Desert Rats vs. Afrika Korps

Text by 奥谷海人



「ご機嫌取りのデートじゃなく,長く一緒に暮らしてがんばっていける伴侶との出会いのような。ナムコの正面玄関から出たときに,そんな感覚に襲われました(笑)」

 日本のゲームメーカーによる欧米PCゲーム市場への参入は,ナムコに始まったわけではない。すでにカプコンはVivendi Universalのゲームを中心に多くの作品をローカライズ/販売しているし,コナミはイギリスで「Apocalyptica」「Casino, Inc.」などの作品の制作に出資。スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI」も,2003年末にアメリカに上陸したばかりだ。
 しかし,ナムコとFlagship Studios社のタッグは,これらの前例と比べても激震のレベルが異なる。なんといっても,あのDiabloの開発者達だ。我々日本のPCゲームファンも,大いに興味を惹かれるというものだ。

4G:
 ローパーさんは,プロデューサーという立場だけでなくBlizzardのスポークスマンとして知られていましたね。とくに発売から6年経ってもStarCraftが人気を維持している韓国では,スーパースターのような待遇を受けているんじゃないですか?
BR:
 本来の仕事ではないんですが,元々オーディオ関係のまとめ役としてDiablo(ラスボスのほう)なんかの声も担当したあと,雑用をこなしているうちにプロデューサーとしてメディアやファンへの窓口となっていったわけです。でも,プレスツアーやエキスポなど仕事で外国に行くのは視野が広がるし,ファンや同業者とゲームについて話すのは楽しかったですね。自分達が作ったものの何に感動してくれているか,何を改良すべきかが手に取るように分かるので,私の業務としては一番大切にしている部分でした。自分に合っていたのかもしれない。
4G:
 もうファンサイトもできているようですね。
BR:
 Flagshipの公式サイトにリンクしているものは,現在(2004年4月末時点)12サイトありますね。中国にもあるんですよ。
4G:
 Battle.netは,ファンコミュニティの基本型というか,プロトタイプでしたね。
BR:
 それ以前はファンと開発者の間に大きな壁があったのに,インターネットの発展が壊しちゃったんです。とくにBattle.netに人が集まり始めると,我々サービスを提供している側が直接的に説明や指導しなければならなくなって,コミュニティが膨れるにつれてファンイベントやメディアに顔出す必要も出てきました。  Blizzardで長くやってきて,ファンは本当に大切なのだというのを身に染みて感じましたし,それをFlagshipと新作でも生かせればと思っています。「音楽は世界の共通語」なんていうけど,ゲームも同じですね。自分達が作ったものが世界中で受け入れられているということに,本当に感謝しています。
4G:
 ナムコと提携したことで,今後Flagshipが日本でも脚光を浴びることは多いにあり得ますね。
BR:
 プレスリリースが出たあと,しばらくしてからナムコ本社に呼ばれまして,非常にワクワクしているんですよ。1年以上東京に行ってないし,本社の開発者の人達と話す機会も楽しみにしています。最近では,GDCやD.I.C.E.のような開発者向けのイベントにも顔を出すようにしていますが,本当に勉強になることが多い。
4G:
 ナムコとの関係は,どのように始まったものなのでしょうか?
BR:
 それが本当に偶然だったんですよ。提携を発表する数か月前にゲーム業界の広報担当が集まる会合があって,私もそのパネルとして参加していたんですね。「広報が開発者達に寄与できる最良の方法」っていうテーマで,いろいろな分野の人が集まっていました。そこで,ナムコ・ホームテック(アメリカ法人)のプロデューサーに廊下で出会ったんです。  「独立したらしいけど,もう販売元は決まったんですか?」って声をかけられて,そのときはまだオープンにディスカッションしていた頃ですから,「まだですけど,何かいいところあります?」なんて軽くやり取りしていたら,向こうが結構本気でアメリカ支社のほうに来てくれっていうから……。
4G:
 足を伸ばしてみたわけですね。
BR:
 ええ。で,笠原信寛(ナムコ・ホームテック取締役社長兼CEO)氏やロバート・エニス(Robert Ennis:Namco HometechのCEO件CFO)氏らと始めて話したのですが,そこでナムコがどれだけPCゲームの創造性や開発力に期待しているか,そして市場への参入に本気になっているかなどを聞かされました。  「PCゲーム市場は滅び去るどころか,もっと伸びる潜在能力も持っている。販売元として開拓してみたい」と言ってましたね。
