アクション 4Gamer.net Preview
 
闇に潜む盗賊が主人公のスニークアクション
Thief:Deadly Shadows
Text by 奥谷海人
7th May. 2004


 ステルスアクションの先駆けともいえる"Thief"シリーズの最新作,「Thief:Deadly Shadows」の開発が終盤に差し掛かっている。闇に紛れてひっそりと目的地へ潜入し,物陰に隠れて敵をやり過ごしたり,会話を聞いて状況を把握したりする作品で,今回からは第三人称のカメラ視点でもプレイできるようになった。
 主人公ギャレットを操って,暗黒時代の到来を阻止するためのアドベンチャーを満喫しよう。

ION Storm社が伝統のThiefシリーズ最新作を開発

 シリーズでは第3作となる「Thief:Deadly Shadows」(以下,Thief3)が,4年の歳月を経て久々に登場する。
 開発するのはION Storm社のウォーレン・スペクター(Warren Spector)氏が率いるチームで,2003年に大きな話題となった「Deus Ex:Invisible War」で成功を収めたばかり。どちらも,同じようなスニーキングを駆使してゲームを進めていく"頭を使うアクションゲーム"の部類に属し,Thief3ではファンタジー要素が含まれた中世風の世界が舞台になっている。
 そもそも,1998年にリリースされた第一作の「Thief:The Dark Project」は,元々スペクター氏が在籍していたLooking Glass Technologiesのボストン本社で1994年頃から開発が進められていたプロジェクトである。当時は「Quake」や「Unreal」と並ぶ3Dアクションゲームの担い手と期待されたDarkゲームエンジンとして話題になっており,陰影の表現をウリにしていた。id Software社の「DOOM」が「Quake」へと進化したように,「Ultima Underworld」からThiefへと続く技術革新だったのである。

 Looking Glass Technologies社は,「Ultima Underworld」でゲームとしては初めてテクスチャマッピングを応用したポール・ニューラス(Paul Newrath)氏が発足した開発集団として有名だった。その功績こそDOOMに2週間先を越される形になったが,その後もスカッド型アクションゲームの先駆けといえる「Terra Nova」や,「マイクロソフト フライト シミュレータ」に真っ向から対抗した「Flight Unlimited」,そしてSFストーリーで魅了した3Dアクション「System Shock」など,名作を次々と生み出している。
 ただ,当時はゲーム販売会社を中心にしたピラミッド型の構造が出来上がりつつあった時代であり,販売や広告面での影響力のなかったLooking Glass Technologies社は,「良い作品を作っても売れない典型例」などと揶揄されもした。そのため徐々に経営難の噂が出るようになり,「Thief 2:The Metal Age」がリリースされた2000年には開発者達も離散することになる。
 そういう経緯から,Ultima Underworld以来Origin Systems社からLooking Glass Technologies社に移籍してオースティンにある開発支部を統率していたスペクター氏は,ダラスを本拠に注目を集めていたION Storm社に移ってDeus Exの制作に取りかかったのだ。

 現在,ボストン本社の多くのメンバーもIrrational Games社として再出発して「Freedom Force」などの作品で名声を得ているが,Thiefの開発部隊の多くはION Storm社に取り込まれている。前作にも関わったランディ・スミス(Randy Smith)氏やジョーダン・トーマス(Jordan Thomas)氏らが陣頭に立って,5月末にも欧米でリリースされる予定のThief3に磨きをかけているのだ。
 Thief3は,Deus Ex:Invisible Warと同じくUnrealエンジンの陰影効果を大幅に向上させたFlashゲームエンジンを使って開発されており,過去の作品群の良い部分を受け継ぎながらも,より練り込まれた魅力的な作品に仕上がっている。

第三人称カメラ視点で堪能できるステルスアクションの醍醐味

 Deus Exもそうだが,Thiefシリーズは,そのプレイの説明を聞くだけでは全体像をつかみにくいかもしれない。それは,ほかに同じようなコンセプトを持ったゲームが多くないというのも理由だろうが,実際のところThief3のコンセプトは非常にシンプルだ。1にも2にもスニーキングなのである。
 開発者達も認めているように,同時期に日本国内のみでリリースされた「天誅」にはよく似ており,敵の背後から忍び寄って殺したり気絶させたりしてミッションをこなしていく。出会い頭の相手を逐一殺傷していればヘルスメータはいくつあっても足りないので,多くの場合はどのようにやり過ごすかを考えてプレイしなければならない。最近では,同じジャンルの「Splinter Cell」が大成功しており,時期的にはThief最新作の追い風となっている。

