CONTRACT J.A.C.K.

Text by 松本隆一
3rd Feb. 2004

 

■NO ONE LIVES FOREVERシリーズに外伝登場!
    その名も「CONTRACT J.A.C.K.」

プロの殺し屋,ジョン・ジャック。ゲーム中のサウンドはNOLF2の使い回しが多いようだが,オリジナルのテーマ曲は相変わらずいい感じ
 フリーの殺し屋ジョン・ジャックの次の仕事は,犯罪組織H.A.R.M.のエグゼクティブ・オフィサー,ドミトリ・ヴォルコフの依頼を受け,対立するイタリアの犯罪組織"デンジャー! デンジャー!"の秘密作戦を暴き,それを阻止することだった。
 というのがここで紹介するFPSゲーム「CONTRACT J.A.C.K.」(以下,CJ)の,あまりにも大ざっぱすぎる内容説明だ。

 いうまでもなく,このCJは,2000年に発売されて大ヒットした「THE OPERATIVE:NO ONE LIVES FOREVER」(邦題「ノーワン リブス フォーエバー」。以下,NOLF1)と,2002年に発売され高い評価を受けた続編「NO ONE LIVES FOREVER2:A SPY IN H.A.R.M.'S WAY」(邦題「ノーワン リブス フォーエバー2」。以下,NOLF2)に続く,シリーズ3作め。
 とはいえ,前2作で主人公を務めた美貌の女スパイ,ケイト・アーチャーは登場むにゃむにゃ(←ここらへん,ちょっと微妙)で,今回の主役はマッチョな殺し屋ジョン・ジャックということになった。ちなみに,ジャックとは彼の名前であると同時に"Jast Another Contract Killer"(ただの,もう一人の殺し屋)の略称でもあり,このゲームの置かれた微妙な立場をなんとなく物語っている。
 話せば長いことながら,NOLF1のメガヒットを受けて登場したNOLF2は,辛口評価の多い海外ゲームサイトやPCゲーム雑誌(取り上げたゲームがつまらないと,100点満点で5点とか平気でつけちゃって,そもそもなんで取り上げたんだ? って感じがするほど辛口)などで非常に良い評価を得,2002年のゲーム・オブ・ザ・イヤーに選出したサイトや雑誌も一つや二つではなかった。
 かくいう私も,オレ的ベストゲーム2002年,FPS部門で堂々1位を与えているほどの熱烈なファン。ちなみに,その年はサードパーソン・シューティングの当たり年でもあり,ベストワンには「グランド・セフト・オート III」と「マフィア」が同率で,そのうえ発売は2003年の初頭にはなるものの「スプリンターセル」がすぐに続き,う〜むますます選択に困ったぞ。って,そんなこたどーでもいいか。


手に持ったフラッシュパンを投げつけ,敵の視界を一時奪うことができる。視力を失った敵の動きは,なんというか,ドリフのコントを見ているようでもある 月基地で活躍するのがこのレーザー銃。緑色の光線が飛び交う景色はまるで「スター・ウォーズ」。弾倉の交換が一瞬なので使いやすいが,それほど威力はない 狙撃ライフルのスコープに捕らえられたチェコ軍兵士。狙撃ライフルはボス戦でも活躍する重要な武器だが,それほど頻繁に登場しないのが残念


■主役は,ただの,もう一人の殺し屋

ライバルの殺し屋,ルイ・フランコの部下に捕まったジョン。だが,あっさり脱出して,次々に襲いかかってくる敵を皆殺しにする。序盤の練習ミッションだ
 ところが,そんな専門家筋の高評価にも関わらず,NOLF2は前作ほどヒットしなかったようだ。理由は,私にはよく分からない。NOLF2の特徴は隠密作戦と撃ちまくりアクションを高い次元で両立させ,そこにハイブロウなジョークとギャグをあしらい,'60年代のキッチュ感覚で味付けしたところにあった。……言ってること,分かります?
 もしかしたら,仕事でゲームをやっていない人のほとんどは,人をバンバン撃ち殺すのに「'60年代キッチュ感覚」よりは,もっとシリアスな設定のほうがピンと来たのかもしれない。フォーラムなどでは,「NOLF1のほうが面白かった」という意見も多かったようだ。
 今回のCJは,そんなゲーマーの動向を探るためのゲームなのである。と言い切っちゃうほど自信はないので,「だろう」ぐらいにしておくが,難しいと思われがちなスニーク要素を除外して単純シューティング仕立てにし,どのくらいの評判が得られるものかをメーカーとして確認したかったのだと思う。
 だからジャックの名前が「ただの,もう一人の殺し屋」であるというのは,いささか意味深なのである。

