― レビュー ―
大迫力歴史RTSシリーズの3作めが日本語化されて登場
ローマ:トータルウォー
Text by 星原昭典
2004年12月24日

 

■会戦の雰囲気を体感できる「Total War」の最新作

 

1000体以上のユニットが戦場を埋め尽くす様子には圧倒される。この戦闘の迫力こそが,本作の最大の魅力である

 本作「ローマ:トータルウォー」(原題 Rome:Total War)は,イギリスのCreative Assembly社が開発した3D RTSゲームだ。Total Warといえば世界的に有名なシリーズであるだけに知っている人も多いだろうが,まずは本シリーズがどのような内容なのかを軽く解説しよう。

 

 開発元のCreative Assembly社は,2000年に「Shogun:Total War」(邦題 ショーグン トータル ウォー)という作品を開発した。これはShogunという名が示すとおり日本の戦国時代をテーマとしたストラテジーゲームで,3Dグラフィックスで描画された非常に多くのユニットが,リアルタイムで動き回ることがセールスポイントとなっていた。
 このShogunには,もう一つ特徴があった。それは,当時人気を博していたリアルタイムストラテジー作品のほとんどが「資源収集→それを使ってユニット生産」というゲームスタイルを採用していたなかで,生産要素を廃したピュアな"戦術"を楽しめるゲームとして作られていたことだ。
 幸いShogunは多くのファンを獲得し,Creative Assemblyは「Total War」の名を冠した次の作品「Medieval:Total War」でも成功を収める。これらの作品で得たノウハウを生かしつつ,数々の改良を加え,満を持してこのほどリリースされたのが,本作である。
 今度の舞台は紀元前のヨーロッパ。プレイヤーは当時存在した一勢力となって戦いに臨むことになる。もちろん,"生産要素のないピュアな戦術を楽しめる"という仕様は健在だ。

 

 日本国内において,Shogunはエレクトロニック・アーツ,Medievalはサイバーフロントがそれぞれ発売してきたが,今回のRomeはなんとコーエーが発売する。言うまでもなくコーエーは国内PCゲームの雄だが,これまで英語圏のタイトルのローカライズには縁がなかったメーカーだ。そのコーエーがこの海外タイトルをどう料理するのかも,日本のゲーマーにとっては興味深いところだろう。

 

 

勢力によって兵科のレパートリーや得意分野が異なる。モーションも多彩なので,つい一部隊一部隊をじっくり観察したくなる 軍団は広いマップ上をじりじりと進んでいく。先の先を読みながら,自軍に有利な形へと兵を展開させていく 砦の門扉へと向かう破城槌。ゲーム内にはこれ以外にもいくつかの攻城兵器が存在しており,城攻めを楽しめる

 

 

■キャンペーン部分はターンベースのシミュレーション


帝国キャンペーンの舞台はイタリアを中心とした地中海世界。町を攻め落としていくことで,自勢力が拡大していく
 

 本作にはいくつものプレイモードが用意されているが,これらは遊び方によって二つに大別できる。一つは,町の運営と軍備の増強,そして戦闘を繰り返すことでヨーロッパ全土の制覇を目指すキャンペーン。もう一つは,内政要素をまったく気にせずに,軍団同士の戦いを純粋に楽しむ遊び方だ。

 

 キャンペーンでは,プレイヤーは一つの勢力を担当し,その運営を手がけていく。この部分はいわゆる「ターンベースのシミュレーション」である。ヨーロッパ全土を模した全体マップ上には拠点となる町が存在し,それを次々に制圧していくことで自勢力の領土を拡大する。
 勢力下の町からの税収は自分のものになるので,それで軍備を整えてはまた攻めるという繰り返しだ。町を発展させればさせるほど,そこから見込める税収は高くなるので,プレイヤーは有益な施設を建造したり,住民の不満が高まりすぎないように税率を調節したり,交易ルートを整備したりといった内政を行っていく。
 つまり,"生産要素がない"と先ほど書いたが,厳密には,キャンペーンに限れば生産要素は"ある"ということになる。ただ,この内政によって財政を充実させる部分は,一般的なRTSでいうところの"生産"とはまったく趣(おもむき)を異(こと)にするものだ。各"町"に対してコマンドを実行し,すべて終わったら"ターン終了"のボタンを押して次へ進むというゲームの進め方も含めて,プレイ感覚は「信長の野望」や「三國志」など国産(というかコーエー産)の歴史ストラテジーにとても近い

 

 プレイヤーが選択できる勢力には,"ギリシア人" "ガリア人" "エジプト人" "マケドニア人"などが用意されているが,タイトルにもなっているローマ人だけは,"ローマ人のユリウス家" "ローマ人のブルトゥス家" "ローマ人のスキピオ家" "元老院とローマの人々"と四つの勢力に分けられており面白い。
 ただし1回めのプレイでは,プレイヤーはローマの3家しか選択できない。もちろんこれらはそれぞれがローマ勢力の一部なので,"基本的には"元老院には逆らわないほうがいい。元老院は次々と任務を命じてくるので,それを成功させて評価を得ることも必要だろう。
 しかし,外へ外へと領地を拡大し,自家の力が増してくるにつれて,これらの勢力が邪魔に見えてくることもあるかもしれない……。そのときには,大いなる目標達成のために,起こるべきことが起こるというわけだ。

 

統治者の主な仕事は募兵と建設。人口が増えると領地レベルが上がり,より有益な建物を建築できるようになる 元老院からは都市の奪取や港の封鎖といった任務が与えられる。成功させれば元老院およびローマ市民の信頼を勝ち取れる 直接攻め込む以外に,敵が音(ね)を上げるまで周囲を包囲し続けることでも都市を落とせる

