シヴィライゼーションIII

Text by 奥谷海人
22nd Feb. 2002

※本レビューは,英語版:Version1.17fでのレビュー記事です。

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Civilization IIIのメニュー画面

 「Sid Meier's Civilization III」は,1991年の「Sid Meier's Civilization」,そして1996年に発売された「Sid Meier's Civilization II」に続くシリーズ最新作。このターンベースの主のようなソフトの再来で,すでに睡眠時間を削ってプレイしている人も多いことだろう。つい昨日お伝えしたように,2002年4月5日にはサイバーフロントから「シヴィライゼーションIII 完全日本語版」が発売されることが決定しており,Age of Empiresの起源ともなったこのソフトを,言葉の壁にとらわられることなく堪能できるというわけだ。
 このシリーズの最大のポイントは,「もう1ターンだけ,あと1ターンだけ」と,知らず知らずのうちにプレイを続けてしまう中毒性の高さにある。前作では,このゲームが理由で離婚訴訟に発展した夫婦や,仕事をサボってクビになったビジネスマンから訴訟を起こされるハメになるなど,多くの伝説を残しているほどだ。

 さて,このゲームのタイトルに映画監督よろしく名を冠しているシド・マイヤー(Sid Meier)氏は,1984年の「Solo Flight」発売以来,旗揚げしたMicroprose社で多くのシミュレーションゲームを制作し,"シミュレーションゲームの父"と呼ばれるほどの名デザイナーだ。「F-15 Strike Eagle」や「Gunship」など,'80年代のアメリカを代表する数々のコンバットシムを開発したのも彼のチームで,'90年代後半になってからは,Age of Empiresのブルース・シェリー(Bruce Shelly)氏やEAに移籍してJane'sシリーズを制作したアンディ・ホリス(Andy Hollis)氏,マイヤー氏と共にMicroprose社を設立し,後にフライトコンバットもののオンラインゲームなども手掛けたビル・スティーリー(Bill Stealey)氏など,シミュレーションゲームの大御所たちの多くが,マイヤー氏とチームを組んでいた経験を持っている。
 1993年になって,経営難からSpectrum Holobyte社に身売りするという憂きめにあったものの,さらにHasbro Interactive社に統合されることとなった1997年になると,マイヤー氏らは同じメリーランド州を基盤にFiraxis Gamesを立ち上げて,華やかなカリフォルニアや若さで活気のあるテキサス州とは離れたところで,現在も家族的にゲーム制作を続けらている。CivilizationIIIは,「Sid Meier's GETTYSBURG!」(日本未発売),「Sid Meier's Alpha Centauri」(エレクトロニック・アーツ・スクウェアから日本語版が発売中),そしてそれら2作の続編に続く,Firaxisの第5作となるのである。

 とはいえCivilization IIIのプロジェクトをリードしたのは,これまでプロデューサーなどのマネージメントを主に行ってきたために"マイヤー一家"では比較的目立たないジェフ・ブリッグス(Jeff Briggs)氏。マイヤー氏自身は監修という立場でしかない。Sid Meier'sという名前をタイトルにしているのは,あくまでも商業的な理由であり,彼の名前があればゲームが売れてしまうからなのである。思えば,Civilization IIやAlpha Centauriも純粋なマイヤー作品ではなく,現在は独立してしまったブライアン・レイノルズ(Brian Reynolds)氏がリードしていたのと同じことだ。しかしそれもウラを返せば,シド・マイヤーブランドだからこそ安心して買える,というゲーマーが多いことの現れだといえるだろう。

"最初の10分"に学ぶターン制ストラテジーの王道

  さて肝心のCivilization IIIだが,CivilizationIIをプレイした人なら懐かしささえ感じるくらい,シリーズの面影を色濃く残した作品である。それでいて,Civilizationのようなゲームを初めてプレイする人にも十分に魅力的で,すでに確立されたゲーム性や操作体系を存分に満喫できるはずだ。グラフィックスは,ここ10年来のマイヤー作品では類を見ないほど洗練されたもので,3Dモデルからアニメーションが起こされた個々のユニットが素晴らしい。音楽も,前作の部族音楽から打って変わってフュージョンっぽい斬新な音楽が採用されており,耳障りにならないのが評価できるポイントだ。すでに何度かのパッチでゲームの多くの不都合も改善されているなど,サポート体制も整っているのは非常に好印象である

