風の探索者2〜Shadows Kingdom〜

Text by Iwahama
22th Jul.2003

「しばしば,勇気の試練は死ぬことではなく,生きることだ」

――V・アルフィエリ「オレスト」

 筆者は,死が怖い。メチャクチャ怖い。怖いんだけど,いや,怖いからこそ,興味がある。ジェットコースターやお化け屋敷と同じだ。いわゆる"安全な形で怯えてみたいという欲求"(注1)である。
 だから筆者は,"ゲームにおいても死は怖いべきだ"と思っている。アクションゲームはいうまでもない。極端な話,FPSは,常に死と背中合わせだからこそ,面白いのだ。いつも無敵モードで遊んでいては,FPSは軒並みクソゲーになってしまうだろう。
 RPGにしたって,死が怖いほうが好み。死んでもロードすればいいじゃん的な,いわゆるヌルゲーは,猫も杓子も多忙なこの現代に向いているのは頭では理解できるんだけど,どこかちょっと物足りない。
 「ウィザードリィ」の死は,本気で怖かった。うっかり全滅してしまったら,椅子から跳び上がってしまうほどショックだった。しばらく食事ものどを通らないくせに,なぜか次の日にはまた新しいパーティで(全滅したパーティの死体を回収すべく)ダンジョンに潜っていた。
 「ローグ」や「ザ・スクリーマー」も同様だ。キャラクターが死ぬと,一からやり直しである。これらに比べれば被害は小さいが,「エバークエスト」などのMMORPGの"死"も,やはり怖い。死ぬことで失われる時間の貴重さが分かる年齢になったこともあり,モニターの前で茫然自失することしばしばだ。なのに,それらのゲームは筆者の心をつかんで離さなかった。

 最近筆者に死の怖さを味わわせてくれるのが,知る人ぞ知る超硬派シングルRPG"風の探索者シリーズ"だ。
 本シリーズの死も,十分怖い。"死なないための勇気ある撤退"を迫られる,シングルプレイ専用RPGとしては今どき珍しいタイプのゲームである。
 シリーズのより詳しい説明は,「風の探索者・大陸編〜Eternal Flame〜」(以下,大陸編)のレビュー記事「こちら」をご覧いただきたい。というか,今回紹介する新作「風の探索者2〜Shadows Kingdom〜」(以下,SK)は,システム的には大陸編とほとんど変わっていない。そこで今回は,前述のレビュー記事と重複する部分のシステム紹介は省いて,そこであまり詳しく触れなかったことや,SKならではの特徴について紹介していく。

(注1)……S・S・プロウアーの名著「カリガリ博士の子どもたち」では,"危険から守られている状態で,自分の恐怖感を試し,対象化し,直視したいという要求"と説明されている


■個性的すぎるのが玉に瑕:インタフェース

 ともあれ,最低限のシステムだけは,ここで紹介しておく。
 SKは,シリーズ1作め「風の探索者 〜Grand Slam〜」(以下,GS)や大陸編同様,4人のキャラクターで構成されたパーティを操作して数々のダンジョンを"探索"する,シングルプレイ専用RPG。
 パーティを組んでダンジョンを探索するという意味では,初期のウィザードリィに似ている。
 グラフィックスは2D。またプレイヤーの行動には何から何まで(食事やドアの開け閉めなど)時間がかかるが,逆になんの行動もしていなければ,時間は進まない(非リアルタイム)。そう考えると,ローグに近いともいえる。
 このように,SKに似たゲームを探すと,20年以上も昔のゲームタイトルが並んでしまう。しかし,このアナクロさこそが,風の探索者シリーズの大きな魅力の一つなのは間違いない。

 もちろんSKは,単に古めかしいだけのゲームではない。昨今の多くのゲームがグラフィックスや演出部分で進化しているのに対し,風の探索者シリーズは,また別のベクトルに進化しているのである。その最たる例が,独特のインタフェースだ。
 説明すると,実に簡単だ。どのコマンドも,実行する人(リーダー)を選択して,次にコマンドを選択すれば実行可能。あとはこれの繰り返し。戦闘もアイテムの使用も,ドアの開け閉めも食事も,NPCとの会話でさえ,同じだ。コマンド実行中は,そのコマンドに必要な時間が流れる。シンプルかつ,分かりやすいインタフェースである。
 しかしこのシンプルなインタフェースが,実に取っ付きにくいのも事実。ついリーダーを間違えたり,無意味なコマンドで時間を消費してモンスターの攻撃を受けたりしてしまう。このインタフェースの取っ付きにくさは,単純に,あまりにも珍しすぎるからだろう。慣れてしまえば快適で,よく出来たシステムだと思うだけに,残念だ。


■1作めのキャラクターを,強いまんま持ち込める!

