■分隊の一兵士となってベトコンと戦え
待ち伏せされた機甲部隊を救え! 歩兵の小隊にいったい何ができるのだろうか |
プレイヤーは,ディーン・シェファードという海兵隊の新兵となって,ベトナム戦争の史実に基づいた作戦に参加することになる。一つの小隊に配属され,仲間と共にベトコンと対峙し,ダナンでの攻防,テト攻勢,フエでの反撃など,数々の激戦を生き延びなければならないのだ。
プレイして最初に感じたことは,MoH:AAの印象が強い2015の作品だけあって,シングルのプレイ感はかなり似ているということだ。史実に基づいてミッションが構成され,当時のフィルムやスクリプトシーンが散りばめられている。スクリプトを多用してドラマチックにストーリーが展開され,プレイするうちにどんどんキャラクターに感情移入していくという感じだ。
基本的なゲームスタイルは,とにかく撃ちまくって次々に現れるベトコンを倒すといった感じで,ステルスものが多い最近の3Dアクションの中にあっては貴重な作品かもしれない。しかしMoH:AAよりもややリアル指向で,いわゆるランボースタイルのゲームではない。
ベトナムならではの情景描写は,実に雰囲気が出ていて申し分ない。戦場はジャングル,水田地帯,小川,塹壕,村,市街地など多岐にわたるので,ジャングル戦が好きなプレイヤーも市街地戦が好きなプレイヤーも楽しめることだろう。ベトナム戦ならではのブービートラップやナパーム弾投下,ヘリからの地上掃射などといったギミックがミッションを大いに盛り上げてくれる。
ヒューイヘリからの地上掃射。兵器に乏しいベトコンにとって,軍用ヘリは大変な脅威だったはずだ | 当時のフィルムからの実写映像がミッションのイントロで流れて,プレイヤーの感情移入を促進させる | 戦闘もなく,お遊び気分だった米軍のキャンプに突然,敵の砲撃が降り注ぐ。一気に緊張が高まる瞬間だ |
■さまざまなシーンを盛り込み,プレイヤーを飽きさせない
血しぶきをあげて倒れるベトコン兵士。その多くは大義を抱いた,ただの農民達だった |
むしろベトナム戦争を取り扱ううえで最も困難なのは,ジャングルという非常にオブジェクトの多い景観の再現だと思われるが,緻密な描写をしつつも,さほど重くならない工夫がなされているようだ。実際かなりリアルな描写がなされているにもかかわらず,これまでプレイした同様のゲームの中で最も軽快に動作する部類だろう。ただし低木や茂みといったオブジェクトは,新世代のFPSエンジンのように風でなびいたりはせず,外的要因による物理エネルギーの波及などは見られない。
ジャングルでの戦闘が多い本作だが,意外なことに接近戦はさほど多く発生しない。どちらかといえば,ブッシュや木陰に潜む敵を見つけ出して撃つ,あるいは遠方から突撃してくる敵を撃ちまくるという感じだろうか。しかし難度イージーを選択しても被弾による体力の低下がかなり大きいので,撃たれるとまずいという緊張感は高い。些細だが特徴的なのは,被弾すると体力ゲージが下がるのはもちろんだが,出血によってさらに低下するであろうHP量が追加ダメージとして表示されることだ。ここで包帯を巻いて止血すること(特定のボタンを押し続けるだけ)で,ある程度は体力の低下を抑えられる点だ。消耗した体力は,倒した敵の持っている水筒やメディックパックなどで回復できる。
すべてのミッションで小隊の仲間と行動するわけだが,それぞれの兵士の個性が際立っていて楽しませてくれる。プレイヤーは小隊の下っ端であるため,ほかの隊員への命令はできないが,主要な隊員は基本的に死ぬことはない。このへんは,ほかの多くのベトナム戦争FPSと同じで,ちょっと緊張感に欠ける要素かもしれない。
AIは残念なことに,敵味方に限らず難点が見受けられる。遠近に関係なく敵の位置が把握できない場合があったり,逆に敵の視界外にいても延々と定点射撃が続くなど視野に関する点と,もう一つはプレイヤーが敵を始末するように仕向けるのがあからさまな点だ。つまり敵の数が少なくなると,味方AIはわざと敵に弾を当てなくなる場合が散見された。ゲーム性との兼ね合いゆえに仕方ない部分もあるかもしれないが,この細工がうまく隠せないと興ざめしてしまうのは否めないだろう。
