― レビュー ―
地味ながらも,テーブルトークRPGの雰囲気が存分に楽しめる秀作
ザ テンプル オブ エレメンタル エヴィル 日本語版
Text by 大路政志
2004年12月22日

 

■パーティアライメント別の導入パートが新鮮

 

これはチュートリアルモードをクリアしたときに流れるエンディング。このような演出は,ゲーム本編でも要所要所で楽しめる
 

  「ザ テンプル オブ エレメンタル エヴィル 日本語版」(以下,ToEE)は,「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)公式ルールブック第3.5版をベースに制作されたシングル専用RPGだ。現在のところ,第3.5版が採用されたコンピュータRPGは本作だけであり,D&Dファンにはお馴染みのグレイホークの世界観で冒険が楽しめるというのも,マニアとしては見逃せないポイントである。このたび日本語版が発売されたことで,グレイホークへの距離もグッと縮まったといえるだろう。
 前述の通り,ToEEの世界観には,D&Dの生みの親であるゲイリー・ガイギャックス氏自らが手がけたキャンペーン,「the World of Greyhawk」が採用されている。メインストーリーのバリエーションに関しては後述するが,冒険者一行はホムレットという村を拠点として,最終的にはエレメンタル エヴィルの神殿へと向かうことになる。

 

 D&DをベースにしたコンピュータRPGといえば,最初にすることはキャラクターメイキングというのが一般的だが,本作では,まず最初にパーティのアライメント(ローフルやカオティック,グッドやエヴィルといった属性の組み合わせ)を決定するところから始める。
 従来のD&DやAD&D作品のように,本作でも緻密なルールによって生み出されるバリエーション豊かなキャラクターを作成/使用できるのだが,実際に冒険をするメンバーは,パーティアライメントによってある程度限定されることになる。分かりやすくいえば,パーティが善属性ならば,悪属性のキャラクターをそこに組み入れることはできない,という具合である。
 なお,このパーティ属性の決定によって,ストーリーの導入パートや冒険の目的が変化する仕様になっているので,さまざまなキャラクター,さまざまなパーティで繰り返しゲームを楽しめる。本作に用意されているマップはやや小規模で,スタート地点であるホムレットを含めて村は二つ,ダンジョンは大小合わせて10程度しかないのだが,パーティ属性によるストーリーの変化が発生するため,思いのほか長くプレイできる作品といえるだろう。
 サクッとプレイしたければ10時間ちょっとでクリアできるし,隅々まで遊び尽くしたいのであれば,30〜40時間楽しむことも可能。いろいろなパーティ属性を試してみて,好みでないストーリーならばサクッと終わらせ,お気に入りのストーリーに当たったらみっちり冒険してみるのが,オススメのプレイスタイルである。

 

シンプルさと整合性を兼ね備えるD&D系ゲームのキャラクターメイキングは,それそのものが一つの娯楽になり得ると言っても過言ではない。想像力を膨らませ,まさに自分だけの主人公達を創造していこう。パーティは最大5名で編成できるが,ゲーム中でNPCを3人まで雇うことが可能

パーティアライメントによって,パーティに組み込めるキャラクターに制限が発生するほか,ストーリーも変化する。あるアライメントでは何者かにさらわれた人物の捜索/奪還が目的となり,あるアライメントでは,強大な力を秘めたアーティファクトを入手することが目的となったりする

 

 

■やや小規模ながら,緻密に作り込まれた世界での冒険が魅力的


冒険の舞台,発生するクエストの内容共に,ややスケールが小さい。しかし"壮大"なストーリーに食傷気味のゲーマーからすれば,それもかえって新鮮に楽しめるはず
 ストーリー重視の"バルダーズ・ゲートシリーズ"や,オーロラ・ツールセットによる世界構築機能が魅力的な「ネヴァーウィンター・ナイツ」と比較すると,ややこぢんまりとした印象を受けるToEE。グラフィックスやゲーム展開自体にも派手さがなく,万人に評価されるエンターテイメントとは言えないかもしれない。しかし,D&Dファンや硬派なファンタジーファンならば,かえってその地味さが好ましく思えてくるはずである

 ゲームは基本的に固定クォータビューで進行するのだが,かつてはこれがRPGの基本ビューであったので,古くからのRPGプレイヤーである筆者にとっては,さほど気になるものではなかった。アングル変更ができないため,建物や木々が密集する場所では多少困惑させられたが,緻密で落ち着いたタッチのグラフィックスは,素直に美しいと思えるレベルである。
 また,ゲーム世界で生活しているNPCそれぞれに,きちんと名前が設定されている点も好印象だ。NPCがその他大勢ではなく,個々の人間として存在しているので,多数用意されている生活感溢れるクエスト(飲み比べ大会やら,親族同士の諍いの仲裁やら,恋のキューピッド役やら……)も,作業としてではなく感情移入してこなしていくことができた。
 会話のバリエーションも豊富で,パーティアライメントやキャラクターの能力によってNPCの対応が変化するのも楽しい。あるパーティアライメントではただの貧相な男にしか思えなかったNPCが,ほかのパーティアライメントでは,冷酷無比なやり手上司であることが判明し,メインストーリーの鍵を握っていたりすることもあるのだ。
 作り込まれた舞台と,生活感溢れる登場人物達,そしてD&Dの完成されたルールがあれば,別に豪華な3Dグラフィックスや伝説的なストーリーなど用意されていなくても,十分楽しく遊べるんだなぁと,今更ながらに感心させられてしまった。

