松本隆一の「幸せ家族計画」



「幸せ家族計画」も今週で終わりである。2か月ほど続いた連載だが,それでもゲーム全体のごく一部の上っ面を紹介できた程度。極めようと思えば,1年でも遊んでいられそうだから,奥が深い。というわけで,家族も増え,前の家が手狭になってきたので思い切って引っ越しをすることにした。新しい家って,気持ちいい
 幸せ探して45年。アルマーニのよく似合うロマンスグレーのナイスミドルであるこの私がお届けする「ザ・シムズ2」のプレイレポートだ。ええ,見えないと思って適当言ってます。
 さて,ほぼぶっつけ本番ながら,なんとかここまで続いた本連載も,編集部の注文通りの8回め,つまり最終回となった。感動の大団円である。皆様,ハンカチのご用意はよろしいですか? なにしろ今回の「ザ・シムズ2」はシム人が誕生し,成長し,やがて一生を終えていくという人生シミュレーション。独り者として作成したため,子供時代をすっ飛ばし(未成年は同居する家族が必要),いきなり成人でスタートしたマイキャラ"マツモト"ではあるが,前々回で老境に達し,いよいよ命旦夕に迫った。よって,どういう風にこの記事が終わっていくのかは,おおよそ察しがつこうというものである。

 マツモト,というか私が気にかけているのは,メイドさんのメリッサもさることながら,妻と二人の子供達のことだ。彼ら,長男のジョージと長女のヒラリーは順調に育っている。前回も書いたが,二人とも十代になったら,さすがに同じ部屋に寝かせておくわけにはいかない。年頃になればいろいろあるだろうし,ということで,思い切って引っ越しを敢行した。ご近所画面から「家族を移動させる」を選び,空いている家に移動させるだけなのだが,あらかじめ移動したい家を選んでおかないと,一旦転出してしまうともう後戻りできないし,また,家具その他は一切持っていけないので,そのへん,気を付けよう。

 家具なんてのは買い直せばいいし,願望ポイントが十分あれば「願望の報酬」(最重要アイテムは,もちろん「愛のバスタブ」)は何度でも手に入る。ただ,痛いのは「キャリアの報酬」だ。どうもこれは,一旦ゲットしてしまうと二度と手に入らないようで,軍隊時代にもらった「エグザート製自己気合入れ障害物コース」とSWAT時代にもらった「プリントチャーミング指紋スキャナ」を失ってしまうのが惜しい。今さら別のキャリアに進んでも限界があるだろうし,どちらもそれなりに面白く役に立ったのに残念である。なにか第三者を使ったうまい作戦があるらしいのだが,今回は,「まあいいだろう」ということにした。

小さなヒラリーも十代に。"名声願望"に設定したので,パーティをやりたがったり,着飾りたがったりと,ちょっと面倒かも。家族で出歩いてみたんだけど,ベロナービルの公共施設には洋服屋さんが見当たらないんだなあ


両親のDNAを受け継ぐ,というのが「ザ・シムズ2」の最新フィーチャーの一つだが,あんまり感じないなあ,というのが正直なところだった。とはいえよく見ると,父と息子,不満の訴え方がそっくりだ。変なところ似るなよ

 新しい家には二つの棟があり,一方に子供達,もう一方にマツモト夫婦を住まわせることにした。これで子供達も大喜びだ。で,ものは試しなので,力一杯えこひいきしてみることにした。2階のヒラリーの部屋にはPCあり高級ダブルベッドありなのだが,1階のジョージの部屋には300ドルの安物ベッド一つだけと,とっても殺風景。階段の下で暮らしていたハリー・ポッターみたいだ。オレがやらせてんだが。
 とはいえ彼らに「自分の部屋」という概念はあまりないので,ジョージのやつ,空いていればヒラリーのベッドで寝てしまい,結果としてあまり影響がないような気もする。

