電車でGO!旅情編

Text by UHAUHA
29th May.2003



■旅行気分でノンビリ走る「電車でGO! 旅情編」

江ノ電といえばこの車両"デハ300形302"。旅情編では302+352編成で登場する。現在は運行されていないので懐かしく感じる人も多いのでは?

 アーケード,コンシューマ,そしてPCで怒濤の勢いでリリースされ続けているタイトーの"電車でGO!シリーズ"(以下,電GO!)は,電車シミュレータとしての知名度 ,人気ともにNo.1といえるシリーズだ。PC版も前回「こちら」でレビューした「電車でGO! 山陽新幹線編」など続々と移植されているが,今回「電車でGO! 旅情編」アンバランスから発売される。

 この旅情編は,元々「がんばれ運転士!!」というアーケードゲームで,収録電鉄は伊予鉄道と江ノ島鉄道のみだったものを,プレイステーション2に移植されたときに京福電気鉄道と函館市交通局を追加して"電車でGO!"の冠が付けられた異色作。
 電鉄名を見てピンときた人もいると思うが,旅情編で登場する車両はすべて路面電車となっている。電GO!では名鉄編に路面電車が収録されていたが,旅情編は電車の運転を重点を置いた過去の電GO!とは違い,のんびりと景色を楽しみ,旅行気分を味わいながら路面電車の運転を楽しもうといったコンセプトで作られている。
 風景を見ながらノンビリ走る……。こういうことができるのも,各電鉄ごとの臨場感ある景色の描き込み,季節設定,時間帯の設定などがあってこそ。旅情編では,そのへんはまったく抜かりない。市街地を走ることが多い路面電車では,どのくらい町並みが再現されているかがリアリティアップの要因となるが,本作の町並みの再現性は見事のひと言。この手のゲームでありがちな,同じ建物データの使い回しなどはほとんどなく,あるべきところにあるべき建物が存在するというのは嬉しい。
 交通信号などもすべてが動作し,歩行者用信号が点滅すると横断歩道を渡る人が早歩きになるといった凝りようだ。また伊予鉄道は春,江ノ島電鉄は夏,京福電気鉄道は秋,函館市交通局は冬と,各電鉄にあった季節設定になっており,走る時間帯も"朝" "昼" "夕" "夜" "PCのタイマーによるリアル"の5種類から選択可能だ。路面電車もすでに現役を引退している懐かしの車両から現在運行中の車両まで合計31両が収録され,加速性能やブレーキ性能,モーター音やレバー操作音の違いなども再現されている。
 さまざま路面電車を運転しながら風景を眺め,あたかも本当にその場にいるような気分を味わえるのが,旅情編のウリである。

視点を切り替えて眺めていると「あれ?」と思えるようなことも……二人は電柱の影で何をしているんだろう。なんか面白くないので警笛を鳴らしてやった(笑) 現在も現役で走っている函館市交通局の710形724通称「エーユー号」。道路脇に積まれた雪や白くなった木や車などで季節感を感じることができる

☆収録している路線☆

 冒頭で収録電鉄を紹介したが,「自分の住んでいるところは収録されてるの?」「旅行で行ったときに乗ったことがあるんだけど……」などと気になる人も多いはず。電鉄ごとの難易度についても簡単に触れておくので参考にしてほしい。

京福電気鉄道(京都府京都市) 難易度:やさしい
 嵐山〜四条大宮(嵐山本線),帷子ノ辻〜北野白梅町(北野線)を収録。路面電車が通りやすいように信号が固定されるので,操作に慣れるのに最適。まずはここから挑戦すべし。

江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市) 難易度:普通
 藤沢〜鎌倉までを収録。民家の玄関先を走るなど,さまざまに移り変わる風景を存分に楽しめる。ほんもの運転の場合には速度制限が多々出てくるので,スピードと時間のコントロールに注意すること。また,「扉はホーム側のみ開閉する」「駅到着前にもアナウンスが必要」といったほかの路線との違いにも注意しよう。時間帯を夜にして江ノ島近辺に来ると花火大会が行われている。

伊予鉄道(愛媛県松山市) 難易度:やや難しい
 JR松山〜道後温泉(松山駅前線),市駅〜道後温泉(市駅線),市駅前〜市駅前(環状線),本町六丁目〜道後温泉(本町線),そして道後温泉〜古町までの坊ちゃん列車(蒸気機関車)を収録。市街地の走行が主なので交通信号が多く ,その影響でダイヤが遅れることもあり,速度を上げすぎると止まりきれないこともある。ポイント切り替えも多いのでしっかり操作するようにしたい。坊ちゃん列車では観光案内アナウンスも忘れずに。

