Tribes:Vengeance開発者インタビュー

Text/Photo 奥谷海人

 先週末にカリフォルニア州サンフランシスコで発表されたTribesシリーズの第3弾,「Tribes:Vengeance」の開発者たちにインタビューを行った。シングルプレイヤーモードからマルチプレイヤーモードの具体的な内容まで,前日には分からなかった新作の詳細を聞くことができた。


Chris Mahnken
(クリス・マーンケン)

Vivendi Universal Games社でTribesの最新プロジェクトを取りまとめるプロデューサー。アメリカ支部のあるロサンジェルスとボストン,そしてオーストラリアを飛び回る。

Michael Johnston
(マイケル・ジョンストン)

Irrational Games社オーストラリア支部のシニアデザイナー。前作「Freedom Force」のノウハウを活かし,Tribes:Vengeanceでは主にマルチプレイヤーモードを手がけている。

Ed Orman
(エド・オーマン)

Irrational Games社オーストラリア支部で,Tribes:Vengeanceのリード・デザイナーを務める。入社以前は,シリーズでは有名なMOD「Team Rabbit 2」を制作していた経歴を持つ。


■VU Games社とIrrational Games社の出会い

 今回インタビューに応じてくれたのは,Vivendi Unversal Games社のプロデューサーであるクリス・マーンケン(Chris Mahnken)氏と,わざわざイベントに合わせてオーストラリアからやってきたIrrational Games社のデザイナー,マイケル・ジョンストン(Michael Johnston)氏と,エド・オーマン(Ed Orman)氏の3氏。早朝だったため,ソファーでコーヒーをすすりながらのカジュアルな会談となった。

4Gamer.net (以下,4GN):
昨日プレイしてみた感じでは,かなり順調に進んでいるようですね。

Michael Johnston (以下,MJ):
そうですね。第4四半期の発売日は守ろうと頑張っています。

4GN:
Tribes:Vengeanceの開発が始まったのはいつ頃からですか?

Chris Mahnken (以下,CM):
Tribesの最新作を実現しようと一人で走り回っていた頃も含めれば2年ほど前からです。で,実際にIrrational Games社が開発を始めたのが2002年の11月頃ですかね。毎日Tribesのことばかり考えていますから,実際よりもずいぶんと長く作業しているような気がします(笑)。

4GN:
開発にIrrational Gamesを選んだ理由は?

CM:
やはり基準となったのは,FPSで認知されている開発チームであること,それから私自身が楽しめたソフトを作った人たちであるということで,Irrational Games社は必然的に浮かび上がって来たんです。彼らの作品に失敗がないというのも大きな要因ですね。

4GN:
Irrational Games社でTribes:Vengeanceの製作に関わっている人数は?

MJ:
オーストラリアのチームは全員で29人ですね。ボストン本部では,ストーリーの草案を作ったKen Levine (ケン・レヴァイン/現Irrational Games社社長で,「Ultima Underworld」の伝説的プログラマー)や,オーディオ技術者など数人が参加しています。

4GN:
Irrational Games社のFPSは,「System Shock 2」や「Thief:The Dark Project」など,シングルプレイヤーゲームで知られていると思いますが,そのあたりにも着目されたのですか?

CM:
そうです。Tribesは,マルチプレイヤーモードで知られたシリーズですが,シングルプレイヤーモードをゲームに慣れるためのチュートリアルとして扱ったり,BOTが動き回るだけでお茶を濁したりするようなことはしたくなかった。それから,とくにFPSのストーリーというのは,いつもプレイヤーの視点から見た一方的なものでしかなく,敵の視点で見るとか,そのストーリーを別のアングルから考えることが欠如しています。目の前にあるものすべてが敵,というような感じですね。確かに,「Half-Life」が登場することでストーリー性が向上しましたが,その後は似たようなゲームはあっても発展していない。そのあたりにも挑戦できる開発チームが必要だと考えたからです。

4GN:
今回は,ストーリー性を重視しているということですか?