 Thief3の主人公は,シリーズではお馴染み,一匹狼の盗賊ギャレットだ。魔法と機械が混在する中世ヨーロッパ風の都市で,汚職まみれの政治家や私利私欲に走る富豪の邸宅に忍び込み,財宝を盗んでは貧しい町人達に分配するというのがギャレットの盗賊人生。ただし彼自身は孤独な暮らしぶりで,他人と接することはほとんどない。
 そんなギャレットに,過去に世話になっていた謎の組織The Keeperが再びコンタクトをとってくる。彼らの予言書には暗黒の時代の到来が迫っていると記されており,それが内部の裏切りによって始まること,そして食い止めることができる唯一の人物がギャレットその人であることが書かれているというのだ。
 The Keeperはこのゲーム世界を影で操っている裏社会の組織のことで,The Order of HammersやPagansなど表社会でもさまざまなグループが暗躍しているが,その力関係が偏らないように秘密裏に調節しているのがThe Keeperであると考えられるだろう。The Keeperは暗黒の時代の到来を深刻に受け止めており,ギャレットのステルス能力や機知を必要としている。ストーリーにも大きく関わっているためあまり詳しくは公表されていないものの,前作でも登場していたゾンビやハウンツなどアンデッド系のモンスターに加え,暗黒の時代の前兆として魔界のケダモノが出現するようだ
 元々同じ組織の人間だったこともあり,ギャレットはGlyphsと呼ばれる古代文字で書かれた予言書の内容に耳を傾け,再び彼らの指示に従い行動するようになる。ゲーム開始後しばらくは,城や私邸,大聖堂,ダンジョン,博物館などに忍び込み,ガードマンや傭兵達の目を盗んでは新しい情報や証拠となるものを入手し,きたる暗黒の時代の到来に備えるのである。またそうこうするうちに,事情を知りすぎたギャレットを抹殺しようという動きもThe Keeper内部で起こってくる。

 ION Storm社の面々が口を酸っぱくして話しているように,Thief3のゲーム性はLooking Glass Technologies社時代に作られた基礎や雰囲気を壊さないように作られている
 マップ上の影のある場所を移動し,不必要な戦闘をなるべく避けながら進んでいく。ろうそくやトーチを水の属性のある矢を放って消火したり,音を鳴らす装置を別方向に投げて敵の気を逸らしたりなど,ほとんど前作通りの内容だ。
 前作と大きく異なるのは,デフォルトで第三人称型のカメラ視点となり,ギャレットの背中を見ながら進行するという形式になっていることだ。筆者との会話の中でも,スペクター氏は以前から「第一人称視点こそがプレイヤーがゲーム世界に没頭できる最善の手法」だと断言している。カメラ視点が第一人称視点から第三人称視点へと切り替わるということは,そのゲームの見た目を劇的に変化させてしまうので,開発者達にとっては大きな決断だったに違いない。
 事実,Thief3をプレイしてみると,Splinter Cellや「Prince of Persia:The Sands of Time」のようなキャラクターを前面に押し出したタイプのゲームになっているのが分かるだろう。Flashエンジンも大幅に改良されており,Deus Ex:Invisible Warのような重さも感じられない。カメラ視点を変えたことで,「第一人称視点なのに敵を撃ち殺しながらサクサクと進めないのがモドカシイ」という,これまでのThiefシリーズやDeus Exが受けてきた誤解を解消できるとも考えられる。
 Splinter Cellに続くトレンドとして受け止めることもできるが,実際には視点の切り替えはホットキー一つで自由に変更できるので,従来通りの第一人称視点で進めても構わない。

影を利用して敵を欺き,壁をよじ登って敵陣に忍び込め

 Thiefシリーズに馴染みのある人ならば,やはりThief3でも第一人称視点でプレイするのではないだろうか。弓矢で狙いをつけるのは第一人称視点のほうが簡単だし,スペクター氏の言うように「自分自身がその世界にいる」ような気分にもなれる。
 Thief3は,ほかの第一人称視点のゲームに比べて画面上で"プレイヤーキャラクターの体"が占める割合が大きく,弓矢を持つ二の腕も表示されているほどだ。また下を向けば自分の脚が見えるなど,単にカメラが目線レベルに浮いている状態ではないのが分かる。

 さらに第三人称のカメラ視点が追加されたことで,これまでは見られなかった主人公のキャラクターアニメーションも楽しめる
 ギャレットは体をかがめてそろそろと歩く感じで,茶色のフードや矢籠はイメージ画そのままの雰囲気。アクション性は高められており,敵の後ろから忍び寄ってブラックジャック(棍棒)で後頭部を強打……できなくても,少しくらいの立ち回りは可能になった。
 ただし,部屋の中や通りの向こうを確認せずにガンガン進んでいけるほどの体力はなく,明らかにギャレットよりも強靭な敵も多い。