函館市交通局(北海道函館市) 難易度:難しい
 湯ノ川〜函館どっく前,湯ノ川〜谷地頭,五稜郭公園前〜函館どっく前,五稜郭公園前〜谷地頭,駒場車庫〜函館どっく前(入庫・出庫乗務),駒場車庫〜谷地頭(入庫・出庫乗務)の2系統,5系統を収録。 降雪の場合,加速が悪くブレーキが利きづらい,走行距離が長い,交通信号が多いなど収録路線の中でも一番難しい。


函館市交通局の500系529。昭和23〜25年に30両のみ製造され,その姿のまま運用されている2台の内の1両。車両モデリングも文句なしの出来映えだ 江ノ電では民家の軒先などを走ることも。路面電車が身近に走っていない筆者には凄く新鮮に感じられた 伊予鉄道のミニSL,坊ちゃん列車も登場。ブレーキ圧表示がMPa(メガパスカル)に変わっている。運転席ビューでは再現された計器類に囲まれて小窓から外を見る


■自分にあったゲームモードで路面電車の運転を楽しめる

函館市交通局の路線では雪が降ることもある。雪でレールが滑り,ブレーキの利きが悪い。雪も徐々に小降りになったりと,なかなか芸が細かい

 旅情編には"入門編" "運転乗務"の2種類のゲームモードがある。
 入門編は,電鉄ごとのイメージキャラクターが,ゲームをプレイしながら路面電車の走らせ方をレクチャーしてくれるモードだ。路面電車は,ほかの電車とはまた違った操作を必要とするので,電GO!の初心者上級者問わずに最初は必ずプレイしておこう。
 運転乗務がメインのゲームモードで,プレイヤーが運転手となって路面電車を運行するモード。どちらのモードも"のんびり"と"ほんもの"の難易度があり,のんびりでは電車を走らせる,停車させる,アナウンスを行う,乗降扉の開閉をするといった基本操作のみ必要とするが,ほんものではさらに制限速度,ポイント切り替え操作などより本物に近い路面電車の運転を味わえるようになっている。

 ゲームの基本システムは電GO!そのままで,電車を走らせ駅に停車するとそこまでの走りによりポイントが加減算され,持ち点がなくなるとゲームオーバーとなる。
 総合評価で得た評価点も前述のポイントに累積され,合計ポイントにより新しい路線,電車,資料館の写真や映像などが追加されていく。小さなミスも,繰り返せば評価点に大きく影響するので,いくら「のんびり」な旅情編とはいえ気を抜くと痛い目に遭うので注意されたし。
 合計ポイントは各電鉄ごとに用意されているので,すべての隠し要素を見るには各電鉄で2万ポイント稼ぐ必要がある。かなり時間もかかるが,"スペシャルエンディングムービー"を見るまでがんばってほしいところだ。

 またゲーム本編からは離れるが,定番の"資料館"では各電鉄紹介,電車図鑑,お土産紹介,観光名所案内などが充実し,これらを集めていくのも楽しみの一つだ。ちなみに随所に各電鉄のイメージキャラクターが私服で案内してくれるというサービス(?)もあり,ちょっとしたオマケ要素だが,ゲーム以外でも観光気分にひたれるのが嬉しいかも。

「観光名所案内」では,各電鉄のイメージキャラクターが"音声"で案内してくれる。私服というところがミソかも(笑)。思わず「へぇ〜」なんて返事をしてしまいそうだ…… 電車でGO!でお馴染みの映像資料も満載。旅行で乗ったときの記憶を蘇らせるのもいいだろう。路面電車とは無縁の地に住んでいる人も観ておいて損はない


■空気ブレーキを極めろ,ビシッと停車するべし

架線にあるトロリーコンタクターを叩いてポイントを切り替える。ほかの電車でGO!にはない要素だ。ポイントの切り替え方などしっかり覚えてから挑戦したい

  路面電車は走行速度が時速15〜25km程度で走らせることが多く,最初は「こんなに遅くていいの?」ととまどうかもしれないが,しかしこれが路面電車なのだ。あまりカッ飛ばしている路面電車というのを見たくないし,乗りたくない。
 ただ,速度が遅いから簡単かというとまったく逆で,ほかの電GO!よりも難易度は難しく設定されており,のんびり雰囲気なのに難しいというギャップがある。その難しさには,今までの電GO!との違いによる部分も多少あるが,どちらかというと路面電車の運転方法による要素が大きい。

