漫画喫茶ゲラゲラにインタビュー

11th Jun. 2004
Text by TAITAI


後藤恵美
インターネット&漫画喫茶「ゲラゲラ」を展開するアイデアリンクの代表取締役。
 お隣韓国で急速な普及を見せた「PC房」(ゲームに特化したインターネットカフェ)。そんな韓国での爆発的な人気にあやかって「日本でも!」という動きがあったのは,つい数年前の話だ。
 当時は,「ゲームの市場規模が大きい日本ならもっといける!」と楽観的な意見が多数あったものだが,ふたを開けてみれば,いわゆる"ネットカフェ"という業態は伸び悩み,同じ暇つぶし産業といえる"漫画喫茶"に飲み込まれていく形に。
 韓国あるいは中国のような"ネットカフェでオンラインゲームを遊ぶ文化"は,現状,日本ではほとんど根付いていないといえる。

 そんな中,漫画喫茶系のチェーン店舗として知られる「ゲラゲラ」が,新宿本店の一部をゲームスペースとして改良し,実験的にではあるが,ゲームコンテンツに取り込み出すという話を小耳に挟んだ。
 forGamerでは,早速ゲラゲラを取り仕切るアイデアリンク社の後藤恵美氏にインタビューを行い,漫画を重視してやってきた同社がなぜ今になってゲームなのかなど,ゲラゲラの,ひいては漫画喫茶/ネットカフェの今後について,いくつか質問を投げかけてみた。

インターネット&まんが@cafe ゲラゲラ公式サイト

 

「ゲームには以前から興味を持っていました。今また導入を検討しているのは,時期が来たな,と感じたからです」

 そう語る後藤氏は,漫画喫茶/ネットカフェの業界の中では"成功者"として知られる人物。ただ,これまではゲームコンテンツはあまり積極的に導入しておらず,オンラインゲームに関しては,いわば"否定派"といった立場であった。
 そんな後藤氏だが,話を聞いてみると,ゲームというコンテンツ自体には,実はかなり前から注目していたという。


――単刀直入に聞きますが,なぜ今になって「ゲーム」に積極的になり始めたのですか?

後藤恵美氏(以下,後藤氏):
 オンラインゲームの導入は,実はかなり前に経験がありました。「リネージュ」を店に置いたときなどは,それこそ一日中遊ぶようなお客様もいて,「ああ,ゲームって凄いパワーがあるんだな」と思った記憶があります。

―― でもゲラゲラは,どちらかといえば,オンラインゲームの導入には消極的でしたよね。それはなぜですか?

後藤氏:
 まずは,導入コストの問題ですね。リネージュは,韓国でのビジネスモデルと同じ,従量課金型の料金システムでした。正直なところ,これが私たちとしては,かなり辛いモデルだったんですよ

―― というと?

後藤氏:
 リネージュの従量料金が,単純にランニングコストに重くのしかかってしまった,という感じです。現状,月にゲームに費やせるコストは,一店舗あたり5万から多くて10万円前後。そのコストを超えてしまった,ということです。
 漫画喫茶は,現在,客単価がどんどん減少してしまっているのが実情です。競合が多くなったことによる価格競争はもちろんですが,サービスの向上が求められたり顧客ニーズが多様化したりなど,いろいろな意味で苦しい面が出始めている。
 そういう状況の中で,ゲームに……というよりも1タイトルのコンテンツにそんなにコストを割くわけにはいかなくて。逆にいうと,それだけのお客さんがリネージュを遊んでいたわけです。

―― なるほど。

後藤氏:
 正直なところ,少なくとも現状では,私たちは漫画コンテンツを中心にした展開で,それなりの売り上げを確保しています。ただ,先ほど触れたように競争は厳しくなっていますし,また現在の課題……つまり,漫画喫茶が「あくまで暇つぶし」である点に関して,今後改善をしていくべきではないかと考えています。
 暇つぶし云々というより,「どうしても行きたい!」と思わせるパワーを持たなければ,漫画喫茶/ネットカフェという業態のこれから先の発展は厳しいのではないか,と。
 その中で,お客様のリテンションを高めるコンテンツとしては,ゲームは最もポテンシャルが高いのではないかと感じていますね。

ゲラゲラ渋谷支店。昼間でも席待ちが出るほどの人気ぶり。渋谷支店はすべて個室となっており,ゆっくりとリラックスできる環境が特徴だ。真夜中の利用客も相当多いのだとか

 

ネットカフェではなぜオンラインゲームなのか? パッケージ型のゲームとオンラインゲームの違い

―― 最近導入しているラグナロクなどは,リネージュとはまた違う料金モデルですね。

後藤氏:
 そうなんですよ。ラグナロクは店舗ごとに月額で1万5000円前後(注1)。これは非常に魅力的です。
 例えば通常のパッケージソフトの場合は,ワンパッケージごとにお金が発生してしまい,結果的に「すべての席でそのゲームを遊べるようにする」のが難しいのですが,パッケージ(CD/DVD)がいらないオンラインゲームだとそれができるわけで。私たちからすると非常に都合が良いといいますか。

―― ちなみにパッケージゲームの利用料はどの程度ですか?

