箱庭 4Gamer.net Preview
 
エジプト文明がモチーフの箱庭ゲーム
Children of the Nile
Text by 奥谷海人
29th Jun. 2004


 かつて「シーザー3」や「ファラオ」を送り出した,Impression Games社の元開発者達で再結成された新興の開発チームが,エジプト文明の勃興をテーマとした箱庭シミュレーション「Children of the Nile」を手がけている。Empire Earthのゲームエンジンを使った美しい3Dグラフィックスの世界で,ちょこまかと動き回る人間味あるキャラクター達が平和に暮らせるような都市作りを目指そう。

個々のキャラクターの生活を重視した箱庭ゲーム

 箱庭シミュレーションは,戦闘が主目的のリアルタイムストラテジー(RTS)とは異なり,競争心を煽られることなく気楽にプレイ可能だ。ちっちゃなキャラクター達が動き回る箱庭の世界を表現するために,アニメーションの細かさに重点を置くソフトが多く,古くは「シムシティ」や「ローラーコースタータイクーン」,近頃では「ズー タイクーン」のような大ヒットシリーズを輩出している。また最近はハードウェアの向上によって3D化が進んでおり,今挙げた3シリーズも例外ではない。
 今回紹介する「Children of the Nile」は,古代エジプト王国の成長や都市問題をシミュレートした,3Dグラフィックスによる箱庭シミュレーションである。エジプトと聞いてピンときた人もいるだろう,開発を手がけているTilted Mill Entertainment社は,日本でも2001年にイマジニアからリリースされた「ファラオ 〜古代エジプト建国シミュレーション」など,1993年から続く「シーザー」シリーズを手がけてきたImpression Games社の後継会社である。Impression社は,ひと頃「NASCAR」で一世風靡したPapyrus社と同じく,販売元だったSierra Online社を傘下に収めたVivendi Universal Games社の経営合理化によって看板を下ろされた,ボストン地域の開発チーム。"歴史モノの箱庭シミュレーション"に限定すれば初の3D作品となるChildren of the Nileによって,生還を果たすことになりそうだ。

 Children of the Nileは,プレイヤーがエジプトの古代民族を指揮するファラオとなって,ナイル川の肥沃地帯を開拓し巨大な文明を築き上げていくゲーム。住み良い生活空間であれば定住者が増え,住み心地が悪くなれば一族共々去っていくというのは前作「ファラオ」さながらで,絶対君主とはいえ,市民の仕事や居住性,エンターテイメントのことを常に考えていなければならないのである。
 エジプト文明の勃興時点(ゲーム開始時)では,岩壁に囲まれたナイルの河岸に散らばる漁業民達だけが,プレイヤーに与えられている。彼らに農業の価値観を与えてやり,定住地や富を蓄積させていく。やがてブドウなどの産物も郊外で栽培されるようになり,税金として納入される穀物で倉庫が満たされるようになる。農業や手工業で生産されたものは売買され,市民達に必要な物資の対価にされる。文明が成長するに従って宗教や教育,医療,軍事施設などのサービスに従事する人口も整い,さらには中産層などの出現で階級システムも出来上がっていくというわけだ。
 このようにChildren of the Nileでは,前作のような都市設計が第一のゲームシステムが構築されたのではなく,その世界に生きるキャラクター達の生活パターンやニーズが主体となっている。キャラクターはそれぞれに固有の氏名と家族,そして独自のAIを持っており,階級,職業,性別,年齢などで行動や思考も変わってくる。プレイヤーが何もしなくても,彼らは与えられた環境の中で生活していくが,例えば災害で職を失ったキャラクターは生活パターンが急に変わってしまい,彼や家族の人生が狂ってしまうことも。プレイヤーは王国の資産を蓄積するために,彼ら市民の面倒を見てやる必要があるのだ。

 

ファラオとなってエジプト文明の威光を存分に示せ!

 Children of the Nileではグラフィックスがフル3Dになったため,マクロ視点でエジプト市民の生活ぶりを観察できるようになっている。通りでは市民達が楽しそうに会話していたり,宮廷ではペットとして飼われているサルが走り回るかたわら,暇を持て余した貴族が大道芸人を引き入れて楽しんでいる。ナイルにはカバなどの野生動物も多数生息しており,自分の家に寄って来たワニめがけて石を放り投げる人々がいたりと,彼らの日常を追って観察しているだけでも面白い。
 ほかの箱庭シミュレーションと異なるのは,プレイヤーキャラクターとしてファラオが実際にゲーム中に登場することであろう。自分の分身であるファラオの姿もまた,観察対象となりうるのだ。

