エンペラー:中華帝国の隆盛

Text by 大路政志
27th Feb. 2003

中国史ファン必見の都市建設シミュレーションが登場

農作物の生産は季節や土地の状態,灌漑技術の有無などに影響を受ける。……が,たまにはまったりと風景を眺めて,箱庭ゲームの醍醐味を味わいたい

 「エンペラー:中華帝国の隆盛」(原題:Emperor:Rise of the Middle Kingdom。以下,エンペラー)は,箱庭ゲームファンから高い評価を得ているImpression Software社のCity Building Series最新作。新石器時代の夏王朝(紀元前2100年)から宋王朝(西暦1279)滅亡までの初期中国史の中で,プレイヤーは一国の主となり,国の発展に尽力することとなる。
 いわゆる三国時代を含む比較的広い範囲の初期中国史が舞台というだけでも,中国史を好む人にとっては実に魅力的な作品だが,ゲーム自体も実に丁寧に作り込まれているので純粋な箱庭ゲームファンにもぜひオススメしたいゲームである。なお,この記事を書くためにプレイしたのは,カプコンが販売している日本語マニュアル同梱の英語版。日本語マニュアルの出来は結構いいので,英語が苦手な人でも十分楽しむことができるはずだ

一見難しそうだが,実はとても遊びやすい作品なのだ

 エンペラーには,シングルプレイのほかにマルチプレイ,キャンペーンクリエーターといったゲームモードが用意されている。
 シングルプレイでは,複数のミッションから構成される「ヒストリカルキャンペーン」や,目標を気にせず都市建設が満喫できるオープンプレイを楽しむことができる。マルチプレイでは,「協力プレイ」「競争プレイ」いずれかのタイプのシナリオを選択できるので,プレイスタイルの違いからくる無用な衝突もほとんど起こらない。また,既存のマップやシナリオに飽きがきた場合でも,キャンペーンクリエーターモード(マニュアルには詳しい記述がないのでやや上級者向け)で新たなマップを作成できるので,ゲーム内容さえ好みに合えば,末永くゲームを楽しむことができるだろう。

 ゲーム内容は,題材が中国だということを除けば従来のImpression Software社製箱庭ゲームと大差ない。移住者が定住できるよう住居や商工業施設,行政施設などを設置して住みよい都市を造りつつ,経済面や近隣諸国との外交問題などに対処していくこととなる。
 コマンドは計11の"省"に分かれており,また設置できる施設は100種類近くも用意されている。"100"と聞いただけで投げ出したくなるが,例えば"Agriculture"(農産省)コマンドを選べば農業関連施設を,"Government"(行政省)を選べば税金・行政関連施設を設置するボタンが表示されるので,各省の意味さえ把握してしまえば比較的容易にゲームを進めることが可能。また,各省に対応する都市情報も,省を表す名称をクリックすれば閲覧できるようになっているので,建設作業に必要なデータも簡単にチェックできる。
 英語版ということもあり,一見難しそうな印象を受ける「エンペラー」だが,なかなか秀逸なインタフェースデザインのおかげで,かなり遊びやすい作品に仕上がっているといえるだろう。その遊びやすさには,秀逸な日本語マニュアルや,「ヒストリカルキャンペーン」に含まれるチュートリアルミッションも寄与しているので,プレイする前にはぜひ一読&ワンプレイしてほしい。

すべてのゲームモードで最も大切なことは,「人口を増やす」こと。ヒストリカルキャンペーンでは,1000〜1500以上の人口がクリア条件になることもあるので,チュートリアルでしっかりと基本を学んでおきたい

本作独自ともいえるフィーチャーが,ゲームの魅力をうまく引き出している

 本作には,従来の都市建設型シミュレーションではあまり見られないような要素がいくつか導入されている。その代表的な要素が,漢民族の文化に起源を持つといわれる風水(Feng Shui)だ。
 風水とは環境が人間に与える影響に関する思想で,ゲーム内では,ある地形に施設を配置しようとしたときに判定される。その地形に配置する施設が風水的に調和が取れていれば(施設のシルエットが緑色になる)問題はないのだが,調和が取れていない(黄色のシルエット)と,民衆が不幸になったり,先祖への供え物の効果が低下したりといったペナルティがある。
 もちろん,すべての施設を風水的に完璧に配置する必要はないが,美しく健全な都市を建設しようと思ったら,風水は決しておろそかにすることはできない