 路面電車のワンマン運転手は,単に電車を時間通りに走らせるだけではない。左右ドアの開閉操作,アナウンスを流すなどといった普通の電車では車掌がやってくれることも自分でやらなければならず,それは旅情編でも同じ(ドア開閉とアナウンスは,オプションにより自動化が可能)。
 路面電車は車などと同じ一般道を走り,当然,交通信号や電車専用信号に沿って運転しなければならず,信号待ちもシバシバ。速度制限やセッション(電気の流れていない区間)などの標識も見逃さないようにし,運行の時間分配に気を付けつつ安全運転を心がけなければならない。意外とやることが多いので,一つ一つの操作を忘れないようにしたい。

 それ以外にも,線路が分岐する場合には運転手によるポイント切り替えが必要になってくる(難易度ほんものの場合)。ポイント切り替えは架線上に二つのトロリーコンタクターと呼ばれるポイント切り替えスイッチが付いており,パンタグラフが通過することによってスイッチが入る。ポイント切り替えが必要になる伊予鉄道と函館市交通局で方法は違って,伊予鉄道の場合,一つめのスイッチを入れてから二つめのスイッチを入れるまでの時間(10秒)で分岐方向の切り替えを行う。10秒以内に二つめのスイッチを入れると左に,逆に停止線で停車して10秒後にスイッチを入れれば右にポイントが切り替わるというわけだ。
 とくに"どちらに進め"という表示はないので,ゲーム開始時に表示される路線図を見てどちらに進むべきなのか必ず確認しておきたい。周期的に変化する交通信号や手動ともいえるポイント切り替えがあるのが旅情編……というか路面電車運行の大きな特徴でもある。

 電GO!をプレイしたことのある人がとまどうのは,停車時のオーバーランだろう。ほかの電GO!では停止時の合格ラインが前後50cmと余裕があったが,旅情編では停止線を超えてしまうと即オーバーランとなってしまう。
 難易度により違うが,停止位置は残り2m(または4m)から残りの距離が表示されないため,停止線より−25cm以内の"停止位置GOODボーナス"はかなり難しくなっている。狙っていきたいボーナスだが,無理しすぎるとオーバーランで減点となり損をするハメに……。こればかりは何度も挑戦して距離感を体で覚えてしまうほかないだろう。
 ところで,路面電車では空気ブレーキというものが使われている。空気ブレーキは文字通り空気をブレーキシリンダに送り,空気の圧力でブレーキ制動を得ている。ブレーキレバーで操作するが,中心が圧力一定,右に回すと加圧,左に回すと減圧となる。空気ブレーキの特性として,加圧している間は空気がどんどん送られてしまい制動が強くなる,また低速になれば同じ圧力でも強い制動が発生してしまうなどがある。そのためブレーキを入れ,すぐに切るといった動作で一定の圧力を保つ"保ち"にすることがポイントだ。速度が落ちてきてブレーキ圧力が高いようであれば減圧するなどして速度とブレーキを調節しよう。コツとしては,急激に加圧せずゆっくりと加圧すること,そして加圧して直ぐに"保ち"にするか衝撃を和らげるために減圧すること。これを数回繰り返すことで電車を止めるようにしよう。

江ノ電では速度制限,交換待ちなどが多々出てくる。到着時間が迫っているのに速度制限で焦ることも…… 発車してしまうと終点までの停車駅のみ表示されるので,ゲーム開始時に表示される路線図で分岐などを必ずチェックしておくこと


■旅情編は専用コントローラは必須!!

 旅情編を100%楽しむためには,空気ブレーキを極めることが重要。そのためには専用コントローラは必須だ。
 筆者は最初キーボードでプレイしたが,微妙なブレーキ圧力調整ができずに早々に諦めてしまった。次にゲームパッドでプレイしていたが,空気ブレーキがうまく使えず,ほかの電車と同じ(?)ブレーキとなってしまった。これじゃ旅情編を味わえないと思い,専用コントローラを使ってみたのだが,これが非常にいい感じなのだ。
 実際に使ってみると,ブレーキレバーでの微妙な圧力調節の難しさを味わうことができるだろう。慣れるまで急ブレーキになってしまったり,停止線を越えてしまうことも多々あるだろう。 しかし慣れてしまえば,微妙な加圧,減圧を繰り返して狙い通りの減速が可能になる。路面電車を運転しているという雰囲気を十分味わうためにも,専用コントローラでプレイしたい。キーボードやジョイパッドなどでプレイしてからだと操作感の違いにかなりとまどうことになるので,できればソフトと同時に購入していただきたい。

