NASCAR Racing 2002 Season

Text by UHAUHA
15th Aug.2002


■アメリカンモータースポーツ最高峰
  "NASCAR"を体感しろ!

併走したままバンク内に進入することが多いので,イン側に振られてほかのマシンと接触しないようにコントロールしよう。筆者のマシンは#128 Blizzardカラー。オマケで4Gamer.netのロゴを貼り付けてある

 アメリカンモータースポーツ最高峰NASCARを忠実にシミュレートしたPapyrusのNASCAR Racingシリーズ。その最新作が,「NASCAR Racing 2002 SEASON」(以下NR2002)だ。前作NASCAR Racing 4からレースシミュレータとして名高いGrandPrix Legends(同社)の3Dエンジンが使われ,挙動などのリアルさに磨きをかけてきたが,NR2002では全体的に細かい調整がなされ,よりNASCARシミュレータとしての完成度を高めてきたといえる。
 主な変更点は,2002年チームとスポンサーデータの採用,マシン挙動などの修正,全23レーストラックの再現(Chicagoland Speedway,Kansas Motor Speedwayの2コースを追加),ドライビングレッスンの追加,サウンド面の修正,そしてリプレイエディタの搭載……など,かなり細かいところに追加,修正が加えられている。最新作というよりは"NASCAR Racing 4.5"のような印象なので,あえてNASCAR Racing 5の冠は付けずにおいたのだろう……と勝手に解釈してみる。




■アメリカンモータースポーツ最高峰NASCARとは

NASCARといえばローリングスタート。1レース中に何度かやることになるだろうから,加速のタイミングを外さないようにしよう。グリーンフラッグが振られても,スタート/フィニッシュラインを越えるまでは追い越し禁止だ

 日本では馴染みの少ないNASCARだが,「NASCARって何?」という人のために,簡単に説明しておこう。興味がない人は読み飛ばしてもらってOKだが,知っているのと知らないのでは,ゲームの面白さが大きく変わってくる。可能なら,ぜひとも基礎知識として知っておいてほしい。
 NASCARとは"National Association for Stock Car Auto Racing"という主催団体の略称で,毎年,全米で2000を超えるNASCAR公認レースが行われている。毎レース15万人以上の観客が集まるというアメリカンモータースポーツ最高峰のレースカテゴリだ。数ある公認レースの中でNASCAR Winston Cup Seriesが頂点にあり,NASCAR Racingシリーズを含めPCソフトで再現されているNASCARというのは,NASCAR Winston Cup Seriesを指していると思ってよい。
 このシリーズは2月から11月の9か月間という長い期間で,全米各地のサーキットを舞台に繰り広げられ,入賞ポイントによりチャンピオンシップを争う。ちなみに2002年は36戦開催され,内3レースがノンタイトルレースとなる。1998年にはノンタイトルレースとして,1999年には公式戦として,日本唯一のオーバルコース"ツインリンクもてぎ"でNASCARが開催されたのは,ファンの記憶に新しいところだ。
 舞台となるコースは"オーバルコース"(楕円形をした左回りのコース)が主で,Watkins Glen,Sears Pointが一般的なサーキットに近いロードコースとなる。オーバルコースはトラック長によりShort Track,Superspeedway,Speedwayに分けられ,レースによって200〜500周することになる。オーバルコースの特徴は,ターン(コーナー)にバンク(傾斜)が付けられていて,ハイスピードを維持したままターンを抜けることが可能となる。そしてコース全体が抜きどころとなるため,3台のマシンが並んでターンインすることもあり,その際の接触や小競り合いなどもNASCARの大きな魅力である。
 使用されるマシンはストックカーと呼ばれ,スチールパイプを組み合わせたシャーシ,5866ccV型8気筒,約700馬力のエンジン,ボディはスチール製でド派手なカラーリングが施される。そしてタイヤはグッドイヤー独占供給,ホイールに至っては5つ穴のスチールホイール,コクピットには必要最低限の物しかついていない。
 語弊を承知で大袈裟にいえば,車重は重く(1.5tほどある),曲がらない/止まらないという,ハイテク化の進むほかのモータースポーツとは別次元のマシンなのだ。ちなみにストックカー(市販車)と呼ばれているのに,「全然,市販車じゃないじゃん」と思われる方もいると思うが,NASCARではボディ形状のみを指すようで,Dodge,Chevrolet,Ford,Pontiacの4車種のボディ形状が使われ,1車種につき4枚のテンプレート(計測用の板)で厳密に形状がチェックされる。