 さらに,ジョージには宿題もやらせずのほほんと遊ばせ,ヒラリーは積極的にスキル上げを行い,願望も出来る限り叶えるといった方向で育ててみた。なんとなく可哀想な気もするが,ジョージは変な顔だから仕方ないのである。
 とはいえ,これまた思いもかけない方向に進む。キリキリ育てたおかげでヒラリーの成績はいいが,そのぶん「楽しさ」はいつも不足気味。ジョージは「衛生」も「体力」も「便意」もいつも半分以下というババっちい十代で,成績も悪夢のF。とはいえ,そういう基本的欲求は本人が勝手に充足するし,彼の願望は「お金を稼ぎたい」(成績が悪くてバイト不可)とか「私立学校へ行きたい」(成績が悪くて無理)とか,もとよりどうにもできないことばかりなのでどうにもできないのだ。しかも,ほっといたらいつの間にかピアノを覚え,創作スキルがみるみる上昇,ショパンのノクターンなんか軽く弾きこなすし,家の雑用ばっかりやらせていたので,掃除のスキル,料理のスキルなどがどんどん高くなってしまった。対してヒラリーは,いつも楽しさ不足で学校に行くため,ちょっと油断するとすぐに成績が下がり,とってもセンシティブなお子様になってしまったようだ。
 「長女が今年,短大を卒業しました」という大学時代の友人のメールを思い出しつつ,「うん。子育てって,大変だよねえ」と彼女イナイ歴約半世紀の私は,モニターの前で訳知り顔で頷いてみるのである。

やや野放しにして育てたせいで,すっかり頭が悪くなってしまったジョージ。顔にもなんだかブツブツが出来てしまったし,困ったもんだ。とはいえ,それでもちゃんとそれなりに大きくなってくれるのだから有り難いもの

 そんなヒラリーもやがて十代になった。試しに水着にしてみたら,なかなかいいではないか。お顔は父親似で,やや評価の分かれるところかもしれないが,はつらつティーンエージャーである。相変わらず,世話を怠ると成績が下がってしまうのが大変だが,やっぱ,これって手のかけすぎなのだろうか。なにしろ,バカだったジョージはなんにもしてないのに,いや,むしろ積極的に学校をサボらせたりしていたのに,勝手に利口になって勝手にAの成績を取ってくるようになったではないか。うーむ。
 しかも,驚いたことにメイドのメリッサとまで仲良くなる始末である。

 このごろ,マツモトとメリッサの間はうまくいっていない。かろうじて「惚れている」状態は維持しているものの,親密度はなぜか下がる一方。キスしようとしても,軽くかわされるし,ダンスを一緒に踊ろうとしても,嫌がられる。これは,も,もしかして……,ジョージのせい? となると,禁断の愛プラス親子の愛憎劇である。
 なんというか,こうなっては,もはや私の守備範囲を大きく逸脱しつつあり,あまりにも経験不足ゆえ,これ以上の管理は不可能だ。あんたが悪いんだ,メリッサ! と,思わずモニターを指差す私である。いっそのことクビにしちゃおうかと思ったが,面白そうなのでそのままにしておく。なんだかますます昼メロみたいになってきた。着メロなら楽しいが,昼メロは難しい。

宿題をやったり火事を出したり,ピアノを弾いたり,メイドのメリッサを親子で取り合ったり,「愛のバスタブ」に浸かってたわいない話をしたり,なんでもない日常が騒々しく続く。だが,それが永遠に続くわけでないことは分かっていたのだ。マツモトに来るべきものがやって来た。失って始めて分かる小さな幸せ。生きていてこそ



死神がマツモトを連れて行き,あとにはなぜかフラダンスを踊る二人が。実を言うと,何度か死神のシーンを繰り返してみたのだが,フラダンスが出たのはこの1回だけ。どういう条件で出るのか興味津々だが,それにしても,すっとぼけたあの世への旅立ちである
 だが,成り行きを見守るにしては,マツモトの残り時間が少なすぎた。一時,就職したものの,大して昇進できないことが分かってすぐに辞め,今はずっと家にいるマツモト。子供達が学校から戻り(いつものようにヒラリーは好成績を収め,それを大喜びでマツモトに報告する),妻もまたまた出世して戻ってきたので,お祝いも兼ねて一人で七面鳥を料理していたある夜,不意に死神が訪れた。
 死神はすっかり砂の落ちてしまった砂時計を見せ,マツモトの残り時間が尽きたことを伝える。狼狽して砂時計をひっくり返そうとするマツモトだが,それもかなわず,彼はうなだれて消えていく。それを知って,さめざめと泣くソーシャルワーカーちゃんと二人の子供達。マツモトは,すでに小さな骨壺になって床に置かれている……。
 と,こんなふうに,まことにあっさりと彼は死に,市井の人,ベロナービル在住の小市民マツモトの一生はあっけなく終わってしまった。

