「幻想三国誌」は,台湾のメーカーUserJoy Technology(宇峻科技)のシングルプレイRPGを日本語ローカライズしたものだ。タイトルからも分かるように,ゲームの舞台はいわゆる"三国志"の世界がベースになっており,劉備,曹操,諸葛亮といった有名人がNPCとして登場する。それに加えて,本作には"武侠モノ"のエッセンスも盛り込まれている。武侠モノとは超人的な技や精神力を持った人物達が登場する活劇のことで,中国ではとても人気のある物語ジャンルだ。映画では2000年制作の「グリーン・デスティニー」や2002年の「HERO」などが該当する。 本作の基本的なゲームシステムは,コンシューマタイトルでよく使われているエンカウントタイプのもので,クオータービューで表示されたマップの中を移動し,敵と出会ったら戦闘画面に切り替わる。戦いに勝利すれは経験値や「精元」値が入手でき,経験値が一定以上たまるとキャラクターレベルはアップする。そして,ストーリーを追いかけながら町やダンジョンを次々と巡っていくことで,ゲームは進行していく。 ときどき,脇道的なクリア必須ではないクエストがあることを除けば,物語はほぼ真っ直ぐに進む。素直に物語をなぞっていくだけで,自然とレベルアップできるようなバランスになっているので,"レベル上げ"や"お金稼ぎ"といった単純作業に煩わされることは少ない。このタイプのRPGの場合,途中でどこに向かえばいいのかが分からなくなるタイトルもあるが,本作には「記録」というジャーナル機能がついており,これを使えば次にすべきことがひと目で分かるようになっている。数日空けてゲームを再開したときなどには,非常に便利な機能だ。
戦闘に参加する各キャラクターにはタイマーが設定されており,戦闘開始および自分の攻撃終了と同時に,このゲージが埋まり始める。砂時計に砂が満ちるのと同じく,ゲージが満タンになったものから行動できるという仕組みだ。これ自体は別段目新しいものではないが,「幻想三国誌」では,この基本部分にさまざまな要素を付加することで,戦闘をより刺激あるものとしている。 一つは「招式」と呼ばれる各キャラクター固有の特殊攻撃だ。これはほかのRPGで見かける魔法や特殊技能にあたるもので,MPやマナのような「真気」を消費して使用する。招式には回復・支援・攻撃などさまざまなタイプがあり,それぞれ独自の画面エフェクトも用意されている。アクションRPGなどでよく使われる"コンボ"の仕組みもあって,味方と攻撃のタイミングがうまく合うとコンボ完成となり,敵に通常以上のダメージが与えられる。 これらに加えて,キャラクターの能力にボーナス(場合によってはペナルティ)を与える「陣形」の要素や,「晶塊」と呼ばれるクリスタルをスロットにはめ込むことで行う,武器強化の要素も用意されているなど,色々なRPGから持ってきた要素がてんこ盛りだ。どの陣形を使うのか,どの武器をどう強化するのか,どの招式を鍛えるのか,召喚獣はどう育てるのかなど,プレイヤーの選択肢は極めて広い。
"誰にでも簡単に楽しめる"ということは,まぎれもなく本作の長所である。だが,少し厳しい言い方をするならば,本作のシステムやグラフィックスが,目の肥えたコンシューマ作品のプレイヤーや,刺激的なPCゲームと取っ組み合うのに慣れたプレイヤーを,十全に満足させるものかといえば,そうではないだろう。しかし,ここでちょっと見方を変えて,本作が"三国志"と"武侠"のエッセンスを取り入れたRPGであることに注目してプレイすると,新たな発見があると思うのだ。 まず"武侠"だが,前述のように小説をはじめとする武侠作品の人気は,中国においてかなり高く,その勢いは台湾,韓国などにも及んでいる。そのストーリーは荒唐無稽と思えるほど劇的な展開に富み,登場する武侠達はそれにふさわしくエネルギッシュな人物ばかり。常人ばなれした能力を持つうえに義侠心にあふれており,弱きを助け,権力に媚びず,誓いや約束をなによりも重んじる,この上なくアツい男(ときに女)達なのだ。 そんな武侠の遺伝子を持つ本作の登場人物達は,基本的に情が深く義に厚い。現代日本人の感覚からすれば「それちょっと極端すぎ!」という展開がいろいろなところで見られるのだ。例えば主人公の義兄弟である大金持ちの息子は,信義のためといって一家の財産である土地や家屋をばんばん売り払うし,五年十年というスパンで鎖につながれて幽閉されている人物もいるなど,"色々なところでスケールが大きい"。女達の愛情も激しく,その心根は一途そのもの,好きな人に振り向いてもらえなければ涙を流して悲しむのだ。実際,キャラクターのバストアップ画像には,滔々と涙を流している表情が標準で用意されているようで,実際にゲーム中でも多用されている。男達も同様で,悲しいことがあれば隠すことなく涙を見せる。 敵に対すれば気力を振り絞って招式をぶっ放し,動乱の中でおおらかに笑い,そして泣く。大陸的なエモーションといっていいのだろうか,島国で育った私達には紡げないようなダイナミックな物語が,この「幻想三国誌」では体験できるのだ。 次に,"三国志のRPG"としての面白さだ。プレイしていて気がついたのだが,登場人物達は互いを実にさまざまな言い方で呼び合う。同じ曹操でも場面によって「曹丞相」「孟徳」などとも呼ばれ,英雄が自ら名乗りを上げるときには「張翼徳」「趙子龍」などとなる。 本作は"中国語圏で作られた"だけのことはあり,セリフの中でこういったルールがきちんと守られていて,誰が誰をどのように呼んでいるかによって,親しさや場のニュアンスが分かる。仲間達が互いを字で呼び合っていることの意味が見えてくると,彼らに対して一層の親近感が持てるようになった。 こういった文化の違いを意識してプレイすると,本作の味わいはさらに深いものになる。表現の仕方や思考の流れの中には,大陸にしっかりと根を張った儒教や道教の考え方が,息づいているのだろう。西洋風ファンタジーに慣れた日本人プレイヤーにとって,ここで描かれる東洋ファンタジーは正直"より遠い世界"だと思うが,まだ見たことのないものに触れる喜びは,PCゲーマーであれば先刻承知のはず。西洋人の作った"ジャパニーズ時代劇"がどう違うか感じとれる人であれば,"中国語圏の人間が作った三国志劇"に触れる意義は,十分に理解できるはずだ。
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