― レビュー ―
指輪世界の戦争をストラテジーとして興味深く仕上げたRTS
ロード・オブ・ザ・リング バトル・フォー・ミドルアース
Text by 徳岡正肇(アトリエサード)
2004年12月17日

 

■戦闘主体のファンタジーRTS

 

ゲーム冒頭のムービー。プレイ時の画面もこのまま,とはいかないまでも,負けず劣らずの物量と迫力で展開される
 映画「ロード・オブ・ザ・リング」最大の見せ場といえば,やはり大規模な軍隊同士のぶつかり合う,スペクタクルな戦闘シーンだろう。この戦闘シーンのダイナミズムに,原作小説の持つRPG的ニュアンス(ファンタジーRPGの源流の一つが「指輪物語」なので逆説的だが)を巧みに取り入れつつ,ストラテジーゲームとして興味深い作品に仕上げたのが,エレクトロニック・アーツ「ロード・オブ・ザ・リング バトル・フォー・ミドルアース」だ。

 プレイモードとしてはソロプレイ(物語を追うキャンペーンと,自由対戦のスカーミッシュ)およびマルチプレイヤーをサポートする。キャンペーンでは善の勢力と闇の勢力それぞれにボリュームあるシナリオが用意され,対人戦指向でないプレイヤーにも十分楽しめる。
 選択可能な勢力はローハン,ゴンドール,アイゼンガルド,モルドールの4種類。ローハンは機動力に優れ,防御力の高いゴンドール,強力な歩兵を有するアイゼンガルド,さまざまな怪物の群れを操るモルドールと,それぞれに個性的だ。
 生産要素は大胆に簡略化されており,施設や軍隊生産の基盤となる資源は1種類に絞られている。そればかりか,善の勢力にはいわゆる「町の人」が存在せず,資源は特定の建物で自動的に産出されるルールだ。そもそも資源やユニットを生産/備蓄できる施設は,マップ上の決まった位置にしか建造できない。
 それでRTSが成り立つのか不安になる人もいるかと思うが,本作は大規模な部隊が激突する戦争部分がメインであり,戦闘を存分に楽しむために,生産要素はシンプルに仕上げられているようだ。そしてその試みの成果は,キャンペーンモードで遺憾なく発揮される。

 

こちらは通常のプレイ画面。ミナス・ティリスの攻防戦で,城外に騎兵を出したところ。外見は普通のRTSだ チュートリアルはムービーで展開される。システムはシンプルなので,見ているだけでおおむね理解可能だ モリアの坑道でゴブリンの群れに襲われる旅の仲間。第1シナリオからして,すでにこの物量で進行する

 

 

■RPG的な成長/育成要素を持つキャンペーンモード


限界まで鍛え上げられた騎兵。なまじなヒーローよりも強く,重要な働きをする。戦争の趨勢を決めるのは一般兵士である
 映画3本分の物語を背景にしている"指輪モノ"だけあって,本作でもキャンペーンモードが大きな見どころとなっている。
 キャンペーンには善の勢力のものと闇の勢力のものがあり,シナリオごとにどの勢力が使えるかは決まっている。複数の勢力を使えるシナリオもあれば,ヒーローユニットしか登場しないシナリオもある。
 キャンペーンモードでは,ユニットは戦闘によって経験を積み,レベルアップしていく。ユニットは複数人で1単位になっており,全滅しない限り,回復系施設の近くに置いておけば補充されていく。こうして補充を受けたユニットは経験を引き継いでいるので,少なくとも善の陣営ではユニットを大事に育て,歴戦の勇士たちで過酷なキャンペーンを乗り越えていくのが定石である。
 ユニットが成長するというルールは,とくにファンタジー作品としての側面を考えたときに,意義深く感じられる。幾ばくかの資源で"生産"された戦闘ユニットでなく,ともに苦難を乗り越えてきた頼もしい「部下」達という感覚は,従来のRTSではなかなか得られなかった。ユニットに名前がつけられるのも,地味ながら重要な事柄である。  成長ルールはヒーローユニットにも適用されるが,本作のテーマはあくまで戦争であり,勝敗を決するのは一般の兵士達だ。いささか逆説的ではあるものの,ヒーローは,もとより不死身に近い存在であるということなのか,戦闘中に死ぬようなことがあっても本拠地で再生産できるのに対し,全滅したユニットは二度と帰ってこない。作戦ミスで熟練ユニットを失ったときの痛みは,筆舌に尽くしがたいものがある。
 シナリオによっては,自分が育てたユニットが最初は登場せず,一から軍隊を構築し,新兵の群れで戦線を支えるものもある。時間とともに「我が軍」が援軍として到着するわけだが,援軍が到着するまで耐えぬけたときのうれしさ,そこから始まる大反撃の爽快感は,戦争シミュレーションをも愛するプレイヤーにはたまらないものがある。新兵も古参兵も,みんなよくがんばったなあ,という実感とでも言おうか。
 なおシナリオを進めるにつれ,プレイヤーにも経験点が与えられる。これを使うと,ユニットを治療したり特定のヒーローユニットを強化したりという「プレイヤーが使える特殊能力」も増やしていける。ユニットの治療は熟練兵の育成・救出に欠かせないし,それ以外の能力も戦場に重大なインパクトを与える存在なので,ついつい忘れがちなルールだが,ぜひとも積極的に活用したい。
 キャンペーンは,エリアで区切られた中つ国の地図上を転戦していき,どこかのエリアに入るとシナリオがスタートするという形をとる。コンシューマ機のRPGにはよくあるが,最終マップ近くになると,何度でも挑戦できる「レベル上げ専用マップ」も登場するので,部隊の育成に失敗してにっちもさっちもいかなくなることはまずないだろう。

