― レビュー ―
中世ヨーロッパの「王」の苦悩を泥臭く体験できる
クルセイダー キングス 日本語版
(メディアクエスト/ライブドア)
Text by 徳岡正肇(アトリエサード)
2004年12月24日

 

■中世ヨーロッパ・キリスト教社会のシミュレータ

 

クルセイダー キングスの標準的なプレイ画面。黒海のほとりにある小さなcounty(伯爵領)を経営中
 読者諸氏もそろそろこのセリフに食傷気味で,筆者の感慨が伝わらないことをひそかに恐れているのだが,"驚くべきことに"Paradox Entertainmentの傑作「Crussader Kings」の,日本語版が登場した。メディアクエスト/ライブドアの英断に喝采を送る同好の士が,多かれと祈るばかりである。
 「クルセイダー キングス 日本語版」は,中世ヨーロッパキリスト教社会における王=封建領主となって,国を経営していくリアルタイムストラテジーだ。いわゆるゴチャキャラ系のRTSではなく,「ヨーロッパユニバーサリス2」や「ヴィクトリア」と同様に,国盗り系ストラテジーのカレンダーが自動的に進んでいくという意味での"リアルタイム"である。
 ここまで読むと"中世ヨーロッパを舞台にした「三国志」みたいなもの"を想像する人もいるかもしれないが,それはかなり違う。本作において,ヨーロッパの統一などという偉業はほぼ不可能だし,勝利条件にもなっていない。説明書には「勝利のほとんどは,国土の征服,富,威信,信仰心,その他の戦いの目的など,あなた自身のゴールを達成することで成し遂げられます」と書かれている。要するに,「中世ヨーロッパキリスト教社会のシミュレータを用意したので,好き勝手に遊んでください」というのがこの作品のスタンスだ。東はアラル海の一部まで,南はアフリカ沿岸部まで州単位で区切られたヨーロッパの地図を舞台に,自国の内政や他国との外交,戦争を実行していく。

 まず最初に注意しなくてはならないのは,本作では"封建制度"が再現されていることだ。このゲームに登場する封建領主には国王,公爵,伯爵があり,偉さに差はあるものの,基本的にはそれぞれ独立した存在である。したがって,多数の公爵や伯爵を従え広大な領土を誇る王国の国王を選んでも,配下の公爵・伯爵の領土は直接コントロールできない。彼らとその軍事力は"契約上"動員可能だが,それすら忠誠心が低ければ聞いてもらえない。プレイヤーが確実にコントロールできるのは,直轄領だけなのだ。
 自分の家系と領土を維持するのがプレイの前提なのだが,これがそもそも簡単でない。ゲームは約400年間を扱うので,世代交代が生じるわけだが,子供が病気で死んだり,世継ぎが生まれる前に国王が死んだりすることは決して珍しくない。また一口に王位継承といっても,長子単独相続でなく均分相続を慣習とする地方もあって,瞬く間に領土が親族達に分け与えられてしまったりもする。この慣習は変更できるが,それによって損をする配下の離反や反乱を覚悟しなければならない。
 そうやってゴタついているところにモンゴルやイスラムが攻めてきたり,ローマ教皇が「十字軍だ!」などという"たわごと"を吐いたりする。プレイヤーは「なるほど,国王達はこんな現実に取り囲まれて,中央集権化を夢見てきたのか」と思い知るだろう。歴史を体験する,これが本作の醍醐味である。

 

百年戦争時のフランス国王。たくさんの封臣をかかえているのが見て取れる フランス国王の封臣の一人。彼の所領の内政はコントロールはできない チャガタイ・ハーン登場。モンゴル軍は精強で数も多い。単独での対決は無茶だ

 

○で囲まれている紋章は,すべて異教徒のもの。イスラム勢力はかように強力にして広大だ こちらはレコンキスタ中のイベリア半島。イスラム教徒相手だけでは収まらないのがミソ キャラクターの能力表示。陰謀14は素晴らしい。まだ16歳なので,誰かを婿にして活躍を期待

 

 