 基本的なゲームの概要は変わっておらず,プレイヤーは16種の文明から好みのものを選択し,ランダムに生成された見知らぬ大陸上で紀元前4000年から近未来の2050年までに渡って文明を育てつつプレイすることになる。プレイヤーの行動は,主に都市を建設し,マップを探索しながら開墾や衛星都市の建設を繰り返し,内政面では施設やユニットの生産に気を配ったり新たなテクノロジーの発見を続けながらも,周囲との国家の外交や戦闘によって領土を拡大させていくのである。最終的な目標は,立派なリーダーとして歴史の中に名を残すことにある。数ある"帝国建設ゲーム"の中でも王道中の王道と呼べる,筋金入りの戦略ゲームなのだ。
 マイヤー氏の開発理念の一つに,「ゲームは最初の10分が大切」というものがある。どんなジャンルであっても,ゲーム開始後10分でそのソフトの全体像をプレイヤーにつかませて十分に理解させることが,ゲームを楽しんでもらうためには最重要であるというのだ。実際Civilization IIIで遊び始めると,彼がゲームで具現化しようとしていることが手に取るように分かるだろう。前述のとおり,プレイヤーがしなければならないことは無数にある。しかし,各分野を担当するアドバイザーの助言やゲーム内の辞書を使えば,マニュアルを読む必要もないほど軽快にゲームプレイのノウハウを習得できるようになっており,最初の10分でCivilizationの醍醐味が体験できるようになっているのだ
 ゲーム開始直後にプレイヤーに与えられているのは,Settler(植民者)ユニットとWorker(労働者)ユニットの二つだけで,Settlerを使ってまず首都を築き,労働者で周囲の開墾を始める。最初のアドバイザーからのメッセージは「どのテクノロジーを会得したいか」というもので,発見までにかかるターン数とともに,いくつかのオプションが表示される。そのあたりでは毎ターンが50年の間隔でサクサクと進んでいき,数ターン後には最初の戦闘ユニットであるWarriorを生産していることだろう。内政面では,さらに戦闘ユニットを作ったり,寺院や防壁のような施設に加えて"世界の不思議"を建設しながらも,余った戦闘ユニットでマップの視界領域を拡大させていく。最初は真っ黒だった"未開拓"部分も,ユニットを移動させることで視界領域となり,その"先"の大陸の状況を掴めるようになるのだ。
 周囲には未開族が点在しており,ほどなく最初の戦闘も経験することになるだろう。さらに先に進めば近隣諸国の国境が見えるので,外交モードに入ってテクノロジーを交換し合ったり,いきなり戦争に突入してもいいだろう。これで最初の10分が経過しているころだと思うが,このころには複数の都市を建設しており,領土の拡張や保全を含めて,このゲームの大まかな流れは掴めているはずだ。

文明の行く末を左右する設定画面

 もっと細かい部分にも焦点を当てていくならば,まずゲーム開始以前に行うマップの設定モードから始めなければならない。前作と異なり,マップの大きさや大陸の形状,未開族の出現頻度,大地の見栄えや資源に影響を与える降雨量や気温,侵食具合といったことが,すべて一つのウィンドウで行えるようになっている。大きな大陸一つでプレイするのと小島に分かれたマップでプレイするのでは,おのずとプレイスタイルや攻略方法も変わってくるから,この機能はかなり重要だし,ゲームのリプレイ価値を高めている要因でもある。もちろん,同じオプションを選択しても毎回新しい形状の大陸になるため,無限に楽しめるのは間違いない。
 プレイヤーが好みのマップを作ったら,次は文明を選択することになる。プレイヤーがチョイスできるのは,ローマ(シーザー),ギリシャ(アレクサンダー),ドイツ(ビスマルク),中国(毛沢東),日本(徳川),インド(ガンジー),中米インディアン・アステカ(モンテズマ),北米インディアン・イロコイ(ハイアワサ),エジプト(クレオパトラ),バビロン(ハムラビ),ロシア(エカテリーナ),アメリカ(リンカーン),フランス(ジャンヌ・ダルク),ペルシャ(クセルクセス),ズールー(シャカ),イギリス(エリザベス)の計16民族である(ちなみに各カッコ内はプレイヤーキャラクターとなるリーダーだが,前作同様に名前や称号は変更可能である)。敵対するのは,マップの大きさによって3文明から15文明となっている。またゲームの難度は6段階に分かれており,文明の進歩が有利に進むChieftainレベルから,開発チームのメンバーでも生き残ることさえ困難といわれているDeityレベルまでが選べる
 しかし実際のところ前作と比較しても,文明の選択に関してはやや不満が残る。前作でのデフォルト21文明から,モンゴルやケルトなどの5民族が削られてしまっていることである。上記の16文明は,地域によって4種の文明圏に区分されており,例えば日本でプレイした場合は中国やインドが必ず近隣諸国として登場するようになっているのだが,別に16文明に限らなくてもよかったのではないだろうか。後々追加パックで登場させるつもりなのかと勘繰りたくもなるのだが……。
 もっとも,16文明に絞り込んだ理由も分からないでもない。それは,本作ではそれぞれの文明が二つずつの文明特性を備えているからだ。それらは,商業主義,拡張主義,産業主義,軍事主義,宗教主義,科学主義の6特性で,特定の施設の建設コストが安くなるなどの異なったボーナスが与えられている。この特性差は設定画面で機能をオフにすることもできるが,文明の特色を鮮明にするのには非常に有効な手段だろう。それでも,これら6特性を使えば最大で30パターンの組み合わせが考えられるはずなので,筆者の疑問は解消されないのも確かだ。やはり追加パックで……(以下略)。

