Tron 2.0

Text by 松本隆一
11th Sep. 2003

伝説のCG映画が20年の時を経て帰ってきた!

 1982年に公開されたディズニー映画「トロン」は,当時最先端のコンピュータグラフィックスを駆使した斬新な映像が世間の話題にはなったが,映画そのものの成績はややコケ気味で,公開当時に八幡スカラ座の2階自由席で見た私の記憶によると,CGシーンも,なんちゅうか,「ふーん」という感じだった記憶がある。そもそも当時はCGワンシーンに滅茶苦茶お金がかかったせいで,CGシーン数自体が少なく,モーションキャプチャなどもなかったから,人間の出てくる場面は本物の役者が衣装を着てやっていたので,ちょっとヘンはヘンだったのね。
 しかし意外にも,というか案の定,というか,トロンのカルト人気は結構高い。なんだかんだいっても,史上初のCG(を多めに使った)映画ではあるし,内容もちょっと分かりづらくてそれらしいからである。マニアって変。

映画「トロン」あらすじ

 ハイテク企業エンコムで働くケビン・フリンは,社長のデリンジャーにアイデアを奪われ,今では系列ゲームセンターのしがない店長。会社のコンピュータにハッキングして社長の悪事を暴こうとするが,それに気づいたデリンジャーはシステムの一部を閉鎖してしまう。
 同じ頃,エンコムの技術者アラン・ブラッドリーは,自分の書いた管理プログラム,トロンが行方不明になったことに気づく。フリンとアラン,そしてシステム閉鎖で自分の研究ができなくなった科学者ローラの3人は,会社のメインコンピュータにアクセスするためエンコムに忍び込む。ところが,ハッキングに成功したフリンは,デリンジャーのセットしておいた物質転換レーザーをあびてデジタル化され,コンピュータ内部に取り込まれてしまう。そこは,マスター・コントロール・プログラム(MCP)とその執行官サークの支配する,悪夢のような世界だった。フリンは,アランのプログラム,トロンと共にMCPを倒し,無事に現実世界に戻らなければならない。
 コンピュータ内部に入っていくというアイデアはその後のサイバーパンクにも影響を与え,さらにはマトリックスにも影を落としている,とかいったらちょっと強引かしら? ちなみにメカデザインはシド・ミード。キャラクターのデザインは有名なコミック作家のメビウス。

 さて,そんなトロンが20年の歳月を超えてPCゲームとして蘇った。
 もっとも,映画がコンピュータを扱ったものだけに,公開に前後していくつかのゲームも登場している。記憶にあるのは,ぴゅう太用のシューティングゲームと,トロンしか遊べないが意外にサイズの大きいLSIゲームで,なぜどちらもトミー? てゆうか,覚えてんじゃねえよオレ。たぶん,後者はあちらからの輸入品。
 また海外でも,アミガ用やアタリ用,あるいは専用筐体などがあったようだ。とはいえ,ゲームの内容は,どれも映画のごく一部をピックアップしたもので,例えばライトサイクル(公開当時は光電子バイクと呼ばれていた)レースのアクションゲームか,電子戦車相手のシューティングだったかと。「スター・ウォーズ」などもそうだが,当時の映画ネタのゲームは,容量や速度の都合もあって,結局,登場してくるキャラを使ったアクションゲームにするしかなかったのだ。え,トロンゲームなんか知らない? そうだろうなあ。

時代背景

映画の公開は1982年。PCは8ビット機が主流で,初代のIBM PCが発売されたのが公開の1年ほど前,1981年8月12日。アップルのマッキントッシュの発売は2年後の1984年。ニッポンの国民機,PC-9801の初代が発売されたのが同じ1982年。以上3機種はすべて16ビットCPUを載せ,メモリーはKB(キロバイト)単位。PCとメインフレームコンピュータの差は歴然としており,大型コンピュータの中にマイクロな世界がある,なんていう設定もさほど違和感がなかった。20年後,映画よりはるかにすごいCGで描かれた世界を個人の持つPCを使って自由自在に歩き回れるようになるなんて,完璧に想像の埒外。

伝説のプログラム,トロンを探して再コンパイルしろ!