■封建社会を構造的に再現した政治と軍事


技術の開発。軍事的な技術が立ち遅れていると,戦争はかなり厳しい。イスラムは当時の先進勢力なのでなおさらだ
 王権や外交などといった大上段な視点だけでなく,内政も非常に興味深い。この作品における社会階層は「騎士」(戦う人)「聖職者」(祈る人)「市民」(働く人)「農民」(もっとも働く人)に分類され,それぞれの階層にどれだけの権利を認めるかによって税収が変わる。この比率は軍事にも影響を及ぼすが,それについては後述しよう。
 技術の研究もたいへん重要で,軍事・経済・文化のジャンルごとにさまざまなカテゴリーの研究を行える。技術の進歩は軍事面に格段の差を生むほか,経済的な影響も大きいので看過できないのだが,たとえ研究に成功しても,その成果が所領に広まるには時間がかかる。ある土地で得られた成果が,隣の所領に到達するまでに数年かかった,などというのはよくあることだ。
 研究の成果は,新しい施設の建設という形で領土に反映できる場合もある。例えばガラス工場や染色工場といった施設は税収を向上させるし,大きな城や錬兵場は軍事的ポテンシャルを増大させるが,そこはそれ封建社会,配下の所領に「建設してあげる」ことなど基本的に不可能だ。国内の発展に目を向けない配下には,苛立ちが募ること請け合いであろう。
 自分の宮廷にいる人材にも目配りが欠かせない。登場するキャラクターはすべて,軍事・外交・陰謀・管理という4種類の能力値で表現され,そこにさまざまなスキル,例えば「慈悲深い」「カリスマ的交渉人」やら「心得違いの戦士」「近親交配系統」などなどが付加されて,国政に影響を与える。どういうことかというと,領主は元帥・宰相・諜報長官・執事・教区長官をスタッフとして選抜でき,これらスタッフの能力が領主の能力に加算されるのだ。廷臣たちも寿命で死ぬし,子供も作るので,人材の維持管理は一筋縄ではいかない。例えば次男あたりを隣国の才女と結婚させ,こちらの宮廷に入ってきた彼女を重臣として登用するなどという方法が重要になってくる。
 戦争と軍事も独特で,この時代この社会にふさわしいルールになっている。戦争を仕掛けるには大義名分が必要という部分はParadox Entertainment歴代作品と同様だが,本作で面白いのは,この大義名分の手に入れ方だ。
 まず,相手が異教徒の場合は自由に宣戦布告できる。中世キリスト教と十字軍がモチーフの本作では至極当然の理不尽だ。そして相手もキリスト教国の場合は,目標とする所領の領主に対して,その地位を「自分のほうがもっとふさわしい」と言い掛ける。この「称号の請求権」は子々孫々へと継承されるので,大いなる名声を得た君主は,子孫のためにたくさんの"言いがかり"をつくっておくことが重要だ。
 肝心の軍隊だが,国民軍などというアイデアはまだ存在しない時代なので,時間をかけて集めていくしかない。伯爵達の下にはさらに契約関係にある騎士達がいて,彼らが集まることで軍隊を構成するのだ。所領や経営体と軍事動員がそのまま一体となった中世であってみれば,集まる兵種は社会の階級構造に依存する。騎士階級が多ければ重騎兵が増えるし,市民が多ければ弓兵が多くなるといった具合だ。敵の強力な騎兵に対抗すべく,槍兵中心の軍隊にリフォームしようなどという構想を描いても,実現に百年くらい時間が掛かってしまう。
 戦争の前段階はここまで手が込んでいるが,戦争自体は「見ているだけ」が基本となる。そこはいつものParadox Entertainment流である。

 

戦争画面は基本的に「見ているだけ」。同盟軍の援軍の到着タイミング次第で結果はかなり変わる 陰謀の能力が高い彼を諜報長官に選出。君主が無能なときは,スタッフの力が重要 敵の軍隊の構成を見てみたところ。重歩兵が多いので,弓兵を揃えていきたいところだが

 

称号を請求する試み。この称号を請求するには威信が219必要。現在73……とても無理だ 后がお世継ぎを身ごもる。子供は多いに越したことはないが,多すぎると後継者争いの原因に "情熱"に従うと非嫡出子を得る。通常後継者にはなれないが,人材不足を補うには最適

 