 なお,キャンペーンの各シナリオに設定されたボーナス経験点とその達成条件にはぜひ注意しておきたい。それらを達成していくことで,チュートリアルでは説明が省かれたさまざまなノウハウが身に付くようになっている。チュートリアルは親切であるに越したことはないが,長すぎればダレるのも事実であり,興味深い試みといえるだろう。

 

アイゼンガルドの防衛戦。城壁にはしごを掛けられると,この軍勢が一気に上ってくる。映画同様,爆薬もあるので要注意 ギムリの特殊能力を使って敵を蹴散らす。ヒーローの能力は局地的な戦闘の展開を大きく左右するので,使いどころを見極めたい 部隊に名前を付けるところ。シナリオをクリアした段階で,生き残ったユニットに名前を付けられる。倒した敵の総数にも注目
キャンペーンでは,このようなマップの上で次の進撃先を決定する。獲得したエリアに応じて,味方の生産力や部隊規模などにボーナスが与えられる 善の勢力の特殊能力成長画面。パワーポイントを蓄積していくことで,使える特殊能力の数を増やせる。ツリー構造になっていることに注意してほしい 特殊能力の使用により,不毛の大地が瞬く間に樹木で覆われる。この範囲では闇の勢力が弱体化し,エルフがステルス状態になるなどメリットが多い

 