 ただ一つ問題があって,旅情編専用コントローラなので,ほかの電GO!では使用できない。旅情編をプレイするためだけに購入するのは考えてしまうのが本音だろう……。とはいえ,空気ブレーキを完全に操るためには必要なので,とことんリアルな環境でプレイしたい,空気ブレーキを極めたいという人には声を大にしてお勧めしておく。

旅情編にも視点切替は採用されているが,お勧めはやはり運転席ビューだ。上下左右に視点を動かして風景を眺めながら走るべし 入門編で必要な操作を覚えることができ,使用コントローラごとに内容も変わる。ちなみに函館市交通局は山口風花さんがレクチャーしてくれる


■電GO!の中でもお勧めの1作,難しいか簡単かはプレイヤー次第

 正直いうと筆者は,本作に対して,走行速度が遅いから「簡単じゃん!」などとナメていたのだが,実際にやってみるとかなりやりごたえのある作りになっていた。前方の信号を気にしながらの時間のコントロールや,扉の開閉などといった操作で結構忙しく,路面電車を本当に運転しているかのように感じられて,個人的には今までプレイした電GO!の中でも,難しさと面白さはピカイチと感じた。
 しかし旅情編からは,プレイヤーの好みによって意見が二分されるような印象も受けた。空気ブレーキの扱いが難しく,ポイント切り替えなどの操作で難度が高いと感じる人もいるだろうし,逆に運行速度が遅いため,定刻などの時間的制限は今までよりも甘くなり簡単だと感じる人もいるだろう。また先述したように,使用するデバイスによっても難易度の感じ方に大きく違いが出てくる。
 腕に自信のある人は,専用コントローラでオプションの画面表示機能をすべてオフしてプレイしてもらいたい。停止位置までの距離などは表示されず,運転席から見たままの情報でプレイする。これが"真のほんもの運転"だろう。実際に挑戦してみたが,かなり難しかった。ぜひお試しを。

 今までの電GO!とはひと味違う旅情編。運転中に視点切替で周囲を眺めながら走ると,いろいろな風景が見られてなかなか良い感じ。実際にプレイしていると,なんとなくその場の景色が見えてくるような気がするから不思議だ。
 一つ言わせてもらえば,走っている車や歩いている人がもう少し多かったらさらに臨場感が増しただろう。花火大会が行われている夜の江ノ島近辺は渋滞しているだろうし,繁華街も人がたくさん歩いているだろうし……。まぁ,こんな気になる部分があるのも,それだけ風景の出来映えが良いということだ。
 また今後,旅行などで訪れときに「あれ?,見覚えがあるぞ」なんてこともあるかもしれないし,地元の路線が収録されていたなら,どのくらい忠実に再現されているのか確かめてみるのも面白い。「路面電車を運転を楽しみながら,ノンビリ気分でリアルに再現された観光名所を巡れる」という謳い文句どおりの完成度。たまにはこういうゲームで心を和ませるのもいいだろう。

 少しでも興味を持ったなら,「こちら」に体験版が用意されているので,どんな感じなのか試してみてほしい。

路面電車は電車専用信号以外にも交通信号に従って運行しなければならず,思わぬところでの信号待ちも多い。信号待ちでも停止線のオーバーランに気を付けよう 信号待ちのほかに踏切での電車通過待ちもある。画面は大手町駅停車中だが,信号待ちなどの場合はブレーキを入れてドアを開けておくこと 同じ路線でも時間帯を変えるだけで違う印象になる。細かいところだが電車のライトが当たる部分だけ少し明るく表現され,臨場感を増している
駅やホームは当然のこと,見える範囲は可能な限り現実通りに再現してあるようだ。決して実写的ではないが空気を感じられそうなグラフィックスはお見事 ゲーム終了時に総合評価。三つの要素により評価点が出される。評価点は合計ポイントに加算されるので高得点を狙っていきたいところだ 合計ポイントを獲得していくと車両や路線,資料館内の資料が増える。各電鉄共に最高2万ポイントだが,ぜひ全部の隠し要素を入手してほしい


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■発売元:アンバランス
■問い合わせ先:アンバランス TEL 03-5283-3625
■価格:5980円(2003年6月5日発売予定)
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/1GHz以上(Pentium4/2GHz以上推奨),メモリ256MB以上(512MB以上推奨)
体験版

(C)TAITO CORP.1996,2003
制作協力(50音順):伊予鉄道株式会社 江ノ島電鉄株式会社 京福電気鉄道株式会社 函館市交通局