 制作に当たっているのは前2作と同様,Monolith Productions。技術力に定評のあるFPSのトップデベロッパだ。描画エンジンであるJupiterエンジンも,現在の扱いは別会社だが,元々は自分達で開発したもの。近頃の描画エンジンのように,Jupiterも単純なサブルーチンのライブラリではなく,開発環境を含むミドルウェアになっているらしい。って,ま,何言ってんだか自分でもよく分かってないんですけどね。
 ちなみにCJは,アメリカでは29ドル99セントのバリュー価格で販売されている。
 プレイ時間は,これもまたあちらのフォーラムなどでいろいろいわれていることだが,だいたい10時間前後とかなり短め。やってもやっても終わらないという印象の強かったNOLF1とはえらい違いで,CJの場合,FPSに慣れたゲーマーなら1日程度で終わってしまうだろう。
 シングルプレイに軸足をおいたゲームだが,むろんマルチプレイも可能で,"デスマッチ" "チームデスマッチ"というお馴染みのモードのほか,チームで最終兵器のパーツを集める"Doomsday",攻守に分かれ,特定のターゲットの破壊を巡って戦う"Demolition"の4モードが用意されている。


後半は,スノーモービルに代わってこの有名なスクーター,ヴェスパが登場。こいつもまた操縦が難しいものの,両サイドに機関銃を乗せ,ある程度の狙いは勝手につけてくれる

背中に大きなドクロのマークのついたつなぎ服。オートバイ用のヘルメット。サングラスにパンタロン。そして白い靴下がおしゃれなアクセント。イタリア訛りの怪しい英語の"デンジャー! デンジャー!"の戦闘員はかなりイケてると思う


■ベテランの描画エンジンだが,綺麗なグラフィックスなのは間違いない

「敵は誰だ?」「イタリア人だ」「目的はなんだ?」「さあ。イタリア人ことはよく分からないな」「一人か?」「違うと思うが,他のやつらがイタリア人なのかはよく分からない」「イタリア人から離れろよ」。おかしなおしゃべりは少ないものの,健在だ
 お次はグラフィックスのお話なのである。
 CJにはJupiterエンジンの改良版が使われているらしいが,見たところNOLF2との大きな違いはない。元々"軽量でありながらキレイ"が売りだったので,描画レベルに大きな不満点はない。今後の課題としては,近頃ハヤリのセルフシャドウと,物理エンジンの搭載になるんじゃないだろうか。オブジェクトに対するダイナミックな影生成はそれなりに行われていはいるものの,光と影をウリにした最近のゲームに比べての物足りなさは否めない。
 また,敵のやられ方はモーションキャプチャだが,「ポスタル2」に始まって,最近の「MAX PAYNE2:THE FALL OF MAX PAYNE」や「DEUS EX:INVISIBLE WAR」などで使われている,物理エンジンによる生々しい「やられっぷり」を体験してしまうと,悪くはないものの,やはり今どきアニメーションでは不満な気もする。
 元々NOLFシリーズではB級映画っぽく,わざとらしい悲鳴と大げさなアクションで倒れる敵キャラがゲームのムード作りに貢献してきたが,これからは物理エンジンに切り替えていく必要があるだろう。なんちゃって,個人的な希望を書いてるな,オレ。

 とはいえ,美しく古めかしいイタリアの町並みや映画「2001年宇宙の旅」(1968年)を思わせる月面基地など,テクスチャのレベルは高く,作り込みも十分で,ほかのゲームと比べてもかなりキレイなのは間違いないところだ。