新規ゲームを開始するときに使う,マップ製作画面 前作と異なり各文明のリーダーのアートは固定されており,男11人/女5人となっている

文化ポイントという新しい概念

 ゲームの流れに関しては,前述の簡単な説明で十分だろう。結局,CivilizationIIIは"シドのCivゲーム"にほかならないし,前作をプレイしたことのない人でも,おおよそのゲームプレイは理解できるはずだ。記述すべきは,もはや完璧に近いゲーム性を,さらに高純度にした数々の変更部分ではないだろうか。
 ゲームが始まってまず気付くのは都市の周囲にある点線だろう。これは都市の発する文化圏を示しており,それがそのまま国境として表現されている。その都市が保有する特定の施設,たとえば寺院や図書館を建設することでターンごとに一定の文化ポイントが得られ,その積み重ねによって文化圏がどんどんと拡大していくのである。これによって,もはや食料以外の資源が都市周囲の2スクウェアに捕らわれることはなくなり,文化圏内の資源には道路さえ通していれば,自国の資源として供給されることになったのだ。
 また,宇宙移民,武力制覇,外交制覇という従来の勝利条件に加え,世界の50%の文化ポイントを得ることで戦わずして勝つことのできる"文化制覇"という要素が加わっている。隣接している敵国の都市が文化的に未熟であれば,戦わずして吸収してしまうことだってあるのだ。帝国建設ゲームとして武力制覇にしか興味のない筆者は,1度文化制覇して以来初期設定で機能をオフにしてしまっているが,敵都市を寝返らせるのも,内政派にとっては新しい楽しみではあろう。さらには,国連の選挙によって惑星の主張になる権利を得ることで勝利できるようにもなっている。これは,敵との軋轢を極力少なくし,金銭援助や戦争協力を行うことで勝利できるようになるという条件だ。
 ただ,この文化圏という概念によって,Civilizationの遊び方が変わってしまったことは否めない。それは,拡大主義の文明気質の有無に関わらず,どの文明も紀元前の間は恐ろしいほどの速さで都市を建設して,少しでも大きな文化圏を領有することに邁進するためである。おそらく,人口も施設も少ない時期ほど敵国の文化侵略の脅威にさらされることがないので,コンピュータの思考ルーチンがそのように働いているのだろう。少し陣取りゲームのようになってしまっているのだが,領土内に進出してきた敵国を文化力で合併させたり,軍事力で手薄な隣接都市を分捕ってもよいだろう。このゲームには,"背徳"というパラメータがあり,人口によって比率が変化する共産主義以外は,首都から離れるほど生産能力が減っていくので,敵国の首都から遠く自国に近い場所に建てられた相手の都市は,人口以外ほとんど進化することがないからだ。平和な時代が続いていれば,結局のところは各国とも首都を中心にした国家が形成されていくような印象を受けた。

ゲーム開始後しばらくは,各文明ともこぞって街を建設していく 本作での線路は,スパゲティのようにクネクネしている


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