 しかし,今年2004年,――つまり公開21年めにして作られた新作PCゲーム「Tron 2.0」は,史上初めてトロン世界を完全再現したFPSで,PCゲームで映画とほぼ同じ体験ができてしまうという,考えてみりゃスゴい話なのだが,「やったー,トロンだー!」とショップに突っ走る人がどのくらいいるのか,という点で一抹の不安が残ったりもする。
 制作にあたっているのは,"ノーワン リブス フォーエバー"シリーズで一躍FPS界のメジャーに躍り出たMonolith Productions。ちなみに同社の次のビッグバジェットは,期待の「マトリックス」のMMORPG。高い技術力と,プロらしいそつのないゲーム作りに定評のあるメーカーだ。ずっと昔に,日本の出版社と組んで「昇剛」(SHOGO)なんて名前の巨大なロボットが出てくる日本のロボットアニメにインスパイアされまくったかなりオタクっぽいゲームを作ったことは同社としてはなかったことにしたいらしいが,オレはソフト持ってんだぜ。
 欧米の発売元であるBuena Vista Interactiveはディズニーの系列企業で,制作にはビデオカードでお馴染みのNVIDIA社も参加している。日本語版の話は今のところない。

 今回の物語の主人公になるのは,映画ではトロンの生みの親にしてトロンその人(二役)だったアラン・ブラッドリー,の息子,ジェット。ジェットはゲームを作りたいのだが,父親のアランは,ゲームなんかやったら脳天パーになるとまではいわないものの,反対している様子。母親はすでに亡くなっていて,研究に没頭する父と子の関係はいささか冷却気味。
 すでに,あの事件から20年が経っているので,かつてはハンサムなトロンも,今じゃヒゲづらの親父。ジェットがそんなアランと携帯で話しているとき,何者かが父親の研究室に入ってくるのが聞こえ,不意に電話が切れる。心配して駆けつけるジェット。ところが,アランの作った人工知能Ma3a(「マ,スリーア」と発音する)がなぜか,映画でお馴染みの物質転換レーザーをジェットに照射,ジェットはあっという間にコンピュータ内部に取り込まれてしまう。どうやら,アランの会社(ということはエンコムなんだろうけど,名前は出てこない)を乗っ取ろうとしているコングロマリットfConが,アランの開発した人体デジタル化技術を悪用して,何かを企んでいるらしい。
 以上のようなわけで,ジェットはなんとか無事に現実世界に戻る方法を探りつつ,fConの陰謀も暴きつつ,すでにコンピュータ内にいる敵のまわし者どもを倒していかなくてはならないのだった。
 果たしてfConの陰謀とは何か? 伝説のプログラム,トロンとは? ……私はすでに知っているのだが,都合により教えるわけにはいかない。すいません。

ジェットの父親,アラン・ブラッドリー。かつてトロンという管理プログラムを書き,世界を征服しようとした悪いプログラムを破壊した天才。とはいえ,今でも20年前とほとんど同じ研究をしている 主人公,ジェット・ブラッドリー。ゲームクリエイター志望。うっかりしているうちにデジタイズされてコンピュータの内部に取り込まれ,国際的な陰謀と戦うことになってしまう。難儀な話である コンピュータを管理するプログラムのボス,カーネル。普通のプログラムじゃないジェットを攻撃してくる。自分の仕事をしているだけなので,悪い奴らではないのかもしれないが,倒すしかない

なんと,コンピュータの内部ってこうなっていたのか!

コンピュータ内部は,そのエリアごとに基本色が異なっているが,インターネットワールドはこんな感じの大都会ネオンきらきら風。それにしても,20年前にはインターネットなんか(大衆レベルでは)影も形もないよな

 という感じのストーリーだが,ごく個人的な意見として,英語のレベルはかなり高め(?)な私でも,スクリプトを追うのは結構大変だった。実力分かっちゃうね。また,探索を進めるうちに大量の電子メールを受け取ることになるのだが,「ノー ワン リブス フォーエバー2」と同じ趣向で,ストレートには書いていないものの,一つ一つ読んでいくうちに,なんとなく物語の背景が見えてくる仕掛け
 とはいえ,この電子メールがあまりにどんどん来るので,途中から諦めムード。てへへ。もっとも,英文法が難しいというより出てくる用語が難解なのだと思う。コンピュータ内部の話なので,さまざまな物事がコンピュータ用語にひっかけられているのだ。例えば,「メモリがフラグメンテーションを起こしている」とか「私はしがないEメールのスクリプトなんですよ」とかね。そんなこと言われても。
 敵のボスの一人"カーネル"も,音だけなら「大佐」って感じだが,字幕ではKernelとなっていて,これはOSのコア部分のこと。メモリをダンプしろ! はい。ところで,ダンプって何? って感じ。
 しかし正直な話,私は結構この世界を楽しませてもらった。例えば,comポートには居眠りしている4人のプログラムがいて,そいつらを正しい順にポートに送り込まなくてはシリアル通信ができないのだ。この先,PCでモデムの設定なんかするとき,絶対にあの坊主頭でうたた寝している男の姿を思い出してしまうはず。セキュリティリングは概念じゃなくて本物の,やけくそに巨大なリングだし,CPU内部のデータの流れに本当にすい〜っと乗るなんてのは,なかなかできることじゃない。
 コンピュータに詳しければ詳しいほど,うふふ,というシーンが増えてくるだろう