 グラフィックスは,Tilted Mill Entertainment社と同じく東海岸にあるStainless Steel社の"Empire Earth"エンジンを使って制作されており,主に都市開発時に利用するズームアウトされた視点から,市民の生活を眺める至近距離まで自在に変更可能で,カメラのローテーションも360度自由になっている。昼夜の移り変わりや天候も表現されており,画面写真そのままの美しい光景でゲームが楽しめるのだ。
 シナリオは最終的に8種類ほど用意される予定で,エジプト文明が形成され始めた約5000年前から,クレオパトラが登場する約2000年前ほどの時代において,サバンナや砂漠のオアシス,地中海沿岸地帯などエジプトからシリアにかけての地域で都市作りすることになる。前作「ファラオ」でもそうだったが,肥沃な土地を作り出す洪水のシーズンが毎年恒例のイベントとなっており,運河やピラミッドなどの巨大な公共事業を行うことも可能だ。

 すでに記述したように,Children of the Nileのマップを歩き回るキャラクター達は,単なる統計上の存在や画面上のオブジェクトではなく,その世界で生きるバーチャルな人々として扱われている。一つ一つの家庭には親と子供といった家族構成があり,それぞれ苗字と名前を持っている。仕事や家庭内の役割分担もあり,仕事や学校へ行ったり家事に勤しむ日常生活があるのだ。インタフェース上の小型ウィンドウを使えば,個々のキャラクターを追跡することも可能である。
 彼らの行動は,プレイヤーの作り上げた環境によって大きく左右されることになる。家から仕事場,寺院,学校や市場までの移動距離によって生活に対する効率性が変化し,彼らの富や思想にも影響していく。例えば大きな公共事業の監督を務める貴族男性が,毎日市場まで出掛けて買い物をしているなんてことが起こりうる。これでは本職にまで影響してしまうので原因を調べてみると,彼の家に十分な食器が揃っておらず食料の貯蔵ができなかったり,子供の学校が遠過ぎて家の手伝いができないため,家長自らが買い物に出ざるを得ないというような状況だったりするのだ。
 何らかの理由で失職すると,キャラクター達は自由に行動して新しい職を見つけ出そうとするし,一家共々路頭に迷う運命となることもある。治安が悪くなったり生活に不満があれば,その周辺の水準も低下したり,キャラクター達がデモや暴動に参加したりするようにもなるだろう。プレイヤーは,個々のキャラクターの行動を直接決定できるのではなく,彼らの生活に影響を及ぼす都市設計者としての役割を担っているのだ。

 国の大きな財源となるのは食料品のほかに鉱物があり,これらは青銅武器や貴金属品などの原料として,王国の巨大化には欠かせない資源アイテムだ。ただし,これらが街の中心にあることはほとんどなく,都市が拡大するにつれて新しい鉱山が出現するというような"探索要素"も含まれているようだ。
 鉱山であれブドウ畑であれ,郊外の土地は貴族に統括を任せ,彼らが市民を雇用して労働させることになる。開発者の話では,プレイヤーであるファラオと貴族の分け前は50/50で,この中から貴族は労働者に賃金を払うことになるという。だが書記官を派遣して貴族達を監督させておかないと,税負担をごまかす輩もいるのだ。
 書記官は,税徴収者としての役割だけではなく,交易にやってきたキャラバンから通行料を徴収して財源確保してくれる。また,近辺の図書館の効率を上げて周囲の"プレステージ"(格式)を上昇させたり,エリートを作り出すのにも一役買う。エリート達は,宝石や家具など嗜好品の加工,寺院や噴水の建設などを担う高級な労働者達で,都市発展の基盤ともなってくれるキャラクターだ。

 Impression Games社の後期作品と同じく,宗教はChildren of the Nileにとって非常に重要な概念である。聖職者はハピやアビヌスなど14種類の神々を祭る神殿を拠点にして,信仰に携わるばかりではなく,教育から医療,ミイラ作りを含めるキャラクターの死後のサービスにまでオールマイティの活躍をしてくれる。神々はそれぞれ御利益が異なり,市民達も頻繁にお供え物などを持参して祈りを捧げるようになっている。自分のお気に入りの神殿付近に引っ越してしまう家族もあるという。
 プレイヤーキャラクターは神格化されたファラオとはいえ,数百年に渡って生きていけるわけではない。ほかの市民と同様,ゲーム中に自然死することだってある。そうなれば後継のファラオを選択しなければならないが,ファラオの死によってプレステージ・ポイントが低下して治安が悪化するため,壮大なピラミッドやモニュメントを用意して威光を上げてやることが必要になるのである。死後の世界へ大きな関心を持っていた,古代エジプト人らしさのあるゲームシステムであるといえるだろう。

 Children of the Nileのような歴史をモチーフにした箱庭シミュレーションは,多くありそうで意外と少ない。ほかのプレイヤーやNPCの脅威に晒されながら文明を構築していくRTSも楽しいが,ゆっくりと都市を巨大化させていくChildren of the Nileのスタイルに興味を示すプレイヤーも多いはずだ。
 発売は2004年末の予定になっており,今年のE3でデビューしたばかりの新興のMyelin Media社であるため,日本にどのような形で持ち込まれるかは未定である。箱庭ゲームは本格的な作品ほどヒット作となりやすく,以前の「シーザー」シリーズと同じく今後さまざまな文明がシミュレートされる可能性が多いにあるので,今後の動向に注目しておきたい一本である。

 

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