エンパイアーズ 〜近代の夜明け〜

Text by halen
28th Nov. 2003

 

 本作のジャンルは,3Dリアルタイムストラテジー(以下,RTS)。RTSというと,最も人気を博したのは「Age of Empires」(以下,AoE)だろうか。発売されたのは今から約6年も前の話だが,いまだに遊んでいる人もいるほどだ。シリーズの続編も模倣品も数多くリリースされ,昔と変わらぬ人気を誇っている。
 そんな歴史を持つAoEのシリーズだが,同作の開発を手掛けたのがStainless Steel Studios社の"リック・グッドマン"という人物。そして彼が放つ最新作こそ,この「エンパイアーズ 〜近代の夜明け〜」だ。前作「エンパイア・アース」(以下,EE)からさらなる進化を遂げてはいるが,スケールの大きさがウリだった前作と比べて,今作では割とオーソドックスな950年から1950年まで五時代を舞台にするなど一味違った印象を受ける。このレビューでは,EEやAoEとの比較を交えて紹介していきたいと思う。

基本に忠実,多彩な特性

ユニットのヒットポイントが半分以下の敵を一撃で倒す能力を備える,朝鮮の"高麗花朗"。こちらは加えて特殊技能"武術"を使用中

 RTSというのはどのゲームも8割方遊び方は同様で,"内政"(資源を集めて国を発展させること)が基になって初めて戦闘が成立する。時代を進化させるにつれて強力な軍事力を得られるようになり,最終的には相手の国家を倒せば勝利になるというシンプルな構図だ。とはいえその過程ではさまざまな駆け引きや戦術が繰り広げられるので,割と脳(?)が疲れるジャンルでもある。そして本作も同様のシステムを採用しており,まさに定番順路を辿ることとなる。

 これだけだとごく一般的なRTSなのだが,本作ではとくに国家,ユニットなどが異色を放っており,国家ごとに異なる特性が備わっている。"国家ボーナス"はほかのRTSでも多く見受けられるかもしれないが,ユニットの特殊能力の多さは圧巻。すべてというわけではないが,ほとんどのユニットが特殊技能をもっていてプレイヤーの指示次第で使用できる。なかには特殊技能とは異なり,デフォルトでユニットに備えついている"能力"をもつユニットも存在する。特殊技能を使うためには,ヒットポイントとは別の"パワー"を消費するので,ここぞ! という場面に用いるためにもプレイヤーの判断力が重要になってくるのだ。
 また,テクノロジーを研究することによって獲得できる"国家機密"という必殺技のようなものも本作は搭載している。例えば,名前通り隕石を落下させる"トゥングスカ隕石"や,全ユニットのヒットポイントを回復させる"エスプリ・ド・コール"など,戦況を左右するといっても過言ではないものも多い。これらは大学で研究可能で,研究が終わった国家機密は画面左上にアイコンが保存され,使用したい場合はクリックして場所を選択すれば可能だ。

くっきりと(?)跡が残るほどの破壊力をもつ,ロシアの国家機密"隕石"。核を落とした時と同じぐらい気分爽快だ 中国は町の中心や軍事ユニット育成所を移動させることができる。写真のコロがついたカートが,地上ユニットを作成する野営地。象もここから生み出されたのだ

 

少し特殊な進化システム

帝国主義時代のイングランド。これからどの国家で第一次世界大戦の時代へ進化するか選択&決定するところ

 最初の時代から最後の時代までまったく同じ特性の国家というのは,RTSの基本デザインではあるものの,もはや最近のRTSではあまり見られないシステムだ。AoEシリーズの最新作「エイジ オブ ミソロジー」でも,進化するときに二つの従神から一つを選ぶシステムを採用している。従神を選ぶことによって,選んだ"文明"の特性(ユニットの種類や能力,テクノロジーなど)を上乗せして強化するというわけだ。

 本作のシステムもそれに類似しているのだが,国家ごと変わってしまうのでインパクトはかなり強い。登場する国家は,中国,イングランド,朝鮮,フランク王国,フランス,ドイツ,ロシア,大英帝国,アメリカ合衆国の9か国。最初の4国家が使用できる時代は最初の時代〜3番めの時代(中世〜帝国主義時代)までに制限されており,後の5国家は4番めの時代〜最後めの時代(第一次〜第二次世界大戦時代)内でのみ使用可能だ。例えば朝鮮を中世から使っているとして,第一次世界大戦へ進化するときにはロシア,アメリカ合衆国,フランスの中から国家選択ができる。ほかの国家も同様に,進化する際には2〜3国家の中から進化したい国家の選択が可能だ。歴史に忠実……のハズが,「実は"仮想"?」と思ってしまったところだ。
 ちなみに,それまでの国家が保持している特性やら作成可能なユニットはどうなるかというと……既に作成済み/研究済みテクノロジーなどはそのまま受け継がれるが,それ以外は新しく選択した国家の特性が丸ごと上書きされる。街の人の顔が急に変わったりしてやや違和感があるところだが,それはそれで慣れると面白い。