ピットインする場合は,ピットレーンの速度違反に注意すること。マシンが入ってくるとクルーが飛び出して作業をしてくれる。タイヤ交換,給油以外にも破損した箇所を修理してくれるぞ(直せない場合もあるが) 新たに加わったドライビングレッスンでは,基本的な走り方やポイントとなるところ,コース紹介などをゲームムービーで説明してくれる。音声,テキストとも英語ではあるが,眺めているだけでも参考になるところが多い
 NASCARには,ほかのレースカテゴリとは大きく違う点がいくつかある。レースを勝つために必要な代表的なことを列挙してみると,単独で走っていたら速く走れないということ。NASCARでは,スリップストリームと同じ原理の"ドラフティング"(ドラフト)を使わなければ,速く走ることはできない。ドラフトとスリップストリームが大きく違うところは,スリップストリームは前車をオーバーテイクするのために使うに対し,ドラフトは数台のマシンが連なって,一つの集団を作ることにより,空気抵抗を緩和させて,集団全体が単独で走るよりも高いスピードで走ることができるというものだ。
 ドラフトは,常にハイスピードを維持できるオーバルコースならではの走り方でもあるが,ドラフトをうまく使えるかどうかが勝敗に大きく関わってくる。単独でゴールラインに辿り着くことが少ないNASCARでは,ドラフトの使い合い,その集団から抜け出すタイミングなどが非常に難しく,ドライバー同士の重要な駆け引きの部分となっているのだ。
 またリーダー(トップ)と同一ラップにいることが最も重要で,スピンしたり,クラッシュなどのアクシデントが起きると必ずイエローフラッグが振られ,ペースカーが先導するフルコースコーションとなる。当然,追い越し禁止となり,隊列が整った時点でリスタートされるのだが,NASCARではイエローフラッグの扱いが少々違う。
 ほかのレースカテゴリではイエローフラッグが出た時点で追い越し禁止となるが,NASCARではイエローフラッグが出ても"その周回"つまりスタート・フィニッシュラインを通過するまではレースは続行されているのだ。これを知らないと,イエローフラッグが出たからスローダウンしていたのに,どんどん追い抜かれて最後尾になってしまう。ピットに入るタイミングも,フルコースコーションのときが基本。レース中にピットインすれば,間違いなくラップ遅れにされてしまうだろう。レース中はコース状況や自分の回りのマシン状況などを教えてくれるスポッターからの無線を頼りに走ることになる。

 それ以外にもNASCARは他のレースカテゴリとは独特のレギュレーションなどがあるが,それがNR2002ではほとんどが再現されている。つまりNR2002は現時点で存在する最高のNASCARシミュレータといっても過言ではないだろう。

コクピット視点では,リアルに再現されたコクピット内部を見ることができる。メーター類はすべてきちんと動作しているので,油温,水温など気にしながら走るようにしよう。ちなみにステアリング径が大きいのは,パワステが壊れてもドライブできるようにするためだ 一つのミスで大きなクラッシュを招く。こうなってしまったらもはや,"後ろのマシンに当たらないでくれ"と祈るしかない。走行不能になるほど壊れる場合もある ショートオーバルでは,周回遅れも連なって走っているのでパスするときには注意すること。スポッターからの無線を頼りに,死角にいるマシンも把握することが可能だ(この画面でいうと,ボンネットビューでは#28が見えない)。テキスト表示を使えば,画面上部に表示することも可能 ペイントショップでは,マシンのカラーリングを変えることができる。TGA形式でインポート,エクスポートもできるので,TGA形式の画像を扱えるソフトを使って編集して取り込むのが一番よい

■バランスの良いマシンセッティングがカギ

セッティングはかなり細かく調整が可能だ。バンクの付いたオーバルコースを走るので,足回りのセッティングも左右でかなり違ってくる。タイヤ温度などに気を付けて煮詰めていこう。1調整,1走行は当然のこと

