■映画の脇役が主役のチーム操作型FPS
プレイヤーは精鋭部隊"デルタ"のリーダーとして,3人の仲間と共にさまざまな特殊任務に挑む。戦闘中も常に仲間の存在を感じさせる |
2月17日にエレクトリック・アーツから発売された「スター・ウォーズ リパブリックコマンド」(以下,SWRC)は,シリーズの主要キャラクターが一切登場しないという,ちょっと「あれれ?」と思わせる関連ゲームである。
主要キャラが登場しないだけではなく,フォースもライトセイバーも登場しない。主人公は「エピソードII クローンの攻撃」で明らかになった共和国正規軍クローン・トルーパーの中でも,とくにエリートで組織された"デルタ"と呼ばれる特殊部隊である。プレイヤーは4人で構成されるデルタ小隊を率いて,分離主義者達との戦いで特殊任務に挑む。
ここでちょっとSWRCのバックグラウンドにも触れておこう。スター・ウォーズは映画だけでなく,小説やアニメ,コミックなどさまざまなメディアでの伏線を含めて,マニアでもない限り,とても全体を把握しきれないほどの壮大なストーリーとなっている。スター・ウォーズ・サーガと呼ばれる総括的なストーリーは,知れば知るほど面白みが増す深みのあるもので,なるほどマニアが多いのも納得できる。
映画のエピソードIIでは,ジェダイマスター"サイフォ=ディアス"によって10年前に秘密裏に発注され,惑星カミーノでクローン軍団が生産されていたことが明らかになり,それを利用して共和国正規軍が設立された。そして共和国正規軍と分離主義者によるクローン戦争が勃発し,エピソードIIが終わったわけだ。
SWRCでは3年に及ぶクローン戦争を題材としており,映画では脇役に過ぎなかったクローン・トルーパー達の熾烈な戦いをクローズアップして楽しめる。
クローン・トルーパーは身体能力に優れた賞金稼ぎ「ジャンゴ・フェット」のクローン達で,惑星カミーノで成長速度を通常の人間の2倍に速められ,訓練プログラムによってさまざまな能力を修得している。クローンの中でも選りすぐりの個体が特殊任務にあたり,そのうちの一つが,プレイヤーの操作するデルタ小隊なのだ。
本来クローンということで能力や性格などもまったく同じはずなのだが,訓練の過程で異なった能力を身につけ,さらに性格にも個性が生まれるという設定になっている点が興味深い。
例えばプレイヤーが直接操作するチームリーダーのデルタ38は沈着冷静であらゆる任務に適応でき,部下からの信頼も厚い。デルタ62は爆発物のエキスパートでお調子者,デルタ07は重火器の扱いに長け,態度がでかいといった具合だ。みんな自分と同じクローンだが,頼りになる仲間達なのだ。
プロローグより。惑星カミーノの培養液の中で生産されるクローン・トルーパー。手が赤ん坊のものだ | プロローグで生い立ちから成長過程が描かれる。これは訓練プログラムによって実践的な戦術を学ぶシーン | いよいよ実戦に! 共和国軍の強襲艇に乗り込んでいくクローン軍団。プロローグがとにかくカッコいい |
初の実戦でいきなり前線に。さりげなくチュートリアルになっている。スパイダーウォーカーが目を惹く | せっかくなのでスター・ウォーズらしいショットも載せておこう。宇宙空間に見えるのは,分離主義者の母艦だ | 戦闘不能に陥っても,味方の隊員から回復を受ければ立ち上がれる。倒れた味方の回復も可能だ |
■秀逸なチーム操作が,これまでの概念を打ち破る
初期装備のライフルとサイドアーム以外にも,あちらこちらで拾って使えるさまざまな武器が登場する。これはロケットランチャーだ |
これは,狙撃や爆発物のセット,ハッキング,突入など,あらゆる命令をたった一つのアクションキーを押すだけで適任者に命令できるシステム。チームの存在を実感し,チームとの連携プレイを楽しみながらも操作の頻雑さから解放されるこのシステムは,チーム操作型FPSにおけるエポックメイキングとなるかもしれない。
ただしスクワッド・マニューバーが利用できるのは,作り手側があらかじめ用意した特定の場所だけなので,プレイヤーが独自に戦術を考えるという要素に乏しくなるのは確かだろう。
ただしチームのAIそのものが非常に優秀で,特別なアクションが必要な場合を除けば,とくに命令しなくてもかなり有効にリーダーの行動をバックアップしてくれる。操作性やAIについては非の打ち所がないものの,プレイヤーの自主性を制限するという点において,システム的にはまだまだ考える余地はありそうだ。
グラフィックスに関しては,ルーカス・アーツが手掛けているだけあって雰囲気が抜群に良い。宇宙船内の雰囲気といい,数種類登場するドロイドでもタイヤのようにくるくる回って移動し,戦闘モードに変形するドロイデカなどは,映画そのままの動きに思わず感動だ。また暗視(ロウライト)モードでの視界表現なども実にいい感じである。
