松本隆一の「幸せ家族計画」



終わったはずなのにまた出てきてしまった「幸せ家族計画」。なんだかどっかの悪の親玉みたいだが,いや,私もすっかり終わったつもりでいたんです。というわけで,マツモトの幸せ一家のその後の話などを少々,どうぞ

 幸せ探して45年,って……あれ? なんで私,ここにいるんでしょ? 確か,前回が最終回だったはずなのに。えー,実は本連載,当初は8回で終わる予定だったのだが,終了間際に編集部から「次の連載の都合があるので,もう1回できませんか? できますよね」というまことに単刀直入で分かりやすい依頼があり,私も,よござんす,と答えてしまったため,こうしてここに最終回の次の1回を書くことになったのだ。
 とはいえ,前回,あんな風に終わらせてしまったので,なんとなく妙な気分。例えて言えば,遠くへ去っていく友達と新宿で涙の別れをしたあと,帰りの山手線でばったり乗り合わせてしまったようなバツの悪さみたいなものかしら。でもまあ一つ,手短に。お付き合いのほど。

 ベロナービルの住民,元軍人にして元SWAT隊長である愛の狩人マツモトは,結婚までに実に連載4回分を消費した。つまり全期間の半分近く,たった一人で食事を作ったりトイレに行ったり請求書を払ったりしていたわけだ。「こいつ,このまま最後まで一人かもしれない」と,私もまったくもって他人事ではない不安にさいなまれたものである。
 ほかのシムズプレイヤーによると,結婚なんかもっと簡単にできちゃうらしいが,なんだって私の場合だけ,そんなにまで苦労したのか謎である。分かる気もするが,謎である。

 それにしても,一人ぼっちは忙しいだけでつまらない,ということが結婚して初めて分かった。家族がいれば,家事の量も減り,収入は増え,さらに,お互いに願望を叶え合うこともできる。それだけじゃない,嬉しいことも悲しいこともみんなで,というのは素晴らしいことだ……,と,ゲームに教えられた私は45歳。いいのかおい?

大してありませんけど,若い頃はいろいろありました。向こうはすっかり忘れているかもしれませんが,忘れられない女の子もいました。今とやってることは大して変わらない,ってのが泣かせます。いやあ,いい思い出だなあ


 マツモトの長男,ジョージは成人して家を出たのだが,今現在,彼が若い頃のマツモトに似たような状態で困っている。編集部からは「後日談ということで,マツモトに孫の顔を見せてやる,なんてのはどうですか?」と言われていたのだが,おとっつぁんが連載4回分苦労したのに,さらに変な顔のジョージがそんなに簡単に結婚できるわけなかったんである。生活全般と資金難に追われ,女の子を見つけるどころではない!

 実家から「転出」すると,一律2万ほどのお金がもらえるが,彼が選んだ新しい住処は,かつて家族が暮らしていた家。懐かしいなあ,と思ってつい選んじゃったのだが,マツモトが建て増しをしたせいなのか,シムシティの地価高騰によるものか,結構高値で,生活資金がほとんど残らなかったのである。
 子供時代からプレイしているせいでスキルは高く,選挙の運動員をやっていたかと思ったら,あっという間に市議会議員に出世はしたが,それでも給料はまだまだ安い。議員は市民の公僕です。で,未だPCすら買えず,ベッドも一番安物。しかも,運動器具が買えないせいで,ジョージはぶくぶくに太ってしまい,私の目から見ても「こんな男とは結婚したくないなあ」という雰囲気だ。
 もっとも,これで収まっていてはいけないので,父親より積極的にいかせてはいる。今の狙いは,えー,言いにくいけど,庭師として雇ったソーシャルワーカーという変わった名前の女性だ。親密度も順調に上がりつつあり,望みはかなりある。まあ,良くも悪くも,人の営みはそうそう変わるものではない,ということだ。てへへ。

かつて両親が結婚式をあげた庭に立ち,なにやら妙なヨガにふけるジョージ。突然現れたサミュエルは,すっかり歳を取り,まともじゃなくなっていた。マツモトのせいなのか? それにしても,太っちゃったなあ,こいつ

 長女のヒラリーは成人したが,「家を出る」という願望を抱かないので,そのままマツモトと一緒に暮らしている。彼氏が出来たあともずっとこのまま,とはいかないだろうけど,やはり手をかけただけあって,可愛い。しかもマツモトはヒラリーに命を助けてもらっているのだ。
 前回,九死に一生を得たお父さんだが,その後,オーブンによる火事で焼死,というなんとも情けない死に方をしてしまったのである。またしても死神参上で,こりゃ再ロードか,と思われたとき,その場にいたヒラリーが死神に必至に懇願,その甲斐あってマツモトは死の淵から舞い戻った,という過去がある。ありがとうねヒラリーちゃん,なのだが,死神の「ええ,そんなこと言われても……。困ったなあ」という雰囲気もまたなんとも憎めず,なにしろ細かいところまでちゃんと作り込んであるゲームだと思う。
 ヒラリーは今,スポーツ関係の仕事を得て,元気に通勤している。趣味は望遠鏡。いつか宇宙人にさらわれるんじゃないかと楽しみにしているのだが,今のところ「覗いただろう」と言って変なオヤジが飛んでくるだけでつまらない。

