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| オーバルを走るための基本であるドラフティング。数台が連なって走ることにより,空気抵抗が減り,隊列全体の速度が上がる |
ここで紹介する「ナスカー
レーシング 2003 シーズン」(以下,NR2003)を開発したPapyrus社は,ドライブ物のシミュレータを開発しているメーカーの中でも,筆者が一番の信頼を置いている会社だ。同社製のどのタイトルも"シミュレータ"と呼ぶにふさわしいリアルさを追求した仕上がりで,個人的には他社のレースシミュレータをプレイしたときに「Papyrusのエンジンを使ってくれたらな」と思ってしまうことも多いほど。
このPapyrus社の代表作が,アメリカンモータースポーツ人気No.1のNASCAR(National Association for Stock Car
Auto Racing)を再現した"NASCAR Racingシリーズ"。初代NASCAR Racingが登場したのは1994年だから,Windows95の登場前,なんとまだ多くのゲームはDOS上で動いていた頃だ。当初からリアルさを追い求めるスタイルは変わらず,続編が出るたびに進化を遂げてきたシリーズである。
シリーズ最新作のNR2003は,見た目は前作「ナスカー レーシング 2002 シーズン」(以下NR2002)のバージョンアップ版という印象だが,中身は良い意味でまったく別のゲームになっている。筆者はNR2002をプレイしたときに,さらにその前作である「NASCAR
Racing 4」からの違いをあまり感じなかったのだが,今回は違った。一段とリアルさを追求した改善点が随所に見られ,思わずニンマリしたほどである。
このNR2003では,NASCARで活躍中のJasper Motorsports,そしてタイヤを独占供給しているGOODYEARの協力のもと,5年ぶりに物理エンジンの大きな見直しや調整が行われている。そこで読者にとってもNR2002からどのように変わったのかが気になるところだろう。ゲームモード等に大きな変更がないため,このレビューでは,NR2002とNR2003の違いに重点を絞って紹介していく。
なおゲームモードについては,前作NR2002のレビュー記事「こちら」を参考にしてほしい。またNR2002のレビューでは,冒頭で簡単にNASCARというレースカテゴリについて説明している。特有のルール,走らせ方など分かっていないと楽しみが半減してしまうだけに,NASCARって何さ? という人も,ぜひ一読されたし。
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| #38 M&M's,ド派手なカラーリングの再現度もご覧の通り。各マシンテクスチャも可能な限り忠実に再現してある |
NR2002ではベースとなるマシンモデリングは1車種のみで,Chevrolet,Dodge,Ford,Pontiacの車種の違いは,テクスチャに委ねられていた。NR2003では各車種ともマシン形状の違いが再現されており,マシンカラーをオリジナルにする場合には,テクスチャも各車種ごとに用意する必要がある。またマシンの描き込みも細かくなり,特徴あるストックカーは一段と映えて見えるようになった。
そのほか,ボンネットが外れればエンジンが見えたり,走行中に逆光で前が見づらくなったりと,臨場感を醸し出す演出が追加されている。
さらに臨場感を高めたいときは,視点を"コクピットビュー"にしよう。NR2003では少しではあるが前後に視点を移動可能になり,若干視野範囲を広げられるようになった。また走っているとフロントウインドウがオイルなどで汚れてくるといった演出もあり,コクピットビューでプレイすれば強烈なリアリティの中でレースを楽しむことができるだろう。慣れるまでは操作が難しい感はあるが,筆者一押しのプレイ視点だ。
NR2003では,前作と比べてグラフィックス周りがかなり強化されているという印象を受ける。リアリティアップには欠かせない要素だけに,見た目が綺麗になるのは嬉しいところだ。それでいてゲーム自体が重くなったとも感じないので,NR2002が動くマシンスペックであれば問題ないだろう。
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| コクピット視点では,視点位置を前後に調節できるようになった。この画面写真は一番後方の視点にした状態である | 走っているうちに,フロントウインドウがオイルなどで汚れてくる。少々見づらいが,上部にゴミのような物体が付着している |