 また,宗教(Religion)と思想(Spirituality)という要素も,中国史を題材とする本作にとっては,非常に重要だ。都市の発展には,水源となる井戸や住居,食料,陶磁器類などの日用品のほかに,宗教・思想が不可欠となる。
 Ancestral Shrine(先祖の霊廟)やConfucian Academy(儒教学院)といった宗教・思想関連の施設を建設し,都市にいるHero(女禍,黄帝,関羽,孔子などの神)に十分な供え物をしていれば,一部の自然災害の発生率が低下するほか,Heroが都市に降臨してさまざまな祝福を与えてくれることもある
 これら本作独自のフィーチャーを熟知し使いこなすことは,都市のさらなる発展に,そして「エンペラー」の魅力を引き出すために必要なのだ。せっかく本作を遊ぶのなら,ぜひこの点に注目してプレイしていただきたい。

人口を増やすには住居が必要。住居をグレードアップするには麻や陶磁器などの日用品が必要。それらを生産するには麻畑や工房が,販売するには市場と店が必要……という具合に,施設の機能と目的が有機的かつ複雑に絡み合っている。各施設を闇雲に配置してしまうと街の美観が損なわれてしまうので,居住区と商工業地帯は分離させる必要があるのだ

中国史ファンならずとも楽しめる優良箱庭ゲーム。「食指が動かない」という人も,ぜひ!

オープンプレイでは,廃墟となった都市を再興させるようなシチュエーションも楽しめる。ほぼゼロからの都市建設なので,プレイヤーの腕の見せ所だ

 従来の都市建設型シミュレーションに共通する,施設と都市の発展に関するシステム周りには,これといったアラは見あたらなかった。
 施設の配置場所やバランスなどが適切でないと,すぐに問題が発生して人口低下に繋がるが,それはそれで,プレイヤーの「一国の主としての資質」を試されているようで心地良い知的興奮を覚える。
 また,箱庭ゲーム最大の魅力といえる「環境のデザイン」に関しても,都市の景観を向上させるオブジェが多数用意されているし,配置できる建築物のデザインにも凝ったものが多いので,とても造りがいがある。箱庭としての純粋な景観と都市としての機能性を両立させることは,本作最大の目的であり,プレイヤーにとっても最大の愉しみといえるだろう。

 それでは,最後にひと言,ふた言。
 実は筆者は,三国志や水滸伝に"少し興味がある"程度で,初期中国史には大した愛着を持っていなかった(むしろガチガチのファンタジーマニア)。それなのに本作を好意的に受け止められたのは,単純に本作が「面白かった」から。
 不遜な言い方かもしれないが,当初「エンペラー」をあまり面白そうなゲームだとは思っていなかったので,その分余計に好印象なのかもしれない。熱心な中国史ファンにとって,本作がどの程度魅力的な作品なのかを知ったかぶりするつもりは毛頭ないが,少なくともゲームとしては,十分及第点をあげられる作品に仕上がっていることだけは確かだ。
 そういった意味で,純粋に面白い箱庭ゲームを求めているユーザーには,本作はかなりオススメだといえる。また,ゲームに登場するアイテムの種類やグラフィックス,都市の雰囲気からはさほどキテレツな印象を受けないので,中国史ファンがプレイしても,さまざまな意味で楽しめる作品だと思う。掲載したScreenshotsも参照して,購入を検討してみてはいかがだろうか?

風水や宗教・思想が人々の生活と密接に結びついている中国。そんな要素もしっかりとゲームに反映されている点は,注目に値する。単なるおまけ的要素ではなく,都市が発展すればするほど重要になってくるシステムなので,きちんと把握しておきたい
都市のさらなる発展を願うなら,近隣諸国との外交関係にも注目しなければならない。貿易や戦争のきっかけはワールドマップからのコマンド選択で作ろう。ちなみに戦争では,攻撃目標や陣形,相手からどのような貢ぎ物を受け取るかなどを設定できる(ただし,戦闘自体は非常に地味)

 

このページを印刷する

■メーカー:カプコン
■価格:6800円
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumII/400MHz以上(Pentium III/800MHz以上推奨),メモリ:64MB以上(128MB以上を推奨) ,空きHDD容量:900MB以上(1.2GB以上推奨)
体験版
ムービー
スクリーンショット集
forGamerサイト内特設ページ

(C)2002 Sierra Entertainment, Inc. All Rights Reserved. Emperor: Rise of the Middle Kingdom, the Sierra logo, the Impressions City Building Series logo, and the Impressions Games logo are trademarks of Sierra Entertainment, Inc. The BreakAway Games logo is a trademark of BreakAway Games, Ltd. Any other company names and/or products are the property of their respective owners. ョ designates trademarks registered in the U.S.A., which may be registered in certain other countries.