標準武器はブラスター・ライフルと呼ばれる光線銃で,対装甲や狙撃用といったアタッチメントによってバリエーションが得られる。サイド・アーム・ブラスターという拳銃型のプラズマ銃も持っているが,こちらは弾薬に制限がなく,弾薬切れのときなどに使用する補助的なもの。所持できる武器はこれらに加え,もう一つだけ拾得できる。多数の武器が登場するのでどれを保持するのか迷ってしまうが,状況に応じた武器を選びたい。
また体力の回復手段も特徴的で,あちこちに設置されている「バクタ・ディスペンサー」と呼ばれる回復装置によって行う。FPSによくあるライフパックを拾って回復するタイプではなく,装置まで足を運べば何度でも回復可能だ。
ディスペンサーからはドロイドが続々と湧いてくる。発見したら早めに爆破しないと始末におえない | スパイダー・ドロイド。非常に強力な兵器で,装甲も厚いため破壊が困難。一人では戦いたくない相手だ | 弾薬数には常に気をつけておかないと,窮地にありながら非常用武器を使う羽目に陥ってしまう…… |
ロード時間は最近のFPSにしては短い部類に入るだろう。ロード画面で現在の状況の確認ができる | 虫のように飛び回り,電磁波で視界を遮る面倒な敵。映画では伝わらない苦労も多々あるらしい | 具体的な任務の指示は,このようにホログラムで投影される。しかし足場は木の板なのか……? |
■スター・ウォーズを知らなくても楽しめるFPS
あるポイントに到達すると,隊員の配置予定ポジションが半透明で表示される。ここでアクションボタンを押せば適材が任務にあたる |
エピソードIIで登場した惑星ジオノーシスや,敵に乗っ取られた共和国の宇宙船,チューバッカでお馴染みのウーキー族が登場したりと,ちょうどエピソードIIとIIIの中間に当たるストーリーを補完するようなエピソードで,ファンなら見逃せない展開が待ち受けているのだ。
余談だが,プレイヤーがてこずっているスーパー・バトルドロイドを,ウーキーがおもちゃのように振り回したり地面に叩きつける様子は実に痛快だった。
マルチプレイには"デスマッチ" "チームデスマッチ" "キャプチャー・ザ・フラッグ" "アサルト"といったゲームモードが用意されており,最大16人での対戦が可能だ。GameSpy Arcadeが組み込まれているので,とくに苦労せず対戦相手を探せる。
ただし日本語版は他言語版との対戦はできないので注意が必要だ。マルチプレイではとくに目新しい要素はないものの,FPSの基本は押さえているといった感じだろうか。
冒頭で述べたとおり,本作には主要キャラクターもフォースもライトセイバーも登場しないので,もしかしたらスター・ウォーズ関連作品であることは忘れてしまっていいかもしれない。むしろスター・ウォーズに興味のない人にとっては,このスピード感溢れるチームFPSを"スター・ウォーズ関連グッズ"という枠に留めてしまうのは,もったいないだろう。
それほどまでに良質のFPSに仕上がっているのは,まず全体的な雰囲気が作り込まれ臨場感に溢れていること,チームAIが秀逸なこと,さらに合理的に簡素化された操作性ゆえだろう。操作の簡素化が初心者向けといったイメージを生むのは否めないところだが,実際にプレイしてみるとそんなことはなく,むしろこの小気味よさが癖になるはずだ。
原作のファンにはストーリーの補完という意味も含めて(もちろんゲームとして)プレイしてほしいし,原作ファンではなくとも良質のチーム操作FPSとして,ぜひとも体験してほしい作品だ。
続々と現れるトランドーシャンの傭兵達。見てのとおり,小隊の仲間からトカゲと呼ばれている | 味方の隊員のヘルスが低下していたら,こまめにバクタ・ディスペンサーでの回復指示を出そう | 突撃準備に入る隊員達。扉が開くと同時に,味方の一人が中にデトネーターを投げ込む手筈だ |
タレットを乗っ取って敵を一網打尽! 移動はできないが強力な武器だ。だいたい要所に設置されている | 直接に操作はできないものの,体が大きく力も強いウーキーは心強い味方として活躍してくれる | 何も見えないほど暗い場所ではロウライトモードに切り替えよう。リアルな雰囲気でいい感じの描写だ |
狙撃用アタッチメントのスコープは倍率を2段階に切り替えられる。狙撃できる場所は限られるが | 謎のマグナガード・ドロイド。非常に機敏な動きで動き回り,かなりやっかいな敵だ。見た目も恐い | ヘルメットの汚れは自動的に拭われる。敵の体液が飛び散っても平気? なのでガンガン殺せ! |