 画面インタフェースは前作とほぼ同じで,画面下部中央のVisibility Gemと呼ばれるインジケータで,自分のキャラクターのいる場所が身を隠すのに十分かどうかを判断できる。明るければ敵に見えやすい場所にいるということで,暗くなるほど敵に発見されにくいのだ。敵に追い込まれても光のない暗室でジッとしていれば,相手が諦めて出ていってしまうこともある。
 なお,直接光のみを照明源とするDynamic Lighting & Shadowを採用しているFlashエンジンによるグラフィックス表示は,暗い部分は本当に真っ黒に表現される。つまり,第三人称視点でプレイするはギャレット自身の姿も影に隠れてしまい,プレイヤーにも判別しづらくなるのだ。リアリティがあるとはいえ,ゲームとしては遊びづらい。それを解消するために最近になってグラフィックスに修正が加えられて,暗い部分に入ると彼の体の輪郭が擬似的に薄黄色で照らされるようになった。キャラクターアートがメイングラフィックスから"浮いている"ような違和感はあるものの,このカメラ視点では当然の選択といえる。

 キャラクターの動作は非常になめらかで,ギャレットが窓の上枠につかまったかと思うと,スルっと外に出て壁をよじ登っていく。これはThief3で新規に追加された盗賊ギャレットの特殊能力で,レンガ壁や岩壁を,その凹凸を利用してスパイダーマンのように自由に登っていくのが新鮮だ。3階の部屋の窓から壁を伝い,表がガードマンに警護されている隣部屋に侵入するなどということが可能になる。
 また追い駆けられている場面でも,相手が魔法や弓矢による長距離攻撃ができなければ,壁に逃げれば追っ手は近寄ることすらできない。追っ手が「降りてきたときは容赦しないぞ!」などと負け惜しみを言うのも面白い。
 こういった,NPC達のセリフもThiefシリーズの特徴的な部分の一つだ。暗闇で忍び寄ったときや,窓やドア越しに近づいたときに敵同士の会話内容が聞ける。ミッションの進行や目的地の状況を把握できる場合もあれば,何気ない日常会話の場合もある。会話のパターンは非常に豊富で,天候や明日の予定について話しているかと思えば,ギャレットを追いかけ回したために「フルプレートを着込んで走ると重くて仕方ない」などと不平を言ったりもする。同じ状況でも,複数のセリフパターンが用意されているという凝りようだ。
 前作でも,暇そうに口笛を吹き始めたり,イビキをかき始める護衛などがいた。目だけでなく耳でも状況を把握しながらプレイしていかなければならない前作の特性が,うまく引き継がれている。

町を自由に徘徊可能。ミッション内外で盗賊気分を満喫できる

 Thief3では,ミッション構成にも大きな改良点が見られる。ミッションは12種類用意されていて,一つのミッションには複数のオブジェクトが散りばめられているのは前作と同じスタイルだ。しかし本作では一つの広大な町の中でミッションを進めるようになっており,それに合わせてさまざまな民家やショップなどが細かく作られている。
 ミッションに必要な経路だけでなく,その裏通りはおろか路地やビルの中まで作り込んであるのだから,かなりの労力が費やされているといえるだろう。Grand Theft Autoシリーズは路上で好き勝手に行動できるのが人気の理由ともいわれているが,この点では多くのビルや家の中まで描いたThief3も負けてはいない。
 ミッションの合間には,自由にこれらの場所に侵入し,金品を盗んだり,財宝のある隠し部屋を探したりもできる。これまでは盗賊という設定だけが一人歩きした世界救出型アドベンチャーゲームでしかなかったので,よりギャレットになりきって楽しめるようになったといえるだろう。
 町中を往来する一般NPCにも話しかけることが可能で,敵NPCの会話と同様に,町の情報を得ることができる。これらのNPCには,おそらく自動制御と思われるリップシンクや表情のアニメーションが加えられており,前作以上のリアリティを持っている。

 またこの町には,ギャレットが住むアパートも登場する。ここはアイテム類を溜め込むだけの場所でなく,剣術やピッキングなどの訓練を積むこともできるのだ。
 ピッキングはSplinter Cellのものと似ていて,画面上に現れた鍵の様子を見ながら,キーを押してピックをカチャカチャ動かしていれば,(魔法で封じられたドア以外なら)解除できる。これが結構難しく,グラフィックスばかりか音にも注意を払う必要があり,スムースにこなせるようになるにはかなり練習してコツを体得しなければならないようだ。
 もっとも本作では,ピッキングが得意でなくても,窓から侵入したりガードマンから鍵を盗み出したりなど,侵入のアプローチは数多く用意されている。