■騎兵の蹂躙・歩兵の密集隊形が再現された戦闘


ローハン騎兵による突撃で歩兵が瞬く間に蹂躙されていく。画面に出ている+7や+13といった数字は,ユニットに入った経験値だ
 RPG的なテイストがうまく出ている点はさておき,純然たるRTSとしての出来が最も重要であることは論を待たない。そして本作は,RTSとしてなかなかの野心作なのだ。
 最大の特徴は,騎兵によるオーバーラン(蹂躙攻撃)ルールを備えていることだ。散開している歩兵の群れを「轢き潰すように」騎兵を移動させると,進路上の歩兵は鎧袖一触バタバタと倒されていく。やられると実に腹立たしいがやるとかなり気持ちよく,メリハリとストラテジー性の両方を高めるシステムといえるだろう。数に劣る善の軍勢が闇の軍勢を圧倒するには,これをうまく使うことがカギになる。
 蹂躙攻撃を受けないためには,歩兵に密集陣形をとらせ,槍を構えて待ち受けさせればいい。とたんに優劣が逆転し,突撃した騎兵が逆にバタバタと倒されていく。だが密集隊形でい続ければい続けたで,今度は弓兵のよい的にされてしまう。
 三すくみの構図自体はRTSではおなじみだが,ユニット同士の相性でなく,戦闘中にコントロール可能な隊形による三すくみというのが大きな違いだ。さらに本作では部隊が成長するため,従来のRTSのように三すくみなど気にせず物量で押し切ることも難しい。
 加えて重要なのは,各部隊がマウスでの指示に即座に対応できるわけではないという,独特のレスポンス感覚だ。速度を出している騎兵は急カーブも急停止もできず,歩兵は比較的柔軟に対処してくれるが,陣形の変更にはやはり時間がかかる。
 かくして個々の部隊はもちろん,軍全体の陣形も考えて部隊を運用する必要が出てくる。切り札となる部隊をいつ動かすか,こちらの騎兵で敵の歩兵を崩すか,それとも敵の騎兵突撃へのカウンターとして温存するか,空を飛ぶ敵には弓兵か魔法使いが必要になるが,打たれ弱い弓兵をどこまで前に出してよいものか,選択肢とその組み合わせはとてつもなく多い。
 ボードゲーム時代のウォーシミュレーションを遊んでいた人なら,本作が"ナポレオニック"(ナポレオン戦争モノ)のルールをうまく取り込んでいることに気付くだろう。紙のコマと地図とルールブックゆえの煩雑さまでは引き継ぐこともなく,まずは見事なアレンジと評してよい。
 生産関係のルールは極限まで簡略化されている割に,きちんと決断要素を含んでいる。資源が乏しい序盤はとにかく生産設備を作るとして,中盤以後,弓兵や騎兵を増やしたいときにはどうするか。施設を作れる場所が決まっているということは,必要に応じて建て替えていくしかないのだが,施設は生産成績に応じて能力を向上させていくので,"育った"施設は大事にしたい。部隊の耐久力を回復させる施設や,部隊の能力を強化する施設はほしい。RTSにおける生産のエッセンス,バランスと時期に応じた方針転換を,うまく拾ったシステムである。

 グラフィックスは美しく,かなり芸も細かい。クロスボウと弓で射撃モーションが違うのはもちろん,急カーブをきった馬は騎手ごと大きく傾き,通常の矢から火矢に装備転換すると矢の弾道が変わる,空からの攻撃で叩き潰されたユニットは,通常と異なるモーションで倒れる,といった具合である。
  やや気になった点といえば,シナリオ開始前のデータローディングに比較的時間がかかることくらいであろうか。この作品では,プレイヤーのPC環境に合わせて自動でオプション設定がなされるのだが,とくにグラフィックスの精度を意図的に上げると,ローディング時間が急激に伸びる。  本作のグラフィックスはかなり凝っているだけに,できれば最高状態でプレイしたいところだが,筆者のPentium 4/3.0C GHz,メモリ 512MB,GeForce FX 5800という環境では5段階の"中"が適正らしい。実際,最高段階に上げたときの待ち時間は相当なものだ。いやここはむしろ,オプションの調整で広いPC環境に対応していることを誉めるべきなのかもしれないが。
 ともあれ本作はよく出来たRTSである。指輪ファンはもちろんのこと,RTSが好きな人,また,さすがに多くはないと思うがナポレオニッカーを自認する人にも,ぜひプレイしてほしい秀作といえよう。

※本稿初出時にあった,本作で「各部隊にショートカットキーを割り当てられない」旨の誤記載を訂正しました。(2004年12月20日23時30分)

 

要所要所での隊形変更が,部隊の生存率と発揮戦力に大きな影響を与える。全滅覚悟の部隊なら,最初から攻撃力向上で 騎兵が馬首を返すのには時間がかかる。画面は,いま,まさに騎兵全軍が進行方向を180度変えようとしているところだ シナリオ終了時の得点集計画面。タイムボーナスは問題にするほど大きくないので,とくに急いで先に進める必要はない
ウルクハイの弓兵が空から襲撃される。鷹の突撃にはオーバーラン効果があり,さらにユニットを1体掴んで投げ落とす厄介なものだ アイゼンガルドの大部隊が,彼ら自身が運搬していた爆薬で壊滅する。爆薬は火矢に極端に弱いので,注意が必要である ガンダルフの魔法。魔法それ自体の威力も絶大だが,電撃が空気を歪める様子もきっちり表現される。グラフィックの精度は高い

 

タイトル ロード・オブ・ザ・リング バトル・フォー・ミドルアース
開発元 Electronic Arts 発売元 エレクトロニック・アーツ
発売日 2004/12/16 価格 8379円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP/2000(+DirectX 9.0b以上),CPU:Pentium 4/1.30GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:32MB以上,HDD空き容量:4GB以上

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