 GSの経験者にとって,SK最大の魅力は,GSで大事に育て上げたキャラクターをSKに持ち込めるシステムだろう(注2)
 というのもSKのストーリーは,GSで"グランド・スラム"(伝説的探索者マッド・ランスさえ到達できなかった四つの偉業すべてを成し遂げること)を達成した探索者達が,故郷のトゥームロックを離れ,ケイレイト大陸(注3)へ辿り着いたところから始まる。文字通りの続編というわけだ。

 さて。ウィザードリィシリーズを始めとして,キャラクターを次回作に持ち込めるというRPGは,決して珍しくない。しかし,育て上がったキャラクター達を,強いまんま持ち込めることはほとんどない。大抵の場合は,キャラクターのレベルが大幅に下がったり,アイテムの大半を失ったりする。
 これは,"強さのインフレーション"を避けるための処置であり,ある程度は仕方がないことだろう。しかし,SKは違う。SKは,GSで育てたキャラクターを,レベルもアイテムもそのまんま持ち込めるのだ。

 ではSKは,どのように強さのインフレを避けているのか?
 その具体的な解決策として,GSにおけるモンスター及び宝箱などの数が,有限だったことが挙げられる。そのためGSプレイヤーには,「制限の中でいかに強いキャラクターを育てられるか」という楽しみがあったわけだし,SKの開発スタッフにとっては,プレイヤーの持ち込むキャラクターの強さの上限を推し量ることができたわけだ。
 そのためSKでは,GSである程度鍛えられたキャラクター達でさえ,序盤のダンジョンからして簡単にはクリアできない。これまで以上に強力なモンスター,アイテムがわんさか出てくるわけだ。
 GSとSKとの関係は,続き物のRPGの前編と後編と考えれば,理解しやすいだろう。

(注2)……シリーズ番外編である大陸編のキャラクターは持ち込み不可能
(注3)……ケイレイト大陸は,大陸編の舞台でもあった。そのためSKには,大陸編のキャラクターも多数登場する



■じゃあ,SKから遊ぶ人は損なのか?

 損か得かでいうと,まぁ得ではないので損なのだろう。しかし,その差は極力小さくされている。
 SKでは,新規でパーティを作成した場合,最初から700万もの経験値ボーナスが与えられる。前2作では新規パーティには4万の経験値しか与えられなかったことを考えれば,格段に優遇されているといえるだろう(注4)。ヘタをすると,GSクリア時のキャラクターよりも強くなったなんて人もいるかもしれない。

 また最初から4万Goldと,剣(ネフェルティティの剣:イシュタル)を所持している。逆にいえば,そのほかのGSで手に入るアイテムは,何一つ持っていない。
 とまぁ所持品に関してはGSクリアキャラクターにはかなわないが,最低限の装備と食料は,なんとか買い揃えられる。良い装備は,探索で見つければいいのだ。

(注4)……それもそのはずで,例えSKから新しく始めたパーティでも,設定上ではグランド・スラムを達成したことになっている



■優しくなった分,プレイヤーのモラルが試される

 実は筆者は,大陸編こそ存分に遊んだが,GSは遊んでいない。そこで,新しくパーティを作成して遊んでみた。
 SKの難度は大陸編と同レベルで,GSよりは低いとのことだが,新規パーティであるためか,最初はなかなか厳しく感じた。スキルの割り振りや資金の使い道に失敗していれば,最初のダンジョンさえ踏破できないだろう。
 ただ少し進めていくと,すぐに楽になった。多少でも装備が良くなれば,GSクリアキャラクターとの差はほとんどなくなる感じだ。

 楽に感じたのには,もう一つ理由がある。大陸編は,ダンジョン内でセーブすると,自動的にゲームが終了,そしてロードするとそのセーブデータが消えるというシステムだった。言い方を変えれば,ダンジョン内ではゲーム終了時にしか保存できなかったのである。もしキャラクターが死んだら,スキルダウンのペナルティを覚悟するか,ダンジョンに入る前のセーブデータをロードして,数時間の探索の結果を白紙に戻すしかなかった。
 ところがSKは,セーブしてもダンジョン探索を続行できる(注5)。だから,こまめにセーブしておけば,キャラクターに死者が出るなど大きなミスをしたときに,ゲームを強制終了して,ロードしてやり直すことができてしまう(注6)。そのため,死の怖さが薄れてしまった感があるのは否めない。
 おそらく,これで初心者にも遊びやすい,間口の広いゲームとなったのだろう。しかし,死の怖さを求めてSKを遊んだ筆者にとっては,ちょっとショックではあった。
 しかし考えてみれば,自分でルールを決めて遊べば良いだけのことだ。つまり,ダンジョン内でセーブをするのは,ゲームを終了するときだけ,と。
 推理小説を読み始めて,すぐに後ろのページをめくって犯人の名前を探し出すのは簡単だが,多くの推理小説ファンは,そんなことはしない。ルールを守って読むからこそ,面白いのだ。

 SKは,ルールを守って遊べば,十分にシリーズ独特の面白さを楽しめる。食料を無駄にしないために1回の探索で少しでも長く探索したい半面,うっかり死者を出してしまったらこの数時間が無駄になるというジレンマ。このジレンマが,実に気持ちいい。
 あるときは勇気を出してよりダンジョンの奥へ進み,あるときは同じ勇気で,一時撤退する。こんなシングルプレイ専用RPG,今どきなかなかない。
 GSを遊んでいないという人こそ,ぜひ遊んでみてはいかがだろうか。なんなら,GSから始めるという手もアリだ。硬派RPGファンなら,(インタフェースに慣れる時間がもったいなくなければ)遊んでおいて損のないタイトルである。

(注5)……SKでも,ロード時にはセーブデータが消える。ただロード直後にセーブすれば同じである
(注6)……もしかしたら,この作業にはペナルティがあるかもしれない。というのも,強制終了後にゲームを起動すると,警告メッセージが出るからだ

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■発売元:グルッポワン
■価格:8800円 (2003年7月31日発売予定)
■問合せ先:グルッポワン TEL 042-536-2972 E-mail gruppo1@din.or.jp
■動作環境:Windows 9x/Me/2000/XP,PentiumII/300MHz以上,メモリ64MB以上,空きHDD容量120〜500MB以上(サウンドの音質によって必要容量が変化)
デモ版

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