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3軸に絞られたミューの方向性

 ミューは,非常に中毒性が高い。ミューに熱中しすぎたあまりの死亡事件が,2件(韓国で1件,台湾で1件)もあるくらいである。この中毒性について,小島氏は二つの要因を挙げた。
 一つは,目的がハッキリしていること。ミューでは,例えば「あの赤い鎧を着たい」というような明確な目的を見つけやすいのだ。手が届く目標があれば,寝る間も惜しんでプレイしたくなるもの。
 もう一つの要因は,そのギャンブル性。例えばミューでは,お気に入りの装備を強化することで使い続けることが可能なのだが,その強化が成功するとは限らない。装備と宝石を合成するときに,その装備の能力が上がる場合もあれば,なんと下がる場合もあるのだ。何せ元がお気に入りの装備であるだけに,「残念でした」と諦めがつかない。何度も何度も挑戦してしまうことに……。
 小島氏は,この二つを,さらに伸ばしていくつもりだと語った。その具体的な方向性として,「ファッション性」「アクション性」「シナリオ」の3軸に絞って強化していくという

 ファッション性というのは,ミュー最大のウリである美しいグラフィックスを最大限に生かした方向性を指す。具体的には,「普段着」を作るというアイデアがある。
 ゲーム中に,鎧ではない,防御力なんてまったくない,単なるオシャレのための服を用意する。……ここまでは,コアゲーマーなら,ほかのMMORPGでやっているかもしれない。しかしライトゲーマーにも焦点を当てているミューは,これだけにとどまらない。……これ以上は書けないが,これまた現実と連動する企画の一つとだけ,説明しておこう。

 アクション性は,まさに日本人の得意とするところだろう。小島氏は,ミューの剣で斬り合うだけの戦闘システムには,不満があるという。もっと攻撃パターンを増やしたいというのだ
 古(いにしえ)の国産アクションゲームには,さまざまな攻撃パターンがあった。それをミューにも導入していくという。具体的には,ブーメラン系の武器,ムチ,ナックル系の武器の追加などを考えているようだ。「ナックル系の武器で攻撃すると,相手を気絶させることができる。すると,まずモンスターを気絶させて,次に別のキャラクターが魔法で攻撃して,といった連携プレイが生まれてくるでしょ」。
 連携プレイという意味では,複数のキャラクターが協力することで完成する,大きな技のようなものも考えているようだ(「ファイナルファンタジー XI」の連携システムのようなものだろうか)。
 ともあれ,単調になりがちなMMORPGの戦闘に国産ゲーム的なアイデアを盛り込むことで,魅力的にしようというのは大歓迎である。

 最後にシナリオ。具体的には,各マップにエピソードがあったり,各ボスキャラクターに背景となる物語があったりすることを指して「シナリオが充実したMMORPG」といえるわけだが,もっと些末な部分,例えば町中にいるNPCのセリフ一つをとっても,小島氏のこだわりが感じられる。
 小島氏は,「考えさせるシナリオ」を作っていきたいという。プレイヤーに,いろいろと考えてほしいというのだ。「なぜゲームをするのか?」「カタルシスを感じたいから?」「暇つぶし?」「人間とは何か?」……。こういうことを考えられるMMORPG。それが小島氏の目標とするものなのだ。
 ちなみに小島氏の「答え」を聞いてみると,「言えない」とのこと。なぜか? 「それは,エンディングにするつもりなんですよ。でもMMORPGにエンディングはあり得ないから,日の目を見るかどうかは分かりません(笑)」。

 ともあれ小島氏は,この3軸でやっていくと決めたという。逆にいえば,ほかのMMORPGで良くあるような「家」「錬金術」みたいなことは絶対にやらない。そういうことを楽しみたい人は,そういうMMORPGで遊べばいいだけだ。「ミューの進化の方向を3軸だけに絞ることで,ブレのない,高品質のゲームになるはずです」と,小島氏は力強く語ってくれた。

 

まさに天職! 小島氏について

 小島氏のキャラクターが見えてきたところで,質問の矛先を小島氏自身に向けてみた。

 小島氏は,高校生の頃から,自分がゲーム業界で働くことを信じて疑わなかったという。自分の発想力,文章力を生かせるのは,時代の最先端であるゲーム業界だと。
 その後,多摩大学経営情報学部で学び,卒論は「バーチャルリアリティ」。タイトルから分かるように,未来のゲームと,それを取り巻く環境を考察した論文だ。
 いずれはゲームの中に人が入っていくだろう。そこでは,独自の恋愛,宗教,ドラッグまで生まれてくるだろう。そうなったときに,人はどうなっていくのか……。小島氏はこの論文で考察したことを,その後10年経った今でも,考え続けているという。
 実際に小島氏が,ずーっとゲーム業界で生きてきたことは,プロフィール部分に書いたとおり。
 そんな彼がミューと関わるようになったきっかけは,ゲームオン社長のひと言だったという。
 「小島,ミューやってみる?」
 当時彼が編集長を務めていたGpara.comが軌道に乗って,面白くなってきたところだったけに,正直小島氏は,ほかのゲームだったら,悩んだかもしれないという。
 しかし,「ミューなら,やりたいと思った」
 なぜか?
 「大きな期待を寄せられているミューならば,事件が起こせるからです」

 冒頭の言葉に戻ったところで,ちょっとミューから離れた話も聞いてみることに。
 小島氏は普段何をしているのか? という質問には,「仕事です」とひと言。趣味は仕事らしい。
 仕事以外だと,ゲームしてるか,DVDを見ているか,美術展に行っているか。もしくは,料理をしているという。
 ただ何をしていても,頭のどこかには必ず仕事があり,何を見ても「これを仕事に生かせないか?」と考えてしまうという。また部下にも「常に,目に見えているものが,ミューに生かせないか考えろ」と言っている。タマちゃんや梅雨が,ゲームに取り込まれるわけである。

 ミューのことはひとまず置いておいて,将来何をしたいかと聞くと,ずっとゲーム業界にいたいという答え。
 「そう決めたんです」。

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