られる。しかし,恐らく今年末に発売されるであろうパワーアップキットでは,以上のメリットを踏まえたうえでも,このあたりの問題解決をお願いしたいと思う。
 最後のおまけに,少し攻略の役に立ちそうなことを書くと,交流重賞は史実と比べて破格に賞金が高く,しかも勝ちやすいため,狙い目としてはかなりおいしい。史実ではオープン大将に終わったミスタートウジンも勝ちまくりで,ダイコウガルダン級のダート馬ならGI15勝なども夢ではない。てっとり早く資金を増やしたいなら,開始直後にアンドレアモン,1985年にダイコウガルダンを取るだけでも累計20億はイケるぞ!

 

知っていれば思わずニヤリ,あの名ゼリフもイベントとして登場。イベントの中には映像と音声が流れるものも オグリキャップももちろん登場。強えんだこれが! 自家生産馬で,この芦毛の怪物を負かすことはできるか 各年の初めには史実に基づいたその年の様相が,こうして紹介される。競馬史の勉強になること間違いなし

 

タイトル Winning Post 7(Qualityイチキュッパ)
開発元 コーエー 発売元 ソースネクスト
発売日 2006/10/06 価格 3970円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium II/333MHz以上[Pentium III/700MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[256MB以上推奨],グラフィックスメモリ:8MB以上[16MB以上推奨],HDD空き容量:1.3GB以上,ネットワーク環境:必須[1Mbps以上推奨]

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