 そう,間違いなく,マツモトは取るに足らない人物だった。むしろ,自己主張の激しい気難しいヤツで,モンスターを退治した勇者でもなく,凄腕の暗殺者でもなく,戦争の英雄でもない。だが,そのような男でも,家族は悲しみ,涙を流してくれる。
 そうかもしれないなあ,と私はモニターの前で腕を組んだ。その人生が幸福だったかどうかは,死んだときに泣いてくれる人がいるかどうかで決まるのかもしれない。人数の多寡やその人との関係は問題ではない。誰か一人でも心から泣いてくれれば,その人生はそれなりに幸せだったと言えるのではないだろうか。そういう意味で,マツモト一家は,間違いなく「幸せ家族」だったのだ。そう思いたい。さようならマツモト。数々の思い出と共に,あんたのことは忘れないよ。天国でもお幸せに。

順調に昇進を続けるソーシャルワーカーちゃんに比べ,おとっつぁんは相変わらず女の子に目がない。バージニアちゃんを誘ってデートしたり,メリッサといちゃいちゃしたり。とはいえ,いい結果がついて来ないところに彼の一抹の寂しさがあったりなんかするんですがね

嘆き悲しむ家族を見ていると,さすがに私も悲しくなってくる。何にも増して,みんなを残していくのが心残りだ。でも,残された家族もいつまでも泣いているわけにはいかない。お腹も空くし,トイレにもいきたくなる。彼らの生活は続いているのだ



4人で仲良くダンスを踊るマツモトの幸せ家族。できれば,私のPCの中で永遠に幸せのダンスを踊り続けてほしい
 と,私は立ち上がったが,いや,まだだ,そうはいくか,と慌てて座り直した。セーブをせずに終了し,今度はマニュアルにも載っている禁断の秘技を使用して加齢を停止する。当然,死神は出てこない。次いで,取り急ぎ彼の願望を次々に叶える。だいたいが「ソーシャルワーカーと話す(+500)」「チリコンカルネを食べる(+500)」みたいなチャチなのが多いので,どんどん叶える。そのシワ寄せはただちに家族に及び,ソーシャルワーカーちゃんは出勤もできずにマツモトに付き合い,二人の子供達は空腹のまま登校していく。でもまあ,ちょっと我慢してくれ。お父さんの命がかかっているのだ。
 願望メーターがゴールドになったら,「願望の報酬」で「命のエリクサー」を購入。もう,ラッパ飲みである。ガンガン飲むと,あ〜ら,霊験あらたか,マツモトの残り時間がどんどん増えていくではないか。よしよし。まずはひと安心,ということで加齢を再開する。でないと,子供達が成人になってくれないからだ。

 なにしろ,まだやり残したことがいっぱいだ。少なくとも,子供達が家を出て,家族を持つところぐらいは見せてやりたい。孫の顔も見せてやりたい。孫を思いっ切りスポイルして育ててやろうと計画しているのだ。やはり,メリッサと「ウフフな事」もしよう。絶対するのだ。女は妻しか知らない,というのは,まあ,それはそれで潔いかもしれないが,私がそうなりそうだから,マツモトにはそうなってほしくないのである。幽霊も見たことないし,宇宙人にさらわれたこともない。バージニアちゃんだって,まだまだ諦めてはいないのである。データセットが発売になれば,妻と一緒に湖とかリゾート地とかへ遊びに行けるかもしれない。二人で過ごす黄金の老後である。そのうえで,再び死神がやってくるなら,それはそれで仕方ないであろう。だが今,このまま往生させるわけにはいかない。させるものか!

 というわけで,マツモトの幸せ一家は,まだ私のPCの中でトイレとか食事とか,まことに小さい小さいことで右往左往しているのである。私もまだまだ彼らをかまい続ける予定。いずれまた,機会があったら,彼らのその後をお伝えしようと思うが,今日のところはこのへんで終わりにしよう。ありがとうございました。


■■松本隆一(ライター/学生)■■
アメリカで学生生活を満喫中(でもテストは赤点ばかり)の松本氏は,なんでもこの12月に,一時的に日本に帰国するという。別に,正月は実家で過ごそうというわけでもないようで,理由はなんと,歯を治療するため。連載第6回で「アメリカでは歯の治療代が高い」と書いてはいたが,飛行機代のことは頭にないのだろうか? 異性の目が気になる大学生(45歳)なのに2か月も前歯が欠けた状態でいいのだろうか? ま,なんにせよお帰りなさい。日本で会いましょう,治療前に(ここ重要)。


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