Civilization III:Conquests

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「Sengoku - Sword of the Shogun」の出来るまで

by マイケル・フェッターマン (Firaxis Games社アソシエイト・プロデューサー)

 「CivilizationIII:Conquests」(以下,Conquests)は,Civilizationシリーズでも前代未聞のコンセプトを持っています。具体的には,歴史の一場面にクローズアップした九つのシナリオ(コンクエスト)を収録しています。
 今回のデザイナーダイアリーでは,この拡張パックの中でも最も突出したコンクエストである,「Sengoku - Sword of the Shogun」(以下,Sengoku)の開発プロセスや,各種判断の一部をお話ししたいと思います。


あらまし

 「Play the World」を開発していたとき,日本文明のボーナスで作ったユニットには何か大きなポテンシャルがあるのに気づきました。このアートを使って新しいコンクエストを作ろうと,そのときに決心したのです。
 私の中世日本に対する興味は,さまざまなソースを原点にしています。ジェイムス・クラベルの小説「Shogun」,黒澤明監督の映画作品,さらにはAlderac Entertainment社のテーブルトークRPG「Legend of the Five Rings」などなど。
 もちろん,これらはその時代を着色して描いたものには違いないんでしょうが,その中核には,ストラテジーゲームとしてプレイヤーが認識できる,テーマや象徴の土台がありました。まず,なんといっても強大な権力を持った将軍の存在。第二に,武士道としても知られる,警察機関や軍隊として活動した"侍"の階級制度。最後に,ミステリアスで好奇心をかき立ててくれる,浪人や忍者,外国人達の存在です。
 私は,これら別々のテーマを一つのゲームコンセプトにまとめるだけの知識を持っていたと思います。このコンクエストの目的は非常にシンプルで,ほかの大名達と鉄砲の入手を含めた勢力争いを行いながら,時には武力や外交を駆使して中世日本を統一していくのです


控えおろう,ニッポン!

 日本の全国マップをさらに忠実に再現するために時間を費やすこともできましたが,私の興味は,重要な拠点の掌握にしのぎを削るようなマップ作りにありました。これは,基本的な資源や贅沢品をより多くマップに点在させ,さらに重要な資源を戦略的な場所に配置することで達成できたと思います。プレイヤーの都市が食糧難になったり,効果的に進化できなくなったり,さらには最低限必要な資源さえ入手できなかったり,という問題を解決したわけです。
 Civilizationシリーズは戦闘もゲームデザインのコアといえるので,プレイヤーが基本的な都市整備に集中し過ぎるのも困りますし,ほかのアプローチでは,武勇を見せ合うことを奨励しているこのシナリオの邪魔にしかならないのです。
 日本のマップは細長いため,かなり初期の段階で敵の侵攻ルートを塞いでしまうことも可能でしょう。対策として,一つ一つの戦略資源を山間部に配置し,それを守るRonin(蛮族)を排除しなければそれらを獲得できないようにしました。少し行き過ぎているように感じるかもしれませんが,これによってゲーム開始と同時に,一人のプレイヤーが翡翠,鉄,火薬などを掌握するのを防げるようになったのです。
 とくにこのコンクエストに登場するRoninの侵攻回数や破壊力は,攻撃的なプレイヤーでも序盤はかなり手をわずらわせるはずです。蛮族の元々のコンセプトは,ランダムに登場してはプレイヤーに干渉してくることにありました。Sengokuの蛮族(Roninユニット)は,このシナリオの機能の一部として扱われているだけでなく,ゲームバランスにも一役買っているのです

戦国ミニマップ ゲーム画面


武将,大名,そして家臣

 Play the Worldのレジサイドモードは,Sengokuでは"Daimyou"と呼ばれる王様ユニットの登場のきっかけになりました
 レジサイドモードをプレイするときは,王様ユニットの安全を確保するのが最重要ポイントだといえます。しかしSengokuでは,プレイヤーが要塞のように守られた都市から王様ユニットを出し,リスクを負いながらも使っていくようなものにしたいと思いました。これを達成するために,Daimyouには戦闘値と戦闘時のアニメーションを与えて,戦闘ユニットに仕立てたのです。
 さらに,テクノロジーツリーに用意した特有の科学技術を発見していくことで,Daimyouをアップグレードできるようにしました。これまでは微弱だった王様ユニットが,プレイヤーの持てる最強のユニットとなる潜在能力を身に付けたわけです。
 同じような改良はほかのユニットもできるようになっていて,すべての長距離攻撃ユニットは爆破効果を得ることができます。このような改良アップグレードは,ユニット達に新しい息吹を与え,コアなシリーズファンにも喜んでもらえるはずです。

