ストラテジー 4Gamer.net Review
 
「指輪物語」世界の大戦争の雰囲気が楽しめる
ロード・オブ・ザ・リング ウォー・オブ・ザ・リング日本語版版
Text by 徳岡正肇(アトリエサード)
4th Nov. 2004


シンプルなゲームシステムと派手な展開

指輪に文字が浮かび上がる。ちなみにこの文字は一定の法則できちんと読めるし,この文字が使われる言語には特有の文法も存在する

 いきなりキッチュな話題で恐縮だが,トールキンの代表作を「ロード・オブ・ザ・リング」というか「指輪物語」というかで,その人の生きざまはおおむね分かるものだ。メディアクエストから発売された「ロード・オブ・ザ・リング ウォー・オブ・ザ・リング日本語版」は,タイトルのとおり,この「指輪物語」ないし「ロード・オブ・ザ・リング」のファンに向けて作られたRTSである。
 PCゲームとして,指輪物語関係のストラテジータイトルはこれまで発売されていなかったので,指輪世界で展開された大規模戦闘を俯瞰的に楽しめる初の作品であることはそれなりに意義深い。
 ゲームシステムは「ウォークラフト」シリーズによく似ているが,大きめでリアルなユニット,「食料」と「鉄」のみというシンプルな資源採取,同じくライトテイストな生産/建設/進化系統に,指輪世界固有のユニットおよびヒーローが割り付けられている。
 戦闘で敵ユニットを倒していくと,「運命点」と呼ばれるポイントを獲得でき,これを使うことで戦場に特殊な効果を及ぼせる。一定範囲の敵ユニットの視界を奪ったり,自軍ユニットの耐久力を向上させたりといった,小さな,しかし使い方によっては決定的な効果を始めとして,強力な「エント」や「ナズグル」の召喚まで使い方はさまざまだ。
 運命点は,英雄たちの「成長」にも使用できる。運命点そのものはシナリオごとにクリアされるが,キャンペーンシナリオにおいては成長した英雄の能力は引き継がれるので,次第に困難さを増すシナリオをクリアしていくにあたっての重要な助けとなるだろう。

若干角度を変えた画面。こうしてみるとウォークラフトIIIによく似ているのが分かる。もっとも,実際にこの画面でプレイするのは不便だが 町の中心に資源採取場所が二つ。町との距離にもよるが,作業員が4名でほぼ最適状態だ。資源は掘りきったらそれまでで,埋蔵量は少なめ 描写はかなり細密。草原は風になびくだけでなく,ユニットの移動にも反応する。ユニットが光っているのはヒーローユニットの効果だ
シングルプレイではフリーセットアップも可能。この場合でも選べる勢力は白か闇だが,白vs.白,闇vs.闇でも戦える 白vs.白の典型例として,白の勢力の町でローハン騎兵に働き手を襲わせてみた。敵を殺すほど自陣営は強化される ゲーム終了後は,RTSではおなじみの得点画面に。次回プレイのための教訓を得るには最適のデータの一つである


原作世界の設定を踏まえたユニットが入り乱れる

闇の軍勢。左に見える黒い騎兵は「黒の乗り手」,選択されているのはサリーナ,右手前が「ウルク・ハイ」。悪役勢揃いだが,やることは白の軍勢と同じだ

 プレイヤーは,「アラゴルン」や「ガンダルフ」といった「自由の民」を扱う「白の勢力」と,サウロンの手下達である「闇の勢力」から一方を選んで戦う。
 白の勢力はヒーローがとてつもなく強力だが,闇の勢力よりもユニットのコストが高めで数を揃えることが難しく,また,自軍の建物はすでに存在する自軍の建物から一定距離内にしか建てられないという制約が課されているため,急速な領土拡大は難しい。
 闇の勢力は強力なユニットに加え,能力はそれなりだが極めて低コストな軍事ユニットが,「ゴブリンの奴隷」(生産キャラ)と同じ場所で作れるため,数を揃えるのが容易だ。また白の勢力を闇の勢力へと転向させるユニットも存在しており,このあたりは指輪世界をよく反映している。一方ユニット数の上限を規定するもの(いわゆる「家」)が建物ではなく「オークの奴隷使い」というユニットになっており,拠点を広げていくには奴隷使いが「腐敗の中心」を建築して,まず周囲の土地を汚染しなくてはならない。腐敗の中心自体はどこにでも建設できるので,白の勢力より領土拡大のペースは速いものの,奴隷使いを集中的に狙われると苦しい展開になる。  ユニットにはそれぞれ個性があり,それらはすべて指輪世界の設定を反映している。「エルフのマント」を着たエルフは,ほとんどの闇の勢力ユニットから見えなくなるため,例えば小規模な軍勢によるゲリラ戦を展開できる。闇の勢力では「幽鬼」が同様の作戦をとれるが,彼らは「野伏」に発見される。ちなみにアラゴルンは,どの時代のアラゴルンであろうと,幽鬼を発見できない設定になっている。幽鬼は最大で8人まで「黒の乗り手」に昇格できるというのも,指輪ファンにとってはニヤリとできるポイントだろう。
 ヒーローユニットの能力はさらに凶悪で,例えば白の勢力のドワーフである「ギムリ」は,特殊能力を発動させるだけで塔を一気に占領できてしまう。塔の連続建てというRTSの基本戦術の一つを,根底から崩壊させる能力といえよう。ガンダルフの魔法もすさまじい破壊力を誇り,「旅の仲間」一群のみで相当な規模の敵軍を撃退できる。
 シングルプレイのキャンペーンシナリオとしては,白の勢力のもの1本と闇の勢力のもの2本が用意される。白のキャンペーンでは主に指輪の「正史」が楽しめ,闇のキャンペーンでは,進むにつれて闇の勢力が使えるユニットの種類が増えていき,勢力を拡大していく様子が楽しめる。
 シングルプレイではこのほかにチュートリアルとフリープレイが選べ,後者では例えば白の勢力の主力ユニットをローハン系に伸ばすのか,それともエルフ系,ドワーフ系にするかなど,プレイの幅がより広くなる。マルチプレイではLANおよびGameSpyが選択可能だ。