ただし状況に応じて適切な言葉を発するバトルチャッター・オーディオ・システムがシーンを盛り上げたり,AIがうまく遮蔽物を利用してブラインドショットをしたり,用意されている数種類のAIパターンから,敵のランクやクラスによってさまざまな行動,戦術を見せるといった部分は評価したい。また,損傷を受けた部位によって行動に支障が出るのも,うまく描画されている。例えば脚を撃つと,敵は足を引きずりながら逃げていくのだ。
使える武器はM14,M16,AK-47,PPSH41など20種類に及ぶが,携行できるのは4種類のみなので,状況に応じて持ち替えたい。無論,倒した敵の武器や弾薬,回復アイテムなどは拾得できる。ただしこれには死体を探る必要があり,少し時間が掛かるので,敵と交戦しながら武器を探すのは難しくなっている。
銃の命中率は静止した状態でマウスを右クリックし,精細照準モードにすることにより高められる。移動中は照準もぶれるので,スポーツ系FPSのように前後左右に移動しながら撃ちまくるという感じではない。
小川での索敵シーン。水面の描写はかなり良い感じだ。爆発の映り込みにも注目してほしい | ミッション開始前。右上の写真にズームアップしてゆき,スクリプトムービーが始まるという演出が面白い | グロシーン。不用意に歩いていると,ブービートラップによって串刺しやミンチということになりかねない |
味方の砲撃の嵐の中,進軍せざるを得ないのだろうか? 凄まじい爆音と共に地響きで画面が揺れる | 脅威のないただの農民なのか,それともベトコンなのか……ほんの少しの油断や躊躇で命を落とすことに | 夜の河川で,ボートに乗って敵の戦略拠点へ乗り込むステージ。夜は水面の描写がさらに際立つ |
■ベトナム戦ならでは雰囲気をぜひ味わって欲しい
ベトナム戦争では軍用ヘリが重要な役目を果たした。敵の塹壕を攻撃し旋回するヘリを見上げる…… |
内容をざっと見てみると,「マルチプレイヤー・ミッション」は史実に基づいた舞台で防衛側と攻撃側に分かれて得点を競うもの。「サーチ&デストロイ」は先に迫撃砲の部品三つを持ち帰り,敵の基地を砲撃したほうが勝ちというもの。「フロントライン」はあちこちに点在する戦略拠点の攻略を各チームで目指すもの。ほかに「デスマッチ」や「チーム・デスマッチ」はもちろんのこと,通常の「キャプチャー・ザ・フラッグ」に相当する「リカバー・ザ・ドキュメント」もある。多くのゲームタイプが用意されているが,Co-opが用意されていないのが少し残念だ。
MoVは戦場の臨場感や焦燥感の描写が見事で,2015らしいドラマチックなシーン展開が何よりのウリだ。スクリプトを多用したミッション群という持ち味を引き継ぎ,うまくプレイヤーを飽きさせないようにストーリーを展開させている。こういったスタイルは,今後もネタが続く限り続けてほしいと思うところだ。
ゲームバランスとしてはリアル系とランボースタイルの中間といった具合で,どちらのファンにも楽しめるだろう。グラフィックスに関しても情景の描写が見事で,ベトナムの雰囲気を醸し出せている。
難度から見ても,中級あたりの幅広いFPSプレイヤーにお勧めしたい作品といえるだろうか。AIの出来などの関係で上級者には向かないかもしれないが,2015ならではのミッション群はぜひ体験してほしいところではある。結論としては,撃ちまくりのFPSにも飽きてきたし,もう少しだけリアル寄りのFPSもやってみたいな,と感じているプレイヤー向けといえるだろう。
敵の砲撃拠点,敵の潜む森をナパームで徹底的に焼き尽くす……非道ではあるが,味方の命が優先だ | のどかなはずの田園地帯も,今や戦場に。小さな川に架かる橋での激しい攻防。敵兵の姿が遠くに見える | 対空ミサイルランチャーを持つ敵を急いで見つけ出して始末しなければ,味方のヘリが全滅してしまう! |
ヘリで目標地点に到着すると,ゴーゴーゴーの掛け声で一斉にヘリから降りて戦闘体制に入る小隊 | 建物の陰から数人のベトコンが飛び出してきた! VoMでは敵との距離はせいぜいこの程度。接近戦は少ない | 敵の塹壕からの激しい掃射に,反撃の準備を整える小隊。この場合,マシンガンによる制圧射撃が有効 |