大名ユニット CivilizationIIIのコンバットシステムについて,どのようなアルゴリズムなのかは詳しく理解していなかったのですが,すべての基本ユニットが相関関係になければならないというのは分かっていました。このことから,特殊なSengokuシナリオの制限の中で,非常にうまく機能できるユニットステータスの階級を形成できるようになりました。
 基本的なSwordsmanユニットであるAshigaru(足軽)は,Ronin(蛮族)に対処するには最適ですが, Stone-crossbow Man(石弓兵)のような長距離攻撃系のユニットには弱い。また騎馬型のユニットは,長距離攻撃ユニットを簡単に破壊できる,といった感じです。ポルトガルとの(火薬の)交渉権を得て,すべてのユニットに強い銃器系ユニットを生産できるようになるまでは,このような三角関係が維持されるようデザインしています。

 プレイヤーは,ユニットの急な補充が必要なときにRonin(蛮族とは異なる)を雇ったり,強力なNinjaを雇ったりできます。雇用兵として使えるRoninは,CivilizationIIIでの私略船ユニットのような扱いで,雇用者不明のまま敵地を攻撃できます。
 同様にNinjaは,YamabushiユニットとDaimyouだけに察知できるようになっています。Ninjaは一般的なステルス機能ばかりでなく,Stealth Attackという,スタック(都市などで複数のユニットが1か所にいる状態)されたユニットの中から一つを選んで攻撃できるという特殊能力を持っています。非常に強力に聞こえるでしょうが,発見されてSamurai Warriorのような通常ユニットに直接攻撃されれば,作戦を成功させるのは非常に難しくなるでしょう。


兵法

 テクノロジーツリーの初期段階は,鉄器,数学,建築,葬儀,陶器など,CivilizationIIIのものをそのまま受け継いでおり,熟練のプレイヤーには見覚えのあるものになっています。これらの基本的な科学技術は,黎明期の文明が自分の足で生き抜いていくには最低限必要なものです。しかし,一度封建制が発見されれば,軍事的な権力が増大し,戦国時代の扉が開くのです
 この第2時代にあたる戦国時代になって,我々外国人にとっても親しみのあるKenjutsu(剣術),Iaijutsu(居合術),Bojutsu(棒術/槍術),さらにはBushido(武士道)がプレイヤーの選択肢に加わっていきます。共通要素や初期のテーマはCivilizationIIIから借用していますが,Sengokuのテクノロジーツリーによって,急速に新しいゲームになっていくわけです。

 ユニットステータスと同じく,テクノロジーツリーで発見する科学技術すべてのコストは,それぞれ相関関係にあります。科学技術は,プレイヤーが時代を進めるほどコストも上がり,新しい展開を生み出します。火薬のような外国技術は,Sengokuのテクノロジーツリーの最終期を賑わせることになりますが,これは士農工商という身分制度の終焉が始まったことを告げる史実につながっているわけです

ゲーム画面 アドバイザ画面


最後に〜 オワリマス!

 最初は,日本の中世を再現したコンクエストを制作するのは,それほど難しいことではないと思っていました。マップをカスタマイズし,ユニットの価値を変更し,新しいアートに変えてしまえば,「はい出来上がり!」となると思っていたのです。
 しかし現実には,非常に困難が伴いました。新しいマップ,テクノロジーツリー,ユニット,リーダー用アート,アイコン,そして技術やユニットの説明をするためのゲーム内辞書シヴィロペディアさえも作り直さなければならなかったのです。このコンクエストを開発するのに,戦国時代のリサーチだけでも数か月に渡り,私のオフ時間のほとんどを費やさなければなりませんでしたし,その過程で,開発ツールなど制作スタッフからの知識も豊富になってしまいました。
 これらのゲームの資産に肩までどっぷりとつかってしまい,気づいたときには,例えそれが小さなスケールであっても,CivilizationIIIというゲームを作り直してしまっていたのです

 中世日本の孤立した状態は,ゲームの簡素化されたルールを使って,複雑な構成を表現するのに役立ったと思います。戦略的な資源にさらに価値が出ましたし,レジサイドモードの基礎も再開発しただけでなく,新鮮なユニットタイプが制作され,すでに十分戦略的なCivilizationに,さらなる深みを与えているのです。(終)

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