4G:
 意外に感じました?
BR:
 いやそれが,本当に凄く熱く語ってくれたんですよ。で,市場を見ても,アメリカだけでなく日本でも確固な足場を築いているナムコと組むべきだと判断しました。  そこからゲーム業界の話などをしていくうちに,どこか私がこれまで体験してきた販売元と開発元の関係では考えられなかった,不思議な気分になりました。ほかにも数人と話したんですが,誰もが同じようにゲームへの情熱がある印象を受けましたね。ナムコは世界的にも有名なブランドであり,また我々は彼らにないものを持っている。協力すれば,さらに新しいことができると信じるようになったんです。お互いに成長していこうというようなポジティブな会見でした。  妙な言い回しかもしれませんが,ご機嫌取りにデートするような相手じゃなく,長く一緒に暮らしてがんばっていける伴侶との出会いのような。ナムコの正面玄関から出たときに,そんな感覚に襲われました(笑)。
4G:
 笠原社長も,プレスリリースで「長期的で強力な関係を築いて素晴らしいゲームを作っていきたい」と,同じようなことを述べてますね。
BR:
 ええ,本当にそうしたいです。まだ我々は作品もできてなくて何も証明していないわけですが,新しい建物を築き上げるための土台作りに関わっていると思うようになりました。ナムコは過去50年近くもゲームを作ってきた会社ですし,「パックマン」から「鉄拳」まで,彼らの持つゲーム作りの技術は疑う余地がありません。その彼らが新しいことを始めるうえで,我々が得意とする分野で関わることができるのなら,それは本当に素晴らしいことです。
4G:
 今回の合意は,コンシューマへの参入も念頭に入れてのことでしょうか?
BR:
 そのために合意したわけではないですけど,ドアは開けておきます。日本で売れるゲームを作るとか,コンシューマに馴染んだゲームを作るというわけではないですよ。今までやって来たように,我々の持つ技術と能力を優先してPCゲームを開発していくだけです。  コンシューマゲーム風の作品を作っても,それは我々やナムコ,そしてファンが求めているものにはならないでしょう。ただゲームが出来上がっていく過程で,ナムコ側から意見がもらえるのなら聞いてみたいですね。我々は彼らのコンシューマやアーケード市場での能力を尊敬していますし,彼らも我々のPCゲーム分野で培ってきた能力を買ってくれている。そこに介在する「ゲーム性」について知的なレベルで話し合えることができるのを期待しているんです。
4G:
 ゲーム制作での自由は保障されています?
BR:
 ええ。我々が一番気にしていた部分ですけど,ロバート(エニス)は「がんばって魔法作りを続けてよ」(Go ahead and work your magic)と言ってくれています。魔法作り,これが僕らに課されたことですね。  クリエイティブな部分での自由はもらっている代わりに,それが失敗すれば僕らの責任だということです。もちろん,例えば日本やヨーロッパでも受け入れられるようなフィードバックはもらいたいし,そういうコミュニケーションや協力体制は大切にします。我々Flagshipのビジョンが損なわれず,さらに良い作品になるのであれば,お互いを高めるための意見交換はしていきたいですね。
4G:
 なるほど。長い時間,ありがとうございました。新作の発表会を楽しみにしていますね。

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 こうやってナムコとの関連を聞いていると,それまでよりもローパー氏自身のボルテージが上がってきたのを感じた。彼らがBlizzard社時代には持っていなかった販売元との協力関係やレベルの高いコミュニケーションに満足し,今後のゲーム開発に意欲的になっているのがヒシヒシと伝わってくるのだ。その話しぶりから,日本のゲームファンとして彼らの成功を応援したくなるような期待感さえ生まれる。
 ローパー氏が言うように,今ゲーム業界は大きく変動し始めており,ナムコやFlagshipのような連携も,その荒波を乗り越える手段の一つなのだろう。何もない状態から新作を作り始めたFlagship Studios社も,まだ第一歩を踏み出したばかりだ。Diabloを初めてプレイしたときと同じ感動を,彼らの魔法で蘇らせてくれる日が待ち遠しい。

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