シミュレーション 4Gamer.net Review
 
中世ヨーロッパの旅商人となる海運貿易シミュレーション
パトリシアンIII 日本語版
Text by 星原昭典
21st May. 2004


利益を求め,ヨーロッパ北部を駆け回れ

基本的な都市の景観。投資によってホームタウンが栄えていくさまは,やはり見ていて気持ちがいい

 「パトリシアンIII」は,14世紀頃のヨーロッパ北部を舞台とした海運貿易シミュレーションゲームだ。具体的にはイギリスの東部から北海を挟んでユトランド半島,スカンジナビア半島の南部,そしてバルト海周辺に渡って栄えた経済組織"ハンザ同盟"をモチーフとして作られている。
 ゲーム開始時のプレイヤーの立場は一介の旅商人。貿易によって富を蓄え,出世し,"パトリシアン"と呼ばれる上流階級の一員を経て,最終的にはハンザ同盟のトップに立つことが目的だ。ただし,こういったシミュレーションゲームにはよくあるように,トップに立ったからといってゲームを終わらせる必要はない。思うままにエンドレスでプレイを続けることも可能となっている。

 国家の元首や一地方の君主としてプレイするのではなく,商人の立場でプレイすることからも分かるように,この作品の基本は"金を儲けること"にある。とくに資金の潤沢でない序盤はそれに専心することになる。

 貿易の基本は,安く買って高く売ることだ。交易品の産地まで船を送って品物を安く仕入れ,それが不足している地域に運んで高く売る。その差額が自身の利益となる。
 もちろんゲーム内には需要と供給のバランスが存在する。その都市の住人の階級構成が変化すれば消費される物品は変わってくるし,季節などによっても需要には変化が現れる。さらにゲーム中には自分以外の商人も存在し,利益を求めて動き回っているので,タッチの差で船の到着が遅れ,思うような値段でモノが売れないということも多々ある。商品ごとの売れ方の個性や,各都市の産出品/不足しがちな商品をしっかりと把握し,うまく立ち回ることで財産を蓄えていくのだ。
 ある程度金が貯まってきたら,持ち船を増やすといい。より多くの品物を流通させることで,より大きな儲けが期待できるようになるからだ。

貿易の舞台である北海・バルト海沿岸。ゲームはリアルタイムだが,航海中は早送りで進めるのが普通 プレイ中に最も長く見つめることになるであろう取引の画面。平均価格は頭に叩き込んでおくべきだ マップ上のアイコンによって,その都市に足りない品物が分かる。急いで向かわないと需要が変化してしまうことも


都市に貢献することで,より高い地位を目指す

 あちらからこちらへとモノを運び続ければ財産は貯まっていくが,それだけではまずい。なぜなら先に述べたように,このゲームの目的は蓄財だけにあるのではなく,出世し,成り上がっていくことにあるからだ。
 筆者は初め,ここのところがうまく理解できずにとまどってしまった。カネを持っているだけでは支持や尊敬を集めることはできない。知名度を上げるためには本拠地となるホームタウンに貢献しなければならないのだ

 まず商品は他都市よりもホームタウンに優先的に売るようにする。これが基本だ。余剰品は焦って他都市に売ろうとせずに,本拠地の取引事務所に蓄えておいて,需要が発生したときに売るようにする。序盤は下層階級の住民の支持を得るために,小麦やビールといった必需品を優先的に扱うようにするとよいようだ。
 さらに生産施設を建設して働き口を増やし,家を建てて各階級住民に住居を提供する。そうすることで人口も増えていき,自分の名前は多くの人に知られるようになっていく。加えて,自費で祭典を開催したり,教会へ寄進をしたりすることでより知名度は上がっていく。中流,上流階級の住民が増えてきたら,彼らの望む肉やワインの供給が途切れないように注意し,さらに町の発展のために金を使うようにする。
 こういったことをしていって,ようやく人々に認められ,ただの「店主」が「商人」「大商人」へと出世していけるのだ。