便利な対戦専用サーバー

マルチプレイ専用のサーバー。GameSpyの簡単な登録をする必要がある。図のオートマッチを押すとラダーゲームが簡単に遊べる

 本作には,GameSpyを介してオンラインサーバー上で遊べる"マルチプレイモード"が搭載されている(もちろん個人でサーバーとなってIPアドレス直接入力で参加することも可能)。このオンラインサーバー,最近の有名RTSはどのゲームも搭載しており,もはや"あって当たり前"という時代になってきている。昔は,セルフサービスといった感じでいちいち対戦相手を探してからゲーム開始といった流れだったが,今となってはオートマッチメイキングが当たり前にできるようになっているので。本作もご多分に漏れずその機能が搭載されているので,プレイヤーはいつでもアイコン一つでゲームが開始できるという次第。英語でのコミュニケーションも必要最小限で済むし,英語がちょっと苦手な人でも,とりあえず一度は試してみてほしい。
 ……とはいえ正直なところ,この肝心のオンラインサーバー自体のインタフェースがイマイチで,多少使い勝手が悪い。フレンド機能が使いにくかったり,ラダーのランキングをチェックするのにブラウザを開く必要があったり……。まぁ,かなり細かい部分ではあるので気になる人は少ないかもしれないが。

マルチプレイこそRTSの醍醐味

 先日「こちら」に掲載した,リック・グッドマン氏のインタビューからも伺えるように,本作は対戦に力を入れて作られたとのこと。だが(2003年11月中旬時点での)実際はというと,現時点でのゲームバランスは微妙なところ。あけすけに言うならば,対戦部分に力が入っているようには見えないバランス取りだ

空爆中の様子。数多くの飛行機が終結すると多少なりラグが発生してしまうが,気分爽快間違いなし

 通常のRTS同様,ユニットを細かく操作することはもちろん大事だが,問題はそれ以前の部分にある。現状行われている対戦は,いわゆる"早期ラッシュ"に偏った戦術ばかりで成り立っているのだ(開始早々に軍事施設を建築して軍事ユニットを作成,相手の街の人を狙って内政機能を停止させようというものだ)。それに加えて先ほど述べた通り,各国家に備わっている特殊ボーナスが裏目に出ることもある。例えばイングランドの"街の人"はほかの国家と比べて明らかにハイスペックで,俗に言われる"農民ラッシュ"という戦術(?)まで登場してしまう有様なのだ。

 とはいえ序盤のラッシュを除けば,純粋に戦闘を楽しんだり,"操作力"の差も出てきたりと,RTSらしさ全開の戦いが繰り広げられるところは魅力の一つ。操作力からくる恩恵というものが軽視されてるように感じるエイジ オブ ミソロジーなどとは,多少方向性が違う感じだ。
 筆者なりに考える本作の理想のマルチプレイ像は,やはり後期の時代での派手でスケールの大きな戦い。なにも早期ラッシュを完全にできなくしろとはいわないが,勝負が決まってしまうようなラッシュは排除すべきだと思うし,多少は運やランダム要素を増やすなど,不確定要素をもう少し増やしてほしいところだ。そこに関しては,"プレイヤーの意見は90%聞き入れる"と断言しているリックに期待,というところか。

アメリカのボーイングB-29による核攻撃の瞬間。あたり一面は焼き焦げ,一瞬何も見えなくなるほど ミサイルを発射する"BM-13カチューシャ"と,歩兵と騎兵を一撃で倒す能力をもつ"狙撃兵" 細部まで綺麗に描かれている戦艦。戦艦同士の戦いもかなり派手に描かれている

 

RTS好きなら遊んでみるべき一本

シナリオの一面。左下の説明にも書いてあるが,基本的に馬は弓兵に対して有利

 バランスこそ多少難アリだが,ここまで多くの国家特色/ユニット能力/テクノロジーの多さなどを含んでいて,ゲームとして成り立っているのはなかなかのもの。前作にあたるEEは,途方に暮れるほどの壮大な歴史を描いていていま一つピンとこなかったところもあるが,本作はやりすぎでもなく,地味すぎでもなく,時代を進化させていくことが純粋に楽しめる作品だ
 ゲームは好きだけど,遊ぶ時間があまりないっという人でも,スピーディにゲームが進む"アクションモード"があるし,じっくり戦略を練って遊ぼうという人には"ストラテジーモード"がある。時代設定などもプレイヤー側で設定できるようになっていて,既存のRTSよりは遊び方も多いし,何よりも自由度が高い。
 こと"マルチプレイ"ということになると,まだ現状では問題点があることも否めないが,"これぞRTS"という要素が十分に詰まった一本。体験版も「こちら」からダウンロードできるので,一度遊んでみてはいかがだろうか。

 

 

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■発売元:カプコン
■価格:7800円
■問い合わせ先:052-760-0335(平日9:00〜17:30)
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/600MHz以上(1GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(256MB以上推奨),空きHDD容量 1GB以上,メモリ64MB以上搭載したビデオカード(256MB以上推奨),DirectX 8.1以降,ATI RADEON 8500以上推奨
英語体験版
■Screenshots集(#1#2
開発者リック・グッドマン氏インタビュー
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