 さて,やっとゲームの話に戻そう。
 NR2002には四つのゲームモードがある。練習走行やマシンセッティングを煮詰めるのに最適な「TESTING SESSION」,練習走行から決勝レースまでのレースウィークを楽しんだり,いきなり予選/決勝レースに挑むことのできる「SINGLE RACE」,1シーズンを通してレースを戦って優勝を目指す「CHAMPIONSHIP」,LAN/インターネット回線を使ってマルチプレイを楽しむ「MULTIPLAYER」がある。
 どのゲームモードもオプションでのゲーム設定が可能で,挙動をアーケードにするかシミュレーションにするか,マシンダメージの有無,実際のレースと同じ周回数を走るか,イエローフラッグを出すようにするかなど,プレイヤーの腕前や気分によって,かなり詳細に設定できるのが親切なところだ。
 マシン挙動などの再現度はドライブシミュレーションゲーム全体を見てもトップクラスで,文句なしといったところ。ストックカーという"じゃじゃ馬"を,忠実に再現し,ラフなアクセル/ステアリング操作は,即スピン&クラッシュに繋がってしまう。マシンの作りは豪快そのものだが,ドライビングに関しては意外なまでに繊細だったりするのだ。TESTING SESSIONで何度も走り込んで,ストックカーの挙動に慣れてくれば,オーバルコースのバンクを疾走するときのマシンの動きなども十二分に楽しめるようになる。タイヤのスキール音を聞き,限界を探りながら攻めるといった走り方も可能だ。

 セッティングなどもマニアックなほど各部を調整することができ,デフォルトでEasy,Qualify,Fastなどの設定セットがあるのは,初心者にも嬉しい。まずはデフォルトセットを調整し,そこから自分に合ったマシンセッティングを見付けるのがベストだろう。初心者は,最初はストレートスピードを稼ぐだけのセッティングにしがちだが,周回数の多いNASCARでは,少し余裕を持って周回できるセッティングにするほうがいいだろう。
 ちなみに,マシンを速く走らせるうえで最も重要なのはタイヤの温度管理だ。4輪すべてのタイヤ全体が同一に近い温度になるように調整することを心がけよう。タイヤごとの温度がバラバラだったり,各タイヤ全体の温度がバラバラだと,グリップ能力は激しく低下し,結果的にマシンを速く走らせることはできず,挙動にも影響してくるのだ。ギア比なども重要であるが,まずはタイヤ温度を重視し,すべての面でバランスの取れたセッティングに煮詰めていくのがよいだろう。
 また,マシン挙動変化によるForce Feedback(FFB)の再現も見事なので,ぜひともFFB付きのステアリングでプレイしてほしい。それだけのために買ってもいいぐらいだ。バンクを抜けるときに徐々に反動が抜けていく感覚や,他車と接触したときの挙動の乱れなどのFFB効果は,実際にNASCARマシンをドライブしている気にさせてくれるぞ。


■やらなきゃ損だ!!
   マルチプレイが熱い!!

マルチプレイの1カット。中にはちょっぴり怪しいカラーリングもチラホラ。これだけの台数でプレイしても,ラグなどほとんどないのが,NR2002の素晴らしいところ。マルチプレイは,CPU相手とは比較にならない楽しさがある

 NR2002はSINGLE RACEやCHAMPIONSHIPで一人でプレイするよりも,インターネットを使ったマルチプレイが熱い。ぜひともMULTIPLAYERでプレイしてもらいたい。SIERRA.COMのサーバーに接続して,アチラのプレイヤーとレースを楽しむことも可能だが,やはり日本人と会話を楽しみつつ,レースを楽しみたいというのも本音だろう。
 NASCARのマルチプレイに力を入れている国内Webサイトとしては,以下が挙げられる。

・Online Racing Japan「こちら」
 ここでは,「どうやって走って良いのか分からない」などという人も安心して参加できる初級練習走行会が毎週月曜日に開催されている。初めてマルチプレイの世界に飛び込むときはどうしても躊躇しがちだが,気軽に参加できる配慮がされているのが嬉しいところ。

・Online Circuit「こちら」
 毎週水曜日に練習会,土曜日にチャンピオンシップ形式のレースが行われている。筆者も実際に参加させてもらって,出走台数20人という多人数のマルチプレイを楽しむことができた。他車のクラッシュに巻き込まれたり,ドラフトを維持して周回したりと,目の前を走っているマシンは人間が操っているだけに,AI相手とは違ったレース展開が楽しめる。筆者のレース結果は残念ながらリタイヤとなってしまったが……。

 回線にもよるが,NR2002のオンライン対戦は多人数でもラグなどないに等しいのが大きな魅力。どんどん練習会やレースに参加し,場数を踏んで体で覚えていくのが速く走るための近道だ。毎回必ずリプレイを保存しておいて,速い人の走りを見れば,とても参考になる教材に早変わり。両サイトとも初心者でも気軽に参加できるので,熱いNR2002のマルチプレイが楽しめる。