「いとしい"しと"」であることに注目。映画字幕ではファンのあいだで大いに議論を呼んだ部分だ。ちなみに筆者は「しと」支持派 「バルログ」を召喚してみる。手に負えないくらい凶悪だが,Age of Mythologyのタイタンほどではないともいえる。足が遅いのが欠点だ もちろん「ナズグル」も登場する。こちらはごく普通の(?)ヒーローユニットだが,白の陣営のヒーローユニットと比較して,特殊能力はやや微妙
白の勢力のキャンペーン最終シナリオ,対バルログ戦。ガンダルフが炎の魔法を打ち込む。このシナリオだけ難度が極端に高いので要注意 ウルク・ハイが地上に誕生する瞬間。「オーク」と「塚人」を交配させるとウルク・ハイに。これ以降,ウルク・ハイが使用可能ユニットに加わる 「エント」の召喚。「バルログ」と違って,こちらは3分で帰ってしまう。召喚に必要なポイントはまったく変わらないのだが……



基本的なインタフェースには改善の余地アリ

何をクリアしなければならないか,手っ取り早く知りたいのは筆者だけではないだろう。ミッション説明画面のスクロールは少々遅い

 とまあ,指輪世界の再現については努力が窺われる本作なのだが,ゲームとしては弱点も少なくない。最大の問題は,画面の視認性の悪さである。白の勢力ではとくに,ヒーローユニットがどこにいるのかが重要なポイントになるのだが,ユニットのグラフィックスが映画のリアルさを意識して作られているためか,同じくリアルに描かれた背景に溶け込んでしまう。そしてこれも映画同様に,軍勢が入り乱れ始めるとさらに自軍の兵士の中に埋もれてしまうのだ。
 建物の底面積が大きめな割に,建物を建てられない地形が画面での見た目より大きく張り出していることも問題だ。悪条件の中で理想的な配置を試みるのがプレイヤーのウデといってしまえばそれまでだが,いささかストレスが溜まる。
 視認性の問題は,大きな軍隊を動かすときにも同様に起き,どの場所が通行可能なのか一目では判然としない。「グラフィックスの精度が高くなった結果,どこに行けるのか分からなくなった」という,往年のRPGのような結果になってしまっている。
 また,生産や進化を思い切ってシンプルにし,初心者でも遊びやすいゲームを目指した点は理解できるが,今度はシンプルすぎて戦術の幅がとれず,ぶつかり合いに終始しがちなのも残念だ。「Rise of Nations」や「Age of Mythology」で採用された「ある範囲のユニットをまとめて選択したとき,生産ユニットと軍事ユニットが混在していたら,軍事ユニットのみが選択される」という,いわばRTSの現代的な"お約束"も踏まえられていない。ルールの単純さ/複雑さに関してはさまざまな見方があるだろうが,基本的なインタフェースがなおざりにされているのは,あまり感心できた話ではないだろう。

 映画「ロード・オブ・ザ・リング」で指輪世界に興味を持ち,RTS,さらにいえばPCゲームそのものになじみの深くない人に向けた作品としては,比較的よくまとまっているともいえる。だが,純粋にゲームとしての魅力で見た場合,もったいないと思える面が多々見えてしまうのも事実だ。ともあれ,コアなゲーム性でなく雰囲気とグラフィックスで指輪世界に浸りたいという要望には,十分に応えられる作品であるといえよう。

ここには建物を建てられない。Age of Empires系からきたプレイヤーにとっては,遺憾ながらかなりストレスの溜まる瞬間ではないだろうか 範囲指定すると、町の人を巻き込む。下の窓に収まりきらないほど多くのユニットを選択する場合,町の人を選択から外すのはほぼ不可能だ ユニットが陰影に溶け込みやすい。ちなみにこの中に死亡するとシナリオが敗北になるユニット「ボロミア」がいるのだが,よく見ないと分からない

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■発売元:メディアクエスト
■問い合せ先:ユーザーサポート TEL 0570-040-401(祝祭日を除く月〜金 10時〜17時30分)
■価格:7980円(税込)
■動作環境:Windows 98/2000/XP,PentiumIII/800MHz以上(Pentium 4/2.5GHz以上推奨),メモリ 256MB以上(512MB以上推奨),HDD空き容量 2GB以上,ビデオメモリ32MB以上のビデオカード(ビデオメモリ128MB以上推奨)
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