秘密基地から飛び立つロケット。'60年代のチェコスロバキアが月へ到達するロケットを作っていたとは知らなかったが,月から戻って落ちたところがイタリアというのも凄い

ジャックの仕事の一つが,この軍用スノーモービルを確保すること。前方に強力なロケット砲を搭載し,高速で走りまくれるが,操縦はイライラするほど難しい


■ストレートに撃って撃って撃ちまくる爽快なプレイ感

宇宙空間に投げ出されたジャックに向かい,四方八方から"デンジャー! デンジャー!"の戦闘員が襲いかかってくる! 宇宙服のデザインはNOLF1とほぼ同じ感じ
 ゲームは基本的にはリニアな一本道だが,同じマップや建物の中を行ったり来たりする印象が強い。必要な物や情報を手に入れると,それまで開かなかった扉が開き(しばしば爆砕され)新たな通路が出現するという展開が多いのだ。
 ある場所まで前進すると,こちらからはアクセスできない,意外なところから出てきた敵に背後から襲われることもあり,そういう点はコンシューマライクな覚えゲー。卑怯じゃんか。もっとも,リスポーンなどはまったくなく,登場してくる敵の数は一定だから,全員掃討することは可能(難度ノーマルの場合)。
 従来のNOLFシリーズのように,あちこちを探索しまくる必要はほとんどなく,またパズル性もさほどではなく,あっても簡単なものばかりだ。とはいえ,前半のチェコスロバキア編ではNOLF2のシベリア編に出てきたオブジェクトを多数使い回しているため,思わず引き出しやファイルキャビネットを開けようとして,おっとっと,となることがしばしばだったが,それはたぶん私だけである。
 というわけで,ゲームを進めるためには,イタリア系の精力絶倫マッチョな殺し屋らしく,撃って撃って撃ちまくりながら血路を開くだけである。

 NOLF2において,最も評価の高かった要素といえばAIだが,今回はスニークパートがないため比較的単純なものになっている
 ジャックの被発見率はほぼ100パーセントで,オブジェクトの背後に隠れても敵の目を逃れることはまず無理。敵はジャックを見つけると問答無用で攻撃してくるが,このあたりは素性の良いAIらしく,障害物の影に隠れて銃だけ出して撃ってきたり,仲間と一緒の場合は援護射撃をして味方を前進させたり,伏せ撃ちしたりという動きを見せる。
 オブジェクトの位置を把握し,こちらの背後に回ってくるような行動を取ったりもするので,出現場所こそ固定であるもの,そのたび攻撃が変化することによるリプレイ性は高いと思う。NPCはほとんど登場せず,基本的に動くものを撃てばいい仕組み。

 例によって,こちらの防御力はアーマーと肉体そのものの二段構えで,アーマーを失なうと,ダメージをより喰いやすくなる。今回は銃によるダメージを受けやすく,しかも敵は頭がいいうえに弾丸をかなり撃ち込まないと倒れてくれないため,戦闘はかなり苦労するだろう。
 敵が状況に応じてグレネードを投げ込んでくるところも憎いし,またとくに"デンジャー! デンジャー!"の戦闘員は固いうえ,銃弾を避けようと体をクネクネあやしく動かすので,結構ムカつく。ヘッドショットはいつでも有効であり,AIには"数発当てるとヤケクソになってこちらに突入してくる"という傾向があるので,それらをうまく使えば有利に戦えるだろう。
 流血は多めだが,頭や手足が吹き飛ぶといった描写はなく,相変わらずH.A.R.M.のずんぐりむっくりの戦闘員は「あー」とか「わー」とか叫びながらコミカルにやられてくれる。


登場する兵器はハンドガンのほか,ゴードン短機関銃,カラシニコフ突撃ライフル,円形弾倉の機関銃,ショットガンなど,ほとんど過去のシリーズに登場したものばかり。適材適所で使い分けるのがFPSの基本


■時代はいつもながらの'60年代。ところで気になるあの人は?