■リプレイフェチ御用達,
   高性能リプレイエディタ搭載

ドライビングレッスンは,新機能リプレイエディタで制作されている。リプレイに画面ショットを貼り付けることも可能だし,フェードイン/アウトもフレーム(コマ)単位で設定できる。手の込んだリプレイ映像にできるというわけ リプレイエディタではリプレイデータを,視点を変えながら何度も映したり,画面切り替え時にフェードイン/アウトを指定できたりとさまざまに編集が可能。テキスト,画像などは,表示位置,表示時間なども細かく設定できる

 最後に,NR2002の新機能として加わった「DRIVING LESSONS」というモードに触れておこう。
 元NASCARチャンピオンのD.WaltripによるNASCARの基本的なルールや走り方,セッティング方法,全サーキットのトラックガイドなどが詳細に解説されている。実際にゲームムービー(リプレイ画面)を使って解説しているが,残念ながら音声は英語だ。とはいえトラックガイドなどは,英語が分からなくてもライン取りなどが非常に参考になるので,何度か観てみることをお勧めする。
 実はこのDRIVING LESSONSは,新たに追加された機能の"リプレイエディタ"を使って制作されている。リプレイエディタというのは,レース後に保存しておいたリプレイを編集できる機能だが,音声挿入,ボリューム調整,画像(BMP,TGA)の挿入,テキストの表示(日本語入力は不可),フェードイン/フェードアウト,任意の場所での視点の切替,映像のスピード変更など,リプレイをオリジナルのVTR風に仕上げることが可能となっているものだ。リプレイの必要な部分をコピーしたりして使えるので,例えばクラッシュシーンなどを編集して,クラッシュを引き起こしたマシンを"TV1視点で映す→別視点で映す→後方マシンのコクピット視点で映す"など,同じシーンを視点やマシンを切り替えてVTR風に編集することも可能だ。
 操作さえ分かってしまえばかなり面白いことができるこのリプレイエディタだが,画像やテキストなどを表示する位置を800×600ドットの範囲で座標を指定する必要があったりして,インタフェースの部分などでまだまだ未完成だ。しかしリプレイを編集してVTRのような物を作れるというのは,リプレイフェチな人には堪らない機能だろう。


某アーケードゲームでも有名な,Daytona International Speedway。NR2002から搭載されたレコードライン表示はブレーキングポイントなども表示されるので,コースを覚えるのに便利だ スピンしたりするとルーフフラップ(エア抜き)が開くところも再現されている。高速でスピンした場合,サイドウィンド部やリアからコクピット内に風が入ると簡単にマシンを浮かせてしまうからなのだ

■気合いを入れてリアル志向で

Watkins GlenやSears Pointなどのロードコースは,ブレーキング勝負でインを刺す。はっきりいってブレーキの効きは悪いので,かなり手前からエンジンブレーキと併用して速度を落とす。軽い接触ごときでスピンしないようにコントロールすべし

 いままで書いてきた原稿を見ていると,NR2002は,ガチガチなシミュレータに思えるかもしれない(いや,実際そういう部分がメインだが)。しかし挙動などはArcade/Simulationで切り替えができ,さらにDRIVING LESSONS,プレイ中の走行ラインの表示など初心者向けの配慮が目立つようになった。F1などはプレイしたことはあるが,NASCARはプレイしたことがないなどというプレイヤーにも,比較的受け入れやすい要素が増えたといえるだろう。
 しかし本当のNASCARの面白さを知るには,やはりSimulationモードでプレイしてほしい。Yerrow Flagあり,ダメージはRealisticでプレイすれば,どれだけ面白いものであるかが分かってくるだろう。
 このソフトを機に,多くの人にNASCARの世界に挑戦してもらいたい。イマ一つ知名度がないせいか「NASCARはグルグル回っているだけ」なんて思っている人も多いだろうが,そういう人もぜひプレイして,ただ走っているだけでは勝つことはできないNASCARの奥の深さを知ってもらいたい。

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■発売元:カプコン
■価格:7800円(英語版日本語マニュアル付き)
■問合せ先:カプコン TEL052-760-0335
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumII/450MHz以上(PentiumIII/800MHz以上推奨),メモリ64MB以上(128MB以上推奨),空きHDD容量550MB以上

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