後藤氏:
 これはメーカーさんなどによってまちまちですが,一般的には,1年の使用料という形で1パッケージ(CD/DVD)あたり1万5000円前後になります。通常の値段の3倍前後というのが基本になりますね。
 この料金設定の是非はともかく,例えば店舗側としては,新作や人気作は複数置いておきたいですし,そうなると,タイトルの数を揃えるのはなかなか厳しいです。
 漫画もそうですが,数を揃えてこそお客様にとって魅力があるというか,たくさんあって初めて,タイトル決め撃ちではなく「何かゲームでも遊ぶか」という"大枠のニーズ"を満たせるんですよね。

―― なるほど。

後藤氏:
 ネットカフェ自体を販売先として見るか,あるいはエンドユーザーへの告知場所/販売チャンネルとして見るか,そこが大きなポイントだと思います。
 このあたりは,メーカーさん各社の意識もさまざまのようで,非常に曖昧なのが実情ですが。

―― そうですね。オンラインゲームとパッケージゲームは,そもそものビジネスモデルが違うので,双方同じように,というのは厳しいでしょう。

後藤氏:
 私としては,漫画喫茶/ネットカフェに"余暇があるたくさんのお客さんが来ている"という部分を,もっと前向きに捉えてほしいと考えています。例えば,以前にカップ麺の試供品をパブリシティという形で店舗に置いたんですが,あっという間に無くなってしまいました。
 そういう形であればお客様に喜んで貰えるし,それが商品の宣伝にも繋がるというのであれば,ネットカフェと他の業種間でWin-Winの関係が築けるのではないかと。

―― 広告媒体/営業支店的な価値は確実にあるでしょうね。

後藤氏:
 ゲームメーカーさんにも,そういった視点でネットカフェを見てもらえれば嬉しいですね。
 ただやっぱり,ネットカフェという業種自体が過渡期なんだと思います。現在,漫画喫茶/ネットカフェは日本全国で約2300〜2500店舗あると言われていますが,そういった市場として見ると,まだまだ中途半端な規模なのかなと。
 ただ先ほどの話も含めて,いろいろな取り組みをしていきたいという気持ちはありますね。

―― なるほど。今後の発展に期待しております。
 本日はありがとうございました。

ゲラゲラ新宿本店にて開催された「ミュー 〜奇蹟の大地〜」のオフラインイベント。後藤氏の話によれば,イベント自体の集客効果は認めるものの,課題は"イベントを定型化"して他の衛生店舗に応用できるかどうかだという。イベントを企画/運営できるスタッフの育成に加え,人件費などコスト面の問題……ゲームイベントも決して楽ではない


 最後に,ネットカフェとゲームの親和性/関係性について少しだけ補足/考察し,今回の記事を終りにしたい。
 さて,ネットカフェとゲームの関連性をビジネス的な視点で考えた場合,一つの大きなポイントとなるのが,オンラインゲームとパッケージソフトのビジネスモデルの違いだろう。つまり,

 ・パッケージゲームが「パッケージを卸す」ことで儲けるのに対して,
 ・オンラインゲーム(MMORPG)は「ユーザーからの課金」という部分で儲ける

という点である。もう少し砕いていうと,要するに

 ・パッケージゲームは,「パッケージを卸す」という一点でお金を回収せねばならず,
  要するにネットカフェ側に導入コストのリスクが集中してしまうのに対し,
 ・オンラインゲームは「ユーザーからの月額課金」という点での回収がメインである
  ため,ネットカフェ側へ卸す時点では,それほどの回収を考えなくてよい

ということになる。
 極論を言ってしまえば,オンラインゲームの場合は,ユーザーがネットカフェでゲームを遊んでみた結果,その面白さに気づいて会員になってくれれば,そこから先は"まるまるメーカーの儲け"になるわけだ。
 集客効果のあるコンテンツを安く獲得したいというネットカフェ側のニーズと,顧客(会員)を増やしたいというゲームメーカー側のニーズ。オンラインゲームとは,その双方が満たされるという希有な特性を持っているのである。
 そういう点を考えると,パッケージゲームをネットカフェに置く動きが,そう簡単に進まないのも当然に思えてくる。ビジネス的な理由から,ゲームメーカーとネットカフェ双方のニーズがミスマッチしているのである。
 メーカーからしてみれば,自分たちのコンテンツがどう扱われているのか見えにくいし,なかなか踏み出せないというのもあるだろう。

 とはいえ,漫画喫茶関係者からは「取り締まられる前は,プレイステーション2のゲームを遊ぶお客さんが多く,店の売り上げの大きな割り合いを占めていた」といった話も聞く。
 つまり,漫画喫茶に来ている客も別に漫画だけを読みたいわけではなく,ゲームを遊びたいというニーズも確実にあるのだ。
 いろいろな人が,何か遊ぶモノ/暇を潰すモノを求めてくる漫画喫茶/ネットカフェ。そのポテンシャルの高い顧客が多く存在するこの場所に,目を向けない手はない。
 ある種のバブルが終わった今こそ,冷静にネットカフェの可能性を考えてみるべきだろう。韓国や中国といった国と日本の状況の違いを始め,今ならば多くの判断材料が揃っているハズだ。
 楽観主義者な筆者としては,ゲームユーザーの間口を広げるためにも,ネットカフェで気軽にゲームが楽しめるスタイルが定着すれば,と思わずにはいられない。
 とはいえ,このようなスタイルは,昔から議論されていたゲームレンタルに近い問題があり(というか,ほとんど同じ),その解決には,多くの人による,かなりの試行錯誤が必要となるだろう。

インターネット&まんが@cafe ゲラゲラ公式サイト

※注1:6月11日現在は,一店舗あたり,ガンホー・オンライン・エンターテイメントのタイトルは,「ラグナロクオンライン」「A3」「ゲットアンプド」「ポトリス2」「サバイバルプロジェクト」の5本ワンセットで1万6000円前後となっている。

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