講師としてデモを行ってくれたのは,ナムコ LANエンターテインメントプロジェクトの千葉氏。千葉氏は,この日会場となった日本工学院専門学校マルチメディア科の卒業生で,Mayaなどのグラフィックス関連ツールに明るいということから土屋氏の目にとまりナムコに入社。LEDZONEの開発スタッフを経て,現在は蒲田のLEDZONE店舗の運営スタッフとして活躍中だ。氏自身,ハンマーエディタの経験はまだ浅いとのことで,始めてエディタに触れてからこの日で約一か月,正味2週間ほど試しただけだという。 デモンストレーションは,CSの1マップをハンマーエディタのみで作るということで,マップ空間の定義からオブジェクトの配置,配置したオブジェクトへのテクスチャ貼り付けなどを順を追って解説。ペタペタとオブジェクトを貼り付けるだけで,徐々にゲームマップが出来上がっていく様子に,受講生達も驚きながら見入っていた模様だ。 さてこのデモ,デモンストレータとしてなぜ"初心者"ともいえる千葉氏が選ばれたのか? それは,このデモの目的が"マップ作成ノウハウ"ではなく,あくまでも"レベルデザインがどういうものか"ということを学生らに教授するのが目的だからである。 そもそも(ゲーム制作における)レベルデザインとは,物理エンジンや描画エンジンなど,"ゲームのコアとなる機能"はすでにあるものとして,マップの良し悪しやゲームのバランス,ユーザーインタフェースなどを煮詰めていく作業のことだ。レベルデザイナーの作業をFPSの制作行程で説明すると,銃器のモデリングやマップオブジェクトのテクスチャを作成する前に, ・「ほんとにこのゲームは面白いのか?」 ・「マップに配置するオブジェクトは適当か?」 ・「ユーザーの興奮度を高めるためどういった演出を盛り込むか?」 などを評価,再考するものと考えればいいだろう。 このことからも分かるように,レベルデザイナーにはMayaなどの各種グラフィックスツールの知識やプログラムの専門知識,ましてやコーディングスキルなどは必須ではない(もちろんあるに越したことはないが)。それを,いわば"ハンマーエディタ初心者"の千葉氏が実演することにより,説明したかったわけだ。 現在の日本は,第一講でも述べた通り,ゲーム制作におけるローレベルな過程(物理エンジンやネットワークコードのプログラミングなど)の技術において,韓国を始めとするアジア各国や欧米に大きく水をあけられている。 その現状のなか,これから日本のゲーム産業が欠かすことができないのが,難解な専門知識を有することなくゲームを作成・評価できるレベルデザイナーの存在なのだ。 しかし日本の現状を見ると,レベルデザインについての専門書籍(※1)などは皆無に等しく,その概念の習得のために,専門学校などでカリキュラムが組まれることも少ないという。 今回デモの意図を受講生が感じ取ってくれたかは分からないが,少なからず興味をもった人もいただろう。デモと同時に,ハンマーエディタを使ったMOD作成コンテストなども企画されていれば,さらに興味は持続したことと思うが……。 ※1……現在,ゲーム開発の舞台裏などを題材とした著書で有名な新清士(しん きよし)氏が,レベルデザインの専門書籍制作を企画中とのこと。
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