最新技術で精密に描かれた20年前のハイテク世界

 グラフィックスエンジンには,これまたノー ワン リブス フォーエバー2で使われたLithTech Jupiter Systemの最新版が使われているらしいが,ゲームの舞台が現実世界じゃないので,ほかのFPSとは単純に比較できない。
 ちなみに「トロン」が制作されたときにはまだテクスチャマッピングの技術がなく,フレームをグローシェーディングすることによって立体感を出していたというのだが,これはいつものように聞きかじりの知識で,本人はよく分かってないので,詳しい説明を求める手紙なんかを送ってこないでください。
 ともかく,グラフィックスは美しい
 映画よりも華やかで複雑になっていて,しかも原色を多用し,あちこち光っているわりには落ち着いたムードである。ま,中には,夜の新宿みたいな場所もあるけど。映画では,キャラクターの光らせたい部分に工事現場などで使われる蓄光テープを貼り付け,それをモノクロフィルムで撮影,さらにそのフィルムをカラーフィルタを通してカラーフィルムに焼きつけるといった複雑な手順を踏んでいるが,ゲームのNPCも,よく見ると顔は白黒で,服の光っているところだけカラー。やっぱ,結構研究してますね。
 問題があるとすれば,のっぺりした場所にある穴ぼこや階段,地形の高低などが分かりにくく,うっかり足をすべらせて落下して死んだり,進めると思って壁に激突したりすることだろう。もっとも,気にならない程度にうっすらとテクスチャが貼り付けてあるみたいなので,注意深く移動すりゃいい,って話もあるようだ。

ここがcomポート。四つのポートに正しくプログラムを導かなければシリアル通信ができない。ここに限らず,PCに詳しい人ほど,笑っちゃったり,そんなバカな,という気持ちになれるところは多い 謎のユーザーによって使用されているプログラム,マーキュリー。グリッドレースチャンピオンで,無理にレースをさせられることになったジェットを助けてくれる。何か秘密がありそうだ これがやりたくてソフトを買う人もいるんじゃないかと思うくらい知られたライトサイクルのグリッドレース。勝つのは結構難しいのだが,あちこちぐるぐる走り回って敵の自爆を待つのも手だ

個性的でオリジナルな戦闘,育成システム

この中に入っているのがバイナリファイルでして,青はキー関係,赤はスキル関係(つまりサブルーチン),緑色は電子メールだ。これをダウンロードして,いろいろな情報やスキルを得るわけである

 このゲームで最もオリジナリティを感じるところは,やはり戦闘/育成システムだろう。これらはすべて,"サブルーチン"という形でプレーヤーに提供される。
 例えばロッド(武器)を使うスキル,足音を低くしスニークの成功率を高めるスキルなどが,マップのあちこちに置かれたガラスのケースに入っていて,アクションキーで"ダウンロード"できる。ただし,ガラスケースにアクセスするにはある種のキーが必要な場合もあり,それは別の箱に入っていたり,倒した敵が持っていたりする。また電子メールもそこにあり,いずれの場合でもダウンロードにはエネルギーが必要になる。エネルギーと体力は専用のポイントでダウンロードが可能だが,それぞれ上限があって,それ以上は補充できない。

 さて,電子メールやキーは拾いっぱなしだが,スキルはただ拾っただけではダメで,F1キーでサブルーチンメニューを呼び出し,自分のメモリにロードしなければならない。最初の頃は,メモリが小さい割にスキルが大きく,攻撃力も防御力も大したことないが,だんだんメモリの断片化が解消して,多くのスキルをロードできるようになる。スキルにはα版,β版,ゴールデンマスターとバージョンに段階があり,あんまりリアルでちょっと笑っちゃうけど,バージョンが上がるに連れて効果は高まり,サイズは小さくなる。上のバージョンのスキルもガラスケースからダウンロードできるが,一般に大量のエネルギーが必要もなることが多い。

スキルが足りないうちは,このように敵の背後にそっと近づいてロッド攻撃。エネルギーは使うし,発見されるとまずいのだが,どっかに飛んでっちゃって帰ってこないディスクよりは,ちょっと確実

 お勧めは,ごくたまに壁なんかを徘徊しているコードオプティマイザを使うこと。滅多にいないうえに,1匹で一つのスキルしかオプティマイズできないが,エネルギーいらずで簡単だ。
 サブルーチンメニューでは,ロードと同時に,断片化したメモリの整理,なんだかよく分からないスキルの確認,攻撃を受けてウイルスに冒されたスキルの正常化が可能になっている。こうして文章で書くととても複雑そうだが,実際は簡単で,やってみれば誰でもすぐに分かるはず。ほかにもいくつか機能があるが,基本はこんな感じ。