CM:
Tribesシリーズは,マルチプレイヤーモードで知られたゲームですから,対戦を軽視するようなマネはしませんよ。今回はシングルプレイヤーモードにもスポットライトを当てようということですね。

■Tribesの世界観を使った主人公ジュリアの過去を暴くストーリー

 このように,Tribes:Vengeanceでは本格的なシングルプレイヤーモードが用意されている。マルチプレイヤーモードへの参加準備のための機能の一つではなく,「System Shock 2」や「Freedom Force」を開発したIrrational Games社ゆえのこだわりが見られるのだ。主人公は復讐を誓うインペリアル軍の女戦士ジュリア。インペリアル,チルドレン・オブ・ザ・フィニックス,そしてブラッドイーグルズの三勢力を巻き込んだ,壮大なスペースオペラが展開するのだ。

4GN:
Tribesの世界観における時代設定は?

CM:
Tribes:Vengeanceは,第1作の400年前の時代に設定しており,どのようにTribesの世界が形成されていったかを物語っています。実際には,母と娘の二世代に渡るストーリーが中核になっていて,複数の視点で過去や現在のイベントが交差する,映画のような進行になっているのです。最初は,いったい何が起こっているのかがプレイヤーにも分かりづらいのですが,そのストーリーが少しずつ解明され,最後に「ああ,こういうことだったのか!」と思えるでしょう。

4GN:
主人公は,あのジュリアという女性ですか? インペリアル軍の衣装のようですが。

CM:
そうです。実際には,彼女の母親であるビクトリアという女性でもプレイすることになります。ビクトリアは,インペリアル軍の皇帝の娘で,つまりジュリアは皇帝の孫娘ということですね。

4GN:
昨年(2003年),初めてTribes:Vengeanceのムービーを見たときは,幼い女の子が「Mother!(お母さん)」って叫んでいるドラマチックな映像があったのを記憶しています。

MJ:
あれがジュリアの幼少の頃ですね。実際には,あのカットシーンもずいぶん変化していて,もっといい感じになっていますよ。ジュリアは,インペリアル軍の有能な戦士として育ち,家族を惨殺したフェニックス軍への復讐に燃えているという設定なのですが,母が過去に犯した間違いを,彼女が正していかなければならないという運命に気づくのです。

4GN:
カットシーンは多いのですか?

Ed Orman (以下,EO):
基本的には,ミッションの最初と最後には一つずつカットシーンがあるという構成になっています。だけど,一つだけカットシーンもないままゲームが始まるものもありますね。

4GN:
デモで確認できた部分では,フェニックス軍の基地内で二人の護衛が飛び出してくる場面がありましたが,あれはスクリプティングによるものですね。

CM:
さっきも話題に上っていたHalf-Lifeの影響があからさまになるので,効果的であると判断できた場面では使っていますが,なるべくスクリプティングに頼らないようにしようにしています。

4GN:
さきほど,「ストーリーを別のアングルから考える」と発言されたのは,つまりジュリア以外にも複数のキャラクターを使用するということですか?

EO:
そうです。ええっと,ビクトリアも含めて全部で5人・・・・・・。アレも含めると5人と半分くらいかな(笑)。

4GN:
5人半!?

EO:
まあ"楽しみ"ということで(笑)。インペリアル軍だけでなくフェニックス側でもプレイする機会はありますが,ブラッドイーグルズはシングルプレイヤーモードのストーリーではプレイできません。あと,すべてを描き切ることはできないと判断したので,スターウルフとダイアモンド・ソードのトライブは今回登場しないことになっています。

■前作の良い部分を継承しながらもスポーティにアレンジ

 Tribesシリーズで最もユニークな機能が,斜面を利用して自分のキャラクターをスライドさせることで,時には驚くほどのスピードで加速する"スキーイング"。慣れないと使いにくいテクニックだったが,Tribes:Vengeanceでは傾斜のある丘陵やビルなら右クリックで発動できるようになっている。ジェットパックも,空中でのコントロールが容易になり,Tribesの面白さを生かした遊びやすさが追求されているようだ。