 ところで,夫婦揃って「命のエリクサー」を飲みまくるもんだから(私がやらせているのだが),妻のソーシャルワーカーちゃんの残り日数はヒラリーとそんなに変わらなくなってしまった。若妻だ。マツモトもずいぶん元気のようだし,ここで一つ赤ん坊でも作ってみようか,と野心を抱いた。
 あの狂乱の日々がまた来るのか,と思うと不安だが,子供二人が家を出てしまったら,オープニングの「マツモト家」が再び夫婦二人に戻ってしまい,それを見るとちょっと寂しいと思うのだ。しかし,大いに迷うところだ。ううーむ。

 また,これは再ロードして一旦チャラにしたのだが,メリッサに「引っ越してくる」を提案すると,驚いたことにあっさりオーケーではないか! 毎日やってくるので,妻とも仲が良いのだが,それにしても,妻と恋人を同じ家に住まわせていいものか,というとっても根本的な疑問が頭の中に渦巻くのである。
 もし,メリッサと「ウフフな事」しているのを妻が見たらどうなるのだろうか? 離婚か? いろいろ細かく作ってあるソフトだけに,ありそうで怖い。それとも,正気を失うのだろうか? マツモトも,原因はよく分からないが,以前,正気を失ったことがあり,そのときは,空から謎の医者が降ってきて,彼にニワトリの物真似なんかさせて治療してくれた。今度もそうなるのだろうか? ならなかったら? どうすればいいのだ? とモニターの前でいい歳こいて悶絶する私である。

火事に巻き込まれたマツモトを救ってくれたヒラリーも,成人になるときが。いつものようにロウソクを吹き消すと,時の魔法が彼女を大人にする。かくして,バージニア(後ろ向き),メリッサ,ヒラリーの三役そろい踏み。マツモトおやじもご機嫌である


 ……というわけで,やってる私からして今後どうなるか興味津々の「ザ・シムズ2」。厳しい週刊連載(週刊連載なんか,大先生のやるもんですぜ)も,やっとひと息つけそうだ,とは思ってみたものの,ゲームそのものは,まだまだ止められそうにない。

 さてここでお知らせ。前回はなんとか助かったものの,やがていつかお迎えが来るのは避けられないマツモト(およびその家族)。儚いなあ,としみじみしていたのだが,ここで一つ読者のみなさまに,「マツモト家をプレゼント」しようと決めた。要するに,パックされた区画をダウンロードしていただくわけだが,そうすれば,私のPCのマツモト一家はいなくなったが,どこか遠くの誰かのPCであの一家が元気に暮らしているかもしれない,ということが,そこはかとない救いになるような気がするのである。
 なんとなく「リング」の貞子みたいな発想かもしれないが,そんなのいらにゃ〜い,なんて言わずに,ぜひ,あなたのおそばにマツモト一家をどうぞ。というわけで,今回で本当におしまいです。

子供時代を思い出しながら雲を見ていると,例によって,近所の人が引越祝いにやってきた。あら,マツモトの時にもやってきた女の子がまたしてもいるではないか。それにしても,自分でコントロールできないマツモトとソーシャルワーカーちゃん(お客なので)は新鮮な感じ

 一体どれだけの人が欲しがってくれるのかはなはだ疑問だが,ともあれここに,マツモト家をダウンロードできるようにしておいた。
 使用方法は,実に簡単だ。ダウンロードしたファイルを解凍し,出てきた「84 ベロナービル通り.Sims2Pack」というファイルをダブルクリックするだけ。これだけで,お手持ちのザ・シムズ2にマツモト一家をインストールできる。もっとも,ザ・シムズ2がインストールされてない環境では,ただの関連づけされてないファイルなので,使用しようがない。ザ・シムズ2を購入してインストールしてから,お試しあれ。

 ■マツモト一家のダウンロードは,「こちら」(4.74MB)

<免責事項> このファイルの使用方法などについての質問は,一切お受けしておりません。またこのファイルを使用したことによる損害やトラブルに関しては,一切責任を負いません。取り扱いは,自己の責任の範囲内で行ってください

■■松本隆一(ライター/学生)■■
ご存じ,戦車好きで独身貴族なPCゲームライター(45歳/学生)。最終回なので,松本氏に,マツモトに贈る言葉をいただいた。「おとっつあん,あんたが私をすでに追い越して,結婚とか結婚とか結婚とか(失礼。ついキーが……)子育てとかを体験してしまったことを,嬉しく思います。臨死体験までしちゃいましたね。今までは連載があったので,あなたの幸せを仕方なく追求してまいりましたが,今後はちょっと私のしたいようにさせていただこうと考えてますのよ。覚悟してらっしゃい。おほほほ。バイオレンスのはびこるこのご時世,このようなゲームが人々に愛されるのを見ると,世の中,まだまだ捨てたもんじゃないと思います。今後もますます清栄,一つよろしく」。


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