 

 

■"戦術に長けたほうが勝つ"という快感

 

戦闘パートでは,純粋な操兵の腕前が問われる。とくに瞬発的な突撃が可能な騎兵の使い方は重要だ

 キャンペーンで配下の"将軍"に兵を持たせ,マップ上の敵勢力の町や部隊のもとに向かわせると,戦闘が発生する。この戦闘こそが本作の最も面白い部分だ。ゲーム自体が,キャンペーンにまったく触れることなく,この部分だけを楽しめるように作られていることからも,それはうかがえる。

 

 多くのストラテジーゲームでは,大きな軍隊と小さな軍隊が戦った場合,たいてい大きな軍隊が勝つ。しかし本作では,兵の運用の仕方や陣形の選択……つまり"戦術"を駆使することで,それをひっくり返すことも可能である。
 さらにいえば,同数の軍隊同士で戦ったときには,"戦術に長けたほうが勝つ"。もう一度強調しておきたいが,マウスさばきの速さでも筋肉の横断面積の広さでも足の長さでもなく,"戦術に長けた者が勝つ"のだ。この部分こそが,もう男子としてはたとえようもなくエキサイティングなのだ。

 本作でも,よくある兵種間の相性は存在するが,単純な"三すくみ"や"四すくみ"にはなっていない。戦力投入のタイミングや攻撃を行う方向,陣形などによって戦闘の結果は変わっていく。やはり"ものをいう"のは,兵の運用方法/戦術なのだ。そしてその戦術を組み上げるうえで重要なのは,"機動力"と"士気"である。


 本作では,部隊が攻撃を受ける方向が非常に重要だ。正面から来る敵にはひたすら頑健な長槍兵でも,側面や背面から攻撃には弱い。そこで,いかに相手よりも良いポジションをとるかが大切になってくるのだが,足の遅い歩兵同士では,やはり乱戦にならない限り敵と正面から向かい合うことになるケースが多い。
 しかし,高い機動力を持つ騎兵をうまく操れば,敵の側面や背面をつくことも不可能ではない。騎兵をおとりとして使い,敵兵力を分断するような作戦も考えられる。瞬発力のある騎兵をどこに配し,どう動かすかは,どのような戦いでも勝敗を左右する要因となる。

 

 また本作では,不利な状況に立たされた部隊はモラルが低下し,勝手に敗走を始めてしまう。これが実にやっかいだ。本隊から離れたところで突撃のタイミングを計っていた騎兵が,ちょっと突かれただけで敗走してしまったり,敵の主力部隊を受け止めていてほしい歩兵が,まだ余力はありそうなのに逃げ出してしまったりといったことが起こる。そうなれば当然,あらかじめ練っておいた作戦は見事に失敗する。
 なかには,特別に相手の士気をくじきやすいユニットも存在する。象騎兵や戦車がそれだ。これらと戦うときには,いつも以上に士気のことを計算に入れて作戦を立てる必要がある。

 

 本作にはこのように,通り一遍のストラテジーゲームでは味わえないような,とても"現実らしい"要素が組み込まれている。プレイ感覚も見た目以上に独特で,これまでにTotal Warシリーズに触れたことのないRTSファンがプレイすれば,大いに好奇心を刺激されることだろう。こと戦闘に関する部分は,世界屈指のこだわりと奥行きをもった作品だと言える
 ただそれ以外の部分では,プレイしていて困ったこともあった。最も困ったのは,ヘルプに簡単にアクセスできないことだ。とても多くの勢力とユニット,魅力的な特殊能力が用意されている本作だが,その細かい性能や能力値などを確認するのが結構面倒で,マニュアルにもそのあたりの記述はない。
 もっとも,そのような利便性に関する不備は,本作のような"作り手のこだわり"をとても強く感じるタイプにゲームには珍しいことではないので,筆者は「ちょっと苦笑い」程度で流してしまえるのだが,このようなちょっとした配慮の不足が本作のような良作の間口を狭めていると思うと,少し悲しい。

 

 ローカライズに関しては,何一つ不満を感じることはなかった。先述のようにキャンペーンのプレイ感覚はコーエーの歴史ストラテジーに通じるものがあるので,これまで海外産のゲームにあまり触れてこなかった"国産派"のプレイヤーでも,このローマ:トータルウォーにはすんなりと馴染めることだろう。

 

ガリアの地を蹂躙するカサエルの軍勢。町は,その中心にある広場を一定時間確保すれば陥落する デストゥード隊形で守りを固める歩兵。多くの部隊はこのような特殊能力を持っているので,有効に活用したい 一部の勢力が利用可能な象騎兵。それ自体が強力なのに加えて,敵方の士気をくじくという特性を持っているためとにかく強い

 

部隊旗が白くなっているのが,敗走中の部隊。敗走は他部隊の敗走を呼ぶきっかけにもなるようなので,できるだけ抑えたい マルチプレイ。1対1の戦いはストレスなく楽しめたが,さすがに5人,6人でのプレイとなると処理が遅くなってくる 歴史上の有名な戦いを再現した単発のマップも用意されている。歴史ファンにとっては魅力的な要素だろう

 

 

タイトル ローマ:トータルウォー日本語完全版
開発元 Creative Assembly 発売元 セガ
発売日 2006/09/28 価格 8140円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0b以降),CPU:Pentium III/1.0GHz以上,メインメモリ:256MB以上,グラフィックスメモリ:32MB以上,HDD空き容量:2.9GB以上

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