 さらに商売の規模が拡大すれば,他都市に事務所を構えることも可能になる。特定の商品の産出地域に生産施設や加工施設を建設し,自ら操業すれば,その商品の安定した供給源を確保したことになる。つまり,自然発生する産出品に頼るのではなく,モノを自分で作り出し,自分で運び,売るという貿易ルートを,自分で作ることができるのだ。

 盤石の経済基盤を確立し,さらなる投資で多くの人々からの支持を集め,「議員」や「市長」となることができれば,町の防備について考えたり,地方の君主とのつきあいを持ったりと,できること(やらねばならぬこと)はどんどん増えていく。

社会的な評判の変化は数値やグラフで表されるわけではなく,把握しづらいのでこまめなチェックがかかせない 財産の額と評判に応じて,より高い地位が与えられる。出世するほど,ゲーム中でできる操作は増えていく

都市の景観は季節によって変化する。必要とされる品物や産出される資源の量にも変化が現れる。


やり込み度の高い,奥行きを持った手強い作品

 「パトリシアンIII」は,14世紀のヨーロッパの貿易を真っ正面から捉えた作品だ。プレイヤーはどこまで偉くなっても君主になったり国王になったりはしない。あくまでも商人であり,商売の手を休めれば,金庫の中身は徐々に減っていってしまう。
 しかし,ゲームを進めるうちにプレイヤーは"商人にできることは商売だけではない"と分かってくる。よく物語の中に"金と力を持った商人"というのが現れるが,彼らが政治的な地位や権力を得る過程はこういうものだったのではないかと想像できて面白い。
 ゲームを見る視点からいえば,「買って,売って,稼ぐ」という,数値が増えていくことを楽しむ単純な面白さを根っことして,生産施設の建築や都市人口の管理といった"産業コントロール",立身出世や君主とのつきあいといった"政治的活動",そして賄賂や海賊行為などの"暗躍の要素"を,史実から外れないようにプラスすることで,当時の豪商の気分と楽しみを味わえるようになっている。

 行動の選択肢が多く,しかもそれぞれの要素が相互に関連し,大きな流れを作っていくようなゲームデザインには,作り手の並々ならぬこだわりが感じられる。しかし,こういった突き詰めたこだわり方をしているゲームの常として,本作には非常にマニアックで,簡単には面白さを実感できない部分がある。
 元からこのテーマが好きで,この地域と歴史に関する予備知識があるプレイヤーならばなんの問題もないはずだ。しかしそうでない場合は,楽しさが分かってくるまでに若干の努力を要するだろう。なかなか思うように回っていかない貿易を軌道に乗せるコツをつかみ,立身出世の仕組みが分かってくると……俄然面白くなる。「今度はこうしてみよう,ああしてみよう」というプレイヤーの工夫をすべて受け止めるだけの懐の深さ/奥行きを持った本作は,1回のプレイ時間が長いことも含めて,かなり長期に渡って楽しめる作品といえるだろう

酒場で海賊を雇い,船を与えて商船を襲わせることもできる。しかし事実が発覚すれば評判はがた落ちに…… 賄賂の受け渡しは場所はなんと公衆浴場。やると決めたら思い切った額を渡さないとなかなか難しい

自身が海賊と出会った場合,武装していれば手動で一戦交えることもできる。面倒であればオートスキップも可能 ときとして都市は攻撃を受ける。自分の地位がある程度ないと,有効な対策が打てないのがつらいところ

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■メーカー:メディアクエスト
■問い合わせ先:ユーザーサポート TEL 0570-040-401(祝祭日を除く月〜金 10〜18時)
■価格:7140円(税込)
■動作環境:Windows 98/Me/XP,PentiumIII/500MHz以上(Pentium 4/1GHz以上推奨),メモリ 128MB以上(256MB以上推奨,Windows XPは256MB以上必須),空きHDD容量 750MB以上,メモリ16MB以上搭載したビデオカード(32MB以上推奨),DirectX 8.1以降
Screenshots集
ムービー(2分51秒:28.4MB)
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