アクション主体となり,あちこち探索する必要こそなくなったとはいえ,ときどきこのようなシークレットルームが存在するので油断は禁物。いろいろなアイテムが手に入る
 英語版のケースにでっかくPREQUEL(前作)と書いてあるのでネタバレではないと思うのだが,私の予想と違って,ゲーム中の時期はNOLF1とNOLF2の間に設定されている。
 H.A.R.M.史的にいえば,奇想天外なイプシロン計画(NOLF1)がケイト・アーチャーの活躍で阻止された直後で,NOLF2の焦点になるオメガ計画はまだ発動されていない。つまり,1966年か67年の話ということになる。昭和でいえば41年か42年。昭和ってなんですか? などと聞いてくる若者がそろそろ出てきそうで,ちょっと心配。

 NOLF2には前作をプレイしていなければ分からないようなネタや展開がときどき見られたが,このCJではそういうつながりはほとんどなく,個人的には惜しいが,シリーズに馴染みのない人でも違和感なくプレイできる。
 ちなみに,オメガ計画遂行のため,ジャックはとあるマッド・サイエンティストを月から連れ戻さなければならないのだが,その博士は初見参。NOLF2で,同じ名前で似た顔のインド人がニューデリーの街角に登場するのだが,それはただのヘンな門番なので,たぶん違う人だろうと思う。

 私のようなファンが気になるのは,"彼女"はどうなっているか? ということである。君たちもだよね。彼女とは,もちろんケイト・アーチャーその人。それ以外にも,H.A.R.M.のマザコン指導者やUNITYのメンバーが出てくるのか,ということもちょっと気になるはず。
 元々,歌う殺し屋(凄いヘタ)や,ピエロの扮装をした殺し屋など,どうやって思いついたんだろうという,おかしなキャラクターが次々出てきたのがシリーズの魅力の一つ。事前の怪しい情報筋では,ケイトも途中からゲームに絡んでくるという話だったのだが……,残念ながらこれ以上は書けない感じ。月並みではございますが,自分の目で確かめていただきたい所存であります。


よりシリアスになったとはいえ,宇宙基地だの海底基地だの,とんでもないところに行くのがNOLFシリーズの特徴。今回は月。あ,この景色を見たことある,と思うあなたはシリーズのファン

■やっぱり嬉しい続編登場。シリーズ未体験のあなたもどうぞ

今回も,このC4爆薬を仕掛けてドアや壁を破壊するシーンが何回か登場する。例によって,爆弾は仕掛けられるところにしか仕掛けられない
 このように,CJはNOLFシリーズのアクションとシリアス部分を抽出して,ストレートなFPSを狙ったゲームだとは思われる。といって,真面目一辺倒でユーモア部分がまったくないかというとそうでもなく,姿こそ出てこないが,敵のボス,イル・パッツォの部下であり親戚であるフリオなどは,かなり笑わせてくれる。
 ハリジ博士やチェコスロバキア軍の秘密基地の司令官(これも声だけ)などの存在も,絶対にシリアスではない。世界観は明らかにNOLFシリーズのものであり,"デンジャー! デンジャー!"の戦闘員の,背中にでっかいドクロのついたレトロフューチャーな黒いユニフォーム(しかもパンタロンをはいている)を見るにつけ,制作者に「やっぱりあんたら好きなんでしょ」と言いたくなってしまう。
 それだけに,CJの存在が「中途半端」であるとか,「なぜいまNOLF3でなくCJなのか」という声があちこちから出てくるのは仕方ないだろう。確かにそうだ。とはいえ,だからってつまらないかといえば,そんなことはない。戦闘にはややバランスを欠く部分はあるものの,多彩な動きを見せるAIは戦っていて楽しいし,マップに慣れるにつれ戦略も分かってくる。

 そんなわけで,ヒマだなあと感じるとき,ついCJを立ち上げてしまうのが最近の私である。マッチョな殺し屋としてバリバリ戦いながら,未だ公式発表のないNOLF3をやきもきしながらも楽しみに待つ,というのがシリーズの熱烈なファンである私の至福の午後なのである。てゆうか,今度こそケイト,主役だろうね?


H.A.R.M.の実行部隊指揮官ドミトリ・ヴォルコフ。現場にスイセンの花を残していく粋な殺し屋だ。今回,なぜNOLF2に包帯ぐるぐる巻きで登場したかの秘密が明らかになる チェコ軍と"デンジャー! デンジャー!"もまた敵同士。チェコ軍に捕まって拷問装置にセットされた戦闘員に電撃を浴びせ,重要情報を聞き出すのだ。だが,やりすぎは禁物

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