 操作系統に関しても,ラジアルメニューによるコマンド選択やワールドマップからのエリア間移動などが可能で,プレイアビリティはすこぶる良い。
 夜間や建物内などで人物や敵が判別しづらく,ターゲッティングが難しい,ミニマップを表示しながら移動できないので,慣れるまではエリア内の移動が難しい,といった点が個人的には残念に思えたが,それらは時間が解決してくれた。前述したように冒険の舞台自体は小規模なので,マップ構造や人物配置は,行ったり来たりしていればすぐに覚えられるだろう。


 

ゲームの舞台は若干狭いが,密度は非常に濃い印象がある。登場人物の設定や会話のバリエーションなどには,感心させられるものがあった。また,エリア間移動ができる点も細かいことだが嬉しい。TRPG的だし,「移動」という余計な手間を省くには最適の方法だろう

 


■地味だがとにかく手応えあり。クラシカルな正当派RPG


例え相手がネズミでも,同数以上の数で攻められたら非常に危険。そんな戦闘バランスが,単なる作業になりがちな戦闘シーンに緊迫感を生み出す。パーティ構成,戦術,使用可能な呪文,装備を考慮し,勝利をつかみ取れ
 

 ゲーム自体に目新しさは感じられないものの,本作にはRPGの面白さがたっぷりと詰め込まれている。背景世界やプレイアビリティについては先に述べたが,"RPGの華"戦闘シーンに関しても,ToEEは秀逸である。
 本作の戦闘シーンにはターン制が採用されており,戦闘が発生すると,敵味方のスキルやステータスに基づいて行動順位が決定される。プレイヤーサイドの手番が回ってきたら,クラスや装備,特殊能力を考慮して行動を決定していくわけだが,戦闘のバランスがかなりシビアであるため,被害を最小限に抑えて勝利を得るには,戦闘システムや各種データに対する理解度,戦術手腕が試されることになる。
 例えばスケルトンや盗賊といった最弱クラスの敵ならば,こちらの攻撃が1〜2回ヒットすれば大抵倒せるのだが,逆にこちらも1〜2回の攻撃を受ければ簡単に死んでしまうのが,D&D系ゲームの序盤の常識だ。本作ではその特徴が顕著に表れているので,先制攻撃を受けたり位置取りを誤ったりすれば,死は実に身近な存在となる。同数程度の雑魚敵に全滅させられることも,決してまれなことではない。さらに,一般的なRPGとは違い,回復魔法や回復アイテムなどを簡単に用意できず,HPや魔法使用回数の回復には休憩をとるのが基本となる。

 そんな戦闘バランスで,毎回必ず勝利するのは実に困難だが,魔法やスキル,フィートの効果をしっかりと把握し,セーブ&ロードを活用しつつ戦術を研究していけば,次第に最適な行動がとれるようになることだろう。また,倒した敵のデータはログブックという機能で確認できるし,戦闘中に行われたさまざまな判定も,ある程度さかのぼってチェック可能だ。
 システムやルールに関しては,やや説明不足なところがあり,D&D系ゲームに慣れ親しんでいない人にとっては,覚えることが多くて大変かもしれない。だが,装備やレベルではなく,プレイヤー自身のスキルと知識が大いに役立つゲームデザインは,ゲームを単なる暇つぶし以上の娯楽として捉えるゲーマーにとっては刺激的である
 テーブルトークRPG(TRPG)をプレイしたことがない人には分かりづらいかもしれないが,ToEEは実にTRPG的な作品だ。やや小規模な世界も,身近な人物から受けるクエストも,ダンジョン探索を主としたゲーム展開も,TRPGプレイヤーからすれば,「ああ,こういうセッション昔遊んだなぁ」と思える雰囲気なのである。TRPGをプレイしたことのある人,とくに「グレイホーク」キャンペーンに親しんだことのある人には,ぜひ本作に挑戦してみてほしい。難度は高いが,本作からは古き良き時代のRPGが備えていた,厳しさと達成感を得ることができるはずである

 D&D系ゲームに慣れ親しんでいない人には,ややハードルが高いゲームといえるが,操作系統の秀逸さやエリア間移動の快適さ,戦術手腕が問われるターン制バトルなどなど,魅力的な要素は数多くある。もしあなたがゲーム内ヘルプやマニュアルを熟読するタイプのゲーマーならば,D&D系ゲームの入門編としてプレイしてみるのもいいだろう。
 惜しむらくは,やはりゲームとしてのスケールの小ささだろうか。世界がそれほど広くはなく,キャラクターレベルも10までしか対応していない(マルチクラスは可能)ので,シングル専用RPGとしては若干物足りなさを感じてしまう。第3.5版ルールはもちろん,ゲームシステム的にも光るものはあるので,ぜひ拡張キットや続編という形で,グレイホークの世界にさらなる広がりを付与してもらいたいところである。
 本作に圧倒的な「やり込み要素」が追加されれば,ゲームとしての魅力は何倍にも拡大されるはずだ。

 

基本アクションは,ラジアルメニューを通じて実行可能。うまくまとまっており,直感的に操作しやすい。 単に攻撃魔法を撃つだけでも,内部ではさまざまな判定が行われている。ルールへの理解が深まれば,戦術手腕も成長するだろう ログブックにはさまざまなデータが蓄積/整理される。各種情報を逐一チェックし,プレイに役立てたい

 

 

 

タイトル ザ テンプル オブ エレメンタル エヴィル 日本語版
開発元 Troika Games 発売元 メディアクエスト
発売日 2004/12/10 価格 9429円(税込)
 
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/700MHz以上(Pentium4/1.7GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(256MB以上推奨),HDD空き容量 1.1GB以上,VRAM 32MB以上,DirectX 9.0以降

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