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| ナイトレースのワンシーン。日中とはセッティングも変わるので,ナイトレース用に調整しよう。雲の描き込みにも注目 |
筆者が最も前作との違いに驚いたのが,マシン挙動だ。
NR2003を最初にプレイしたときには,エンジンがパワフルで,挙動はタイト(アンダーステア)気味ではあるが,前作よりもコントロールしやすくなったという印象を受けた。相変わらずマシンはじゃじゃ馬ではあるが,ルース(オーバーステア)になった場合のコントロールもしやすく,振り回して走れるようになっている。……と思っていたのだが,何度かプレイしている内に,実はまったく違うということに気づいた。
確かにエンジンは多少パワフルになっているかもしれないが,荷重移動などでリアを流しつつターン(コーナー)を抜けるというのは,単にタイヤの暖まりが悪く,グリップ力が低いだけだった。なお,このような強引なドライビングは,タイヤ寿命を痛める原因となる。ブレーキングでスモークを上げたり,セッティングが合わずタイヤからスモークを出しながらターンを回るなんてことを繰り返すと,タイヤの減りを助長してしまい,最悪はブロー(パンク)という結果を招くのだ。
スピンなどすれば,笑ってしまうくらい一気にタイヤが磨り減るので,無用なクラッシュなども避けたいところだ。タイヤを長持ちさせるには,ステアリングだけで曲がろうせず,アクセルを若干緩めるなどタイヤに優しい走りに徹したい。このあたりはプレイヤーのセッティング能力と走り方にも左右され,レース運びにも大きな影響が出てくる部分である。
またタイヤと同様にマシン全体も貧弱になり,エンジンも壊れやすく,接触などによるボディ破損も走行に大きな影響を及ぼすようになった。そのため,NR2002よりもかなり慎重にドライブしなければ,すぐさま戦列を離れることになるはずだ。
ちょっとマシン挙動の話からは外れるが,気温や風向きがリアルタイムに変化するようになったのも面白い。「気温によってタイヤの暖まり方が違う」「グリルテープを貼りすぎて油温が上がってしまった」「向かい風で速度が出なかった」など,レース中は気温/風向きは常に変化しており,ピットイン時にピットクルーにセッティングを変更してもらうなどの対策も必要になってくる。
挙動などに関しては,Jasper Motorsports & GOODYEARが今まで培ってきたマシン開発データ/レースデータの提供を受けただけのことはあり,さすがに文句なしの出来映え。ちなみにデフォルトセッティングに"Jasper"が含まれているコースもあり,実際にNASCARを戦っているチームがどんなセッティングで走っているのかを試せるのも嬉しい。
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| スタート直後から数周は2wide(2列走行)で走ることが多く,タイヤも暖まっていないので挙動を乱しやすい | スタート間もなくの場面だが,ブレーキをロックさせたために,タイヤがみるみる減っていく。ロックする寸前ギリギリのところを見極めよう |
全てのトラックで路面などの見直しが行われ,バンプの追加などの修正が入っている。
いくつか紹介しておくと,2002年6月にSears Point RacewayがInfineon Racewayに名称変更になったため,NR2003でも名称の変更がされた。とくに目立った変更が行われたのが,Bristol
Motor Speedwayだ。ここはショートオーバルのため,ピットレーンがホームストレッチ,バックストレッチに分かれていた。2002年まではピット入り口/出口が別々になっていたが,今年からは入り口はバックストレッチ側,出口はホームストレッチ側に統一された。ピットインするときに今まで通りにホームストレッチ側から入ろうとすると,しっかりふさがれているのでご注意を。
NR2002に比べて,エンジン音がより図太くなっている。またAIマシンがイン側にノーズを入れるだけで,すんなり譲ってくれるのは少々気になったが,ラップタイムが遅いと攻撃的な走りで攻めてくるのは,気分も盛り上がる。
AIマシンの挙動といえば,NR2003から新しくAdaptive Speed Controlという機能が付いた。これは,簡単にいえばAIマシンの自動スピード調整機能で,アーケードモードのみで使用できる。この機能を使うとAIマシンのスピードがプレイヤーの力量に合わせて自動調整され,単独で走ることが少なくなるのだ。初心者には優しい機能だが,個人的には,できれば初心者でもシミュレーションモードでプレイしてほしかったりする……。
シリーズ最新作のNR2003でも,一番のお勧めはやはりマルチプレイ。絶対にマルチプレイで遊んで損はない。実際マルチプレイしかやってない人もいるくらいで,非常に熱く燃える。