4GN:
シングルプレイヤーモードも楽しそうですが,やはりTribesのウリはマルチプレイヤーモードですよね。

EO:
Tribesが,ほかのマルチプレイヤーFPSと大きく異なる点は,やはり"スキーイング"と"プレディクション(予想)"の二つでしょう。後者は予想射撃のことで,Tribesでは着弾にかなりの時間がかかるので,プレイヤーに敵の動きを読む力が求められます。これは「Counter-Strike」のような敵をターゲットに捕らえて弾を撃ち込むゲームにはない面白さでしょう。これらを新しいプレイヤーでも遊びやすいように工夫しながら,Tribes:Vengeanceを制作しています。

4GN:
デモを見る限りでは,前作の改善であれ,あまり改革している部分がないように思えますが。

EO:
現在のデモを見るだけでは,そう判断されても仕方ないかもしれません。しかし,例えばパック一つをとっても大きく変化しており,クラス作りを明確にするという点で前作以上のデキになっているのは確かです。Tribes:Vengeanceにおけるパックは,アクティブ(能動的/プレイヤーの操作で発動)とパッシブ(受動的/自動的にプレイヤーに与えられる能力)の二つの要素で成り立っており,現在公開できる唯一の「エネルギーパック」を例に出すと,アクティブはスピードブーストで,より高い場所にまで飛び上がれたりする能力,そしてパッシブはより高速でリチャージできたりする能力です。どちらかといえば,スカウトやスナイパー系のプレイに向いていますね。

4GN:
アーマーは,前作と同様に3種類ですね。

MJ:
ライト,ミディアム,ヘビーの3種類になっています。それぞれのアーマーを装着することで,移動やジェットパックによる飛行の速度が変わってきますし,インベントリステーションで4種類のパックや9種類の武器と自由に組み合わせることで,ゲーム内で好みのキャラクターを作成できるのがTribesの特徴です。

4GN:
武器の特徴と言えば,グレネード(手榴弾)はグレネードランチャーから発射するのではなく,Gキーのショートカットで自在に繰り出せるようになっていますね。

MJ:
はい。投げてから爆発までに1秒半ほどかかりますが,慣れれば射撃しながらグレネードを投げられるようになります。武器には,スピンフューザーなど前作でもお馴染みのもののほか,威力は低いけど近距離で正確に狙える弾丸系のチェーンガンや遠距離用のモーターも残しており,なるべく前作のものを継承するようにしています。

4GN:
マップはスキーイングを利用できるように,意図的に斜面を多めに制作しているようですね。

MJ:
マップそのものが勾配のある斜面でできていますし,マルチプレイヤー用マップでも,随所でスキーイングを利用できるように設計しています。基地の中の壁や洞窟内部などの屋内マップも,スキーイングしたりジェットパックで飛行できたりするように大きく作っていて,やり込んでマップの地形を覚え込むことで強くなっていけるのです。

4GN:
スキーイングは,前作では出だしの加速が悪かったという批判もありましたね。

MJ:
はい。だから本作では短い距離やなだらかな勾配であっても加速度を高めています。水中や空中での動きもそうですが,よりスピード感が出るように,物理的なリアリティ以上にゲームとしての面白さを重視しているんですよ。

■妥協のないマルチプレイヤーモードの面白さ

 W/A/S/Dキーを使って空中を自由に動き回れるテクニックを,Tribes:Vengeanceでは"ドリフティング"と呼んでおり,スキーイングと同じくらいにシリーズの代名詞的な仕様になるだろう。コントロールは誰でも簡単に習得できるが,傾斜のある場所やジェットパックで飛来可能な高さや地点の把握など,何度も練習することで相手のプレイヤーよりも1歩前に進めるゲーム性が,Tribes:Vengeanceの魅力なのかもしれない。

4GN:
「Unrealエンジン」の最新版を使っているためか,外観だけでいうとTribes:Vengeanceと「Unreal Tournament 2003」が非常に似通っている気もします。

CM:
ゲーム性も,スキーイングなどのTribesの特徴的な部分を除けば,かなり似ているという指摘は理解できます。一応,我々の立場からお話ししておけば,Tribes:Vengeanceの企画を伝え,Epic Games社からゲームエンジンをライセンスしたのは,Unreal Tournament 2003の制作発表の前なんですよ(笑)。とくに Unreal Tournament 2003でプレイヤーが登場できる乗り物が採用されたことで,同じ雰囲気になっているかも知れません。しかし,我々もUnreal Tournament 2003や「Battlefield 1942」の良い部分を参考にしているのは事実ですし,そうやって良いゲームが出来ていけばよいじゃないですか。