 プレイヤーが使用するアイテムはThief 2とほぼ同じで,ブロードヘッド,水,火,ガス,ノイズメーカーなどの属性を持つ弓矢のほか,ブラックジャックやナイフなども従来通り使える。足音が出ないように地面にまく"モス(苔)の粉"や,地雷,手榴弾,目潰し用のフラッシュボムも再登場だ。
 新しく追加されたものには,壁に昇るときに装着する"Climbing Gloves"という手袋と,敵を滑らせたり遠方からFire Arrowで火をつけたりできる"Oil Flask"などがある。またThief3では,Water Arrowに血糊を洗うという効果が付与されている。

 ステルスアクションでは,NPCのAIは重要な要素。本作でももちろん力を入れて制作されているポイントだ。元々Invisible Warの制作途中でThief3用に開発されていたAIシステムを取り込んだという経緯があるほどで,当然Invisible Warと同じくNPCが影の動きなど状況の変化を感知するし,足音や崩れ落ちたものの音にも反応する。死体を放っておけば,見つけたパトロールが不審を抱いて周囲を調べ始めるので,前作同様物陰に隠しておくのを忘れてはいけない。
 目立つ場所にあるものが盗まれていたり,血痕が残っていたりしてもNPCは反応するし,鍵のかかっていたドアが開いたままになっているのにも気づく。トーチやろうそくが消されているだけでも,彼らの警戒を高めることになるのだ。
 今回からは,通路の角に背中をつけた状態で向こう側をのぞき込む動作が可能になったものの,明るい場所で頭や肘が突き出ていれば,NPCに見つかる場合もあるようだ

 NPCには,Invisible Warのようにアラートレベルが設定されていて,各キャラクターによってリアクションが変化する。
 不審を感じれば顔の表情を変えて探し始め,場所が特定できなくても存在を悟ったら剣を抜いて威嚇を始める。こちらの場所を特定すれば,グループであれば強気に襲い掛かってくるし,一人なら仲間を呼びに行くこともある。そのほかにも,例えば音を立ててしまった場合,町の富豪の家を守るガードマンならやり過ごしてしまうのに,組織の傭兵ならくまなく調べまわったりもするなど,NPCの職種や身分でも反応が異なるようだ。番犬は,音を立てただけで過剰に吠え始め,周囲のNPCを呼び寄せてしまうことになる。

 物理エンジンには,Deus Ex:Invisible Warでも使用され,最近ではゲーム業界の標準になりつつあるHavokエンジンが採用されている。物を投げたときは,角度や方向,キャラクターのラグドール効果,オブジェクトの比重など数多くのパラメータから,落下時の衝撃や音も材質通りに表現される。しかしそのゲーム性から,Deus Exほどいろんなものを手に取ったりすることはないとのことで,周知の性能の高さと開発時間の短縮以上に特筆することはないだろう。

 Thief3には,例えば商人の豪邸のような場所にはシャンデリアがあったりするが,Flashエンジンはピクセル単位で照明効果を演算するピクセルシェーダが使用されている。何かの弾みで光源になっているシャンデリアが動き,物陰に隠れていたはずのプレイヤーキャラクターが照らされたり,影が見えてしまったりすることも起こり得る。このピクセルシェーダは,DirectX 8.0で開発されたver1.0のもので,GeForce 2 TiもしくはRadeon 8000以上のビデオカードが必須となっている

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 Thief:Deadly ShadowsはXbox用にも同時開発されていて,シリーズでは初めてのコンシューマ市場への参入となる。シングルプレイヤー専用ソフトのため,対戦プレイやMODへの対応こそ公式にはないが,開発メンバーの経歴からいっても,手堅い良作としてヒットしそうな気配だ。
 ゲームエンジンも,フレームレートの悪さが指摘されていたDeus Ex:Invisible Warからは大幅に改良されているようで,現在のバージョンでは非常になめらかな動きを見せていたのが印象的だ。アメリカでは2004年5月末にリリースされる予定で,ヘッドホンでゲーム内の物音やセリフに耳を傾けながらじっくりと遊んでみたいと思う。

 

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Thief: Deadly Shadows(TM) Eidos Inc. 2004. Developed by Ion Storm LLP. Published by Eidos Inc. Thief: Deadly Shadows and the Thief: Deadly Shadows logo are trademarks of Eidos Inc. Ion Storm and the Ion Storm logo are trademarks of Ion Storm LLP.

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