■封建領主の家族誌に暗殺が影を落とす


后は29歳で子供なし。能力的にも見るべきところはない。離婚できない以上,選択肢は限られる……
 そして最後にこれらの要素を巧みに彩るのが,中世ヨーロッパ宮廷に付き物の陰謀劇である。本作ではそれを暗殺という一点に絞り込むことで,非常にブラックかつ興味深く再現している。
 暗殺は,もちろん国外の人物も対象にできるが,むしろ国内の人物に使われる機会のほうが多い気がする。無能な長男と才気溢れる次男,今にも死にそうな国王の3点セットが揃ったら,国家100年の繁栄のためにやるべきことは一つだ。配下の領主の第一継承権が自分にあるなら,配下を暗殺してもいい。その領主が無能なら,なおさらである。
 だがこの"華麗なる宮廷陰謀"を繰り広げていると,きっちり報いも振りかかるらしい。因果関係が表示されるわけではないので推測にすぎないが,宮廷内部で暗殺が横行している場合,そこで育てられた子供には高い確率で「ストレス症状」の特徴が付加されるようだ。これによりキャラクターの能力値が減少するのみならず,「精神分裂症」「憂鬱」などに発展することもある。場合によっては発狂して「バベルの塔を築くのじゃ」と叫んで浪費する,「私はメシアだ!」と言い出して異端になる,その挙句「一生監禁されるなんて!」と一言残して自殺するなど,何もそこまでと思うくらいの災厄が降ってくる。
 暗殺には「露見する/しない」「成功する/しない」の組み合わせで4種類の結果があり,成功したが露見したとなれば,家族間の緊張度は推して知るべしである。無能だと父親に殺される家庭環境が,正常な子供を育てるとは考えにくい。「お兄様はなぜいなくなっちゃったの?」「しーっ!」……だが,そんな環境でも悠然と育つ子供がいるのも事実だし,ビザンティン(東ローマ帝国)などでプレイしていると,あんまり気にせず育つ印象もある。まさか,慣れっこなのだろうか。

 操作はフルマウスでいたってシンプル,キーボードショートカットに頼る必要はほとんどない。最初はパラメータの多さが気になるかもしれないが,慣れるまでにそれほど時間はかからないだろう。というのも,抽象化が巧みに行われているお蔭で,やるべきことが見かけほど多くないためだ。もっとも,最初からKingdomを選んだリすると,広大な領土と多くの(言うことを聞かない)封臣にてんてこ舞いになりかねないので,まずは近くにイスラム以外の異教徒の領土がある伯爵領で始めるとよいだろう。モンゴルが押し寄せてきて国がなくなる頃には,一通りセオリーが身につくものと思われる。
 本作のプレイデータは,そのまま「ヨーロッパ・ユニバーサリス2 アジアチャプターズ」にエクスポートできる。中央集権の見果てぬ夢を本作で抱いたならば,その続きを別のゲームで実現するのも一興だろう。

 さて最後に,やや残念に感じた点を。本作は日本語ローカライズが極めて困難な作品であり,人名や地名がすべて英語で残っているのは正しい判断だったと思う。確かにキャラクターの称号が「King of Bohemia, Duke of Bohemia, Count of Plzen,Praha, Passau, Usti and Labem」などと表示されると,一瞬,日本語版っていったい……と思わなくもないが「BohemiaのKing, BohemiaのDuke, Plzen, Praha, Passau, UstiとLabemのCount」では何の解決にもならないわけで,地名/人名の問題と考え合わせるなら,そのままが正解だ。しかし,さすがにBastard(非嫡出子)を「悪党」と訳してあったり,全文が英語のまま残っているイベントがあったりするのはいただけない。
 本質的でない部分で敬遠されるのは一ファンとして不本意に思えるほど,作品自体の完成度は高く,何度も遊べる傑作ゲームだ。パッチなどの形で早急な対応がなされることを切に願う。

 

えー,重要なスタッフが"精神分裂症"に。これも度重なる宮廷陰謀=暗殺の報いだろうか? 生まれながらにして陰謀10。このまま育ってくれればと祈っても,なかなか成就しない 中世の医療水準など知れたもの。出産に伴うリスクは大きく,哀れ母子ともに帰らぬ人に

 

これもストレスの影響か,突如メシアを自称するハメに。死神のグラフィックスがなんとも…… 異端のメシアのままでいなかったことは,ゲーム上望ましい事態。再びキリスト教に改宗 敵に囲まれまさに危機。だが,隣国を攻め落とせば王朝は維持できる。はた迷惑な努力開始

 

タイトル クルセイダー キングス 日本語版
開発元 Paradox Entertainment 発売元 メディアクエスト/ライブドア
発売日 2004/12/17 価格 8379円(税込)
 
動作環境 Windows XP/2000,Pentium/600MHz以上(Pentium4/1GHz以上),メモリ 256MB以上,HDD空き容量 600MB以上,ビデオメモリ16MB以上(16MB以上推奨),DirectX 9.0以降に対応したサウンドカード,DirectX 9.0以降

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