4GN:
Unreal Tournament 2003からの影響というと,Tribes:Vengeanceではミニマップを採用していますね。

MJ:
ミニマップは,とくにチーム対戦を主力とするゲームでは必須の機能ですね。コマンドマップよりも,確実に状況判断しやすいですよね。

4GN:
UnrealではデフォルトのKarma物理エンジンの代わりに,「Half-Life 2」と同じHavokエンジンを採用していますね。

CM:
実はスキーイングには独自のアルゴリズムを使っており,Havokエンジンはもっぱらラグドールや乗り物の挙動などに生しています。Havokの採用は,そういう部分で妥協せずに開発期間を短縮するのに役立っているんです。

4GN:
搭乗できる兵器は4種類(Tribes 2は6種類)ということですが。

EO:
現在公表できるのは,二人乗りできるバギー(ジープ,ローバーなども会話中には出てきた。正式な名称は決まっていないようだ)と,一人用のファイター"ポッド"です。最終的には地上兵器二つと飛行型が二つとなります。バギーには,(武器やアーマーを選択できる)インベントリステーションも搭載でき,敵地に乗り込んでいくこともできます。計画では,このインベントリステーションが,死んだプレイヤーが再生するスポーンポイントになる予定ですから,これでBattlefield 1942のような戦略が使えることになりますね。敵地に乗り込むという点では,Turret(自動機関銃)では"ディプロイヤブル"にも改良を加える予定です。

4GN:
マルチプレイヤー用のマップは,いくつくらい用意されますか?

MJ:
現在確定しているのは9種類で,最終的には10〜20種類のマップを用意する予定です。テストプレイで面白くないと判断すれば,無理に数合わせする必要もないと思っているので,実際のマップ数は特定していないのです。

4GN:
マルチプレイヤーモードの種類は?

EO:ゲームモードも,まだ正式に確定していません。すでに公表しているのはチームデスマッチ,CTF,それからデモでお見せした"ボール"モードですね。ボールモードを説明しておくと,同じチームのプレイヤーがバスケットボールのようにボールをパスしながら,ゴールとなるネットめがけて進んでいくというものです。

4GN:
オーマンさんが関与していたTeam Rabbitモードの採用は?

EO:
まだ詳しくお話しできないですけど,Rabbitモードは考慮しています。

4GN:
マルチプレイヤーモードが,前作の64人ではなく32人までの参加人数に限定された理由は何でしょう?

MJ:
結局,60人以上のプレイヤーが参加するのを待っている時間が無駄になったりしますし,もし十分な人数が揃わない場合は,64人用のマップが広すぎて,移動している時間が長いばかりでアクションが少なくなってしまう。これはTribes 2のファンの間で何度も挙がった批判です。人数を制限してでも,もっとアクション性を高めたスポーツ感覚を演出したかったのです。64人ではなくなったからといって,Tribes本来の面白さがなくならないと判断しましたし,ゲームとしては以前にも増して進化しているので,ぜひ皆さんにもプレイしてほしいですね。



 FPSの歴史において,乗り物を使った本格的な戦略を提唱したTribesシリーズは,その後登場した数々のシューティング作品の面白い部分を吸収するだけではなく,ジェットパックやスキーイングといった本作ならではの魅力も模索してきた。最新作「Tribes:Vengeance」では,シングルプレイヤーモードも大いに期待できる内容で,アジアでは知名度の低いTribesのフランチャイズ化に弾みをつけることになるかもしれない。
 Vivendi Universal Games社からは,「Half-Life 2」「SWAT:Urban Justice」など注目のシューティングゲームが控えているが,Tribes:Vengeanceも次世代FPS作品の一角を担うことになる。発売は,アメリカでは2004年の第4四半期が予定されており,今後の情報にも期待したいところだ。

「Tribes:Vengeance」のテストプレイレポートは,「こちら」
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