 武器にはディスク,ロッド,ボール,メッシュの4種類があり,それぞれにバリエーションがある。例えば,ロッドは長距離攻撃のスキルをゲットし,さらに望遠照準のスキルを獲得すると,狙撃ライフルとして使えるようになるのだ。
 普段使うのはやはりエネルギー不要のディスクだろうが,投げ損なうと戻ってくるまでやたら時間がかかるので,その間にやられちゃったりする。ディスクに限らず,はっきりいってジェットはかなり弱い。十分にディフェンスのスキルを増やしたはずなのに,敵の攻撃1,2発で大きなダメージを受け,ばたばたやられる。1対1ならなんとかなるが,相手が2匹(プログラムなんだから二つ,っていうべきか)以上になると,とたんに分が悪くなる。
 敵のAIは,そのリアルさが評判だったノー ワン リブス フォーエバー2に比べると単純な感じがするし,登場する場所もほぼ決まっているので,何度もチャレンジすれば大抵なんとかなる。とはいえ,突然背後にスポーンすることもあって,ちくしょう,卑怯である。AIの単純さを主人公のもろさでバランス取りしているようなゲームデザインといえるかもしれない。やはり基本はスニークなのだろう。
 とはいえ,その割には敵の目がやたら良くて,すぐこちらを発見するのが頭痛のタネだ。いろいろスキルを入れ替えて実験しているが,全部拾えたわけでもないので,分からない部分もある。案外,スキル一つで局面が大きく変わったりするのかもしれない。

ディスクの秘密

主人公の投げるディスクは,映画によるとデータなのだそうだ。余分なデータを投げつけられた敵プログラムは,処理しきれないオーバーロード状態になって死ぬのである。なんとなく基本が間違っているような気がするが,フリスビーというところに時代を感じたりして。

 ともかく,自分のゲームスタイルに従って,いろいろなタイプに育てられるのが面白いところ。そのほかのオペレーションは,最近のFPSと大体同じで,マニュアルは参照程度で済むだろう。

何か違う感じのゲームがプレイしたい人におススメ

 このところ発売されるFPSといえば,第二次世界大戦ものか特殊部隊ものと相場が決まっていて,いずれもちょっと食傷気味,という人もいるはずだ。この「TRON2.0」は,久々のオリジナル感溢れるゲームで,映画を知らなくても十分に楽しめる。映画を知っていればもっと楽しめるが,なんせ20年前ですからね。無理だわね。よって,メーカーとしては,SF映画ファンやトロンのファンより,違う感じのゲームをしてみたいコアなFPSファンを購買層の中心として考えていると思う。推奨環境もなかなか高めの設定だ。
 グラフィックスも綺麗で,元々の世界観を予想以上に再現しているし,マップ数も多く,映画ではちょっと問題のあったストーリーも本作では思ったよりも複雑で,途中でオヤ? と思わせる展開などもあり,飽きることはない。バリバリ殺しまくってぐんぐん進むようなゲームではなく,探索とスニークが中心になるだろうが,もうちょっと派手で強くてもよかったような気はする。
 もちろんライトサイクルによるレースも何度かあり,こちらは結構派手で難しい。謎解きも,適正な難しさでそれなりに楽しい。とはいえ,大戦モノのように「戦車を奪え」とか「塔を壊せ」とかいう大体想像のつくようなミッションはなく,なにしろコンピュータの中なので,具体的に何をどうすればいいのかよく分からないマップも多い。もちろん,8キーで出てくるヘルプファイルを読めばちゃんと書いてあるのだが,そんなわけで,日本語版は熱烈歓迎だ。
 各サイトの評価も十分に高く,価格以上のバリューは確実にあるので,少なくともトロンの映画を見た人は必買のゲームといっておこう。

ソーンの手下どものウィルス攻撃。弱そうなやつらだが,弾の命中率がやたら高いうえに,いきなり背後にスポーンしたりするのでやっかいだ。あとでウィルスの除去をしなければならないし,嫌いな敵 都合により,こんな角度の写真しか撮れないのだが,有名なトロン戦車。シド・ミードも少ないポリゴン数でいい仕事をしたなあ,という感じで,個人的にはかなりカッコいいと思っている ジェットに襲いかかる怪物。名前はシーカー。その正体はなんとサーチエンジン。なんでサーチエンジンに襲われるのかさっぱり分からないが,してみると,ポータルサイトって意外に危険だったのね

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■発売元:Buena Vista Interactive(2003年9月11日現在,日本での代理店は未決定)
■開発元:Monolith Productions
■価格:49.99ドル
■動作環境:Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/500MHz以上(Pentium4/1.0GHz以上推奨),メモリ 256MB以上(512MB以上推奨),空きHDD容量 2.4GB以上,DirectX 9.0以降に対応したビデオカード
英語体験版(202MB)
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