前作のレビューで紹介したOnline
CircuitとOnline
Racing Japanでは,日本流通版の発売前から,輸入版NR2003を入手したプレイヤー達が熱いバトルを展開している。どちらのサイトでも"NR2003シリーズ戦"が開催され,多くのプレイヤーが長期間に渡ったポイント争いを展開している。
Online Circuitでは出走台数が20台以上,多いと30台近くになることもあり,自分の回りを走っているマシンが,全て人間によって操られているという状態になるのがたまらない。実際のレースと同様の周回数を走る"100%レース"も頻繁に行われていると聞いて,筆者も驚いてしまった。
一方のOnline Racing Japanは,10〜15台と台数はそれほど多くはないが,レース設定など試行錯誤しながら和気あいあいとNR2003でのマルチプレイを楽しんでいるようだ。こちらも100%レースを検討中とのことで,NASCARの面白さを知るには,100%レースを走るのが一番なのかもしれない。
しかし100%レースは,スタートから終了まで4〜5時間かかる長丁場。筆者は100%レースに挑戦したことはないが,聞いた話によると,意外とクセになるとか……。やったことのある人にしか分からない面白さがあるということなのだろうか。チャレンジャーは,ぜひお試しあれ。
ともかくNR2003を買ったら,まず紹介した二つのサイトを訪れてほしい。無論,買う前に訪れても構わないが,その場合は「買え」とドラフティングのごとく背中を押されるのを覚悟しておこう。
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| マルチプレイでのワンショット。20台程度であれば,ラグのまったくないマルチプレイが可能だ(ホストの回線速度にもよるが) | イエローコーションが出たときは,ピットインのチャンス。ピットクルーがミスをすることもあり,これで順位が入れ替わる場合があるのは本物同様 | マルチプレイで見かけたオリジナルペイントを施したマシン。安全運転が第一かと思ったら,工事中カラーでした(笑) |
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| 「Camera Control Master」を使用すると,こんなショットを撮ることも可能。カメラ位置を固定することができないのは残念 |
単刀直入にいえば,NR2003は,NASCARが好きな人/興味のある人なら"買い"だ。
NR2002を持ってるという人も,絶対に買って損はない。見た目ではグラフィックスの向上しか分からないが,中身はNR2002とはまったくの別物。本物のNASCARのデータを組み込み,全体的にリアリティの見直しを計ったNR2003は,NASCARというレースの奥の深さをジックリと味わえ,人間同士の熱いマルチプレイも楽しめる,そんな欲張りな内容になっている。まずは体験版(当サイト内の「こちら」からダウンロード可能)をプレイして,少しでも興味を持ったなら,すぐにお店に走るべし!
なおNR2003は,ゲーム本体こそ英語版だが,約80ページもの日本語マニュアルが付属している。このマニュアルが大変良くできており,ゲームの詳細はもちろんのこと,NASCARのルール,ストックカーの走らせ方,セッティング方法,用語などが解説されており,さすがはイマジニアといったところ。欲をいえばトラックガイドみたいなものも欲しかったが,このマニュアルを読んで,ドライビングスクールをプレイすれば,誰にでもNASCARでのマシンの走らせ方,ルールなどは分かるはず。レースゲーム初心者にもぜひ挑戦してもらいたい。
ところで,実はライセンスの問題で,NASCAR RacingシリーズはNR2003で最後となる。現在ではNASCARの全てを再現したレースシミュレータはNASCAR Racingシリーズ以外にはなく,ここで終わってしまうというのは非常に悲しい。例え本作で最後だとしても,パッチなどでの対応で,最高のNASCARシミュレータとしての地位を維持していってくれたらと切に願う。
| 注記 このレビューで掲載したScreenshotsの大半は,「Camera Control Master」(CCM)というカメラアングルを変えるソフトを使用して撮影した。マウス,キーボードを使い自由にカメラ位置を操作できるので,リプレイフェチにはたまらないソフトである。 |
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■メーカー:イマジニア |
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